@acbh_dmc4
鐘楼の影が広場を長く伸ばし始めたフィレンツェの午後。
任務の合間の休憩か、エツィオはレオナルドの工房に顔を出していた。
最初は浮ついた話に曖昧な相槌を打っていたが、密かに想いを寄せる親友の移り気な態度に面白くなくなったレオナルドは、少しだけ意地悪く言い返した。
「本当に貴方は人の好意に無頓着ですね。ニブチンです」
「そんなことはないさ。俺は恋多き男だし、大概の好意は察してチャンスは逃さない」
得意げに胸を張って豪語する親友に溜息も出ない。
だったらレオナルドの長年の片想いに欠片も気付かないのはどういう事なのか。何故だが今、無性に目の前の得意満面の顔を台無しにしてやりたくなった。
「では、いい加減私の気持ちに気付いても良い頃じゃありませんか。それともそれは牽制しているんです?」
「レオナルド?それはどういう……」
「私はあなたのことが好きですよ。あなたが女性に抱くあの感情と、同じ種類の意味で」
半場投げやりにそう告げてやれば、エツィオからは深い無言が返された。
これは流石に引かれただろうか。蔑む様な目で見られていたら流石に凹む。けれど、今ならまだ引き返せる。軽く笑いながら「冗談ですよ、揶揄い甲斐のある人ですね」とでも言えばいいのだ。
いつまでたっても云とも寸とも言わない親友に傷つきながら、ドゥオモ広場のジェット鐘楼から飛び降りる気持ちで沈黙を貫く親友を振り返った。
引かれた顔をしているだろうと予測して振り返った先には、顔を真っ赤にして口を手で覆い、レオナルドを凝視している親友の姿があった。
あまりに驚きすぎて固まっているのか、それとも質の悪い冗談に怒っているのだろうか?
だが、レオナルドはエツィオが案外直情的で、不快に感じたらすぐさま鋭利な言葉で相手を挑発する事を知っている。
身内に対しては存外我慢強い面もあるが、長年親友をやっているレオナルドには今のエツィオの態度がどういうものかを見分けることが出来た。
「そんな反応をされたら期待してしまうじゃないですか」
思わず尻すぼみな情けない声が出た。
だってそれは仕方がないことで。かなり昔、まだフィレンツェを主な活動拠点にしてた頃、レオナルドと一緒の時に、エツィオが同性に口説かれた事があった。
その時のエツィオの嫌悪感の滲んだ顔は今でも忘れられない。あの時に己の気持ちは絶対に気付かれない様にしようと誓ったほどだ。
それがどうだ。まるで好意を寄せた相手に口説かれている初々しい乙女のように、頬をバラ色に染めて戸惑うように瞳を揺らして、エツィオはレオナルドを見つめていた。
予想外の反応にレオナルドもピシリと固まってしまう。その反応でからかわれたと勘違いしたエツィオが、くるりと背を向けて怒ったようにレオナルドに言い放った。
「君だって大概鈍いじゃないか!!」
別な言葉を言おうとして間違ったのか、短く叫んだあとに後悔のうめき声を零して風のように去ってしまった。
慌ててエツィオの出ていった窓から身を乗り出して外を探せば、屋根の端に赤い尾羽がひらりと翻り、やがて視界から消えた。