温かな感情が私達をそっと包み込む。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第4話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり
@natsu_luv
朝晩の空気が肌寒くなり、ナイトレイブンカレッジにも冬が訪れようとしている。
私がこの学園に入学して、初めての冬がやって来る。
その一方で、学園内は冬の前に行われる大きな行事であるハロウィンウィークの準備で賑わっていた。
学園長から何も聞かされていなかった私は、ディアソムニア寮の生徒たちがオンボロ寮を飾り付けている光景を見て驚いた。
今日の軽音部の練習が終わった後、改めてリリア先輩にそのことを話した。
「はっはっは、それはすまんかった」
「もう本当に驚きましたよ……」
「マレウスがどうしてもオンボロ寮にしたいと言って聞かなくてな。許してやっておくれ」
「大丈夫ですよ。きっと悪いようにはなさらないでしょうし」
現在のオンボロ寮はハロウィンウィークのための装飾で華やかな雰囲気の建物と化している。
テーマは東洋の龍だとリリア先輩が言っていた。
いつの間にか、話題がマレウス寮長のことになっていた。
「マレウスがオンボロ寮を訪ねたいと言っていた。シルバーからお主のことを聞いて、興味を持ったようじゃ」
「本当ですか!?」
「本当じゃよ。そうじゃ、お主の都合の良い日にわしらで伺っても良いか?」
「あっ、はい。狭いですが……」
構わんよ、とリリア先輩が笑顔で頷いた。
ちょうど来週の金曜日の放課後が空いている。
この日にシルバー先輩たちをお迎えすることとなった。
マレウス寮長が私の手料理を食べてみたいと言っていたとリリア先輩から伝え聞いた。
食材を持ってきてもらうことを条件にして、私は手料理を振る舞うことを快諾した。
今日はシルバー先輩たちがオンボロ寮を訪れる日。
私はグリムと一緒に談話室を掃除していた。
まだ完璧ではないけれど、最初に来た頃よりは幾分か住みやすくなっている。
エースくんとデュースくんに手伝ってもらいながら、オンボロ寮全体を整備したからだ。
綺麗なテーブルクロスを敷いて、食器を並べて、小さなパーティー会場の完成だ。
ちょうど良いタイミングで呼び鈴が鳴った。
シルバー先輩の呼びかけに応えるように、私ははやる気持ちで扉を開けた。
「皆さん、お待ちしてました……ツノ太郎さん!?」
「こら、人間!! 若様に対して、なんて無礼な呼び方をするんだ!!」
「構わない。好きなように呼べと言ったのは僕の方だ。ヒトの子よ、今日はオンボロ寮に僕らを呼んでもらえて感謝する」
「どういたしまして。さぁ、中へお入りください」
ツノ太郎さんこそ、マレウス・ドラコニア寮長だったとは。
衝撃の事実に対する戸惑いを隠しながら、私はシルバー先輩たちを迎え入れた。
セベクくんから食材の入ったバッグを受け取り、私は台所へと向かった。
バッグの中に入っていた食材に数種類のきのこがある。
今日私が作る料理は、事前にセベクくんが私に伝えてくれていたものだ。
きっと、シルバー先輩たちも気に入ってくれるだろう。
「ニコル、僕も台所へ入らせてもらうぞ!」
「セベクくん、ありがとう。心強いよ」
「若様たちに尽くすのが僕の仕事のひとつだからな!」
そう言って、セベクくんは寮服の上着を脱いでエプロンを身に付けた。
材料を切る工程をセベクくんに手伝ってもらい、私はリゾットの味の要になるスープ作りに取り掛かった。
スープの温度を保ちながら、切り分けてもらったきのことベーコンとお米をフライパンで炒めていく。
スープを加えて煮込んでいき、粉チーズを加えて混ぜ込み、塩胡椒で味を調えればきのこのリゾットの完成だ。
リゾットの仕込みをしている間に、セベクくんにサラダの土台も準備してもらった。
敷き詰められたレタスの上にスモークサーモンをトッピングして、ドレッシングをかけてスモークサーモンのカルパッチョ風サラダの出来上がり。
そろそろ皆がお腹を空かせている頃だろう。
私達は完成した料理をテーブルへと運んだ。
「皆さん、お待たせしました!」
「おっ、美味そうじゃな」
「これは……」
「シルバー、セベク、今日の料理はお前たちの好物だ」
目を輝かせているシルバー先輩を見て、ツノ太郎さんはそう言った。
シルバー先輩が絶賛していたきのこのリゾットの味を再現できているかはわからないけど、味にはそれなりに自信がある。
グリムがそわそわした様子で料理を眺めている。
全員に料理が行き渡ったので、私は小さな晩餐会の始まりの合図を出すことにした。
「早く食べたいんだゾ!」
「それでは、いただきましょうか」
「いただきます!」
こうして、オンボロ寮での晩餐会が始まった。
皆が次々と料理を口にしている。
さっそく、私もリゾットを食べてみた。
きのこの旨味とベーコンの塩気がスープに溶け込んでいて、チーズとバターのコクも上手く出ている。
「美味い……!」
「ニコル、大成功なんだゾ!」
「やったね」
「なかなかやるではないか、人間!! 僕の好物も美味しく出来ているぞ!」
リゾットを食べているシルバー先輩の顔が綻びかけている。
そんなシルバー先輩の姿を見て、リリア先輩がにっこりと微笑んでいる。
黙々と料理を食べているツノ太郎さんも機嫌が良さそうだ。
スモークサーモンのサラダを口にしたセベクくんが、いつもの大きな声で絶賛してくれた。
どちらの料理も美味しく仕上げられたようで安心した。
食事が済んだ後、私は食器の片付けをするためにキッチンへと向かった。
その間に、セベクくんがデカフェの紅茶を準備すると言ってくれた。
お皿を洗っていると、紅茶の良い香りが鼻を掠めた。
セベクくんが慣れた手つきで紅茶を淹れている。
きっと、美味しい紅茶が出てくるだろうと確信できるくらいだ。
片付けを終わらせて、私は再び皆のいるテーブルへと戻った。
全員のカップに紅茶が入り、私はひと息ついて椅子に腰を掛けた。
「ヒトの子よ、お前の料理は絶品だな。毎日作ってもらいたいくらいだ」
「ありがとうございます。嬉しいです」
「今頃、ニコルの家族はニコルの手料理を恋しく思っておるかもしれんのう」
「実は……私には家族がいません」
「なん……じゃと……?」
食卓に一瞬の静寂が訪れた。
私は万象の魔導師ニコル・イーリスの潜在意識から生まれた魂だけの存在。
生まれた時からこの姿なのだ。
さすがに皆にはそのことを言えなかった。
私と血を分け合った人間、家族や親族というものはこの世に存在しないのだ。
「ヒトの子にそんな悲しい事情があったとは……!」
「何故もっと早くそれを言わなかったんだ、ニコル〜!!」
「そうじゃったのか! ニコル、今日からわしらがニコルの家族じゃ〜!!」
リリア先輩が泣きながら私に抱きついてきた。
いつの間にかグリムまで私にぎゅっとしがみついていて、身動きが取れない。
ツノ太郎さんとセベクくんまで泣き出して、何が何だかわからない状況になっていた。
一方で、シルバー先輩は申し訳なさそうな表情でリリア先輩と私の方を見ていた。
「ニコル、すまない。大事になってしまった……」
「謝らないでください。元はと言えば、私が原因なので……。グリム、重いよぉ」
「くすん、そんなこと知らなかったんだゾ……」
グリムが弱々しい声で呟いた。
さっきの私の発言に驚きと悲しみの感情を抱いたのだろう。
グリムにすら、私に身寄りが誰もいないことを話していなかったのだ。
しばらくして、皆が段々と落ち着きを取り戻してきた。
気付けば、時計の針が九時を指していた。
空になったカップを片付け、玄関先までシルバー先輩たちを見送った。
「ヒトの子よ、今宵は心地良い時間を過ごすことができた。感謝する」
「こちらこそ、今日はお越しいただきありがとうございました」
「シルバー、ニコル、僕もお前たちの恋路を見守らせてもらおう」
「マレウス様、ありがとうございます!」
「若様がこうおっしゃるんだ! ありがたく思え!!」
「セベク、何故そんなに偉そうなんだ……」
セベクくんの尊大な物言いに、シルバー先輩は呆れた様子だった。
ディアソムニア寮ではこんなやり取りが日常茶飯事なのだろうか。
シルバー先輩が私の方へと近付いてきた。
そっと抱き締められ、私は先輩の胸に顔を埋めた。
「ニコル、今後ともよろしく頼む」
「シルバー先輩……」
私の頭を優しく撫でて、シルバー先輩が口付けを運んできた。
リリア先輩たちが間近にいることもお構いなしに、私達は抱きしめ合って互いの温もりを感じていた。
初めて交わす口付けは、チャペルでの誓いのキスのようだった。
「マレウス、セベク、しかと見るが良い。これぞ……愛じゃ」
「これが愛……ですか」
「美しいな」
「マレウス様、お待たせして申し訳ございません。寮へ戻りましょう」
「あぁ、そうだな。ニコル、今度はディアソムニアにも来るといい。いつでも歓迎しよう」
「はい、もちろんです!」
威厳を残したままでありながらも優しい声色で、ツノ太郎さんはそう言った。
扉が開かれると、一瞬でツノ太郎さんたちは姿を消した。
シルバー先輩に抱き締められた温もりが、まだ身体に残っている。
家族のような存在を得られたような気がした。
自らをぎゅっと抱き込んで、私は心から湧き出てくる温かい感情を仕舞い込んでいた。