#NL版pkmn深夜のお題交換会
クリスマス企画 お題【サンタのしょうたい】
cp : dnyu
@oboro73672367
その言葉に、ユウリは素っ頓狂な声を上げた。
「え!?サンタさんって実在しないんですか?」
悲鳴に近いその嘆きに、その場にいた全員の視線がユウリに集まった。
木枯らしが吹く、冬間近の11月。その日は、ナックルシティのパブを貸し切って、ジムリーダーの懇親会が開かれていた。チャンピオンのユウリとリーグ委員長のダンデ兄弟も招待されている。
大人組と子供組に別れて、各々のテーブルで盛り上がる。食事はあらかた終えて、宴もたけなわになった時のことだった。
「嘘…信じられない。ホントなのホップ?」
まさかの真実に衝撃を受けて涙目になるユウリ。いたいけな少女の夢を壊した犯人に非難の視線が集まった。
『ビート……。』
「なっ!何なんですか!人を悪人みたいに!」
ビートは狼狽えて立ち上がった。彼は力強く言い放つ。
「大体、18にもなってサンタクロースを信じているなんて思わないでしょう!今時、10歳の子供でもサンタの存在を信じてなんていませんよ!」
そう毒づいたビートの言葉に、ユウリの目から涙が溢れた。
「うわーん。ホップー、マリィー!ビートくんが酷いよぅ!冷たい…。」
「よしよし。ビートは酷い男やけんね。相手にしたらあかんよ。」
マリィが苦笑しながらも、優しくユウリの背を撫ぜる。
「言ってなさい。」
ビートはふんと鼻を鳴らして、ホップをぐいっと引き寄せた。
「ちょっとあなた、ユウリさんの幼馴染でしょう。」
「お、おう。」
「それなら、彼女がサンタクロースを信じてる事も知っていたのでしょう。どうして今まで真実を教えなかったのですか!こんな風に恥をかくってわかっていたでしょう!」
小声で詰め寄るビートに、ホップは真面目な顔で答えた。
「ビート、確かにいつかこんな日が来るとは思ってたんだぞ。でもな、夢見る少女みたいな幼いユウリも可愛いだろ。だからつい、指摘出来なくて…。」
申し訳なさそうに頭をかくホップの言葉に、ビートも神妙な顔で同意した。
「まぁ、確かに。気持ちはわかります。幼稚なユウリさんも可愛いですよね。」
「…阿呆が二人おるけん。」
頷きあうビートとホップへ冷たい視線を投げかけて、マリィはポツリと呟いた。
そこの未成年達、酔ってないでしょうねー。と、隣のテーブルに座るルリナも、会話を聞きつけて釘を刺す。
「酔って無いんだぞ。」
「至って真面目ですよ。」
そう答える二人に、嘆いていたユウリがゆらりと立ち上がった。
「ふふふ。二人とも聞こえていたよ。だ、れ、が、幼いロリチャンピオンだって?」
ユウリは引きつった笑みを浮かべながら、頬を赤く上気させて二人を睨めつける。
「なっ!そこまでは言ってないんだぞ。」
「本当です。被害妄想が過ぎますよ。」
慌てて二人はフォローするが、ユウリは聞く耳を持たないようだ。机の上に視線を走らせ、シュークリームのお皿を引き寄せる。
ホップとビートはユウリの意図を察して、顔を引つらせた。
「ゆ、ユウリ、落ち着くんだぞ!」
「そ、そうです。話し合いましょう。」
「うるさーい!問答無用!」
ユウリは手にしたシュークリームをホップとビートに投げつけた。
「あちゃ…。」
マリィは目の前の惨劇に、額に手を当てて首を振った。
「ユウリ、どしたの?落ち着きなって…。」
尚もシュークリーム爆撃を繰り返そうとしているユウリを止めるために立ち上がったマリィの袖を、くいっと引く者がいた。オニオンだ。オニオンは静かに、空のコップを差し出す。
「ユウリさん…お酒…の」
「飲んだの!?マジ!?こらユウリ!この、酔っぱらい!」
マリィは皆まで聴かず、ユウリからシュークリームを取り上げた。
「ふへ?マリちゃ?ろーしたの?」
よくよく見ると、ユウリの顔の赤さは怒りのせいではなく、アルコールのせいだということがわかった。動くうちに酔いは全身に回ったようで、手首まで赤くなっている。呂律も怪しい。
「どうしたじゃないでしょ。お酒なんか飲んで、こんなに酔っ払って。ホップとビート…の事はまあいいとして。」
「ちっとも良くないんだぞ。」
「止めるのがおそいですよ!全く。」
クリームだらけになって抗議をする二人を見ながらユウリはくすくす笑い、モンスターボールを手にした。
「ホップ、ビート、ばっちー。インテレオンで流してあげるー。」
「嘘でしょ!止めてください!」
冗談じゃない、と叫ぶビートに、振りかぶられるモンスターボール。しかしユウリの手は、上から伸びてきた手にそっと押し留められた。
「はいはーい。ユウリ、これ以上みんなに迷惑をかけるのは止めような。」
『キバナさん!』
頼れる大人の登場に、子供達は歓声を上げて安堵の息をついた。
キバナはへらへら笑っているユウリを上手く言いくるめて、ホップとビートから引き離す。
「ほら、ホップとビートの着替えだ。あと店と交渉して、シャワーを借りれる事になったから、全部洗い流してこい。」
「アニキ!ありがとう!」
ダンデはタオルと服を持って現れ、手際よく周りを片付けていく。
「ユウリの荷物を持ってきましたよ。彼女、早目にホテルへ送り届けた方がいいでしょう。マリィ、手伝って下さいね。」
プレゼント交換やビンゴゲームも行われたため、山のようになった荷物を抱えて、ネズも帰り支度を始める。
「助かるぜ。ユウリ、寝ちまったからな。」
仕方ないやつだ、と笑うキバナの腕の中で、ユウリはすうすうと寝息を立てていた。
「ダンデ、悪いがホテルまでユウリを抱えて行ってくれないか。あいにくオレサマ、今日手首を捻っちまってよ。ネズ、ダンデの案内と荷物は任せたぜ。」
キバナの指示に、ダンデは困惑した表情を浮かべた。
「オレか?」
「ネズには任せられないだろ。途中でへばるに決まってる。」
「ちゃんと迷わない様に案内しますから、安心してくださいな。」
キバナとネズに諭されて、ダンデはキバナからユウリを受け取った。ほのかにアルコールの香りがするユウリを見て、僅かに苦笑する。
「本当にキミはお酒に弱いんだな。これからは、気をつけてくれよ。」
ユウリの顔にかかった髪を払い、慈しむようにダンデは囁いた。その言葉は周りの喧騒に溶け込んで、誰の耳にも入らず消えていった。
そんな出来事から月日は流れ、今日はクリスマスイブ…も、終わろうとしている午後10時。
一日中シュートスタジアムのクリスマスイベントに立っていたユウリは、早目に就寝したのだろうか。彼女の部屋は暗闇に包まれていて、室内に人の動く気配はない。
そんなユウリの部屋のバルコニーに、ふわりと一匹のリザードンが舞い降りた。リザードンの背には黒ずくめの男が乗っている。男はするりとリザードンから降り、バルコニーに立った。そしてバルコニーのガラス戸に手をかけるが、扉は施錠されていて開かない。
しかし男が手を振ると、にゅぅっと緑がかったポケモンの手がガラス越しに伸びてきた。カチンと音がして、鍵が開いた。
靴を脱ぎ、物音一つ立てず男は室内に侵入する。そして、そうっと辺りを伺いながら、膨らむユウリのベットに近づいた。
その時。
パチリ。
乾いた小さな音が響き、室内に明かりが点った。暗闇に目を慣らしていた男は、刺すような光に思わず目を覆う。そんな男の腹部に手が周り、とんと何かが当たった。
「やっぱり、私のサンタクロースはダンデさんだったんですね。」
ユウリは、侵入してきたダンデの正面に抱きついた。
ユウリは、18を過ぎたあの日まで、サンタクロースの存在を心の底から信じていた。その理由は、ユウリの所に、毎年きちんとサンタクロースが訪れていたからだった。
しかしサンタクロースは実在しないという。では、毎年ユウリの元へプレゼントを届けていたのは誰だったのか。
「最初はね、キバナさんかネズさんだと思っていたんです。」
サンタクロースからのプレゼントは毎年、ユウリの欲しがっている物がきちんと選ばれていた。それを知るのはマリィとホップ、そしてキバナくらいだった。
「でも、鍵のかかった私の部屋にこっそりと忍び込むのは、二人じゃ無理かな、って思って。」
「参ったな。降参だ。ユウリくん。」
だから、離れてくれないか?困惑しながら両手を上げるダンデに、ユウリはより一層ぐいと顔を押し付けた。とくとくと速まるダンデの鼓動に、ユウリのは嬉しそうに微笑む。
「サンタさん、いつもありがとうございます。感謝の気持ちを込めて、ちょっとしたお菓子を用意したんです。逃げないで、座ってもらえますか?」
戸口との距離とユウリの力を測っていたダンデを先制するようにユウリが微笑むと、ダンデは観念して、ユウリが示した椅子に座った。
「ブッシュ・ド・ノエルか。」
「よく食べるんですか?」
「昔、ハロンタウンでな。」
ダンデは遠くを見るような眼差しで、机の上のケーキを眺める。その寂しげな瞳を見て、ユウリはダンデがサンタクロースの真似事をしていた理由がわかった気がした。
ブッシュ・ド・ノエルを切り分けて、皿に盛り付ける。紅茶と共にダンデに差し出すと、ダンデは礼を言い、大きな口でケーキを頬張った。
「美味いな。」
「お口に合ったようで何よりです。」
「ユウリくんは食べないのか?」
「歯磨き、しましたもん。」
「オレだけ食べてるのは居心地悪いぜ。」
「じゃぁ、紅茶だけ。」
ユウリが紅茶を飲み終わる頃に、ダンデはケーキを食べ終える。カチャリとカップをソーサに乗せると、ダンデはゆっくりと立ち上がった。
「今日はお招きありがとう。正体のバレたサンタはそろそろ帰るとするかな。」
そうだ、これが今年のプレゼント。そう言ってダンデは小箱を取り出した。
「着けて下さい。」
ダンデにそれとなく欲しい物を伝え、中身を知っていたユウリは左手を差し出しす。
「…恋人でも出来たのかい?」
サンタクロースからのプレゼントはシトリンの指輪だった。ダンデはユウリの薬指にぴったり合うサイズのその指輪を、そっとユウリの指にはめてやった。
「ありがとうございます。」
ユウリは愛おしそうに指輪を眺める。そんなユウリを一瞥し、ダンデは外を向いた。手に、リザードンのボールを握る。
「あ、待ってください。」
そんなダンデを追いかけて、ユウリはダンデの手を握った。
「サンタさんに、お願いがあるんです。」
「お願い?」
ダンデが振り返ると、ユウリは先程ダンデがプレゼントした物と同じ種類の小箱を差し出してきた。きちんと包装されているので、ダンデが贈ったものだとは違う物だという事がわかる。
ユウリは目を伏せて、恥ずかしそうに告げた。
「今日、私の好きな人はバトルタワーの最上階でお仕事をしてるんです。」
思ってもみなかったユウリの告白に、ダンデは目を見開き、息を飲む。
「頑張るあの人に、この指輪をプレゼントしてもらってもいいですか?」
ダンデはぎこちなく箱を受け取った。
「開けちゃだめですよ。ちゃんと渡してくださいね。」
開けなくても、ダンデには中身の予想がついた。少し前に、ユウリに薬指のサイズを聞かれた事を思い出す。
「ユウリくん。これは…キミの気持ちは…そういう事と受け取っていいのか?」
ダンデは掠れた声で問いかけた。
「ん?変な事を聞くサンタさんですね?お揃いの指輪を贈る程には好きなんですよ。その人の事。」
ユウリは華のように朗らかに笑う。そして、指輪をうっとりと見つめた。
「律儀に毎年クリスマスにプレゼントを贈ってくれていたその人も、それなりに私を好いてくれているんだと思います。」
「それは…。」
ダンデは口籠り、手の中の箱を難しい顔で見つめた。そんなダンデに、ユウリは明るく声をかける。
「さあさあ、サンタさん、そろそろお帰りの時間ですよ。いつまでもレディの部屋に居てはいけません。」
ユウリは促す様にダンデの背を押す。ダンデはそのまま外に向かいかけて、しかしその足を止めた。
「ダンデさん?」
思い詰めた顔で振り返るダンデに、ユウリは顔を強張らせて子首を傾げる。
そんなユウリにダンデはそっと小箱を差し出した。
「すまない、ユウリくん。やはり、今、これは受け取れない。」
ユウリの目が、見開かれ、潤む。それを見て、ダンデは慌てて付け足した。
「今はと言っただろう。サンタクロースはプレゼントの配送代理人ではないんだぜ。」
そう言い、ダンデはこほんと咳払いをした。
「おそらく、明日、キミの意中の人物が、花束を持って告白をしにこの部屋を訪れるだろう。だから早まらないで、その時にプレゼントを渡しなさい。」
優しく告げるダンデの言葉に、ユウリの瞳から涙が零れ落ちた。
「本当ですか!?」
「もちろん。いまからだと…10時になるかな。一緒に食事をしよう。」
「楽しみに待ってます。わぁ、最高のクリスマスです。あ、迷わないで下さいね。」
「……伝えておこう。」
神妙な顔つきになったダンデに、ユウリは声を上げて笑った。つられて、ダンデも笑った。
ダンデはバルコニーへ出た。ユウリも見送りに外へ出る。
「寒いぜ。」
「駄目。嬉しくて、ドキドキが止まらないんです。」
ダンデは器用にバルコニーの手すりの上に立った。そしてユウリを見下ろす。紫の長髪が、風にはためいた。
「今日は思わぬ招待、ありがとう。楽しかったぜ。」
「私も、素敵なプレゼントをいただきました。ありがとう、サンタさん。」
マンション最上階の風はびゅうびゅうと煩い。ユウリは口に手をあて、叫んだ。
「でも、もうサンタクロースは卒業しますね。明日、私には恋人か出来るから!来年のプレゼントは恋人にもらいます!」
ダンデは微笑むと、くるりと後ろを向く。そしてそのままたん、と手すりから飛び降りた。
ユウリが駆け寄り見下ろすと、遥か下をリザードンに乗った黒ずくめのサンタクロースが飛んでいく。
「メリー・クリスマス!」
風に乗って、声が聞こえた気がした。
♪ あわてんぼうの サンタクロース
クリスマス前に やってきた ♫
ユウリの脳裏に有名な歌のフレーズが思い浮かぶ。ユウリは楽しくなり、もう声が届かないであろうサンタクロースに大声で叫んだ。
「明日はプレゼントを忘れないで下さいね!」
サンタクロースは振り向かなかった。そしてその姿は、クリスマスのイルミネーションに輝くバトルタワーへと消えていった。