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▹Character Side Story vol.5

全体公開 2090文字
2021-02-28 20:19:40

「劣等感」

常に誰かと比較される人生だ。

お前は出来損ないだと初めて罵られたのは6歳の時。
有名小学校の受験に落ちたときだった。

面接、不合格。
筆記試験、僅かに合格点に届かず。
学校から届いた手紙をテーブルに叩きつけ、肩を怒らせた両親を今も鮮明に覚えている。
今までお前にかけてきた金を返せ、なぜおまえはそんなにもできないのか。

そこからは散々だ。
中学の受験を最初こそ考えていた両親だが、私のテストの点数や内申点を見てそれもやめた。
両親共に高学歴。そんなふたりから産まれるはずがないと父親が母親の浮気を疑いあやうく喧嘩になるところだったが
あの子の存在で可能性は消えた。





「それでさ、優羽奈ちゃんが俺に微笑んでくれたわけよ!」
「お前自意識過剰すぎだろ!」

男子共がゲラゲラと下品に笑う。
話題の中心は学校のマドンナと名高い優羽奈のことだ。
眉目秀麗、文武両道。
しかしそれを鼻にかけることはなく気さくに接する彼女は誰からも愛された。

優羽奈は、ボクの妹だ。

彼女は特進クラス、ボクは普通クラスにギリギリ合格。彼女であればもっと上の学校も狙えただろうにわざわざ同じ高校を選んだ。
単純に家から近い方がいいのかはたまたボクへの嫌がらせか。
後者だとしたらそれは大成功だ。

「それに比べてさあえーっとお前のクラスの?名前なんだっけ?」
「あー立花だろ?わっりー名前まで覚えてねえわ」
「あいつ暗いもんな、何考えてるかわかんねえしけど優羽奈ちゃんと姉妹らしいじゃん?」


「可哀想だよなあ」

うるさいなあ。
ぐちゃりと手に持った教科書を握りしめる。


「優羽奈ちゃんってほんとすごいよね。苦手だった数学、優羽奈ちゃんのおかげで高得点だったの!」
「わたしも!」
「体育の居残りも付き合ってくれたんだ〜」

授業終わりの休憩時間。教室にいるのが嫌で向かったトイレから甲高い声が聞こえてきた。
なんで女子って意味もなくトイレに集まるんだろう。
ボクには理解できないな。

「優しくて、勉強も運動もできて。お父さんとお母さんもすごい人なんでしょ? 欠点なんてひとつも無いよね」
「いや、欠点はあるでしょ。ひとつだけさ〜」

ちらり。女子の一人と鏡越しに目が合う。

「あんなのが姉とか、優羽奈ちゃんかわいそー」


……うるさいな。
酷く歪んだ目から逃げるように、背を向けた。





家に着いたのは空がオレンジに染りきる頃だった。
今日も助っ人を頼まれたのか、優羽奈はまだ帰っていない。
でも、カーポートの下に二台の車が停まっていて。両親が帰っているんだという事実に心が重くなる。

……ただいま」

返事はない。
玄関にも、近くの部屋のどこにも電気が着いていないから聞こえていないんだろう。
……聞こえていても、返事なんてないけど。

夕焼けのオレンジが差し込む階段を上がる。
一段、一段。登るごとに話し声が聞こえるようになって、両親の部屋に二人がいるんだと気づいてしまった。

どうしようか。
ボクの部屋へは、両親の部屋の前を通らないとたどり着かない。

下にいようか。
でも、早く自分の部屋にこもってしまいたい。

ぐ、と奥歯を噛み締めて。
音を立てて気づかれないように、ゆっくり歩き出す。

「また成績が落ちたのよ。優羽奈は学年首席だって言うのに」

うるさい。

「今日なんか学校から電話がかかってきて、このままじゃ優羽奈の足を引っ張るんじゃないかだなんて言うのよ」

うるさい。

「本当に、どうしてあんな子」

うるさい!

「あれは兄さんのところに送ることにした」

足が止まる。
通り過ぎようとしていた両親の部屋の前で、中途半端に開かれたドアの隙間へと視線が動く。

大きなベッドに腰掛ける母親と、その前に立つ父親の姿が見える。

父親の言葉に、母親は大袈裟に肩を震わせて。

「やっとなの?」

と、喜びに満ちた声を出した。

「兄さんの了承は得てある。明日から土日だ、今日中に荷物を纏めさせなさい」
「わかったわ。ああ、でも……優羽奈にはなんて言うの?」
「あの子は優しい子だから心を痛めるだろうが……わかってくれるさ」


優羽奈のためなんだから。


……ああ、そうか。そうかよ。
そんなにいらないなら、消えて欲しいなら。

消えてやるよ。

ダンッ。
ドアに投げつけたリュックの音を背に、ボクは家を飛び出した。


「友梨奈?」


たった一人だけが呼ぶボクの名前も、
嫌なことばかりのこの世界も。

何もかも、捨ててやる。





▽推定該当者リスト
立花 友梨奈(16) 201〇年 失踪
学校から帰宅後、家を飛び出し失踪。
状況から見て事件性はなく、家出として処理されている。
両親からの関心は薄く当初は捜索願も提出されなかったが、双子の妹である立花優羽奈より提出された。
その後も立花優羽奈は度々警察に足を運び、当該当者の行方を探すよう嘆願している。

文章作成:飛鳥、さのつき
サポート:さのつき


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