ワンライお題「新調品」FF7Rクラエア、ミッドガル脱出後
@tomo27vt
モンスターはよほど個の力が強いものでなければ、多くが群れを成して行動している。個が強いものほど知恵も働き、無暗に戦いを仕掛けず自分の有利な場に持ち込もうとするものだ。
よって、野外でエンカウントするモンスターは多くが群れを成しており、結果として乱戦が基本となる。戦闘に慣れているクラウドはその辺りを踏まえた上で編成を組んでいるが、思った通りに事が進むことは少ない。旅を共にしている仲間たちはその道のプロではないのだから余計だ。
だから、後衛に属するメンバーが攻撃を食らってしまうことも、しばしばあった。
「あたたた……」
「エアリス、大丈夫?」
「ちょっと転んだだけ。だいじょーぶ!」
鳥型のモンスターが今際の際に放った衝撃波は、予兆の動きが少なく、近距離にいたクラウドは己の大剣で庇うのが精一杯だった。なかなかに威力が高かった所為もあり、相応に距離を取っていたエアリスもその余波を受けてしまったようだ。尻もちをついているものの受けたダメージは少しだけのようで、素早く体勢を立て直せたティファがかける声に笑顔で応じている。
件のモンスターの残骸は魔晄に還っていた。周囲にも他に気配もなく、感覚の鋭いレッド13も尻尾を下ろして警戒を解いているので、危機は脱したと言っていいだろう。
勝利の雄叫びを上げるバレットを横目に、ふぅ、と小さく溜息を漏らすクラウドの耳に、あ、とティファの声が届いた。
「ブレスレット、壊れてない?右腕の方」
「あれ?あ、ほんと!」
よく見れば、エアリスがいつもつけているリングブレスレットが片方、割れていた。先程の攻撃によるものだろうが、指摘を受けるまで気付かなかったということは、破片で切り傷を負うなどの二次被害は起きていないらしい。
「そのままだと危ないよ。外せそう?」
「だいじょぶ。でも、直すの無理そう……」
「いつもつけてたよね。綺麗だなって思ってた」
「ありがと。リーフハウス……スラムの子たちに貰ったんだ」
戦災等で親を亡くした子供たちが集う養護施設に、エアリスはよく顔を出していた。リーダー格のムギという少年を筆頭に、エアリスを中心に輪ができるほどには懐かれていたのを思い出す。大人には教えないという秘密基地の場所を教えてもらうほどだ、何かの折に贈り物を貰っても不思議ではなかった。それを普段から肌身離さず大切に身に着けるのはエアリスらしい。同時に大切な物が壊れたことを残念だと眉を下げるだけでそれ以上は態度に出さないのもまた、彼女らしかった。
「クラウド。何か気がかりなことでもあるか?」
「いや……何でもない。街まであと少しだ。先を急ごう」
「おう。いい加減ベッドの上で足を伸ばして、ゆーっくり寝てぇ」
**
「クラウド?」
見上げる翠色の瞳は無垢で純粋な疑問に満ちており、正面から受け止められず顔を逸らす。
どう切り抜けるか必死に考えを巡らせながら、クラウドの胸中は後悔でいっぱいになっていた。慣れないことはするものではない、と。
クラウドの見立て通り、あれから程なくして街に到着できた。宿も無事に確保でき、現在は各自自由行動の時間である。常であれば、情報収集も兼ねて酒場に顔を出すか、休息を求めて自室に籠るかを選ぶクラウドであったが、今回の彼が選んだのは違う道である。
「何だ」
「遠慮、しない方がいいよ?あれ、気になるんでしょ」
エアリスが指差す先にあるのは、ブレスレットの陳列棚だ。
そう、クラウドは買い出しに赴いたのである。一人ではなく、エアリスに声をかけて。
快諾したエアリスと共に赴き、店も彼自らがアクセサリー屋を選んだにも拘らず、クラウドは何も買おうとしない。当たり前だ、クラウドは自分で何か買いたい物があって店に来たのではないのだから。同時に、それを聞かされていないエアリスが彼の行動に疑問を持つのもまた、当然である。
「いや、そういうわけじゃ、ない」
言いながらも、自分の行動の矛盾には気づいているため、どうも言葉は濁ってしまう。
それを誤魔化しと捉えたのか、エアリスは首を傾げながらも、陳列棚に近寄っていく。
戦闘で使うような特殊効果のあるアクセサリーではなく、ファッション目的のものばかりなのは、クラウドも察していた。むしろ、“だからこそ”その棚を気にかけていたのだ。
「色も、たくさんだね」
「……ああ」
「迷ってる?」
「別に、俺は、どうでもいい」
そう、クラウド“は”、どうでもいいのだ。
横を見て映るのは、赤いジャケットから伸びる白く細い腕。いつもであれば、手首を覆うように二連のリングブレスレットがあるが、今はない。大きな傷が見当たらないのは僥倖だが、いつもある重みがない違和感は、察することはできる。それが大事なものであれば、猶の事。
クラウドは自分の気恥ずかしさを振り払うように、一度瞬きをする。そう、自分の気持ち程度で尻込みをするくらいならば、店に誘うこと自体しなければ良かったのだ、と腹を決めたのだ。
「あんたが、気に入るものがあるかと、思っただけだ」
「わたし?」
「いつも身に着けているものがないと、落ち着かないだろう」
瞠目するエアリスはそこに来てようやくクラウドの意図を察する。
思えば彼は店に来てすぐ、エアリスにこう言ったのだ。「何か欲しいものがあれば言ってくれ」と。心遣いを上手くそれを表に出せないクラウドの不器用さは、エアリスにとって微笑ましくもあり心を温かくもさせる。何よりも優しさを向けてくれることが嬉しい。
一方のクラウドは腹を決めたと言っても、微笑みを向けるエアリスをどうも見ていられず、顔を背ける。背けても、露わになっている耳が赤く染まっているのは、エアリスには丸見えだった。
「ありがと、クラウド」
「……いや、」
「でも、迷っちゃうなぁ。一緒に、えらぼ?」
「……あんたが身に着けるものなんだから、俺の意見は要らないだろう」
「他の人の意見、聞きたいこと、あるでしょ?」
そうして選ばれたのは、以前と見た目には大差のないリングブレスレットだ。
クラウドは二択で提示された色を選んだだけだというのに、エアリスはとても嬉しそうに顔を綻ばせるものだから、胸の内を妙な温かさで満たされてどうにもくすぐったかった。
大切な物
(FF7R・クラエア)
2021/3/20
tomo27vt