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▹Character Side Story vol.2

全体公開 2417文字
2020-12-06 17:23:26


「与えられた愛」

私の家はいつもアネモネの匂いがする。
最初は玄関の安い花瓶に母が気まぐれに生けたもの。
別に頼まれたわけじゃないけれど毎日水を替えて、枯れるようなら同じ花を買ってきた。
けして強くないはずの香りが家に染み付いたのはいつからだろう。
それはいつの間にか家の香りになって、同時にひとりぼっちを痛いほどに感じさせるものになった。

母は奔放な人だ。小さいころから"お父さん"は頻繁にかわったし、自由に出かけるために私に適当なおもちゃをあたえてお留守番をさせた。
お人形にクレヨン、可愛いシール。その中で一番好きだったのは本を読むこと。
ある女の子は意地悪な継母と義姉にいじめられていて、けれど魔法使いのおかげで王子様と出会う。
灰かぶりからの卒業、シンデレラストーリー。運命の人。
そういったお話が大好きだった。自分がそんなものになれるかもなんて夢は早々に見切りをつけたけれど。

このお留守番は私が中学になっても変わることはなかったし、何なら手がかからなくなった分以前より家を空けることが更に多くなったように思う。
朝、キッチンのテーブルには無造作に置かれた1万円札。今週分の私の生活費。
そういえばクラスメイトはお小遣いが月5000円で大変だ、なんて嘆いてたっけ。
中学生が貰うにしては不相応な金額。食費を差し引いて友達と遊んでも余る十分なお金だ。
生きていくにはなんの問題もなかった。



「これ、あげる」

珍しく。本当に久しぶりに母が私の起きている時間に帰ってきた日。リビングのソファーに座った母からなにか四角い箱を手渡された。
見た目より重みのあるそれを開けると、見たことがある。これはスマートフォンだ。
隣の席の子が最近買ってもらったんだって自慢げに話してたっけ。
あったほうが便利でしょ。と一瞥して煙草を咥える母をぼーっと眺める。
紫煙がくゆる。母は誰かと連絡を取るのに忙しそうでこちらをもう一度見ることはない。
手元のスマホを見て、あぁ、これもまた適当にあてがわれたおもちゃなんだと気づいた。


#私を見つけてください #いいねで気になった人お迎え #自発ください #相互フォロー募集

友人に勧められるがまま入れたSNSアプリ。
数人フォローしただけなのに高速で流れるタイムラインを流し見していると、そんなタグが目についた。
女の子が自分の写真と、その日のコーディネートをアップしている。
『可愛い!』『惚れました』『女神

『繋がりませんか?』

何に突き動かされたのかはわからない。
そのコメントを見た瞬間私は、友人と撮るときぐらいでしか使ったことのなかった加工アプリを立ち上げて、斜め上からインカメのシャッターを切り続けた。
その中でより映りのいいものを選び、ネットの海に投げ落とす。

『初めて投稿します。JC3です。
 進路も決まって暇しているのでよければ誰か繋がりませんか?』





「違う、こうじゃないシャドウはこっちのほうが映りがよかったし、照明はもっと

フォロワー数2000人。写真を上げれば必ず100以上のいいねがつき、投稿した瞬間にコメントが飛んでくる。
『可愛い』『美人』『スタイルがいい』『今日も見れて幸せ』
それらの言葉はどうしようもなく私の心を満たしてくれた。
求められている。認められている。嬉しかった。人と繋がっていられることが。
ここに私が存在していると確かに思わせてくれるから。


けれど、まだ足りない。

求めだしてしまった承認欲求には底がない。
投稿を初めて1年余り。日に日に増えていくフォロワー数も、数々の賛美も冷たい液晶越しでは物足りないのだ。
もっともっと私を見てほしい、褒めてほしい。愛してほしい。



『そういえば住んでるところ近くだよね。会わない?』

スマホ画面の右下、DMの通知。
友達にそういうのは危ないから絶対に会っちゃだめだからね、と念を押されていたし私自身も怖くて普段なら無視するか適当にあしらっていた内容だ。
けど、けれど。この人は私のことをいつも可愛いって言ってくれて、いつも一番にコメントをくれる人だ。
物腰も柔らかくて冗談も上手。紳士的で優しく気遣ってくれる。
だからもしかして。

『いいですよ、土日なら空いてます』

この人なら私の王子様になってくれるんじゃないか、なんて。







「あぁ、可哀そうな子。結局お前は満たされなかったんだな。誰だったらその飢えを満たしてやることができただろう」
「ふふ、今日もいいおてんきね、おはなをつみにいきましょう」
聞こえちゃいないか」

空色の瞳は虚空を揺蕩うばかりで感情は浮かばない。
この場所にたどり着いたとき、彼女は居もしない王子様を求め彷徨い歩いていた。
ゆらゆら揺れるその手を取ったのはLobeliaだ。

「なあ、好きな花はあるか?」

Loberiaはここに住まわせるものに時折名前をつける。特に彼女の琴線に触れたものには、花の名前を。
この少女のことをLoberiaはなかなかに気に入っていた。
どうせ返事などこないだろう、名前はなににするかと思いつく花を上げていると

「おはな」

はじめて少女と目が合った。とても悲しい、憐れな色だ。

「わたし、あねもねあねもねがすき」

もう遠い昔に思える過去を想って、少女は微笑んだ。
可憐な、ただの女の子の笑みだった。




▽推定該当者リスト
朝倉 涼杏(17) 2〇〇0年 失踪
2〇〇0年、ネット上で知り合った男性と接触。
男性は違法薬物を所持しており致死量を投与されたとみられる。被害者の悲鳴を聞いた近隣の住人の通報で事件が発覚。
生存している可能性は低いが、遺体が見つからない点と現場から被害者が立ち去る姿を見たとの目撃証言もあり現在調査中。


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