@siromisouemon
外はもう暗くなり雪が降り始めていた。
いつもより遅い時間になってしまった授業も猿渡の講師としての人気のせいか、
生徒は教室に満員状態だった。
年末最後の強化学習授業カリキュラムが終わり生徒が皆、学習塾の入っているビルから次々と退出していく。
猿渡が残っている生徒の質問に答えていると、帰ったはずの生徒がなにかただならぬ雰囲気を纏い教室に戻ってきた。
「どうした!?」
問いただすと大きな体の男がずっとビルの外に立っているという。
生徒になにか危険が及ばぬか心配していると女生徒と一部の男子生徒が少々興奮気味なことに気づく。
心做しか顔を赤らめている者もいる。
外に立っている男の風貌を聞くと口々に
「格好良かった!」
「笑顔が素敵だったよね!」
と口々に不審者の容姿を褒めそやす。
猿渡は嫌な予感がした。生徒に教室にいるよう指示して、慌てて外に出てみると、やはり見慣れた顔が猿渡に向かって笑いかけた。
「おっ前!石頭!なにしてんだ!」
思わず大声が出てしまった。生徒が一斉に教室の窓から階下にいる自分たちを見ている視線に気づき、
慌ててビルの中に石頭の巨体を引っ張り込む。
「先輩の帰ってくる時間が遅いので、危ないから迎えに来たんです」
「遅いって!まだ十時前だぞ?」
呆れた顔の猿渡を真剣に見つめ、石頭は言葉を続ける。
「先輩、こんな薄着で外に出たらダメじゃないですか、なにか羽織ってください」
「いや、誰のせいだと思ってんだ」
慌てていたせいでワイシャツに薄手のジャケットという姿で雪の降る中外に出たため、自分の身体が冷え切っていたことに猿渡は今更気づいた。
ビルの中、ロビーとはいえ外気の寒さに猿渡が身震いすると、石頭の黒いコートが猿渡の肩にかけられる。
石頭の身体に合うサイズのロングコートは細身の猿渡が羽織ると身体がすっぽりと隠れてしまった。
「いいから!お前が風邪引くだろうが!」
慌ててコートを石頭に突き返し、周りを見渡すと数名の生徒がロビーの物陰から二人を覗き見ていた。
しまったと思ったがもう時すでに遅しで、猿渡の頬が一気に紅潮する。
生徒たちと目があった石頭がにっこりと笑いかけ軽く会釈すると女生徒たちから黄色い悲鳴が上がった。
猿渡は高校時代のことを思い出し、目眩がしてくる。
石頭はよろけた猿渡の身体を手で支え、
「先輩の仕事が終わるまでここで待ってます」
猿渡に優しい笑顔で笑いかけた。石頭の空気の読めない強引な性格は十年経とうが変わらない。
「帰れぇ……」
猿渡は石頭にありったけの呪詛の籠もった声で呻いた。
「嫌です、ここで待ってますから早く帰る支度してきてください」
負けずに石頭が笑顔でやり返してくる。図太い性格には磨きがかかっているようだ。
「……家帰ったら覚えとけよ!?」
猿渡は捨て台詞を吐いて石頭から離れた。