友達への誕プレに書きました
出会いを妄想
@aburami_b
初めて見たキム・ヨンスは“私”と合わせ鏡のように酷似していながら、輝きのない木偶だった。まるでハン・ジュンギのゾンビを見ているような気分、とでも言おうか。生命を感じさせない、うろのような目だった。
「どうか愚息を影武者としてお使いください」
実の父の口から出たとは思えぬ息子への情などカケラも残さぬ言葉にも、その目は色を変えることなくただ虚無だった。絶望する余地すらないほど、元より大事にはされず、一度も愛を受ける事なく育ってきたんだろう。
ハン・ジュンギの継承システムなど知らぬであろう底辺のゴロツキが、無い知恵を絞って私に取り入る方法がたまたまこれだったのだろうと思うと、皮肉でしかなかった。それから、損得勘定の為に息子を道具にする愚かな父親への呆れ。差し出された人形への憐憫。その場に相応しい表情を繕うには、苦笑以外に無かった。
「悪くない案だ」
それは本音だった。
運命だとすら感じた。
次のハン・ジュンギを育てる。その時が来たのだろう。
「さあ、今日からここが君の家だ。あがってくれたまえ、遠慮せずに」
いくつかある自宅のうちの一つ、新宿の一角にあるマンションの一室にヨンスを迎え入れた。
ここには私にとって必要最低限の家具、家電しかなく一切の無駄を排除していた。テレビは最もいらないモノだった。打ちっぱなしのコンクリートの内壁の20畳あるリビングには、アイアンウッドのソファとローテーブルのみ。生活感はなく、硬質なほどに広々としている。
部屋というものは、己を映す鏡だ。美しく整った部屋で暮らしてこそ、自身の美しさも保てるというもの。逆もまた然りだろう。
一言も言葉を発さず、ここまでぴったりと私の後ろをついてきたヨンスは、初めて目線だけをあげて部屋の中を見渡していた。
父親を見れば想像に難くないが、ロクな生活を送ってこなかったはずだ。自分が暮らしてきたあばら家と比べてなのか、ここへきて初めてヨンスに微かな表情の変化が見られた。それはほんの少しの、驚きだ。
「……よろしくお願いします」
声に覇気はない。
それも仕方の無いことだろう。
勝手に顔を弄られ、マフィアのボスの影武者となれ、などと、にわかに受け入れられるわけもない。それでもこの子が私の元に来るのを拒まなかったのは、他に行き場がなかったからだ。
可哀想に……哀れなヨンス。コンクリートのたたきに靴底が張りついたように動かない。ひどく場違いな場所で、その一歩を自らの意思で踏み出す勇気がないんだろう。
「もう一度言うよ。今日からここが、君の家だ。私はずっと弟が欲しいと思っていたんだ。おかしいと思うかもしれないが……」
私と全く同じように長さを揃え、色を入れた髪をそっと撫でた。そのままゆっくり頬へ下ろすと、ひくりと震えた。滑らかな手触りだ。思いのほかあたたかい。土台は変わっても、この熱は君のものだろう。
ヨンスの瞳に狼狽が見えた。
何も取って食いはしないよ。大丈夫。私は顔の表面をつとめて優しい笑みで飾った。
「私は嬉しいんだ、双子の弟ができたようで。仲良くしてくれるね?」
小さく頷いて見せて、そして恐れるように、視線は足元に落ちてしまった。
手に取るようにわかるよ、ヨンス。
家族に恵まれなかった君。
必要とされなかった君。
居場所のない君。
愛を知らない君。
与えてあげようじゃないか、目いっぱい。
君の知らない、それでいて心の奥底で渇望してやまないであろう全てのものを、たっぷりと注いで、満たしてあげよう。大げさな程にね。私にはそれができる。不安や恐怖など感じさせる暇もなく、与えて、与えて、君の心をたっぷりと太らせて、何に従い生きるべきか、考えなくてもわかるようになる。実に造作もないことだ。
君を完ぺきな次のハン・ジュンギに仕上げる為に。
強いずとも自らハン・ジュンギでありたいと望むように。
今日から私は君の主となり、兄となろう。