深海のSiren〜Magia Notes Part.9〜

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2021-01-31 22:53:15

今宵、私は歌で人々を魅了する海の妖精となる。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第9話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり

Posted by @natsu_luv

ウインターホリデーが明け、明るくて賑やかな学園生活が再び始まった。
ホリデー中は学園の暖炉番を務めながら、グリムとゴーストさんたちと穏やかな日常を過ごしていた。
火の妖精さんともお友達になれたし、思っていた以上に寂しくはなかった。
だけど、ひとりの時間が長いと誰かと一緒に過ごす時間が恋しくなってくる。
学園生活が始まってすぐに、私はシルバー先輩をオンボロ寮に招いた。
久しぶりにシルバー先輩とお話するだけで、私の心は軽快なリズムを刻むように弾んでいる。

「ニコルたちが元気でいて良かった」
「シルバー先輩たちも素敵なホリデーを過ごされていたみたいで良かったです」
「今日の紅茶とお菓子も美味いな」
「ありがとうございます。購買部で安く売ってたんですよ」

今日の紅茶とお菓子は、コクのあるアッサムのミルクティーとガレット・デ・ロワ。
さっくりとしたパイ生地の中にアーモンドクリームが入ったガレット・デ・ロワは、年初めの時期に食べられるポピュラーな焼き菓子だ。
今年も素敵な一年になりますように、そんな願いがこのお菓子に込められているように思える。
今日のこの日も穏やかに時間が過ぎていくかと思っていたその時、呼び鈴が突然鳴った。

「ちょっと玄関を見てきますね」
「あぁ、わかった」

一体誰がオンボロ寮を訪ねてきたのだろうか。
ふと疑問に思いながらも、私は恐るおそる玄関の扉を開けた。
視界に入ったのは、優しい笑顔で今にも取り立てを始めようとする面々。
思いがけない来客に、私はたじろいでしまった。

「えっ、アズール先輩!? ジェイド先輩とフロイド先輩まで……!」
「ニコルさん、突然の訪問で申し訳ございません」
「ニコル、一体誰が来たんだ……アズール!?」
「あぁ、シルバーさん! ちょうど良かった。僕らの話を聞いていただけますか?」

玄関で立ち話も気が引けるので、私はアズール先輩たちを談話室へと招いた。
ちょうど余っていたガレット・デ・ロワを切り分け、人数分の紅茶も淹れた。
紅茶とお菓子を出した時、アズール先輩たちの目がきらりと輝いた。

「せっかくなので、紅茶とお菓子も召し上がってください」
「お茶菓子まで……! ありがとうございます!」
「では、お言葉に甘えて」
「いただきま〜す」

ジェイド先輩は上機嫌で紅茶を飲んでいて、フロイド先輩は特徴的な垂れ目を細めながらお菓子を食べている。
こういった姿を見ていると、普段は恐れられがちな双子の先輩方も可愛らしく思えてくる。
アズール先輩が私とシルバー先輩に企画書を手渡した。
さっそく、アズール先輩が企画書を片手に説明を始めた。

「あなた方にモストロ・ラウンジでのイベントに出演していただきたいのです」
「私達に……ですか?」
「ニコルはわかるが、なぜ俺まで……?」
「あなた方の人気はこの学園内では絶大だ。きっと、モストロ・ラウンジの客席もあっという間に埋めてしまうことでしょう」

アズール先輩の話によると、二週間後の土曜日にモストロ・ラウンジでウインターホリデー明けのスペシャルデーという名目のイベントを行うらしい。
そこで、私とシルバー先輩に各テーブルを廻って給仕のサービスをしてほしいという。
さらに、モストロ・ラウンジに特設ステージを設けて、私にはそこで何曲か歌ってほしいとのことだ。

「ニコルさんに歌って頂きたい楽曲は、こちらで用意させていただきました。譜面と音源をお渡ししておきます」
「あっ、はい」

ジェイド先輩が私に譜面が入ったクリアファイルと音源が入ったCDを手渡した。
一方で、シルバー先輩とグリムはオクタヴィネルの人たちに対して何処か懐疑的な様子を見せていた。

「シルバーさん、マレウスさんには僕が直接お話ししておきましょう」
「マレウス様から許可が下りるかどうかはわからないが、お前がそうしたいのならそうするといい」
「対価はちゃんとお支払いいたしますので、そこは安心してください」
「本当なんだゾ? ツナ缶たくさん欲しいんだゾ!」
「本当だよ、アザラシちゃん。オレたちが嘘つくわけないじゃん」

グリムの訴えに対して、フロイド先輩がにっこりと微笑んでそう言った。
とりあえず、今日のところはツノ太郎さんの許可待ちという形で話が終わった。
オクタヴィネルの人たちを玄関先まで送った後、私とシルバー先輩はもう一度企画書に目を通した。
リクエストされた楽曲はどれも歌ったことのないものだし、飲食店での給仕も初めてだ。
だけど、決して不可能な依頼ではない。
しばらくして、シルバー先輩も寮へ戻った。
私は宿題を片付けて、夕食の支度を始めた。
グリムと一緒に食卓を囲んでいた時、シルバー先輩からツノ太郎さんから許可を得たという連絡が入った。
次の日から怒涛の日々が始まるとは、この時点では思ってもみなかった。



モストロ・ラウンジでのスペシャルイベント出演とヘルプを引き受けた私は、用意された楽曲の練習に励んでいた。
それだけではなく、購買部でのアルバイトと軽音部での活動も並行して続けている。
アズール先輩からの依頼を受けた次の日に、音源に合わせて歌ってみたのはよかったけれど、グリムやゴーストさんたちからあまり良い反応を貰えなかった。
昼休み中にふと、そのことが頭をよぎった。
私はエースくんたちにモストロ・ラウンジのイベントに出ることを話した。

「えっ、マジで!?」
「本当だよ。でも、用意された楽曲が難しくて困ってるんだ」
「僕らは歌に関しては素人だからな……
「ねぇ、ニコルサン。ポムフィオーレのボールルームで練習してみない?」

私の話を黙って聞いていたエペルくんがそう提案してくれた。
ヴィル先輩やルーク先輩に話をしてくれるとまで言ってくれた。
ポムフィオーレのボールルームに伺うのは初めてだ。
今まで歌ったことのない楽曲に苦戦している私に、そっと光が射すかもしれない。
一縷の希望を抱いて、私はエペルくんからの連絡を待つことにした。
こうして、昼休みの時間はあっという間に過ぎていった。

授業が終わった後、スマホを確認するとエペルくんからメッセージが届いていた。
ヴィル先輩からの許可が下りたので、イベント本番までボールルームを自由に使っていいとのことだった。
今日は部活も購買部でのアルバイトも無いから、さっそくエペルくんにポムフィオーレのボールルームへと案内してもらうことにした。
鏡舎の前でエペルくんと待ち合わせをして、鏡でポムフィオーレ寮までひとっ飛び。
たどり着いた先には、清廉な白を纏った外壁と高貴な紫の屋根が印象的な絢爛豪華な城がそびえ立っていた。
美しき女王の奮励の精神を讃えたポムフィオーレ寮の姿だ。

「待っていたよ! ボールルームに行くんだね。私もお供するよ」
「はい、ルーク先輩」

門の前でルーク先輩が輝かしい笑顔で出迎えてくれた。
ルーク先輩とエペルくんの後について行き、私はポムフィオーレ寮のボールルームに足を踏み入れた。
鏡貼りの壁とぴかぴかのフローリングの床に光が反射して、部屋全体に星が散りばめられたように見える。
鏡の前にいらっしゃったヴィル先輩が、私達の姿を捉えたようだ。
自ら歩み寄ってきて、私達に声を掛けてきた。

「ポムフィオーレのボールルームへようこそ。歓迎するわ」
「ありがとうございます。よろしくお願いします!」
「さて、音源と譜面はどこにあるのかしら?」
「こちらです」

私は音源の入ったCDと譜面の入ったクリアファイルをヴィル先輩に手渡した。
さっそく歌ってみせてほしいと言われ、私は流れてくる音に合わせて、オクタヴィネルの人たちにリクエストされた楽曲を全て歌い上げた。
一番最初に歌った時よりかは、少しはマシに歌えているはず。
そう思い、ヴィル先輩の感想を待っていた。

「全然ダメ」
「うっ……
「アンタの歌声は綺麗なのよ。だけど、この楽曲に全然合ってないわ!」

単刀直入に告げられ、私の心に稲妻が走った。
R&Bやジャズのテイストが入ったロックナンバーはまだリズム感さえ身に付ければ上手く仕上がるらしい。
だけど、失恋をテーマにした歌謡ロックは驚くほど下手だとヴィル先輩は言っていた。
魂だけの存在だった私には失恋の経験が無い。
そのことが歌声に如実に出てしまったのだろう。

「アズールも随分と無茶な要求をしてきたのね。この歌は失恋した女がやさぐれた気持ち抱きながらも、昔の男にサヨナラを告げる歌よ。アンタには早すぎるんじゃない?」
「そう……ですよね……
「だけど、アタシの手にかかれば容易いわ。本番までにきっちり仕上げるから覚悟なさい!」
「はっ、はい!」

ヴィル先輩は自信に満ち溢れた声で私にそう言った。
同席していたルーク先輩とエペルくんも、ヴィル先輩の言葉と姿に圧倒されていた。
今日のこの日から厳しいレッスンが幕を開けた。
こうして私は、音合わせから歌詞解釈と演技指導、ボイストレーニングまで、短い期間の中に凝縮されたレッスン漬けの日々を送ることになった。

モストロ・ラウンジのイベント本番まで、私は普段の学園生活の合間に過酷なレッスンを着々とこなしていた。
さらに、シルバー先輩と一緒にモストロ・ラウンジ内での衣装合わせや現場研修まで受けることとなった。
レッスンが終わって、ポムフィオーレ寮のボールルームを後にした時、疲れがどっと出てへたり込んでしまった。
その時、ルーク先輩が煌びやかなオーラを纏いながら私の前に現れた。

「お疲れ様。レッスンに励む姿も美しいね」
「ルーク先輩、ありがとうございます」
「キミはまだ愛らしい歌声を響かせるマーメイドの子供のようだね。ヴィルの言うように、あの楽曲に見合った妖艶さを身に付けることが必要だ」
「そうですね。もっと頑張らないと」
「キミなら出来るさ。深海のセイレーンとなって、モストロ・ラウンジで艶やかな歌声で人々を魅了する姿を見ることを楽しみにしているよ」
「はい!」

ルーク先輩からの激励を受けて、私は再び背筋を伸ばした。
オンボロ寮に戻った後は、夕食と寝支度を済ませて、ゆっくりと身体を休めることに専念した。
翌日以降もレッスン漬けの忙しい日々が続いたけれど、段々と上手く歌えるようになってきた。
始めはいまひとつの反応を見せていたグリムとゴーストさんも、次第に私を褒めてくれるようになった。
モストロ・ラウンジでのスペシャルイベント本番の日が刻一刻と迫ってきている。
私は本番まで目まぐるしい日々を駆け抜けていった。



モストロ・ラウンジでのスペシャルイベント本番の日。
私はシルバー先輩と鏡舎の前で待ち合わせをして、オクタヴィネル寮へと飛んでいった。
地に足が降り立った時、真っ先に視界に入り込んできたのは海の碧色だった。
アクアマリンの中にラベンダー色の巻貝を模した建物がそびえ立っている。
この建物こそ、海の魔女の慈悲の精神を讃えたオクタヴィネル寮である。
入り口の前で待っていたジェイド先輩に連れられ、私達はモストロ・ラウンジのVIPルームへと通された。

「シルバーさん、ニコルさん、お待ちしておりました! 今日が待ちに待ったイベント本番です。お二人のご活躍、期待してますよ」
「よろしくお願いします」

VIPルームにはアズール先輩とフロイド先輩がいらっしゃった。
私達の姿を捉えたアズール先輩は、満面の笑みで歓迎の言葉を掛けてくれた。
今回のイベントのチケットは完売、座席も満席となっているようだ。
今はまだ開店準備中で、きちんと準備が整ったら観客を動員するという。

「さて、お二人には先日衣装合わせさせていただいたユニフォームに着替えていただきます」
「シルバーさん、更衣室はこちらです」
「小エビちゃんはこっちね」

シルバー先輩はジェイド先輩に、私はフロイド先輩に更衣室へと案内された。
私の更衣室はこの日のためにわざわざ用意してくれたそうだ。
着慣れないマーメイドスカートのスーツを身にまとい、ハットを被ればモストロ・ラウンジ唯一の女性店員に変身だ。
更衣室を出ると、既に着替えを済ませていたシルバー先輩が待っていた。
シルバー先輩と合流して、私はアズール先輩たちの待つモストロ・ラウンジのホールへと向かった。
モストロ・ラウンジのホールはお洒落なバーのような内装で、BGMのジャズ調の楽曲がさらに大人びた雰囲気を演出している。
天井にはクラゲを模したシャンデリアが下がっていて、大きな窓からは珊瑚の海が見える。
ここが私の今日のステージだ。

「シルバーさん、ニコルさん、もうすぐ開店です。お客様たちをお迎えしましょう」
「はい!」
「それでは、扉を開けますね」
「モストロ・ラウンジの開店だよ〜」

扉が開かれると、続々とお客さんたちが入ってきた。
最初のお客さんはエースくんとデュースくん、ジャックくんとエペルくん。
二人は私の今日の衣装を見た瞬間、目を丸くしていた。
後ろにいたジャックくんとエペルくんも、エースくんたちにつられて驚いた表情を見せていた。

「今日のニコル、めちゃくちゃお洒落じゃん!」
「綺麗だな……。ちょっとドキッとしたぞ」
……よく似合ってると思うぜ」
「ニコルサン、今日のステージも楽しみにしてるね」
「ありがとう! さぁ、お席はこちらだよ」

私はエースくんたちを席に案内し、揺りかごの中で寝ているグリムを預けた。
次のお客さんはヴィル先輩とルーク先輩。
特訓の成果をお見せするために、彼らも特別に招待したのだ。
同じく私が招待したカリム先輩とケイト先輩もやって来て、私に激励の言葉をかけてくれた。
その後も次々とお客さんがやって来て、いよいよ最後のお客さんの登場だ。
ツノ太郎さん率いるディアソムニアの人たちが姿を現した途端、モストロ・ラウンジ中がざわめいた。

「シルバー、ニコル、招待してくれて感謝するぞ!」
「人間、なかなか様になってるじゃないか!!」
「リリア先輩! セベクくんもありがとう」
「マレウス様、本日はお越しいただきありがとうございます」

シルバー先輩がツノ太郎さんに一礼した。
ざわめきはまだ収まらない。
いつもは余裕のある素振りを見せるアズール先輩たちの顔も若干引きつっている。
見かねたツノ太郎さんが子供のように拗ねた表情を浮かべて、私達が手渡したチケットを客席に向かって掲げた。

「失礼な奴等め。ちゃんと招待状も貰っているぞ」
「本当だ……
「ツノ太郎さんたちもお席に案内しますね」
「ありがとう、ヒトの子よ」

さっきまで拗ね顔だったツノ太郎さんに、また穏やかさが戻った。
こうして、今日の観客全員が着席した。
次は各テーブルに料理とドリンクを運んでいく。
私達は手分けして、豪勢な料理のお皿をお客さんたちのいるテーブルへと届けていった。
今日のメニューは特別仕様で、以前に私達も試食させてもらった料理が揃っている。
シーザーサラダ、きのこのオムレツ、カニのフリッター、フィレステーキ、タコと彩り野菜のピラフ。
どれもモストロ・ラウンジの店員たちが腕によりをかけたメニューだ。

「さて、次はシルバーさんとニコルさんのカップルによるシャンメリーのサービスです」

アズール先輩の合図で、私とシルバー先輩は各テーブルにシャンメリーを注ぎに廻った。
お客さんたちのいるテーブルに、次々と笑顔の花が咲いていく。
全てのテーブルを廻り終わった後、アズール先輩が特設ステージの壇上へと上がった。

「本日はお越しいただき、誠にありがとうございます。今宵は皆さんで楽しみましょう、乾杯!」
「乾杯!」

乾杯の音頭が取られ、スペシャルイベントの幕が上がった。
私はシルバー先輩と一緒にテーブルを廻り、お客さんたちに挨拶をしていった。
中には私達のために必死でチケットを取ったお客さんもいて、その人は感動のあまりに泣きそうになっていた。
グリーティングが終わった後は給仕のお手伝いだ。
オーダーが入ったテーブルへドリンクを運んで、空になったお皿をキッチンへと持って行く。
単純でありながらも大変な仕事だ。
時計の針が特設ステージでのライブの開始時間を指そうとしている。
ジェイド先輩が合図を出して、そろそろステージに立つ時間だと教えてくれた。

「それでは、歌ってきますね」
「ニコル、お前なら出来ると信じている」
「シルバー先輩、ありがとうございます」
「シルバーさん、ニコルさんをステージへとエスコートしてください」
「わかった」

シルバー先輩にそっと手を引かれ、私はステージへと足を進めた。
お洒落な雰囲気のライブハウスのような会場で歌うのは初めてだから、余計に緊張してしまう。
だけど、私なら大丈夫。
シルバー先輩たちが見守ってくれている。
ステージの壇上へと上がり、マイクを手に取った。
今宵、私はこのモストロ・ラウンジで深海のセイレーンとなるのだ。



一曲目のイントロが流れ出した。
しっとりとしたピアノのメロディが会場内に響く。
夜空を羽ばたく蝶をテーマにした歌詞を丁寧に歌い上げていく。
R&B調のロックバラードを歌うのは初めてだったけれど、この曲は比較的早めにマスターできた楽曲だ。
希望を抱いて空へと羽ばたいていく蝶の姿を浮かべながら、最後まで歌いきった。
ひと息ついた後、私は観客たちに挨拶をした。

「本日はお越しいただき、ありがとうございます。最後まで楽しんで頂けると嬉しいです」
「ニコル、次の歌も楽しみにしてるぜ!」
「応援してるよ、ニコルちゃん!」

カリム先輩とケイト先輩が明るい声色で応えてくれた。
笑顔で手を振り返した後、私は次の楽曲を歌う準備をした。
次はジャズ調のロックナンバーだ。
テンポの良いアルトサックスとギターのサウンドが鳴り響く。
強気で貪欲な女性が自分の欲しいものを次々と手に入れていくストーリーの歌詞が小気味良いメロディに乗っている。
ジャズ特有のリズムに合わせて、私は声高らかに歌い上げた。
無事に歌い終えて、私はワイングラスに入った水をひと口飲んだ。

「次が最後の曲です。聞いてください」
「ニコル、美しさはパワーよ」
「私も見守っているよ」

ヴィル先輩とルーク先輩に励まされ、私はいよいよ最難関だった楽曲に臨む。
イントロが始まれば、私は失恋してやさぐれた女になる。
愛しい男にサヨナラを告げる女になるのだ。
ヴィル先輩に叩き込まれて身に付けた艶やかな声で、歌詞に描かれた物語を歌い上げていく。
全ての歌詞を歌いきって、アウトロも流れて曲が終わった。
すると、モストロ・ラウンジ中に拍手の音が響き渡った。

「素晴らしい! このイベントを企画して大正解でした!」
「小エビちゃん、お疲れ様〜!」
「お見事です」

アズール先輩たちが賞賛の言葉を私にかけてくれた。
私は再びシルバー先輩の手を取り、各テーブルを廻った。
たくさんの絶賛の声を浴びながら、私は観客たちに歌を聞いてくれたお礼をした。
ヴィル先輩とルーク先輩のいらっしゃるテーブルまでたどり着いた。
私はさっそく今日の本番の感想を伺った。

「トレビアン! キミの美しい歌声に私も魅了されてしまったよ」
「ありがとうございます。ヴィル先輩とルーク先輩のおかげです」
「あら、アタシはあくまで手を貸しただけよ。ライブが成功したのは、アンタの実力のおかげよ。よくやったわね」
「はい!」

ヴィル先輩が優しくありながらも凛とした声で、私に労いの言葉をかけてくれた。
ルーク先輩も満面の笑みで私の歌を絶賛してくれた。
イベントが始まってから珍しく大人しく席に座っていたグリムが、私達の方へと駆け寄ってきた。
今からツナ缶富豪になることを楽しみにしているらしい。

「ニコル、よくやったんだゾ! ツナ缶たくさん貰うんだゾ!」
「グリム、ありがとう」

グリムがぎゅっと私に抱きついてきた。
私はグリムの頭をそっと撫でて、一緒にテーブルを廻った。
エースくんとデュースくんが私に手を振っている。
私達はエースくんたちのいるテーブルへと向かった。

「ニコル、お疲れ! ああいった歌も歌えるんだな!」
「本当に凄かったな……
「俺も思わず聴き入ってしまった……
「ニコルサン、イベント成功して良かったね」
「うん、みんなありがとう!」

エースくんたちからも労いの言葉を貰って、私達は次のテーブルへと足を運んだ。
全てのテーブルを廻った後、アズール先輩が再びステージの壇上に上がった。
もうすぐイベント終了の時間だ。
時が過ぎるのは、いつだってあっという間である。

「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございました。名残惜しいですが、そろそろお開きの時間です。最後に、今回のスペシャルゲストであるニコルさんとシルバーさんに盛大なる拍手をお願いいたします!」

再び大きな拍手の音がモストロ・ラウンジ内に響き渡った。
ラウンジ内の色とりどりの照明がスポットライトのように、私達をそっと照らしていた。
イベント終演の時間になり、観客たちが次々と席を立った。
お客さん全員を見送った後、私達はVIPルームへと足を運ぶように言われた。
VIPルームの扉を開けると、アズール先輩たちが出揃っていた。

「ニコルさん、シルバーさん、改めて本日はありがとうございました」
「お客様方も大変楽しんでおられましたよ」
「小エビちゃんの歌も良かったし、クラゲちゃんもお仕事上手だったよ」
「ありがとうございます」
「お約束通り、あなた方に対価をお支払いしましょう。こちらをお受け取りください」

そう言って、アズール先輩が私達に小さなアタッシュケースを手渡した。
アタッシュケースの中にはマドルが詰まっていた。
このアタッシュケースは、スペシャルイベントの出演のオファーを受けて、厳しいレッスンを乗り越えて、無事にイベントを成功させて得た宝物だ。
モストロ・ラウンジのステージで歌っていた時の私は、確かに海の妖精と化していたのだ。
アズール先輩から受け取ったアタッシュケースを抱いて、私は深々と礼をした。
いつもの服に着替えて、私はシルバー先輩と一緒にオクタヴィネル寮を後にした。
深海の宮殿の中にあるモストロ・ラウンジも、私の思い出のステージのひとつとなった。


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