X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

[雨P♀]片見月にならぬよう

全体公開 1647文字
2020-10-01 20:41:55

「お前さん、団子は好きかい?」
「あー、好きですねー」
Pさんを十五夜のお月見にお誘いした雨彦さんのお話です。

Posted by @toasdm

 今年の中秋の名月は今日らしいぜ、というのが誘い文句になるのは誰でもそうかもしれないが、それがさらりと言えて、しかもスマートで様になる、となるとそれなりに限られてくる。雨彦はその、限られた側に入る人間だった。お疲れさん、と差し入れを片手に夜半の事務所を訪れた雨彦は、実に様になっていた。
「お前さん、団子は好きかい?」
「あー、好きですねー」
 そうかい、と苦笑する雨彦に誘われて、彼女は事務所の屋上へと上がる。三方までは用意できなかったが、と屋上に据えられたベンチに紙皿を置き、そこを簡易の三方として雨彦は月見団子をぽんぽんと乗せた。
「あ、あの台三方って言うんですね」
「ああ。三方台って名前でな。神様へのお供え物を乗せる台の、三方向に穴が開いてるから三方さ」
 そういえば穴開いてたかも、と言う彼女だけでなく、だいたいの一般人にとってそれは身近にあるものではない。なんとなくそういうの詳しそうですもんね、と彼女が言うように、雨彦はそういったことに造詣が深いように見えた。実際のところはよくはわからなかったが。
「ススキは流石にそこらに生えてなかったが、まあ、花より団子って言うくらいだからな。月より団子でもいいだろう」
 ニッと歯を見せて笑う雨彦に手招きをされて、彼女もベンチに腰掛ける。雨彦と彼女との間には山になった団子が置かれていて、雰囲気はそれなりに、月見らしい雰囲気ともいえた。
「食って良いんだぜ」
「う……
 そんなに食いしん坊に見えますか、と少し照れた彼女の頬を、月明かりが照らしている。食うために買ったからな、と笑いながら雨彦は、指先で団子をひとつ摘んで口に放り込む。
「ん、うまいな」
……んん!」
 餡や具の入ってない素朴な味わいが、口いっぱいに広がる。程よい甘さはあとひくようで、ぽい、ぽいと口に放り込んでは、一時の休憩をおいしい休憩に変えていく彼女に、雨彦はにやりと笑っていった。
「十五夜の月を見たなら、十三夜の月も見ないと片見月になっちまうな」
「ん?」
 もぐもぐと団子を頬張る彼女にとっては耳慣れない言葉だ。なんですか、その片見月って、と尋ねながらも団子を食べる手を止めない彼女に、雨彦は目を細めながら尽きを見上げて言う。
「十五夜のだいたい一月くらい後、旧暦で毎月十三日の月夜のことさ」
「へー……
 お前さんよく食うな、と皿の半分をあっという間に空にした彼女をニヤニヤと見つめて、雨彦は続ける。
「平安の時代から、十五夜の月を見たなら十三夜の月も見なきゃ縁起が悪いって言われててな。片方の月しか見ないから片見月って言われてるのさ」
「んーー……なんででしょうね?」
「さてな……中秋の名月、十五夜さんは十年に九年は月見えず、なんて言われるくらい天気に恵まれないって言われてるが、十三夜は曇りなしってくらい秋晴れで月がよく見えるからかもしれないぜ?」
「おいしい……
 お前さん聞いてないな、と夢中で団子を食べている彼女にくすりと笑って、雨彦はゆっくりと月を見上げる。
「月見自体は中国伝来の風習だが、十三夜の月見は日本独自の風習らしい。醍醐天皇が始めた風習だって説がある」
「んーー……
 もごもごと口の中の団子を味わって噛み砕いて飲み込んで、彼女も雨彦と同じように月を見上げた。
「きっと、平安時代のそういう人たちも、月にかこつけて誰かと会いたかったのかもしれないですね」
……っはは、そうだな」
 十五夜の月を見たのなら、十三夜の月も見よう――愛しい誰かと会うための口実に月を持ち出してくるあたり、雅で風情があって風流だ、と雨彦は思った。
「今年の十三夜は今月の二十九日だぜ」
「お、またお団子食べますか」
 色気より食い気だな、と雨彦は、摘んだ団子を色気のないことしか言わない彼女の口に押し込む。雨彦さん無理矢理だ、と涙目になりながら団子を飲み込んだ彼女の目には、そんな風流なお誘いをしてくる雨彦は、やっぱり格好いいように見えていた。


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.