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金福演習

全体公開 2268文字
2015-04-10 18:48:26

金福村4月のアクティビティ、金福演習に参加させて頂きます。
読み辛い文章ですが、楽しく書かせて頂きました。企画をして下さった汐田さん、ルチコさん、ありがとうございました。

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バスはごとごとと車体を揺らして市内を通り過ぎて行く。一つ停留所に停まる度に押し込まれていく乗客のうち数人は段差を上って車内の奥、狭い通路に身を滑り込ませてその揺れをやり過ごしている。
僕は座席に腰を沈めて、これから約20分の道のりの暇つぶしにと一冊の文庫本を取りだした。お気に入りの黄色いブックカバーは高校時代の友人からの誕生日プレゼントで、もうかれこれ5年は使い込んでいる。ぱらぱらと紙を捲って171ページ、さああの男が宿敵に掴みかかったところからだ。ページを捲ろうと左手の親指を滑らせたその瞬間、挟んでいたしおりがひらりと本からこぼれ落ちた。
風に乗ったそれは瞬く間に通路へと姿を消し、慌てた僕は膝に乗せていた鞄を掴みあげ座席から腰を浮かせた。
「どうぞ」
頭上から声がして、僕はなんともつかない呆けた声を上げた。見ると一人の青年が僕のしおりを手にこちらに微笑みかけている。どうやら通路に立っていたらしい彼は、彫りの深い顔立ちに大ぶりな鷲鼻を持った青年で小さく蛇の刺繍のあしらわれた黒いニット帽に坊主頭を包んでいる。高身長とまではいかないが、スポーツをしているのか身体に厚みがあって足が特に太い。好青年らしい笑顔を浮かべているが、顔付きの所為かどこか凄みがあって、僕はしどろもどろになりながら彼の骨ばった手からしおりを受け取った。
再び文庫本に目を落とすが、目が滑って全く進まない。先程の青年が気になって仕方ないのだ。目だけを上げて見てみると、座席の傍らの通路に立つ彼の隣にはもう一人、彼より少し背の高い、つり上がった眉が特徴的な金髪の男が立っている。この金髪の男は坊主頭の彼と違って大きなナップザックを足の間に置いており、どうやら旅行客のようだった。
「駅に着いたら俺は北口改札の方にいるから」
坊主頭の彼が傍らの金髪の男に話し掛ける。浅ましい僕は文庫本に視線を向けたままついつい聞き耳を立ててしまう。
「ああ」
「本当は一緒に登場したいところだが」
「そんな事をしたらばれるだろう」
「駄目かな」
「馬鹿」
金髪の男がまるで凄むように、でもどこかむず痒そうに低く唸る。ばれる。ばれる?
「ホームを経由することになるから、結構歩くだろう……荷物、大丈夫か」
「ああ」
彼らだけに分かる会話をぽつりぽつりと交わした二人はそれきり黙ったまま、バスが静岡駅のロータリーへ滑り込むまで一切口を開くことは無かった。僕の前に座っていたご婦人が途中の停留所で降車したが、彼らのどちらもその空いた席には座らず、ぽっかりと空いた目の前の空間が何故か僕の心をざわざわさせた。
ちらりと視線を上げてみると、二人並んで車窓に目を向けている。きっと何か大きな秘密を抱えているのであろう二人の間に垂れ込む空気はまるで音を嫌っているかのようで、僕はそっと音を立てないように文庫本を鞄の中へ仕舞った。



あれ、定期券忘れた。改札の目の前で慌てて引き返して切符券売機へと足を向ける。改札口の周辺は行き交う人々でごった返し、僕は足早に通り過ぎるサラリーマンや学生の間をすり抜けて券売機の前まで辿り着いた。
小銭を放り込んでタッチパネルを連打する。ただいま発券中です。無機質な女性の声が聞こえて、随分と待たされている気分になった。
「おっせーじゃねーかキンジョー!」
すぐ隣で大声がして、僕は思わず首を縮めた。声の主の方を横目で見てみると、その大声とは裏腹に身体の細い長身の男だった。長めの黒い前髪を掻き毟って不機嫌そうにしているその男は何処にでもいそうな男子学生に見えたが、僕はそのまま視線を動かせずにいた。
この黒髪の男の目の前に立ち、キンジョーと呼ばれた男は先程バスで僕のしおりを拾った、あの坊主頭の青年だった。
「シャツ、ボタン締めろよ。フクチャンが見たらがっかりすんだろ。キンジョーがだらしねぇって」
「割とこっちが素なんだがな」
「フクチャンおめーに夢見てんだからよ、ちゃんとしとけって」
……そうだな」
切符をお取り下さい。機械的なアナウンスにはっと我に返り、僕は乱暴に券売機から切符をもぎ取って踵を返した。次の電車に乗らないと遅刻だ、忘れてた。
慌てて改札口に飛び込んだとき、大柄な男とすれ違った。あれ、この男も何処かで見掛けたような。男の背負うナップザックの金具が腕に擦れて痛かったが、今は電車に乗り込むことが先決だ。
鞄を抱え直して走り出した僕の背後で、「久しぶりだな、キンジョウ」とまた何処かで聞いたことのある声が聞こえた。





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ベースの文章

 S系統のバスのなか、混雑する時間。ニット帽をかぶった二十歳過ぎぐらいの男、帽子の端には小さな蛇の刺繍が入っている。スポーツをしているのか体格は良い。客が乗り降りする。隣に立っている金髪の男に何かを囁く。金髪の男はそれを咎める。辛辣な声を出そうとしているが、どこか甘えたような口調。目の前の席があくが二人とも座らない。
 二時間後、静岡駅の新幹線改札口前で、その男をまた見かける。連れの男(先程とは違う黒い髪の男である)が彼に、シャツのボタンを付けるよう言っている。男の胸元を指差し、その理由を説明する。


ありがとうございました。


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