@kohakky_n_zwei
(……しくじった)
空堵に囮になってもらって、その間に、私が内部を調べる。
そういう、計画だった。
だけど。
(しくじった)
今こうして拘束されてるってことは――私は、しくじったんだ。
男が注射器片手に近づいてくる。
(どうせ、毒か何か。弱らせる為だろうから、即死の可能性は低い。……無駄なこと)
何をされたところで、私は何も吐きはしないのに。
無造作に頭を掴まれ、首に針が刺さった。冷たいものが、中に入ってくる。
抵抗は、しない。したところで、手足には、枷。無駄な、足掻き。
カラン、と空になった注射器が、床に転がる。
これから先は、いくら喚こうが暴れようが、意味はない。
――忍耐力の問題、だから。
体中を駆け巡る痛みに意識を呼び起こされ、顔を顰めた。
首筋を、汗が伝う。息が、荒い。
体にマグマを流し込まれたような、内側から肉を引き裂かれるような、激痛。
多分、先程までそれのせいで気絶していたのだろう。そして、その痛みで今、意識を覚醒させられた。
手足の感覚が、ない。麻痺してしまったかもしれない。
苦痛を紛らわすように、辺りを見回す。男の姿は、ない。
「パチュリー!」
聞き覚えのある声がした。ぼんやりとした視界に、黒髪の青年が映る。
「そら、と……」
(囮に、なった筈じゃ)
上手く言葉にできないでいると、空堵は近づいてきて辺りを見渡し、片腕を異形へと変えた。
「壊すから」
「……敵は?」
「逃げられたよ」
「そう」
枷が床に落ちた。ガコン、と重厚な音が響く。
下半身がなくなったような、そんな感覚がした。
急に支えがなくなり力が入らず、倒れそうになったところを、空堵に抱きかかえられた。
「大丈夫か?」
「毒を入れられただけ。放して」
「駄目だ。足が動いてないだろ」
離れようとする私を、彼は放さない。
「もう体に回ってる。戦力にはなれない。……どうして助けたの。見殺しにしてくれたって」
そこまで言って、言葉を止めた。彼の手がぴくりと反応する。
しまった。
そう、思った。
空堵は、あのとき自分が日下昴を見殺しにしたと、きっと、考えてる。罪悪感に苛まれ続けている。
「なら尚更駄目だ。……見殺しなんて、したくない」
彼の声が暗くなった。その声からは、震えも感じる。
目を見るのが怖くて、私は、顔を逸らした。
「ごめんなさい。こんなときに、余計なこと、思い出させて」
「いいよ、べつに」
そう言ったっきり、空堵は黙った。
この沈黙は、居心地が悪い。すごく、嫌だ。
このまま、いづらい空気のままでいるくらいなら、意識が飛ぶまで、死ぬまで、殴られた方がましだ。お前のせいだと、八つ当たりされていた方が。
そう、思っていたのに。
結局、どれ程待っても、彼は、私を殴ってはくれなかった。