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[次郎P♀]銀とピンク

全体公開 1 1721文字
2021-01-28 12:32:02

「でも、青春ってなんか、夕暮れのイメージありませんか?」
「んー……まあ、言われてみればそうかもねえ」

じろちゃんとPさんと夕暮れと青春のお話です。

Posted by @toasdm

 アオハルって書くくらいなんだから青じゃないの?と首を捻った次郎を見て、まあそうなんですけど、と彼女は再び空を見上げる。ビル群が直線で切り抜いた都会の空は、夕暮れのオレンジが昼の青を、じわじわと西へ押し出していた。
「でも、青春ってなんか、夕暮れのイメージありませんか?」
「んー……まあ、言われてみればそうかもねえ」
 のほほんと間延びした口調でそう答えながら、次郎はアイドルになる前の自分を思い出していた。
 それは、思いつく限りでは最も青春に近い場所にいる社会人の姿だった。学校という箱庭の中で悩み、努力し、成長していく学生たちの姿は、青臭くてやっていられない、ということはなかったが、青臭かった。
「学生時代の青春って、全部放課後にあると思うんですよ」
「なるほどねぇ……そりゃそうだ」
「部活とか、学校帰りに寄り道とか、おしゃべりとか」
 彼女の通ってきた青春の一部を垣間見た気がして、次郎はへらりと目尻を下げて笑う。あんたそんなことしてたんだ、と屋上の柵に頬杖をついて見下ろして、次郎は彼女の横顔に、若かりし頃の光を見た気がした。
「だから、夕暮れよりも少し前、ちょうどこのくらいの時間帯の空って、青春の色って気がするんですよ」
「ふぅん……
 言われてみれば合点がいく。青春は放課後で、放課後は夕暮れ色だ。夕暮れ色に染まった彼女の青春は、そのほとんどが放課後にあったのだろう。では自分はどうか?と振り返ってみたが、おしなべて同じ色彩のように感じられた。むしろ色彩はなく、グレーのようにすら感じられて、口の中に何やら苦い味が広がるようだった。
 浮いた話ひとつない、という青春ではなかったが、それなりに苦労をしたという記憶の方が大きい気がして、彼女のように振り返って、あんな顔ができるような御大層なものではなかった。さりとて、青春は灰色だよ、などと答えるのは気が引けて、次郎はにやりと笑って彼女を見て言った。
「彼氏と手繋いで帰ったりとか?」
「かっ……!?」
 夕焼けお日さんがあんたのほっぺに移動した、とからかいそうになりながら、ボッ!と音でも立てそうなほどに真っ赤になった彼女の顔を見て笑う。それだけで、思い出した苦い青春でトーンを落としていた灰色の心が、薄鼠色くらいにまで明るくなる気がして次郎の肩から力が抜けた。
「いませんよそんなの!」
「あーらら、青春っていえば恋……とかしちゃったんじゃないの?」
「そりゃ、まあ……好きな人の一人や二人は……
「二人も?」
「一人だけです!!」
 浮気性だ、と夕焼けを落とし込んだ真っ赤な頬をつつけば、慌てて否定してくる彼女の学生時代がどんなものだったのか、次郎は俄然興味が湧いてくる。が。
「そういう次郎さんはどうなんですか?」
「んー?」
 矛先は当然、こちらへ向く。さてどうごまかそうかねえ、と遠くの夕焼け空をぼんやりと見つめて、次郎は青春を引っ張り出してきた。
「青春ねぇ……
 学生時代が青春だと、胸を張って言えるような気はしなかった。あの頃よりも、教師やってた頃よりも、今の方が断然楽しいから――まで考えて、次郎は、はっ、と顔を上げた。
「次郎さん?」
「青春……おじさんの青春は」
 仲間と共に、努力をして、達成感を味わって、躍進していく――悩み、努力し、成長していくあの学生たちの姿と、今のアイドルとしての自分の姿には、あまり差がないように感じられて、次郎の中で、何か納得のいくような感覚が像を結んでいった。
「そうだねえ……
 何このアルミホイル、とギンギラギンな銀の衣装を手渡されて面食らった日から、今までを振り返れば、それは立派な青春だ。そうか、そうかも、とうんうんうなずいて、次郎は目尻を下げて彼女に告げた。

「おじさんの青春、銀色かも――なんつって」

 銀色ですか?と見上げた彼女の瞳に映る、次郎の表情はいつもより、少し幼いような気がした。気の所為かな、と首をひねった彼女から逸した次郎の瞳には、夕暮れの紅と昼の青とが絶妙に混ざりあった、彼らのユニットカラーのような色が映り込んでいた。

 山下次郎の青春は、銀とピンクでできた「今」だった。


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