X以外のSNSでの投稿にはPrivatter+がおすすめです
Xフォロワー限定公開・リスト限定公開の停止について

お題【ダンス】

全体公開 キバユウ作品 4337文字
2020-12-08 04:49:03

#NL版pkmn真夜中のお題交換会
cp : kbyu

お互いに両思いだけど、ユウリちゃんが大人になるまで待っているキバナさんのお話です。

 豪華絢爛なドレス。目の前を行き交う燕尾服。キラキラ眩しい装飾品。化粧と香水の匂い。人のざわめき、笑い声。アルコールの香り。落ち着いた重厚な音楽と、柔らかい照明。

 今日はポケモンリーグ委員会とガラルの上流階級の方々の交流会。
 昼食会を行い、その後軽くデモンストレーションのバトル。夜は立食のダンスパーティーと、目白押しの一日だった。
 
 慣れないドレスを着て笑顔を振りまいて。さすがにくたびれたユウリは、壁に寄りかかって、きらびやかなダンスホールをぼんやりと眺める。
 ダンスホールの中心ではルリナが長身の美青年と、キバナがグラマラスな女性と優雅な踊りを披露していた。
 その美しいダンスを、ほうとユウリは眺める。
(キバナさん、カッコいいな。)
 キバナと女性は二、三言葉を交わし、くすくすと可愛らしく笑い合う。
 羨ましい。一緒に踊りたい。なんて嫉妬する気にもなれない。それ程二人はお似合いで、完璧だった。
 ユウリもダンスは好きだ。時折ポケモン達と即興で踊ったりもする。しかし、社交ダンスは全然別物で、付け焼き刃で何とか様に出来たステップはあまり好きでは無かった。
 
 スロー、クイック、クイック
 スロー、クイック、クイック

 キバナの動きに合わせて、ユウリの顔も左右に動く。
 音楽はフィナーレを迎えて静かに終わった。キバナと女性は頬を寄せてから一礼し、別れていく。
 ユウリは拍手で二人を祝福する。そして周囲を一瞥すると、すっと壁から離れた。
 扉を開いてくれたドアマンに会釈して、ホールの通路を人気の無い方へと歩いて行く。
 確かこの後はワルツだったはずだ。ワルツのステップはもっと苦手。キラキラしい殿方に捕まらないうちに、ユウリは急いで逃げ出した。


 誰もいない閑散とした廊下で、ユウリは窮屈な靴を脱ぐ。ふかふかな絨毯の感触が、直に足に伝わってとてもいい気分だった。
 今ならワルツのステップも難なく踊れる気がして、ユウリは開けた場所を目指した。

 建物内をこっそりと歩き回り、誰もいない第3ホールのホワイエにたどり着く。電気は簡易照明のみで仄暗かったが、ユウリはリズムを口ずさみながら、ワルツのステップでくるくる回った。

 ズー、チャッチャ ズー、チャッチャ
 ズー、チャッチャ ズー、チャッチャ

「おい。ここは立ち入り禁止だぞ!」
「ひゃうっ!」
 不意にかけられた言葉に、ユウリは驚き飛び上がる。恐る恐る振り返ると、そこに笑いを噛み殺しているキバナがいた。
「なんだぁ。キバナさんか。もう、心臓が止まるかと思いましたよ!」
 胸をを抑えて、ユウリはキバナを見上げる。
(なんで、キバナさんがここに!?)
 疑問に思いながらも、ユウリは不敵に笑うその姿に見惚れる。二人きりの空間に、ユウリの胸はとくとくと高鳴った。
「ガラルのシンデレラガールが、12時でも無いのに舞踏会を抜け出して。何事かと思って追いかけてみれば、靴を脱ぎ捨てて踊ってる。全く、なんて光景だ?」
 キバナは堪えきれずにくっくと声を出して笑った。その右手には、ユウリが脱ぎ捨てたパンプスが収まっていた。
「うわ!ご、ごめんなさい!」
 はしたない!ユウリは赤面して、靴を取ろうと手を伸ばす。しかし、キバナはひょいと靴を頭上に掲げた。
「ちょっ!キバナさん!」
 懸命に手を伸ばすが、届かない。その手を、キバナの左手が優しく握った。
「なぁ、教えてくれよ、シンデレラ。ここで何をしてたんだ?」
 腰を屈めて上から見下ろすキバナの瞳に、ユウリを咎める色は無い。あるのは純粋な好奇心。しかしユウリは気まずそうに目を伏せた。
ワルツのステップで、踊ってました。」
 渋々と告げられる言葉に、キバナは苦笑した。
「それは見ればわかるさ?その理由は?」
 ユウリの視線が左右に揺れて、観念したように再びキバナを見上げた。
「踊るのは好きなんですけど、他の人と触れ合う社交ダンスはちょっと苦手で、緊張しちゃうんですよね。」
 だから逃げてきちゃいました。ユウリはおどけて肩を竦める。
 キバナはそっと靴を置き、ユウリの腰を抱き寄せた。くびれを感じるタイトなラインに手を這わせれば、真っ赤な頬がすっぽりと腕の中に収まった。
これは?」
「キバナさんは平気。ちょっとドキドキするけど。」
 言葉通り、顔を真っ赤にして呟くユウリに、キバナは満足そうににっこり笑う。そして、するっと彼女を解放した。
「もう、からかわないで下さいよ。」
 ユウリは赤い顔のまま、少し離れて口を尖らせる。
「ところで、どうしてキバナさんはここに?」
 ちゃんと靴も取り返して、足を入れながらユウリもキバナへ問いかける。
「んー。ユウリを追っかけて来たんだけど。」
「私をですか?出ていくの、ダンスホールから見えたんですか?」
「オレサマを誰だと思ってるんだ?ユウリの事なら何でもわかるさ。」
 驚くユウリにウインクを一つ投げて、キバナは軽く白状する。
「実は、オレサマもダンス、苦手なの。」
 だからイマイチ集中出来なくてな。解放されて助かったんだ。そう笑うキバナを、ユウリはぽかんと見つめた。
「ウソ!?」
「嘘じゃねぇよ。」
「だって、さっきはあんなに完璧に、楽しそうに踊ってたじゃないですか!?」
「お、見ててくれたの?サンキュ。」
 嬉しそうな笑顔を見せるキバナを、ユウリはきっと睨みつけた。
「カッコよくて、完璧で、羨ましくて、妬ましくて、目が離せませんでしたよ!」
 自分とは全然違う。大人で、余裕があって、楽しそうで。そんなキバナに、相手の女性に、嫉妬する醜い自分が嫌だった。
「キバナさんといると、私はヤな子になるんです。勝手に比べて、嫉妬して。そんな自分が、嫌なんです。」
 ぶすっと膨れて正直に白状すると、キバナはふふっと笑った。
「笑いごとじゃ
「オレサマも、オマエに妬いてたんだぜ。」
「え?」
 思いがけない告白に、ユウリは目を見開いてキバナを見上げた。
「オマエ、すっごく可愛くてさ。結構な男共がオマエを見てたぜ。」
 自覚無かったのか?と問われても、ユウリは答えられなかった。視線を感じた記憶はあるが、ユニフォーム姿では無いチャンピオンが珍しいのだろう。そう思っていた。
「最初、ビートと踊っていただろ?あれ、嫌だった。オマエとの息がぴったりで。」
 穏やかなキバナの声が一瞬だけ剣呑になり、ユウリの耳を通り抜けていく。
「オレも、オマエが可愛くて、触れたくて、ビートが羨ましくて、嫉妬してたんだぜ。」
 そう言って、キバナはユウリを抱き上げた。
「わわっ!」
 ユウリは慌ててキバナの首にしがみつく。嗅ぎ慣れたキバナの匂いと、優しい香水の匂いがふわりと混じり合った。

「私達、おんなじ事を考えていたんですね。」
 暫く抱き合って、ユウリがぽつりと呟けば、キバナもふっと頬を緩めた。
「そうだな。オレたちは似た者同士だったってことだな。」
「嬉しい、です。私とキバナさん、全然違うと思っていたから。」
 そう言って凭れてくるユウリを、キバナはひょいと抱き直した。
「よし。じゃぁ、似た者通しの悪いオレたちは、こっそり早目に退却するかな。」
「ええっ!駄目ですよ。ダンデさんに怒られます!」
「聞こえなーい。」
 ユウリはキバナから降りようと、慌てて足をバタつかせる。しかし、キバナはそんなユウリを愛おしそうにぎゅっと抱え込み、離そうとはしなかった。
 
 キバナはユウリを抱えて、誰もいない廊下を歩いていく。時折、人々の喧騒と優雅な音楽が聴こえてくる。
「ところでキバナさん、重くないですか?」
 キバナから降りる事を諦めたユウリが恐る恐る確認する。
「いや、全然。」
 キバナはユウリを抱えてずんずん歩いていく。
 ふとキバナは思いついて、足でステップを描いてみた。

スロー、クイック、クイック
スロー、クイック、クイック

 ユウリがくすりと笑った。
「キバナさん、どうしたんすか?急に。」
「いや、ダンスっぽくなるかと思ったんだが駄目だな。疲れる。」
「当たり前ですよ。降りましょうか?」
「嫌だ。このままがいい。」
 キバナはユウリを抱えたままエントランスにたどり着き、そのまま外へ出て行った。

 外は少し肌寒かった。キバナに抱えられて、されるがままだったユウリは、そこで初めて自分がパーティードレスだった事を思い出す。
「あ、服!」
「いいだろ、別に。シンデレラだってドレスで帰って行くんだ。」
「私はシンデレラじゃ無いですよ。私は、チャンピオンです。奇跡を待つだけのお姫様じゃありません。」
 その静かな言葉に、微かな苛立ちを感じ、キバナは仕方なくユウリをゆっくりと地面に降ろした。
 ユウリは僅かに微笑んで、キバナを見つめた。
「キバナさん。ありがとうございました。楽しく、夢の様な時間でした。でも、やっぱり私は責任を果たします。ちゃんと、会場に戻りますね。」
 キバナは少し名残惜しそうに目を細め、しかし何も言わなかった。
 ユウリはペコリとお辞儀をし、たった今キバナと来た道を駆け戻る。アップに纏められた栗色の髪が、ぽんぽんと跳ねて、そのまま扉に消えていく。それをキバナは無言で見守っていた。

「残念。後ちょっとでお持ち帰り出来たのに。」
 ユウリが見えなくなって、キバナはぽつりと独りごちた。
 時計を見ると午後8時。間もなく閉会の時間だ。ユウリは閉会式までに戻るつもりなのだろう。
「ま、いいか。ユウリに変な虫が付くのは阻止できた訳だし。」
 閉会式が終れば、未成年のユウリはそのまま家路につくだろう。そう考えたキバナは振り返り、ナックルシティへの帰路についた。


 ユウリに告白されて早2年。お互いの気持ちは確かめ合ったが、ユウリが18歳になるまでは交際せず、大人として見守ると決めたのはキバナだった。
 先日17歳を迎えたユウリは、どんどん綺麗になっていく。
「ったく。無邪気なお姫様を守るのも楽じゃないぜ。」
 だが、それも後1年の辛抱だ。
「ここまで大事に守り続けたんだ。今更、他のやつには譲れないぜ。」

 待つのも、育てるのも、得意な方だ。
 それでも気が狂いそうな程、待ち遠しかった。

 アーマーガアタクシーが舞い上がる。
 ユウリがいるであろうホールを見下ろして、キバナはニヤリと犬歯を見せた。
「あと少し。もう逃さないぜ。お姫様。」
 それはお姫様を迎えに行く王子というには、獰猛過ぎる笑みだった。
 
 


投稿にいいねする


© 2026 Privatter All Rights Reserved.