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1:パドヴァ大学への挑戦状

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2021-01-23 21:58:45

ガリレオ創作の第一部。所々史実と異なる点がありますので、ご了承下さい。

青年は板に書かれていく数字を見て、ため息をこぼした。
周りの人物は熱心に、手元にある教科書と板に書かれていく数字が一致していくのを追いかけているが、青年には彼等の行動と目の前で起こっていることがつまらないようで、欠伸まで出ている。
板に数字を書く音が止まった。
「こら、ガリレイ君。教科書は見てる?」
しまった、今は数学の授業中だ。
青年ガリレオ・ガリレイは急いで教科書を取り出し、隣の席に座る生徒と同じページを開く。
しかしすぐに顔は歪み、再びため息をつく羽目になった。
「先生、数学はつまらない。簡単な足算や引算は良いけど、計算式のない数学は一体何の意味があるんですか。覚えるだけでは退屈だ」
「意味はちゃんと有ります。アリストテレスがお決めになったことは全て正しいんです」
狭苦しい教室の中に、多くの生徒の笑い声が響いた。
ガリレイは恥ずかしい思いをするが、心の中では複雑の文字が渦巻き、教科書と生徒達を困った顔で見返すことしかできない。
何故なら今彼が受けている数学の授業は、今で言う証明の授業だが、AはBである。理由はアリストテレスが決めたから。などという頓珍漢な内容だからだ。
ただの覚え授業に理解など必要ない、彼はそう考えて、数学をつまらないと言っている。
『大学に入ってから、神学と医学、哲学を学ばされているが、医学のために数学を勉強しようとしても身につかないな。哲学はまだ良いが、コレだけつまらないと父さんに申し訳ない』
ようやく数学の授業が終わると、ガリレイは逃げるように教室から出ていった。
しかし家に帰っても、数学の授業と同じくらいつまらない、父親の説教が待っている。
「いい加減にしないか、ガリレオ。数学の真面目に授業を受けて、医学に励みなさい」
17歳の青年には、何もかもが嫌味だ。
父親は有名なリュート演奏者だが、母親1人に子供3人を養っているにも関わらず、収入はさほど多くない。
長男であるガリレイに大黒柱になってもらおうと考え、彼に医者になるよう説教するのだ。
ガリレイはいつも適当な返事をしたが、医者になる以外の将来を考えていない彼にとっては、一つの進路としていつも頭の片隅に置かれている。
だが転機が訪れた。
彼が医学を学ぶためにピサ大学へ進学した頃、数学の面白さを教えてくれる教員、リッチと彼は出会うこととなる。
リッチはガリレイが苦手とするところをカバーし、『何でも試してみる』ことを教えてくれた。
数学の解き方と面白さを知った彼は、医学そっちのけで数学を学び、授業妨害と他の生徒に嫌味を言われるほど授業で積極的に質問をするようになったという。
見る見るうちに数学の点数が伸びていく姿を見たリッチは、彼には数学の才能があると見抜き、彼の父親に数学を専攻するよう説得をした。
だが父親は頑なに拒み、数学をこのまま専攻し続ければ退学までさせると脅したのだ。
「勉強を怠ってるわけではないのに、つまらない父親だね。弟はリュート演奏者を夢見てるというのに、私を自由にさせたくないらしい。奴を驚かせるようなものがあれば良いのだが…」

数学において右に出るものが居なくなったガリレイは、ふと数学を教えてくれたリッチのことを思い出す。
『何でも試してみる』の一言が頭を過り、彼は教科書に記載されていることが正しいのか、実際に道具を用いて試し始めた。
教科書に載っていることは全てである。
古代ローマ人であるアリストテレスが考えた事柄は、彼の生きていた時代では教科書であり、聖書であった。
神が説いた本に偽りはない。
昔からアリストテレスの思想は神の言葉として扱われ、思想はもちろん自然哲学でさえアリストテレスの言葉が全てであった。
だからアリストテレスの思想を『確かめる』行為は誰もしなかったし、誰も思いつきもしない。
生まれた時から『決まっていることに疑問を持たない』のと同じく、人々は疑うどころか何も思わず、アリストテレスの思想を受け入れていた。
しかしガリレイは教科書に記されたことを疑い、試し出したのだ。
更にあろうことか幾何学の楽しさに魅入られ、全てのエネルギーを数学に注ぎ込み出したのである。
彼の熱意に圧倒されたリッチは、もう一度彼の父親に説得を試みた。
「お父さん、残念ながらガリレイ君は医学的な着想に乏しく、医者になっても大した稼ぎは出来ないでしょう。医者の給料は数学者より大変良いものですが、彼には数学者として稼げる未来があります。その未来に賭けてはみませんか?」
父親は嘆いたが、もう一年だけ学ぶことを許し、息子の行末を見守ることにした。
ガリレイはリッチの後押しに心から感謝し、好きなだけ数学に時間を使おうと天に誓う。
その成果はすぐに現れ、数学の成績が劇的に伸び、彼は学位を取り終わる前に大学を卒業した。
更には数学の教員としてピサ大学に迎え入れられることとなり、授業と空き時間の二つで数学に没頭する時間を得たのである。
空き時間にはアリストテレスの思想に対し、新たに学んだアルキメデスの手法を用いて挑み始めた。
すると面白いことに、アリストテレスの思想に沢山の間違いが見つかってしまったのだ。
特に物体の動きについては確かめれば確かめるほどボロが出てきて、重なる実験から『落下の法則』や『振り子の等時性』の二つを発見したのである。
「素晴らしいじゃないか、ガリレオ!リッチ先生は本当に見る目があるお方だった。息子を信じてやれなかった父を許してくれ」
「良いんだ。父さんや母さんに面倒を掛けていることは確かであるし、家のことを任せっきりですまないと思っているよ。けれどこのまま、私に数学の道を極めさせてはくれないか」
「勿論だとも。立派な数学者になっておくれ」

親子の間にあった亀裂がなくなったことにより、ガリレイは更に数学に磨きをかけるため、今の倍以上稼げる場所を探し始める。
彼は現在、生まれた場所であるピサに住んでおり、実家はフィレンツェに移っていた。
ピサとフィレンツェは『トスカーナ』と呼ばれる領土にあり、当時のイタリアはいくつかの領土に別れていた上に、領土ごとに学問の広さも違っていたという。
トスカーナは貴族であり、資金家であるメディチ家が支配していたおかげで幾分自由な思想を持っていられたが、アリストテレスの思想が弱いヴェネツィア共和国の自由さには敵わなかった。
其処でガリレイはヴェネツィア共和国内にある、パドヴァ大学の数学教員になろうと考えたのだ。
推薦状は勿論、リッチに依頼。リッチはトスカーナ大公のお抱え数学教員でもあったことから、今の収入の倍の金額を得られる保証付きでパドヴァ大学への転職が決まったのである。
「ありがとうございます、リッチ先生。パドヴァならばアリストテレスに対して批判的でもさほど害はないでしょう」
「気をつけてくれガリレイ君。あまり敵を作りすぎると大変な目に合うかもしれない」
「大丈夫。数学の素晴らしさを広めて参ります」
『落下の法則』や『振り子の等時性』の二つの文献をぶら下げ、ガリレイはパドヴァ大学へと向かった。
ヴェネツィア共和国内にあるパドヴァにたどり着くと、学問の広さと寛大さに早速圧倒されることになる。
特にヴェネツィア市内には神聖ローマ皇帝からかき集められた多種多様の文献が並び、中にはアリストテレスの思想に批判的な文献も存在した。
一際ガリレイの心を掴んだのは、ポーランドの司教であるニコラウス・コペルニクスが執筆した『天球の回転について』。
地球中心説を説くアリストテレスに対し、コペルニクスの本では太陽中心説を説いていたのだ。
「何だこの本は…。アリストテレスがいくら間違っているとはいえ、太陽を中心に地球が回っているなんて考えられないな。だがもし本当だったら…?」
確かめる術を持っていなかったガリレイは、その本を興味本位で購入し、コペルニクスが名付けた『地動説』について考えるようになっていった。

ピサに移ってから間も無くして、父親が亡くなったという知らせが届いた。
残された家族を養う金と、妹の結婚にかかる費用を稼ぐため、数学の指導だけではすぐに物足りなくなる。
最初は授業のコマ数を増やすために、授業の中に『物事を試す』ことを取り入れてみると、瞬く間に彼の授業は人気となった。
『落下の法則』や『振り子の等時性』も少ない数だが本にして売り出してみると、物珍しさに買っていく人が少しいたという。
だがまだ資金不足に悩まされるガリレイは、副業に手を出し始めた。
物を作り、売るという副業。
ここで彼は、彼の人生を変える物と出会うこととなる。


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