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金福村4月のワークショップ『金福演習』

全体公開 2250文字
2015-04-10 23:05:38
Posted by @801bulbul

金福村4月のワークショップ『金福演習』(http://privatter.net/p/717098 )に参加させていだきました。
汐田院長、企画ありがとうございました❤ #金福演習
※Twisort広告のため再投稿、明らかな誤字のみ訂正しております

ぐら、と目の前の男の頭が私と同じ方向に傾いだ。
秋の終わりの林檎のように赤いニット帽の端に居る蛇が私の方に近づいて来る。
ほんの数秒の間を置いて今度は逆の方向へ、ぐらり。
このS系統バスは、その名の通りアルファベットのSのように角度のあるカーブを幾つも通ってターミナル駅へと向かう。
私の記憶では、もう一つカーブを曲がったところが次の停車場だ。ぐらぁり。
「次はぁ、血流れ坂。血流れ坂」
運転手の間延びした声で告げられた停車場は名が少々物騒で実際いくつか古い怪談もあるのだけれど、誰も驚かない。
そう、誰も。目の前のニット帽の男も、隣の金色の髪の男も、私の連れも、私も。
ここで暮らし慣れた者は別段驚くことはないただの古い地名で、ただの停車場だ。
ざぶざぶ人が吐き出され、同じくらいの人がまた乗り込む。
降りる流れと乗る流れに翻弄された私の背がニット帽の男にぎゅうと押し付けられると、金髪の男の方が「あ」と短く声を出した。
この二人は連れ立ちだったのか。
「どうぞ。空きましたよ」
思わずと漏れた声を引き継ぐようにニット帽の男が愛想よく私と母に席を勧める。
いやいや結構。どうぞ、あなたたちがお座りください。私たちは遠慮するが、金色の髪の男もどうぞと硬い声を重ねた。
「自分たちは、スポーツをしていますから」
なるほど。それにこうしてせっかく親切をしてくれた事を無駄にするのも野暮というものだ。
母も同じように思ったのか素直に礼を言って共に座席に腰を下ろした。

ぐらり。また揺れたけれど、座席の私と通路に立つ彼らが近づくことはもう無い。
時折肩をぶつけたりつつき合ったりしている様は見えるけど、長身の彼らは私からすると随分遠い。
あの蛇も離れてしまった。ああ、寂しいな。私は、動物の中では蛇が一等好きなのだ。
ニット帽の男が、隣の彼に何か一言だけ告げるのが見えた。
喉、いや首元だろうか。何かを見せたのだ。二人にしか見えない何かを。
金色の髪の男も何か言ったようだが、むろん聞こえはしない。
長旅で退屈した私は、ずいぶんと露骨に見てしまっていたようだ。
二人は揃ってもう一度こちらを見ると、一方は愛想よく、一方は不器用そうに笑った。


さて、私は数時間の後に彼らの片割れと再会する事になる。
出迎えに来てくれた父と私たちがやっと行き会えた静岡駅の新幹線改札口での事である。
「やっぱりこだまじゃ時間掛かるなあ。次はのぞみで乗り換えにしようかしら」
「お前、この前もそう言ってたけど面倒だって言って結局こだまにしたじゃないか」
久方ぶりの再会に声を弾ませる二親に背を向けていた私の目前を見覚えのある人が横ぎった。
ニット帽はもう無いけれど、確かにあの彼だ。蛇は、彼の右耳の上からどこに行ったのだろう。
そんな私の思いも知らず、彼は待ち合わせたらしい一人の男へと駆けて行く。
「何なの、ソレぇ。ボタン閉めろよ」
二人の挨拶よりも先に不機嫌な声が聞こえ、私は思わず身体を乗り出した。
何だろう。指さされている彼の首元の「ソレ」は蛇より素敵な物だろうか。
ねえ、それって何?なぁに、それ!
思うままに問いかけると、二人は私を見た。
ねえ、私の事、憶えている?
それは言葉にするまでもなく、彼はにっこりと笑った表情で答えに替えてくれた。
そして、私の知りたかった「それ」とやらを見せつけるように襟を開く。

ああ、すごい!赤い道だ。彼の骨の窪みに赤い道がある。
私たちが逢ったあのS字系統バスのように乱暴に曲がった爪痕。
どうやってつけたのかしら。金色の髪の男は、それを見て何て思ったのかしら。

「ばっか、何てもん見せてんだよォ!」
「いいじゃないか。わかるものじゃないさ」

何だか失礼な事を言われているけれど、まあ仕方がない。
だって、私は。

「あの子は、ほんの赤ん坊じゃないか」

父と母の声もだんだん遠くなってきている。
「ママ、ゆうあちゃんがもうおねむみたいだよ」
「あら、本当。今日はたくさんお出掛けして疲れちゃったのかしらね」
「久しぶりの実家だからね。そちらのお母さんたちも大はしゃぎだっただろう」
「まあね。この子、とにかく人見知りしないから」

あの赤い道はどこかに続くのかしら。誰か、それを知っているのかしら。
いいわ。今日はもう眠ってしまおう。

だって私にはバカバカしいくらい、たくさん時間があるのだから。


END


ベース文章
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 S系統のバスのなか、混雑する時間。ニット帽をかぶった二十歳過ぎぐらいの男、帽子の端には小さな蛇の刺繍が入っている。スポーツをしているのか体格は良い。客が乗り降りする。隣に立っている金髪の男に何かを囁く。金髪の男はそれを咎める。辛辣な声を出そうとしているが、どこか甘えたような口調。目の前の席があくが二人とも座らない。
 二時間後、静岡駅の新幹線改札口前で、その男をまた見かける。連れの男(先程とは違う黒い髪の男である)が彼に、シャツのボタンを付けるよう言っている。男の胸元を指差し、その理由を説明する。
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