今日のこの日、小さな寮は甘い香りが漂う楽園となる。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第10話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり
@natsu_luv
ナイトレイブンカレッジの冬はまだ終わりを知らない。
ちらちらと降る雪が灰色がかった空を舞い、白い花弁のように流れている。
元の世界のとある国では、この時期に甘いお菓子やプレゼントを愛する人に贈る風習があるという。
そこで、私はオンボロ寮でちょっとしたお茶会を開くことにした。
今回はチョコレートのお菓子をふんだんに使ったアフタヌーンティーセットを出す予定だ。
少し早めに起きて、朝食を食べた後、私はキッチンでサンドイッチとお菓子作りを始めていた。
薄くスライスされた食パンに具材を挟んで、ラップに包んで、重石を上に乗せてパンと具材を馴染ませておく。
その間にチョコタルトに使う苺のクーベルチュールチョコレートの湯煎を進めていく。
「すんすん、良い香りがするんだゾ」
「グリム、つまみ食いしちゃダメだよ。たくさん作るから、みんなが来るまで良い子で待っててね」
「わかったんだゾ」
チョコレートの甘い香りに誘われてキッチンにやって来たグリムを宥め、私はチョコレートの湯煎を続けた。
湯煎で溶かしたチョコレートをタルトカップに入れて、ダイスカットの苺を宝石のように散りばめていく。
チョコタルトを冷蔵庫に入れて、最後はチョコチップスコーン作り。
ボウルに材料を入れて、しっかりと混ぜ込んでいく。
腕が疲れそうになりながらも何とか生地を作り、形を整えてオーブンに入れた。
焼き上がりを待っていると、玄関の呼び鈴の音が聞こえてきた。
一番最初のお客さんの登場だ。
私は玄関先まで行って、扉を開けてお客さんを出迎えた。
「ニコル、今日は誘ってくれてありがとう」
「シルバー先輩、お越しいただきありがとうございます。お荷物は私の部屋に置いてください」
「あぁ、わかった。よろしく頼む」
シルバー先輩を部屋まで案内し、荷物を置いてもらった。
今日はシルバー先輩が泊まりがけで遊びに来てくれた。
ツノ太郎さんとリリア先輩からも許可を得ている。
シルバー先輩に掛けて待ってもらい、私は再びキッチンに戻った。
そろそろスコーンが焼ける頃合いだ。
サンドイッチを切り分けている間に、オーブンがスコーンの焼き上がりを告げた。
オーブンからこんがりときつね色に焼けたチョコチップスコーンのお出ましだ。
「甘い香りがするな。お茶会の時間が楽しみだ」
「ふふっ、ありがとうございます」
「オレ様、早く食べたいんだゾ」
「もう少しだよ。あっ、次のお客さんだ」
サンドイッチとスコーンをお皿にのせていると、また呼び鈴が来客を告げた。
玄関のドアを開けると、エースくんとデュースくん、リドル先輩の姿が見えた。
リドル先輩がオンボロ寮にいらっしゃるのは初めてだ。
さっそく、私はリドル先輩たちを談話室へと案内した。
「オンボロ寮とは言われてるけれど、随分と住みやすそうだね」
「エースくんとデュースくんと一緒に掃除と整理整頓をしたんですよ。おかげで心地良く暮らせてます」
「そうか、それは良かった」
「ところで、どうして私のお茶会にいらしたのですか?」
「笑わないで聞いてくれるかい。ショコラのスイーツが……食べたかったんだ……」
リドル先輩の顔がペンキを塗られた薔薇のように真っ赤に染まった。
甘いものが食べたい、私達にとってはごく普通の欲求だ。
誰も笑ったりはしないとリドル先輩に伝え、私はアフタヌーンティーの準備をしながら最後のお客さんたちを待った。
全てのティーフードをお皿に盛り付けたタイミングで呼び鈴が鳴り、私は玄関先へと向かった。
「いらっしゃいませ。お待ちしてました」
「ニコル、今日は誘ってくれてありがとな!」
「ボンジュール! ショコラのお茶会と聞いて、蝶のように飛んできたよ」
「お邪魔します」
カリム先輩、エペルくん、ルーク先輩の登場だ。
玄関先がきらきらと眩い光を放っているように見える。
カリム先輩たちも談話室へと案内して、それぞれの席についてもらった。
私はティーフードをのせたスタンドをテーブルに運び、紅茶の準備を始めた。
今日の紅茶はフランボワーズとショコラの香りの紅茶で、チョコレートのスイーツにもぴったりの代物だ。
ティーポットに茶葉を入れるだけで、芳醇なショコラの香りが漂ってくる。
沸騰させたお湯を注いで、茶葉をジャンピングさせる。
席で待っているお客さんたちも紅茶の芳しい香りを楽しんでいた。
茶葉がダンスを終えた後、温めておいた陶器のティーポットに出来上がった紅茶を注いで、皆の元へ注ぎに廻った。
「お待たせしました。今日の紅茶はフランボワーズショコラという名前の紅茶です」
「良い香りだね」
「ボクの好きな香りだ」
「ありがとうございます。さぁ、ショコラのお茶会を始めましょう!」
お茶会開始の挨拶をした途端、皆が一斉にティーフードに手をつけ出した。
今回のセイボリーは、ハムときゅうりのサンドイッチとスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ。
アフタヌーンティーでは定番のフィンガーサンドイッチである。
「美味い! これ、ニコルが作ったのか?」
「そうだよ。美味しく出来たみたいで良かった」
「いくらでも食べられるな」
「ニコルの作るサンドイッチは絶品だからな」
エースくんとデュースくんがにこやかな表情でサンドイッチを食べている。
さらに、シルバー先輩も私の作ったサンドイッチに太鼓判を押してくれた。
今日のサンドイッチは自分でも良い出来だと思えた。
素材の旨味とちょうど良い塩気が感じられる。
気付けば、あっという間にサンドイッチのお皿が空になっていた。
スイーツも美味しく食べてくれると嬉しい、そう思いながら私は紅茶をひと口飲んだ。
サンドイッチを食べた後、私はチョコチップスコーンに手をつけた。
チョコチップがアクセントになっていて、食感も楽しい仕上がりになっている。
生地は少し甘めに作っていて、外はさっくりで中はふんわりとさせている。
チョコチップの入ったスコーンは初めて作ったけれど、上手く出来ていて安心した。
「このお菓子美味いな! ジャミルにも食べさせたいなぁ」
「そういえば、カリム先輩がこの場にいらっしゃるのって珍しいですね」
「ニコルは絶対に毒を入れはしないからお茶会に行ってきていいって、ジャミルから許可を貰ったんだ」
「私、信用されてるみたいで良かったです」
カリム先輩が眩い太陽のような微笑みを浮かべて、私にそう話してくれた。
一方で、チョコチップスコーンをひと口食べたルーク先輩が肩を震わせていた。
エペルくんが若干引きつった表情を浮かべている。
「セボン! 芳醇なバターの香り、チョコチップの軽やかな食感、全てが溶け合って口の中で芸術作品が生まれたような気分を味わえるよ。ボーテ、100点!」
「ルーク先輩が感動の涙を流してる……」
「そっ、そこまで……」
エペルくんと並んで、私まで顔を引きつらせてしまった。
変わった人だとは思っていたけれど、ここまで明るくて自分に正直な変わり者だったとは。
少し引き気味な私達を差し置いて、ルーク先輩は心ゆくまでチョコチップスコーンを堪能していた。
いつの間にか、話題が私とシルバー先輩のことに移っていった。
「シルバーとニコルって、本当に仲良いよな。この間は頭に小鳥を乗せたまま、ニコルが歌の練習してたんだぜ!」
「それは本当かい?」
「あぁ、本当だ」
「シルバー先輩が小鳥さんを惹きつけちゃったみたいで、気付いたら私の頭の上に乗ってたんですよ」
「僕らも見かけたけど、あの光景には驚いたな……」
「中庭の一角だけ空気が違ってたもんな」
私が中庭での出来事を話すと、皆揃って耳を傾け始めた。
カリム先輩とエースくん、デュースくんに会ったのは、ちょうど私がモストロ・ラウンジでのスペシャルイベントで歌う楽曲を練習していた時のことだった。
あの時は難易度の高い楽曲を上手く歌えるように練習に必死だったから、頭に乗った小鳥どころではなかったのだ。
「キミたちの麗しい愛のひとときは、私もこの目で見ていたよ」
「えっ、ルーク先輩もいらっしゃったんですか!?」
「あの時は遠くから見ていたんだ。今はこうして、近い場所でキミたちの愛らしい姿を見られる。トレビアン!」
「ルーク先輩が僕について来たのは、ニコルサンたちを間近で観察したかったからだよ……」
話を続けるルーク先輩を横目に、エペルくんがぼそっとつぶやいた。
やっぱり、ルーク先輩は明るい変人だ。
そう確信しながら、私はティースタンドの一番上にあるスイーツに手をつけ始めた。
今回のスイーツは苺のチョコタルトだけでなく、有名パティスリーのガトーショコラとトリュフチョコレートも用意している。
サムさんが日頃の感謝を込めて、私に安く売ってくれたのだ。
甘いものが大好きなリドル先輩が目を輝かせている。
「この苺のチョコタルト、とても美味しいね。苺の甘酸っぱさとチョコレートの甘さが上手くマッチしているよ」
「ありがとうございます!」
「ガトーショコラとトリュフチョコレートもめちゃくちゃ美味いんだけど!」
「さすが、有名パティスリーのものだけあるな」
リドル先輩が言ったように、苺のチョコタルトはトッピングの苺の甘酸っぱさとチョコレートの甘さが上手く溶け合っている。
ガトーショコラは口に入れただけで芳醇なビターチョコレートの香りが広がってきて、上品な甘さを感じられる。
トリュフチョコレートも小さな粒の中に豊かなショコラの味わいが詰まっている。
「このチョコのお菓子、たんげうめぇ!」
「マーベラス! まさに、ショコラの楽園だね」
「ニコルは美味しいお菓子を見つけるのも、作るのも得意なんだな」
「皆さん、ありがとうございます」
今日のこの日のオンボロ寮は、甘い香りが漂うショコラの楽園となっていた。
楽園にいる人は皆、芳醇なチョコレートの香りに魅了され、笑顔の花を咲かせていく。
ティーフードがのっていたお皿も、いつの間にか全て真っ白になっていた。
楽しい時間はいつだってあっという間に過ぎていく。
気付けば、外は夕方になっていた。
シルバー先輩以外の参加者たちは、お土産を手にしてそれぞれの寮へと帰っていった。
ここからは、シルバー先輩と私の二人きりの時間だ。
「ニコル、今日はたくさんの贈り物を貰えて嬉しかった」
「シルバー先輩……。私も皆さんに喜んでもらえて嬉しいです」
「ニコル、ありがとう。愛してる」
シルバー先輩にぎゅっと抱きしめられ、口付けを交わした。
チョコレートよりも甘いキスに、私の心は蕩けてしまいそうになる。
皆と過ごす楽しい時間も、愛するシルバー先輩と過ごす甘美なひと時も、どちらも大切にしたい。
恋人たちの幸せな一日はまだ終わらない。
これからも私達はショコラのように甘い時間を創り上げていくのだろう。