なんでもない日だからこそ、小さな幸せを見つけられるのかもしれない。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第6話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定注意!
@natsu_luv
外を歩いていると、冷たい風が頰を刺す。
ナイトレイブンカレッジにも冬がやって来たのだ。
歩いていれば少しは身体が温まるけれど、校舎から購買部やオンボロ寮までの道のりは風が吹くと肌寒い。
授業が終わった後、私はエースくんとデュースくんと一緒にぎゅっと距離を縮めてメインストリートを歩いていた。
エースくんとデュースくんはこれから部活で、私は購買部でアルバイトだ。
購買部の近くにたどり着いた時、二人が突然立ち止まった。
「ニコル、来週の土曜日は空いているか?」
「うん、空いてるよ。突然どうしたの?」
「ハーツラビュルでなんでもない日のティーパーティーをやるんだよ。せっかくだし、ニコルたちも誘ってやろうって思ったんだ」
「できればシルバー先輩と一緒に来てほしいって、ローズハート寮長が言っていた」
「リドル先輩が……! 恐れ多いなぁ」
なんでもない日のティーパーティー、ハーツラビュル寮で行われている豪勢なお茶会だという認識がある。
紅茶とお菓子が大好きな私は、そのティーパーティーに興味があった。
実際に行ってみたいと思っていた矢先のお誘いだ。
シルバー先輩には同じ馬術部のリドル先輩が直接話をしているという。
もしシルバー先輩と都合が合えば、二人でハーツラビュル寮へとお邪魔することになる。
他寮へと赴くことはあまり無いから、私はティーパーティー当日を楽しみにしていた。
エースくんとデュースくんと別れ、私は購買部のドアを開けた。
いつものように、サムさんが笑顔で出迎えてくれた。
「こんにちは、サムさん」
「小鬼ちゃん、こんにちは。今日もよろしくね」
「はい!」
今日もサムさんの指示通りに品出しをしていく。
アルバイトを始めた頃よりも品出しのスピードが速くなったし、より正確にできるようになってきた。
小さな積み重ねが私を少しずつ成長させてくれる。
とあるお菓子を秘密の棚から出した時、ふと来週の土曜日のティーパーティーのことが頭をよぎった。
このお菓子を差し入れに持って行こう。
取り出したお菓子の姿を見て、私はそう決めた。
なんでもない日のティーパーティー当日がやって来た。
冬の空から溢れる陽射しに照らされて、私は目を覚ました。
この時期はベッドから出るのが辛くなる。
だけど、お茶会に遅刻するなんてあってはならない。
何とかベッドから出て、出掛ける準備を済ませ、オンボロ寮の門の前でシルバー先輩と合流した。
鏡舎にある鏡を使い、ハーツラビュル寮までひとっ飛び。
鮮烈な薔薇の赤が印象的なハーツラビュル寮の建物が私達の視界に入った。
「おーい、ニコル、グリム! 待ってたぞ!」
「エースくん! デュースくんもお出迎えありがとう」
「オレ様早くお茶会に行きたいんだゾ!」
「グリム、急かすなよ。シルバー先輩もお待ちしてました。こちらへどうぞ!」
「ありがとう」
ハーツラビュル寮の門の前でエースくんとデュースくんと合流して、私達はティーパーティーの会場へと向かった。
薔薇の迷路の途中でトレイ先輩とケイト先輩とも出逢った。
先輩方も私達を温かく出迎えてくれた。
ティーパーティーの会場は、木々の緑と赤い薔薇のコントラストが見事な大きな迷路の先にある華やいだ中庭だった。
真っ白なテーブルクロスがかかった円卓の上には、薔薇柄の食器が整然と並べられている。
絵本で見たお茶会の世界が目の前に広がっているように思えた。
女王の玉座らしき場所にリドル先輩がいらっしゃる。
玉座の目の前まで行って、私達はリドル先輩に挨拶をした。
「ハーツラビュルへようこそ。ニコル、グリム、シルバー、君達を歓迎するよ」
「リドル先輩、本日はよろしくお願いします」
「さぁ、皆も席について。トレイとニコルはティーフードと紅茶の準備を頼むよ」
「了解。ニコル、さっそく行こうか」
「はい!」
どうして客人である私がティーフードの準備を手伝うことになったのか。
答えはオンボロ寮へのお土産のスコーンを頂くためであることともう一つある。
トレイ先輩に連れられ、私はハーツラビュル寮のキッチンに入った。
私はまず最初にトレイ先輩に小さな箱を手渡した。
「こちらが例のお品です」
「あぁ、ありがとう。これは……あいつもきっと喜ぶぞ」
箱の中身を見たトレイ先輩が眉尻を下げて微笑んだ。
お披露目のタイミングは、スイーツを食べるタイミングで行われる。
トレイ先輩が冷蔵庫からサンドイッチとキッシュ、苺のタルトを取り出した。
サンドイッチとタルトは切り分けるだけで、キッシュも温め直すだけで食べられるそうだ。
「さて、ニコルにはスコーン作りを手伝ってもらおうかな」
「はい、お任せください!」
「頼もしいな。じゃあ、さっそく生地から作ろうか」
ボウルに材料を入れて、ざっくりと混ぜ合わせていく。
すべての材料がしっかりと混ざったら、今度は綿棒で生地を伸ばして型抜きでスコーンの形を整えていく。
艶出し用のバターを表面に塗り、オーブンに入れて、こんがりときつね色になるまで焼けば完成だ。
しばらくすると、オーブンが焼き上がりを告げた。
オーブンからスコーンを取り出すと、バターの焼けた香りがふんわりと漂ってきた。
「トレイ先輩、綺麗に焼けました!」
「上出来じゃないか! やっぱり、スコーンは焼き立てを出したいからな。さぁ、お皿に盛り付けて持って行こうか」
「はい、盛り付けもお任せください!」
いちごジャムとクロテッドクリームを小皿に盛り、トレイ先輩が準備してくれたティーフードを薔薇柄のお皿に見栄え良く盛り付けた。
ティースタンドの一番下にサンドイッチとキッシュ、真ん中にスコーン、一番上にはスイーツ。
定番のアフタヌーンティーの完成だ。
お土産用のスコーンは持ち帰り用のバスケットに詰めてもらった。
ワゴンにティースタンドとティーポットと茶葉を乗せて、私達はティーパーティーの会場へと向かった。
キッチンを出て、薔薇の迷路をくぐり抜ければ、なんでもない日のティーパーティー会場の中庭に到着だ。
ティーパーティー会場では、リドル先輩たちが談笑していた。
お腹を空かせているであろうグリムは、気を紛らわせるためにシルバー先輩に遊んでもらっていたようだ。
シルバー先輩の動物に好かれやすい体質も相まって、グリムはすっかり懐いてしまっている。
私達はティースタンドを各参加者の目の前に置いていった。
「皆さん、お待たせしました!」
「ニコル、トレイ、ありがとう」
「ニコル、お前も席についてくれ。俺がとっておきの紅茶を淹れよう」
「ありがとうございます」
トレイ先輩は魔法であっという間にお湯を沸かし、茶葉を入れたティーポットに勢いよく注いでいった。
透明なティーポットが使われているのもあり、茶葉がダンスを踊っているのが見える。
踊りを終えた茶葉がガラスのティーポットのそこに沈んだ後、トレイ先輩は薔薇柄のティーポットに抽出した紅茶を丁寧に注いだ。
こうすることで、紅茶の濃さが均一になるのだ。
トレイ先輩が紅茶を注ぎにテーブルを廻り始めた。
魔法の力でほんのり温まっているカップに綺麗な赤茶色の紅茶が注がれていく。
芳しい香りが会場内に漂っていた。
「うん、準備が整ったね。庭の薔薇は赤く、テーブルクロスは白。さぁ、なんでもない日のティーパーティーを始めよう」
ティーカップを掲げて、リドル先輩が始まりの合図を出した。
さっそく、トレイ先輩が淹れてくれた紅茶をひと口飲んでみた。
ふくよかで甘い苺とバニラの香りが口いっぱいに広がっていく。
スモークサーモンとクリームチーズとハムときゅうりのフィンガーサンドイッチは、ひと口大でありながらも素材の味をしっかり楽しめる。
きのこのキッシュも旨味が凝縮されていて美味しい。
サンドイッチとキッシュを食べ終わり、次はスコーンの番だ。
スコーンのお皿も魔法の力でほんのりと温かくなっている。
「今回のスコーンはニコルも焼くのを手伝ってくれたんだ。存分に味わってくれ」
「ニコルが焼いたのか?」
「はい、トレイ先輩と一緒に頑張りました」
「そうか、良い香りがするな」
さっそく、私もスコーンをひと口頂いてみることにした。
半分に割って、ジャムとクロテッドクリームを塗り、ぱくりと頬張った。
外はさっくり、中はふんわりとしていて、バターの風味が活きている。
スコーンをひと口食べたシルバー先輩が、眉尻を下げて、優しげな微笑みを浮かべた。
グリムも皆も夢中になってスコーンを食べている。
今回のスコーンは大成功のようだ。
「美味い……! ニコルから貰ったお菓子を思い出した」
「気に入っていただけて良かったです」
「キミたち二人は本当に仲睦まじいね。見ていて心が安らぐよ」
「リドル先輩……」
私とシルバー先輩のやり取りを見ていたリドル先輩が、上品な笑みを称えてそう呟いた。
いつの間にか、話題が私達ふたりのことになっていった。
リドル先輩はさらに話を続けた。
「二人は自覚がないかもしれないけれど、キミたちのおかげでナイトレイブンカレッジの治安が少しずつ良くなっているんだ」
「そうなんですか?」
「あぁ、その通りだ。この間、今にも殴り合いの喧嘩をしそうだった生徒たちがニコルの歌声を聴いた瞬間、ピタリと喧嘩を止めたのを見たからね」
「ニコルの歌声すごいな……」
中庭の木陰で歌の練習をしている間に、そういったことが起きていたとは知らなかった。
リドル先輩の話を聞いたエースくんとデュースくんは、驚いた様子で私の方をじっと眺めていた。
リドル先輩に続くように、トレイ先輩とケイト先輩も私達のことを話題にし始めた。
「お前たちは本当に仲が良いんだな。リリアの言ってたとおりだ」
「リリアちゃん、ニコルちゃんたちのこと猛烈にプッシュしてるからね」
「ニコルたちの仲睦まじさに胸焼けしている者も何人かいるみたいだけど、ボク個人は応援したいと思っているよ」
話題の中心が私とシルバー先輩のことになっていて、なんとも照れくさい気分になる。
一方で、リドル先輩たちの表情は終始明るかった。
トレイ先輩がお代わりの紅茶を準備しにワゴンの方へ行った。
しばらくすると、先輩はティーポットと蓋付きのお皿を持ってテーブルに戻ってきた。
「今日のスイーツは苺のタルトだけじゃないぞ。これを見てくれ!」
そう言って、トレイ先輩はテーブルの中央に置いたお皿の上の蓋を開けた。
蓋が開いた瞬間、会場内に歓声が響いた。
ケイト先輩がスマホで写真を連写している。
それだけ見栄えの良いスイーツだからだ。
「トレイ、このお菓子は何だい?」
「これはイスパハンという名前のお菓子だよ。ニコルがこの日のために持ってきてくれたんだ」
ピンク色のローズペタルマカロンにローズ風味のクリームとライチ、フランボワーズを挟んだお菓子であるイスパハン。
購買部でアルバイトをしていた時に偶然見つけたスイーツだ。
愛らしくも上品なこのお菓子を見た時、リドル先輩の顔が頭をよぎった。
だから、このなんでもない日のティーパーティーに差し入れとして持っていこうと決めたのだ。
「ニコル、キミの心遣いに感謝するよ。ありがとう」
「リドル先輩、どういたしまして」
「さぁ、皆でスイーツを食べようか」
リドル先輩のこの日一番の笑顔の花は、大輪の赤
薔薇のように美しく咲き誇っていた。
イスパハンは私も初めて食べる。
ひと口食べただけで、薔薇の香りがふんわりと漂ってくる。
その後に口の中でライチの甘さとフランボワーズの酸味が混ざり合っていく。
今まで味わったことのない上品な美味しさに、私もすっかり魅了されてしまった。
「またニコルに新しいお菓子を教わったな。いつもありがとう」
「シルバー先輩にも気に入っていただけて嬉しいです」
シルバー先輩がそっと微笑んで、私の頭を撫でてくれた。
こうしてシルバー先輩に撫でられると、嬉しさがさらに高まっていく。
イスパハンを堪能しているリドル先輩の表情も、小春日和の陽射しのように眩く見えた。
「ちょっと待ってくれ! ただでさえ甘いのに、口の中がさらに甘くなっちゃうんだけど」
「エース、失礼なことを言うんじゃない。ニコル、シルバー、仲睦まじいのは良いけれど、間違いは起こさないように……なんてね」
「はっ、はい……」
私達を茶化したエースくんを諭したリドル先輩が、また真紅の薔薇のように上品な笑みを浮かべていた。
誰の誕生日でもない日に行われる、なんでもない日のティーパーティー。
なんでもない日だからこそ、小さな幸せをたくさん見つけられるのかもしれない。
小さな幸せを積み重ねることで、私達は大きな幸福感に満たされていくのだろう。
今日のこの日のティーパーティーにも、幸せな時間が流れている。
皆と過ごすティーパーティーは、私の学園生活の思い出の一ページを華やかに飾ってくれるだろう。