@nabibi47
未だ柄流の頂を歩むその肩には、臙脂色のマントが翻る。
コートへ向かう僕の隣を悠然として歩む傍、ふわりと流れた髪の隙間。つと視線が奪われた。頸にも近い、そう、言ってしまえば人間の急所、そこに当てられた白かったろうパッチ。
けれど皮膚が破けて滲んだ血を吸い込み色づいていた。
先程まではなかった。御手洗いに行ってくると姿を消す前はなかったものだ。
かちこち思考は巡る。
僕だってもう、子供ではない。今日の対戦相手は妹、そして彼女の相方は。
気づきにぐむりと苦い顔、少しの後ろめたさに眉を顰めた。どうしてこちらが後ろめたくさせられる。思いながらも恨めしく睨み上げた僕にその人はぱちりと目を丸くした。
首を傾げた仕草にちょっぴりむかりときてしまい、僕はとんとん頸に近づく首筋を叩く。ダンデさんは歩みを止めず、またふわりとそよいだ藤色は花弁が開くようにして翻える。
一瞬晒される首元に、次いであなたは緩慢にも艶やか双眸を細めていく。
持ち上がった手が子供をあやすようにして人差し指を立ち上げて口元に当てる。どこか柔くも困り眉に下がる柳眉は、微かに狡くできていた。
しぃ。
言葉はなく吐息に窘められて全く遺憾である。むぅと頰を膨らませながら僕は目を眇めた。
「大人ってずるい」
「ふふっ、君はまだまだ素直でいい子だ」
わしゃわしゃ撫でられて益々目を眇めてしまう僕は唇をちょんと尖らせた。
「妹には見せないでくださいよ」
「……あー、んー」
苦笑混じりに首を抑えたその仕草に目を剥いた。わなりと震える俺にダンデさんはきゅうっと眉を寄せ上げたのだった。
「まぁ、グローブの下だからな」
「あの人絶対自慢する!」
わぁん!と絶叫する僕にやはりダンデさんは小さく笑うのだった。
鼻歌混じりに戻ってきたその人に、私はふむと考える。
控え室、ベンチで待っていた私の前戻ってきたその人は、床に敷いたマットの上で寝転がってストレッチを始めた。それはいつものルーティンだから気にしない。タッグを組むときにはよく見る光景だ。
だけれどそう、やけに触る箇所が気になる。
グローブの上、こりこりと撫でる仕草は態とらしい。最後に俯せに体を弛緩させて調整に入る。その姿に瞬きをしながら、私はベンチから立ち上がる。ひょこひょこ近づきしゃがみ込む。
そんな私に上目遣いでにぱりと笑って、どうしたなんて尋ねてくるから、ついと人差し指を差し向け落とした。
「何、したんですか」
端的に尋ねた私にキバナさんはきらりと虹彩を煌めかせる。
どこか浮かれ調子に、わかっちゃったぁ?なんて笑うから私の目尻はしおしお下がる。いらないことを聞いてしまった。これはちょっぴり悪手だ。
むぅと唇を拉る私にお構いなしに、腕枕に顎を乗せするする指先を伸ばしていく。かっくんと手首を曲げてグローブに指を滑り込ませてはくくぅと布地を捲り上げる。顕になる親指の付け根には、ぐちりと皮膚を食い破った二箇所の小さな傷がある。
未だ新鮮な傷口はうっすらと血を固まらせて、その周りを赤黒く鬱血させる。洗ったりはしたんだろうが、手当てはしていない。
そうして思考はこちかち巡る。
先程、この人はとある人を見つけたと意気揚々廊下で別れた。全く持って浮かれ倒していて私は益々目元を歪めたのだった。だって今日は兄が組む相手だ。変なものを兄に見せては欲しくない。
じっとり睨む私にキバナさんは堪えた様子もなく、静かに微笑んでいた。
「いいだろ、自慢」
「大人気ないなぁ」
溜息混じりに呻いた私にキバナさんはにっぱり笑って体を起こす。
そうしてぐっぐっと伸びをして立ち上がる。見上げた体は大きくて、あぁ確かにあの人の隣に並ぶに相応しい身姿だなと思った。
「お前は素直な反応で可愛いねぇ」
「どうでもいいですけど、お兄ちゃんには見せないでくださいよ」
むっすりする私にキバナさんはにこりと笑んで手元を隠し直した。
そのまま何も言わずにコートへつながる通路へ向かう。まさかと声を震わせて、慌てて立ち上がり追いかければキバナさんはぽりぽり頰を掻いたのだった。
「手当てはしたし、それに頸らへんだったしなぁ」
「隣にいたら見えちゃいますよ!」
「えぇ?そぉ?」
わかってる癖に白々しい言葉尻に目を剥いた。そこまでして主張したいものだろうか。私はがっくり項垂れとぼとぼ歩く。
「大人気ないなぁ」
「ふふふ、お前もそのうちわかるさ」
そんなものわかってたまるかと、私は惚気に勤しむ竜の嵐を蹴り上げたのだった。