あなたの人生が美しい薔薇色に染まりますように。
真倫の図書館物語、第9話。
譲司書ラブストーリー。
@natsu_luv
夏の終わりがやって来たと同時に、朝晩の空気が肌寒いものへと変わった。
桜川町図書館の特務司書たちは、封蔵書の浄化と帝國図書館の館長との共同研究に追われていた。
そんな怒涛の日々が落ち着いた頃、私は寛さんと久米さんと一緒にとある企画の準備を進めていた。
もうすぐ譲さんの誕生日なので、第四次新思潮のメンバーと夏目先生を交えて誕生日パーティーをしようと、二人が私に持ちかけてきたのだ。
今日のこの日は、誕生日パーティーの会場について寛さんから説明があった。
「なかなか良い場所だろ? 今回は特別に貸切にさせてもらった」
「へぇ、綺麗だね。薔薇園の中にある小さな洋館か」
「この洋館、ティールームになっているんですよ。とても美味しい紅茶と料理が出ると聞いています」
「良いねぇ。譲さんも喜びそうだ」
寛さんが見せてくれた写真に写っている洋館は、桜川町図書館の建物のようなレトロな雰囲気を醸し出していた。
骨董品や古美術品が好きな譲さんにも気に入ってもらえることだろう。
当日の流れも教えてもらい、私は司書室へと戻った。
転生して初めての誕生日を迎える譲さんに素敵な一日を過ごしてもらえるように。
私は誕生日当日を楽しみにしながら、当日までの日を過ごしていた。
譲さんの誕生日当日となった。
清々しいほどの秋晴れで、華やかな誕生日パーティーにふさわしい天候だ。
午前中に仕事を終わらせた私は、譲さんと肩を並べてパーティー会場へと向かった。
秋の昼間は穏やかな気温で、外を歩くにはちょうど良い。
段々と薔薇園と洋館が視界に入ってきた。
「ここが会場なんですね。桜川町にこんな美しい建物があったのですね」
「私も初めて知ったよ。さぁ、中へ入ろう」
私達は洋館のエントランスに足を踏み入れた。
エントランスで待っていた久米さんに案内されて、私達は階段を登っていった。
階段を登り終えた後に視界に入ったのは、絢爛豪華なパーティー会場だった。
可愛らしいテディベアと赤い薔薇が壁面に飾られていて、野いちごが描かれた食器がテーブルの上に置かれている。
メイドさんが紅茶と料理を運んできた。
芳しい香りが会場内に広がっている。
サンドイッチとカップケーキのティースタンドと焼きたてのスコーンがテーブルに置かれた時、皆が歓声をあげた。
用意されたティーカップに紅茶を注がれ、豪勢なアフタヌーンティーが始まった。
「松岡、誕生日おめでとう」
「さぁ、存分に楽しんでくれ」
「ありがとうございます」
久米さんと寛さんのお祝いの言葉に、譲さんは顔を綻ばせていた。
私はさっそく紅茶をひと口飲んでみた。
茶葉の豊かな香りが口に広がり、ひと口飲んだだけで幸せな気分になる。
焼きたてのスコーンはバターの風味が活きていて、ジャムとクロテッドクリームとの相性も抜群だ。
スモークサーモン、ハムときゅうりのフィンガーサンドイッチは程良い塩気があってスイーツの箸休めに丁度良い。
「僕のためにありがとうございます。嬉しいです」
「譲さん、今日は思いきり楽しむんだよ」
「はい!」
「松岡、料理はこれだけじゃないぜ」
寛さんがそう言ってすぐに、メイドさんがメインディッシュらしきものを運んできた。
蓋を開けると、ローストビーフのヨークシャープディング添えとシェパーズパイが私達の目の前に現れた。
周りを見渡すと、皆揃って目を輝かせていた。
「今回は貸切だけじゃなくて、料理も特別なものを用意してもらったんだ」
「松岡の誕生日だからね。僕らで盛大に祝いたかったんだよ」
「寛、久米……。皆さんもありがとうございます」
譲さんの誕生日パーティーのためだけに用意された料理は、どちらも高級感漂うものだった。
ローストビーフは赤身肉が使われているからか、肉の旨味がしっかりと閉じ込められているように感じる。
シェパーズパイは素朴でありながら、マッシュポテトと炒めた挽き肉が上手くまとまっている。
しばらくすると、料理の皿が空っぽになっていた。
ここで、ようやくバースデーケーキのお出ましだ。
「松岡君、誕生日おめでとうございます。これからの君の人生に幸が多くあるよう、祈っておりますよ」
「漱石先生、ありがとうございます」
「さぁ、皆でケーキを頂こうか」
「うん、楽しみだね」
今回のバースデーケーキは生チョコをたっぷりと使ったケーキだ。
ひと口食べるだけで、チョコレートの風味が口いっぱいに広がって、上品な甘さを堪能できる。
嬉しそうにケーキを食べる譲さんの姿は、誕生日パーティーの主役の子供みたいに幸せそうで愛らしい表情を浮かべていた。
ケーキを堪能した後、芥川先生と有三さんが花束とプレゼントの箱を持ってきた。
「松岡、僕らからのプレゼントだよ」
「この日のために、ワタシたちと真倫で用意したんだよ」
「ありがとうございます」
プレゼントの箱を受け取った譲さんは、さっそく中身を確認し始めた。
箱の中身は革製のキーケースとチケットホルダー、懐中時計のセットだ。
どれも普段の譲さんの生活スタイルに合わせて選んだものである。
「皆さん、本当にありがとうございます。再び生まれてきて良かったです……」
「松岡、僕らの図書館に来てくれてありがとう」
「久米、僕も君にまた会えて嬉しいよ。こんなに盛大に祝ってもらえて、僕は幸せ者ですね」
少し瞳を潤ませて、譲さんはそっと微笑んで見せた。
気付けば、窓の外の夕陽が沈みかけていた。
誕生日パーティーもそろそろお開きだ。
洋館を出て、私は譲さんと薔薇園の中を歩いた。
突然、譲さんが立ち止まった。
私達は薔薇園の中で二人きりになった。
「真倫さん、ありがとうございます。貴方に逢えて本当に良かった……」
「譲さん、私もだよ。図書館に来てくれてありがとう」
「貴方の笑顔が僕の一番のプレゼントです。これからも一緒にいてください」
「もちろんさ」
譲さんが私に口付けを運んできた。
美しく咲く赤い薔薇たちが、私達をそっと見守っているような気がした。
ほのかに甘い薔薇の香りが鼻を掠める。
そして、私達は再び歩き出した。
転生して初めての誕生日を迎えた譲さんのこれからの人生も、真紅の薔薇のように輝く日々でありますように。
私は心からそう願って止まなかった。