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Character Side Story vol.6

全体公開 1910文字
2021-03-07 19:15:49


「私のすべて」

大きくなったらお花屋さんになるんだ。優羽奈は隣でケーキ屋さんね。

春風が吹き抜ける近所の公園。シロツメクサがたくさん咲いた花畑で満面の笑みを浮かべる幼い姉。
小さな小指を絡ませて交わした約束をずっと覚えている。



な。優羽奈ったら!」

窓際の特等席でぼんやりと外を眺めていると、ふいに肩を叩かれる。
はた、とそちらを振り向けば困ったようにノートを持ち小首を傾げるクラスメイトがいた。
なるほど、先ほどの授業でわからないことがあったようだ。

「ここ、難しいわよね。けどねこの公式を使えば意外と簡単なのよ」
「わっほんとだ!さっすが優羽奈~!」

ノートを覗きさらさらと公式を書きこんでいくと、クラスメイトが感嘆の声を漏らす。
もう、本当にわかっているの?なんてふざけて肩を竦めれば彼女はからから愉快そうに笑った。

「立花さん~!ちょっと」

おーい!と声を掛けられ、教室のドアに見慣れない男子生徒が数人。先輩だろうか。
肘を小突かれてよろけている少し小柄な生徒が私に用事らしい。
クラスの視線が集まってどうにも居心地が悪そうにもじもじしている。

「ちょっと行ってくるわね」
「ひゅう!優羽奈モテモテ~!」

茶化す声を聞き流し、もう一度窓の外に目をやる。
残念ながらずっと眺めていたあの子はそこから離れてしまったよう。

邪魔しないでよ。
そんな言葉は飲み込んで私は立ち上がり、ゆったりと微笑んだ。






いつからだろうか、姉と目が合わなくなったのは。
せっかく一緒に通えると思って選んだ学校ではクラスが違う上に廊下でもすれ違わない。
寂しいけれど、家では会えるもの。そう思っていた。
けれどここ最近ではあまり口をきいてくれなくなった。
私なにかしてしまったのかしら。彼女は優しいから、言い出せないのかも。



なんて。

本当は知っているの。
学校のみんなが友梨奈のことをあまり快く思っていないこと。
お父さんとお母さんが姉のことを大切にしていないことも。

けれど、いいの。

私は友梨奈のこと全部知っているもの。
笑い方が少し下手なことも。ウインクが出来ないことも逆上がりが得意なことも、歌が大好きなことだって。
一番理解しているし他の人にはわかってもらう必要なんてないわ。
ずっと私だけが傍にいるから。



そんな矢先のことだった。
ある日唐突、友梨奈が家を飛び出していった。
荷物も持たずに走り去る背中はあっという間に見えなくなって、指の先まで冷えていくように私は恐怖を覚えた。

お父さんとお母さんを問い詰めれば、どうやら友梨奈を養子に出す算段をしていたらしい。
ああ、どうして。
"せめて高校卒業まで待ってくれれば!"
一緒に二人で暮らすことも可能だったかもしれないのに。

そのまま捜索届すらも出し渋る両親を置いて私は警察署に通い詰めた。



友梨奈、友梨奈。友梨奈。

友梨奈友梨奈友梨奈友梨奈友梨奈友梨奈友梨奈。

何週間、何か月経っても姉は見つからない。
お金も持たずに出て行ったから。あんな子もう忘れなさい。
肩をつかむ両親の手を振り払って外へ飛び出した。

雪がはらはらと零れ落ちている。
あの季節と、真逆の景色。
いけないわ。このままでは友梨奈が凍えてしまう。

思わずサンダルで外に出たことも忘れ、ふらふらと歩きだす。
姉の行く場所はわからない。わからないけれどこっちな気がする。




どれだけ歩いただろうか。
ずいぶん遠くまで来た気がするし、意外と近いような気もする。
目の前には蔦がぐるぐると巻き付いたなんとも廃れた建物があった。

きっとここに。
ここにあのこが。



?あれ。わたしは。なにを探していたのかしら。
日差しが暖かい。なんだか上着が邪魔だわ、脱いでしまいましょう。

ふふ、よく見たらお花も咲いていて綺麗なところ。
けれど困ったわね。自分の名前も思い出せない。
それにとても大切なことを忘れてしまっているような。

あら、あんなところに女の子がいるわ!
歳も近いし此処のことを聞けるかしら。

「ごきげんよう。私、迷子になってしまったみたいなの!」

億劫そうに上げられた視線。その赤い瞳に何故かぎゅっと胸の奥が締め付けられた。

シロツメクサが足元で揺れている。


▽推定該当者リスト
立花 優羽奈(16) 201〇年失踪
以前より失踪した姉を探すよう警察に足繫く通っており、捜索に協力的でない両親との間にトラブルがあった模様。
現在両親から捜索届が出され、懸命な捜索を嘆願している。


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