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【IDEAPOLIS】day24-8 生存策略部門

全体公開 2447文字
2021-02-05 02:57:54

誘惑。夜闇。呼び水。

懐かしいような匂いがした。

すうっとひんやりとした風が頬を撫でる。
僕の瞼を開いたら、そこには夜空が拡がっていた。


………は?」


いや、本当に。
僕は外にいた。もちろん異常なことであることは感知している。
僕はさっきまで指示部屋にいた。1歩も今日は指示を始めてから外には出ていない。そりゃツァディクだし。
出ていないはず。
なら、この広がる夜空はなんなのか。明らかに建物の中でないことは明らかだ。

そしてもっと異常なのは、この景色に見覚えがある事だ。


………外郭だ。」


✁︎


僕は、僕達は、外郭近くの土地で生まれた。
僕達は双子だった。いつも一緒だった。
でも、暴力を振るう親に、僕らは家を飛び出し、外郭の遺跡にあった大穴に身を投げた。
2人でなら、死んだって怖くなかった。手を繋いでたら、何も怖くなかった。

でも僕らは生きのびて、ここにたどり着いた。
ここで僕達双子を拾ってくれた“ひと”と、もう一人増えた弟と。
幸福に、暮らしたかった。

ここには夜しか訪れなくて、太陽の日差しは入らなかったけど。
それでも幸せなら、それで良かった。

良かったのに。
弟が、それを全て台無しにした。


✁︎


はっとする。
懐かしい景色に幼少の頃を思い返してしまっていた。
僕は自分の頬をつねってから立ち上がる。仕事中に居眠りすることはよくある。しかし頬は痛い。


夢じゃない、ってことはこれ、なんなのさ?幻想体?」


困ったな、と眉間に皺が寄る。
いけない。あんまり皺がよると夫みたいに眉間から皺の痕が消えなくなる。
眉間を指でグ二グ二させていた、そんな時だった。


「ミストさん」


声。
この声は、


「(……ヴァイオレット?)」


きょろきょろと周囲を見渡す。しかし姿はない。
いや、おかしいことに気づいた。
つい数日前に、ヴァイオレットは浸食度の影響で……死んでいる。
もう二度と戻らない。あの時のヴァイオレットは闇に溶け込みそうな肌色で、大丈夫、大丈夫ですから、と言って部門から居なくなった。


「こっち、こっちですよー」


また声が聞こえた。今度は聞き間違いではない。
でも、姿はどこにもない。
1歩、前に進んでどこかに居ないか見てみてもやはり居ない。


……ヴァイ、」

「ミスティ」


もっと懐かしい声に、呼ぼうとした名前が途切れる。
僕を、僕と弟を育ててくれた、父であり母の声。
とても優しくて大きかった、あの人の声。


「ミスティー、こっちだー」


また前に1歩進む。どこだろう、会いたい。
会って、話をしたい。ここまでにあったことや、大事な人ができたってこととか。
でも、足が止まった。

彼は死んでいる。


✁︎


弟二人が台無しにした後、僕は逃げることに必死だった。
親しかったはずの全てが僕の敵になった。昨日まで仲の良かった人達みんなが僕を殺そうと刃を向ける。
そして、死にそうになった僕を助けて、育ての親は死んだ。

僕は必死だった。
その必死の末に、遺跡の中は血まみれで、もう誰一人生き残ってはいなかった。
生き残るために、みんなを殺すしかなかった。


✁︎


………


幻聴でないことを先ず確認する。
2人とも死んでいる。2人ともここにはいない。
けれど、懐かしい景色、親しい人の声、会いたかった人の声。

それらが全て、僕の足を前に進ませようとする。


「なに、さまた、僕は悪夢を見てるの!?」


足が震えた。
帰りたい。けれど帰り道が分からない。
どうしたらいい?どうすれば。


「ミスティ!こっちですよ、帰りましょう!」


声に顔を上げた。
今のは、シスターの声だ。どこかにシスターがいる。
帰りたい、彼女がいればきっと帰れる。


「シス、」


立ち上がって、前に足を出そうとした、その時。


「ひゃん」


静かなこの場所に1匹の動物の鳴き声が響いた。
足が止まる。振り返る。
振り返れば、小さなもふもふのいきものが僕を見つめていた。
そして、その後ろには夕暮れが拡がっていた。


…………あれ、君


そのいきものには見覚えがあった。僕の部門職員のキンスリーによく懐いてる動物。
ただ、なんの動物かはさっぱり分からないのだけれど。


「キンスリーは? なんで君だけここに?」


そのまま動物の方に振り返って駆け寄る。
抱き上げたら普段はキンスリー以外嫌がるはずなのに、やけに素直に抱えられていた。


「ひゃ!ひゃん!」

「うわ、わ、僕キンスリーみたいに君が言いたいことは分からないんだよ」

……ひゃー!」


じたばたし始めたので仕方なく下ろす。
なんだろうと思ったら、そのいきものはついて来いと言いたげに歩き出した。
どこか人間くさいよなとか思っていたら。


えっ」


いきものが立ち止まったところに、収容室の扉と、僕がいた方向を示す看板がひとつ。


……ここ、収容室!?」

「ひゃん」

「っげえ夢じゃなくて夢遊病!?僕そんなのやなんだけど!ありがとね」

……………ふんっ」


可愛げも無く、そのいきものは扉をかりかりと引っ掻いた。
僕が近づくと扉は開いて、いきものはそのままどこかに駆けていってしまった。


……はぁ、でも本当に助けられたんだろうなぁ。僕も注意しなくちゃ


きっと、さっきまで聞こえてた声は幻想体のものだったのだろう。
随分と巧妙だった。人の記憶から声を形成させたりするのだろうか。
あんまり職員を向かわせたくはないけれど、観測のため。抑制剤の確保が必要だろう。

さて、早く戻らないと。
僕はそう思って足を踏み出そうとして、ふとひとつ、違和感に気がついた。




…………シスターって、誰?」












(ガラスにヒビが入るような音が聞こえた気がした。)

 


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