@yubaa_579
汐田医院さまの金福村4月のワークショップ「金福演習」(http://privatter.net/p/717098)に参加させていただきました!字書きではない上拙い文で申し訳ないのですが、とても楽しかったです。ありがとうございました…!
混雑するバスの中、そばに立っている福富が少し窮屈そうな顔をしている。少し寄ると良いとこちらに肩を押してみると、咎めるような顔をされた。数年前はこれで赤くなるような奴だったのに、最近はあまり可愛げがなくなって。
今俺が被っているニット帽なんか、福富が被るとチクチクするからとタグを切ろうとして、やめておけと止めたにも関わらず強行し失敗したものだ。穴が開いたのを俺が直してやろうと預かり、 ついでに蛇の刺繍を入れてやったらおまえが使えと押し付けてきた。横暴な奴だ。かわいいじゃないか、蛇。と文句を言えば、お前だってリンゴのボタンなんかをつけられたら嫌だろう。などと返されたので、お前がつけてくれるなら構わないぞと言ってやった。バカだろうと含み笑いをされた。
外の気温も高く人も多く、バスの中は蒸し暑い。ニットに包まれている頭皮が、じんわりと汗ばむ嫌な感覚がする。せっかくだからと被ってきたが、バスの中ではやめておけばよかったと後悔した。同じく、体温が高い福富と接触している部分もいつもより熱く感じるが、それは嫌な熱さではなかった。それなりにガタイのある男二人が触れあって嫌じゃないとは、慣れたものだと思う。まあそれも今更かと気付き、ふふと笑ってしまった。すると頭にはてなを浮かべた福富に見られる。どうしたと言いたいのだろう。なんでもないと口を開こうとしたら、バスが停留所につき、周りの人が次々と動き出す。オレに気をとられていた福富が人の流れに引っ張られそうになったので、腰を支えてやった。驚いた顔をしている福富が面白くて、つい耳元に口を寄せる。目の前の席が、いつの間にか空いていた。
「立ってるのがつらいなら、少し座ったらどうだ?」
なあ福富。腰をゆるく叩くと、福富の喉がひきつるような音を出す。ニット帽の仕返しだと言わんばかりに、オレは口元が笑ってしまうのをおさえることもせず、福富から手を離すこともせず。周りの人は随分と減ったように思えたが、すぐにまた増えてきた。それでも変わらずにそうしてると、眉間にシワを寄せ、福富がじっと目を合わせて。
「うるさいぞ、金城」
からかってるとわかっているくせに、その言葉が少し甘さを含んでいるものだから、調子にのってしまうのだと、お前はいつ気付くだろうか。
福富を無事見送り、よく通るわりにしばらく寄ってない改札近くの売店を見ていると、誰かがこちらへ向かってきた。よく見なくてもわかりやすい荒北だった。
「福ちゃん行っちゃったァ?」
少し走ってきたようだったが、福富は今頃新幹線の中で寝てるんじゃないかと説明してやった。あまり寝てないんだ、昨日はとも。そこまでは聞いてねえよ!と歯茎を晒しながら怒鳴られたが、店の中だぞと宥めて外へ出る。先程とは違う落ち着いた声で、福ちゃんに一言挨拶しておきたかったんだけどと荒北がぼやく。それに対して、昨日の昼間はオレを差し置いてお前と出掛けていたはずだと少し不満をもって意見した。したり顔で流された。
「つーか、お前それ気付かないで着てきたの」
「あ」
指された先、シャツの第一ボタンがない。しまったと思い襟を引っ張り、整えて誤魔化す。荒北はげんなりした様子で、早く帰ってボタンつけたらァ?と間延びした口調で目線を外した。意外と目敏い荒北だ、気付いたのだろう。何よりさっきオレが自分で匂わせた話だ。しかし遠回しに自分で言うのと、これを人に指摘されるのとは違うだろう。荒北はあーあ、と手をポッケに突っ込んで柄悪く歩き出した。
焦りを感じながらも、オレもそれについて歩き出して、ふと思い立つ。
「このシャツはしばらく着れないな」
「ア?なんでだよ」
「福富にボタン、つけてもらおうかと」
リンゴの。
荒北がこけた。
―原文――――――――
S系統のバスのなか、混雑する時間。ニット帽をかぶった二十歳過ぎぐらいの男、帽子の端には小さな蛇の刺繍が入っている。スポーツをしているのか体格は良い。客が乗り降りする。隣に立っている金髪の男に何かを囁く。金髪の男はそれを咎める。辛辣な声を出そうとしているが、どこか甘えたような口調。目の前の席があくが二人とも座らない。
二時間後、静岡駅の新幹線改札口前で、その男をまた見かける。連れの男(先程とは違う黒い髪の男である)が彼に、シャツのボタンを付けるよう言っている。男の胸元を指差し、その理由を説明する。
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