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カトレヤに魅入られて

全体公開 1 5171文字
2021-02-26 00:04:16

🐉♀×👑♀の姿の小噺です。

Posted by @nabibi47

きっと、誰もがキミを好きになる。
だって、あんなに綺麗で嫋やかな女性を俺は彼女以外知らない。美しくも高嶺に咲き誇る花。甘い蜜も芳しい香りも振りまいて、キミは優美に微笑む。
しかして、彼女は俺以外が触れていいものではない。
だからそう、彼女の甘い香りに誘われたものには随分と狭量な自分が顔を出してしまうのだった。
ホテルの大ホールを貸し切った懇親会での一幕。
年に一度のチャンピオンカップ開会式、ガラルの誇るジムリーダー、そしてチャンピオンたる俺が繰り広げたパフォーマンスに地方全土を盛り上げた。エキシビジョンマッチも終えて開かれる社交場で、彼女はとある青年に手を取られていた。
彼の身分も名前も年齢も、何も知らないが俺としては大変に不満である。
彼女は優しく大らかだから気にしてないよと笑うのだろう。
しかし、下心も滲ませた手管がある。
手を触っていたかと思えば、彼女の細くきゅっと引き締まった腰を不埒に引き寄せる青年の姿がある。俺の顔はぐぐぐっと顰めた造りに変わる。
腕の中、彼女をどうにか収めようと動く手先が嫌だった。
すらりと伸びた手足を引き立たせるマーメイドラインは、彼女に大海原を飾る白波を纏わせる。ひらりひらりと折り重なった繊細な布地の流れは、彼女を麗しいレディに仕上げてくれることだろう。煌くサファイアにも劣らない瞳の周りは、きらきらパールを散りばめたように艶やか飾られる。
意志の強い、とびきりお気に入りの双眸が会場中の視線を釘付けにする。
惹かれることは納得だ、だけれど、彼女を独占しようとするのは駄目だ。
気が付けば、ヒールを打ち鳴らして大股に向かう。挨拶は粗方終えた。ならば多少なりとも目は瞑られる。
俺が身につけるスリットの入ったロングドレスは、歩みに合わせて翻る。真っ黒にもあしらわれたレースを揺らし、闊歩する。スリットがあるものは大変動きやすくて結構だ。惜しむることなく足を晒してつかつか歩む俺に、会場の人間は道を開ける。
辿り着く場所に、俺は腕を伸ばしていた。
「キバナ、探したぜ」
にこやかに王たる自分が間に入れば、不埒な輩は途端に態度を改めざるを得ない。
一瞬見開かれたキバナの目、それから俺が手先を伸ばせば頰を痙攣らせる様を見た。けれど俺は知らぬふりをして、腕を回す。
ぐいっとこちらからキバナの腰を引き寄せて、そのままぴったりくっつくようにすれば自然と男の手は離れていった。ぽかんとして俺を見やった彼の視線にはにこりと微笑む。キバナは俺の手を見て、それから微笑む顔を見て溜息混じりに肩を竦めた。
そうして、目の前の彼へ流麗な仕草で頭を下げる。
「すみませんミスター、我らがクイーンに捕まりまして」
「あぁ、いえ、こちらこそ長い時間失礼を」
ぎこちなく笑う彼には、笑顔のまま無言で返す。
キバナはそんな俺にまたため息をつく。
だが、俺は不満だ。だから、譲らない。
触れるな、寄るな、彼女は俺のキバナだ。思い慕うというのであれば、許そう。ただし触れることは許していない。
精々、遠目に指を咥えて眺めているといい。
俺に囲われる美しいひとを、お前たちのような愛で方も知らない輩にくれてやるものか。
キバナは艶やかな女性だ。繰り返すようだが、惹かれる気持ちはわからないでもない。しかし、彼女に色目を使うことを許した覚えはない。
じわりと滲ませる独占欲に任せて、上目にじっとり見やる俺にキバナも手を伸ばしてくれる。
するする俺の腰も抱き、そうしてくるりと踵を返した。
「どうやらクイーンはご機嫌斜めのようだ。私はこれで」
よそ行きの言葉遣いに、少しだけ気が晴れる。
にこりと貼り付けるキバナの笑みに、青年は頷き道を譲る。そのままつかつかと俺を連れて廊下に出るキバナを誰も止めることはない。というよりも止められない。そんな事実に上機嫌でエスコートされる。
会場を出て、キバナはホールから少し離れた化粧室に俺を連れ込んだ。
化粧直しにはまだ早いと思うがなんて、白々しくもどうしたと尋ねればキバナは眉を寄せて俺の額を小突いたのだった。
「こぉら」
……怒られる謂れはないぜ」
折角持ち上がる機嫌も、怒られれば萎んでしまう。
ぷいっと顔を背ければ、キバナはやれやれと肩を竦める。
それから俺の頰を両手で包み自分の方を向かせた。叱る眦に俺は片眉を持ち上げて目を眇める。
抗議にも持ち上げる手先は、キバナの顎をくいと持ち上げたのだった。
「キバナ、キミのクイーンは誰だ」
不機嫌にも端的な尋ねにキバナは折れてくれる。
その証拠にキバナは俺の頰から手をどかす。げんなり項垂れた様に、不満はまだ残る。
言葉を寄越せ、もしくは行動だ。
促しにくくぅと指を持ち上げ顔を上げさせれば、キバナは困り眉にも微笑む。
「勿論、ダンデ、お前がオレさまのクイーンだよ」
そうであると、わかっているのに。
ぴくりと眉が跳ねた。理解して尚、触れさせていた。その身は俺のためにある、わかっているのなら何故。
何故、俺以外の手先が触れることをよしとした。
キバナは依然不機嫌な俺に顎を引くから指を退かした。それから容赦なく首裏に両手を回して引き寄せる。
ぐんっと落ちてくる顔に、慌てた色合いを見つけたが止まる気はない。
だって、いやだ、キミは俺だけ見てなくちゃ嫌だ、他の誰にも触れさせないで、俺だけに囲われて、そうでなくちゃ、満足できない。
ましてや、男にその身を預けるような真似は許さない。
真っ赤なルージュは、女を強くも美しく魅せる。だから、これは俺の好戦さを表す彩りだ。
奪う唇、重ねるだけのキスは、しかし、熱烈な意味を孕んでここにある。
キバナ、俺の竜、俺のためにあるキミにはきちんと印をつけてやらねばならない。
そうやってキバナの唇に、俺の色を移してやる。
唇を離れさせる。
キバナは今日、オレンジベースに唇を彩っていた。そこに混ざる俺の赤。まだらに出来上がった色彩に、ふふんと満足する。
キバナはちょいっと鏡に目をやると、口元を確認してあーあと力なく声を漏らした。
「やってくれたな、ダンデ」
……キミが悪い」
謝らないぞ、誰でも彼でも愛想のいい可憐なキバナが悪いのだ。
むすっとして唇尖らせる。不満を前面に押し出して、じとりと睨み上げた俺にキバナは仏頂面を見せる。
暫くの沈黙、睨み合い。
しかして、次にはキバナがふはりと力なく吹き出した。
そうしてするする腕を回してくる。そのまま引き寄せてくれるから、俺は逆らわずぽすりとその胸元に顔を埋める。均衡の取れた綺麗な丸みを帯びる胸元はふにゅふにゅ俺の顔を包んでくれる。
俺は無闇矢鱈と乳房が大きいから、こうやって整った形が羨ましい。むっちりと今日も寄せあげられて詰め込まれた胸元は、ドレスコードだとほんの少し苦しいのだ。
甘えつくようにぽふむと顔を埋めていれば、キバナはよしよしと俺の頸を撫でた。
ドレスアップに合わせて、長い髪は頭の上で複雑に編み込まれトップにまとめられている。装飾が施された華美な髪型に配慮してのことだ。彼女のしなやかな手先が気遣いも混じらせて撫でてくれるのが気持ちいい。
あふっと声を漏らしてされるがままになれば、キバナはこっそり囁いた。
「これ、色混ざったら、ちゅーしたのバレちゃうよ?」
「いい、寧ろ足りない、もっとしたい」
「まー、不埒なクイーンだこと」
……キミのことでは、俺は、えっちだぜ」
キスをいっぱいしたい。
唇だけではなく、今ここで顔を埋めている胸元だって、すらりと伸びやかな足にだって、体中あちこちにキスをしたいし、俺もされたい。
むすぅとしたままでいる俺に、ふむと顎を撫でたキバナはそっと顔を寄せる。だから俺も自然と顔を持ち上げた。
んっと尖らせた唇にキバナは、んもぉと困った調子に声を落とす。
けれど、そこには許しがあると俺は知っていたのだ。
「折角、可愛い色にしたのになぁ」
「キバナ」
「ふふっ、全く困ったクイーンだ」
早くと、急かす仕草でかりかり肘に柔く爪を立てれば、キバナはゆったり顔を傾ける。
それに合わせて薄く唇を開いて待つ。キバナはこっそり二人きりの呟きを俺に与える。
すりと撫でられた頸が、心地よかった。
「馴染ませるの、手伝ってね」
そうやって、ふにゅりと重なる唇は薄く出来ていた。
むにむに、お互いの唇を押しつけて色を整える。微かに隙間を作ってはまたくっつけてを繰り返して、むちゅむちゅ遊ぶように唇の柔らかさを味わう。じゃれ合うような曖昧な熱の行き来は気持ちが良くて、ゆっくりと体の芯をふやかしていく。
はふはふどんどん酸欠になって、膝がかくりと曲がってしまう。キバナは頸から指を降らせる。擽るような手管にくねりと腰をしならせれば、そこは大きな掌に掴まれた。
腰を支える手とは別に、するする指先を伸ばされた。伸びた指が臀部の割れ目に潜り込む。差し込み、双丘を大きな掌でふにゅふにゅ揉み解す。嫋やかな指先がやらしく奥まった場所へ向かうよう、すりすり擦られるともどかしくて堪らない。
じわぁと腹奥が溶け出す感覚に太腿がぶるぶる震える。
決定打は与えず、俺の反応を楽しむように指先は下肢を弄ぶ。
くにゃあんと体が弛緩すれば、筋を丁寧に辿り抜けていく指先は、最後に腰を支えてあった。ちゅぽっと濡れた音に唇が離れる。
熱にふやかされとろとろ見上げていれば、あやすようにしてまた唇に吸い付かれた。
あぅと蕩けた声を漏らして見上げた先、キバナはにんまりとして俺の唇の端を撫でたのだった。
「んー、いい色になった」
……不埒なのは、どっちだ」
鏡も見やって自分の色を確認するキバナの頰を柔く抓った。
目を眇めた俺に、キバナはけらけら笑って腰をすりすり撫でてくる。その指先の淡い感触にぞくぞく震えて顎をピクッと仰け反らせる。頬をつねる指先もはらりと外してしまった。
感じ入る神経に、とろぉと目元も溶け出させればキバナは満足そうにキスをもう一つくれる。
ちゅっと軽いリップ音にじゃれつかれ、うっとり見つめた先でキバナは笑う。
「でも、気持ちかったでしょ?」
……
沈黙で肯定する俺にキバナはくくっと喉を鳴らした。
ゆったり顔を傾けるキバナに、俺は体を任せたままでいた。
潜り込む先は俺の首元、そこに吐息が這って熱を帯びる。
「可愛いオレさまのクイーン、お前は嫉妬まで愛らしいね」
そんな嫉妬が嬉しいよ、囁く声は肌を伝ってじわりと染み込む。
甘い言葉に俺は弱い。
どんどん機嫌は上向いて、むずむず腹の底が喜びに疼いた。唇はむにむに下手くそにも笑った形に変わっていく。
簡単に舞い上がる自分に係る羞恥と、キバナの一番を確認できた喜びで表情筋は無茶苦茶にされる。
最後、俺の首筋にちぅっと吸い付き、キバナは色を肌に残す。あっと声が漏れる。吸い付き柔く噛む感触に首裏から脊髄までが揺すられた。
二人の口紅の色が混ざり合ったキスマークは、確かな証明をこの体に刻む。
緩慢に首元から顔を上げ、上目遣いに俺を覗くキバナに目を細める。こんなキスマーク、見つかればゴシップ記事には面白おかしく書かれるだろう。しかし、わかっていながらも、キバナは俺の要望を叶えてくれた。
聡明なキミが、本来なら嗜めるキミが、俺の嫉妬を前にしてこんな甘やかしをしてくれた。
言葉も、行動も、キミは俺に与えてくれた。
理解に俺はにまぁと笑ってぴょんっと飛びつく。
キバナは慌てて身を起こすから丁度首周りに顔が近づいた。
これ幸いに、俺は声を弾ませる。
「俺もする!」
「こらこら、怒られるのはオレさまだけでいいのよ、おばかさん」
窘めはするけれど、拒みはしないキバナの首筋に俺はむちゅぅとキスをした。
続け様、甘えに軽やかなリップ音を立てて離れれば、そこには俺の首筋と揃いのキスマークが出来上がる。くっきりとした色合いが、彼女の褐色を彩って大満足だ。
にこにこ首に腕を回したままでいれば、キバナは眉を垂れ下げて俺の頸を撫でてくれた。
だからはしゃいで破顔する。
「ふふっ、俺たちは共犯だぜ!」
「んもぉ、ほんとおばか」
そうして降ってくる優しい笑顔に目を伏せる。
ここで与えられるものは、甘い香りのキスだとわかっていた。想像通り唇を覆ったキバナの低い温度がある。俺の内側はまた嬉しいで満たされる。
俺の嫉妬を愛でると言うのなら、これくらいの我儘にだって付き合ってくれなきゃ嫌だ。
「おばかで、いいぜ」
「ほんと可愛いんだから」
きゅうっと抱きしめられるのが堪らなく嬉しい。
だから同じだけ抱き返して、俺はキバナの温度を確かめる。
彼女は俺の花、王が愛でる美しき花なのである。


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