@takonsm
"魔法苦手な魔法使いが居るものか。やめとけ"と言われてどれだけの年数が経過したのだろう。
特に一子相伝でもなければ、何か奇妙な力を持つ一族でもない。世界にとって有象無象の一般家庭の少女が私だ。
所で君にはテレビを見たことがあるかい。強力な魔法を撃つ魔導士の動画とかも見たことあるか? かっこいよな。それ。
だから、それが夢だったんだ。私は魔法を使う魔法使いになりたいんだ。
魔法使い同士の戦闘において華々しい力、それが魔導士。私はそう考えていた。
だから、勉強した。とにかく勉強した。凄く勉強した。誰にも負けないぐらい勉強した。
エイセル魔法学院に入れるぐらいに勉強した。
それで魔導士になる為の学科へ入ったんだ。
それでどうなったって? ふふ、分かるだろ。勉強したから先生の質問に何だって答えられるんだ。
テストも勿論高得点! 凄いだろ私。
でも、一つだけ問題があった。
「絶対的な魔力総量が足りません。それでは上位の魔法を実戦で使うのはかなり厳しいでしょう」
「え、ちょ」
先生からの指摘。でもそれは勉強と訓練で改善できると思っていた。だから、ずっと、ずっとずっと訓練した。
「絶対的な魔力総量が足りません」
ずっと、ずっとずっと言われる。
それでも努力はしよう。やれることはする。
そんな私がキレたのは、入学してから1年経った時のことだ。転校生が来た。
テストの成績はそんなに良くない。陰陽の家生まれで一子相伝パワー?なんかよく分かんねー女。
「貴女は魔力も極めて高質ですし、魔力総量も高い。優秀ですね。一体どんな訓練を?」
「でしょ? 訓練なんて何にもしてないし。ちょっと相手見て、先のこと考えるだけ。才能よ?」
胸がビッグボインの女。胸が高質って言いてーのか。努力もしねー天才児がよ。
こうして成績優等生の実力不足と、実力過多の成績劣等生は同じ授業を受ける関係になった。
私はアイツが努力しなさすぎてムカついた。アイツは私を勉強してイキってる雑魚だとムカついた。
気付けば、犬猿の仲になってた。
「忘れたとは言わせねえぜ……この傷をよ!!」
「それは!?」
「今怪我した」
それで転機が起きた日は、はっきりと覚えてる。
「2人共総合成績が微妙だな……魔導士学科はやめておいた方がいい。他に学びたい事はあるかね」
優しい進路相談の先生のお言葉。つまり落第したって通達。犬猿な私たちは2人そろって落第生だって。やったー。
「ちょっと待ってよ。この頭の良い馬鹿はともかく、私がどうして?」
「そうだぞ。パワーだけの知識のないこいつはともかく、何で私が?」
「自分らで答え言ってるんだがね。話は終わりだ。学びたいことがあればまた教えてくれ。学科変更の手続きを支援しよう」
「ちょ、待って……」
ずっと、ずっとずっとずっとずっと勉強してきたのに。華々しい魔法の夢はあっさりと終わっていった。
「普通に陰陽と魔導士で二重のわらじで行くかなあ……」
横の女は何言ってんだお前は。強い奴はいいねえ!!! 陰陽もできちゃうってすごいねえ!!
……ん? あ、れ。
「……私、何もできなくね」
ずっとずっとずっと勉強してて忘れてたけど。
結局、私には何もなかった事に気付いた。
とりあえず家に帰った私はこの嫌な気分を払拭するために好きなゲームをやった。
そう、野球ゲーム。たまにバグで首だけ捻じれて……。
ごめんこのゲーム好きじゃないかも。
「……野球選手だって、野球が出来て凄い。打つ、投げる、走る。それが出来る。知識もある。凄いよなあ」
私は何もねーけどな。このバッターボックスで反対向いて打つこれもさあ。無理だよなあ。
いや出来たら凄いけど……。
……曲芸使った魔法なら何か行けるか? お遊びとしての魔法なら、知識を活かして何か……。
とりあえずバッディングセンターに行ってみる。
普通に打ってみる。スカッ……
「よし!」
何も良くないが?(自問自答)
っというわけで本番だ。反対向いて……打つ! スカッ
「当たるわけねえ」
当たり前すぎる。……いやー私何してんだ。馬鹿だな。いやこれは割と普通に馬鹿。気の迷いが過ぎる。金の無駄。
こんなことするからまた馬鹿にされ……。誰に馬鹿にされるんだ? ああ、才能ありますよ女。 ボールも当てられないの馬鹿って。
……才能ありますよ女? あいつ、物を当てる勘。あったよな。 何か、良い方法で。何か、偉そうに。
――相手見て
「……ん」
――「でしょ? 訓練なんて何にもしてないし。ちょっと相手見て、先のこと考えるだけ。才能よ?」
「……それだ!!」
術式制御。魔法術式。モーション。全て思考の外に。考えるのはただ2つ。ボールのこと、先のこと考えるだけ。
訓練なんてなーんにもしてない。行き当たりばったり。
ボールが、転がった。
ボールが投げられた。ボールのことを考えろ。
そうしたら、きっと。反対向いてたって。上手くいく。
念動がボールを転がせた。
「……あれ? 今……やった、何か出来たぜ!」
後になって分かったことが私は今念動でボール動かして、そんでもって未来が視えたらしい。
つまり、異能に目覚めた。………いいねえ。時間の先を行くの。悪くない。時を視るのも。
…
……
………
「やりたいクラスは君は陰陽。君は、時使い? 時使い……」
進路相談の先生は、犬猿の私達を見て困惑した。陰陽はともかく、時使いは予想外過ぎた表情だ。
「球打ってたら気付いたんだよね。時を操るっていいもんだな。と、それに異能に目覚めたんだ。技術を論理的に落とし込むなら時使いかなーって」
「時を操る……? たま……? クロノス……?」
「冷静になって、違う」
「私バッターボックスで反対向いて球打つよりクロノス撃った方が冷静だと思うんだけど」
「この場合何も言い返せない」
「……時使いか……まあ……好きにしてみるといい」
こうして私は時使いを選択した。さあて、勉強……あ、その前に。
「水野!」
「え、な、何。木下……」
「ありがとう!!」
「は? ん。んん。……ん!?」
「私は木下夏希、愛称はなっちゃんだ。呼べ」
「え、ええ……!?」
こうして私たちは犬猿の仲ではなくなっていた。
ちょっとずつ、ちょっとずつ仲良くなっていく。気付いたら相棒になっていた。
「ジャム・プレイスぅ? なっちゃん興味あるんだ。しかも魔法使ってみたーい! なんだ」
「まーな。へっへっへ。……でも私ハンドルネーム浮かばなくてよ。どうしたもんかなーって、お前の意見聞きに来た」
「ん、ん。んー……。ちょっと考える」
腕を組んで唸ってた。へ、私の方が先に唸ってたんだ。一歩リードな。
「……十干って知ってる……?」
「甲乙丙のあれ?」
「そう。それ。それって五行含んでるんだよね。五行ってのは、まあ……属性?」
「うん」
「魔法使って、それも属性操りたいならそれをベースにしてみたらどう? えっとね……それぞれ……」
「最初と最後だけでいいぞ!」
「きのえとみずのと?」
「じゃ、それで。お前ミズノトな」
「は!? 私もやるの!?」
「やらないの?」
「やるけど……」
「じゃ、お前ミズノト。私キノエ。これで行こう!」
「ご、強引……。じゃあ愛称はそれぞれキノとミズね。おっけー! じゃ、ジャム・プレイスでよろしくね!」
「おう!!」
2週間後。
「時使いの試験勉強終わらねえ~~~~~~~~~~」
コーヒーがぶ飲みしながら自室の勉強机に向かう私。
めっちゃ勉強した。とても勉強した。
寝た。
起きた。
38.5℃。
「ぎゃーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!!!」
許さんぞコーヒーよ。ボなスよ。ジョー〇アよ……。2杯も飲むもんじゃなかった……。うおお。
あ、今日ジャム・プレイス解禁日だ。よーし、やるぞ。
えー、名前はね。
コーヒー許さんしボなスはストレートすぎるからー
ドン。うん。
ドン・ジョージア!!!!!!!!!
…
……
………
それからジャム・プレイスにて
「馬鹿!!!!!!!!!!」
「ごめんて」
ミズノトは私に無限に切れ散らかしていた。