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苛むもの

全体公開 1148文字
2021-03-24 07:13:12

……しくじった)
空堵に囮になってもらって、その間に、私が内部を調べる。
そういう、計画だった。
だけど。
(しくじった)
今こうして拘束されてるってことは――私は、しくじったんだ。
男が注射器片手に近づいてくる。
(どうせ、毒か何か。弱らせる為だろうから、即死の可能性は低い。……無駄なこと)
何をされたところで、私は何も吐きはしないのに。
無造作に頭を掴まれ、首に針が刺さった。冷たいものが、中に入ってくる。
抵抗は、しない。したところで、手足には、枷。無駄な、足掻き。
カラン、と空になった注射器が、床に転がる。
これから先は、いくら喚こうが暴れようが、意味はない。
――忍耐力の問題、だから。

体中を駆け巡る痛みに意識を呼び起こされ、顔を顰めた。
首筋を、汗が伝う。息が、荒い。
体にマグマを流し込まれたような、内側から肉を引き裂かれるような、激痛。
多分、先程までそれのせいで気絶していたのだろう。そして、その痛みで今、意識を覚醒させられた。
手足の感覚が、ない。麻痺してしまったかもしれない。
苦痛を紛らわすように、辺りを見回す。男の姿は、ない。
「パチュリー!」
聞き覚えのある声がした。ぼんやりとした視界に、黒髪の青年が映る。
「そら、と……
(囮に、なった筈じゃ)
上手く言葉にできないでいると、空堵は近づいてきて辺りを見渡し、片腕を異形へと変えた。
「壊すから」
……敵は?」
「逃げられたよ」
「そう」
枷が床に落ちた。ガコン、と重厚な音が響く。
下半身がなくなったような、そんな感覚がした。
急に支えがなくなり力が入らず、倒れそうになったところを、空堵に抱きかかえられた。
「大丈夫か?」
「毒を入れられただけ。放して」
「駄目だ。足が動いてないだろ」
離れようとする私を、彼は放さない。
「もう体に回ってる。戦力にはなれない。……どうして助けたの。見殺しにしてくれたって」
そこまで言って、言葉を止めた。彼の手がぴくりと反応する。
しまった。
そう、思った。
空堵は、あのとき自分が日下昴を見殺しにしたと、きっと、考えてる。罪悪感に苛まれ続けている。
「なら尚更駄目だ。……見殺しなんて、したくない」
彼の声が暗くなった。その声からは、震えも感じる。
目を見るのが怖くて、私は、顔を逸らした。
「ごめんなさい。こんなときに、余計なこと、思い出させて」
「いいよ、べつに」
そう言ったっきり、空堵は黙った。
この沈黙は、居心地が悪い。すごく、嫌だ。
このまま、いづらい空気のままでいるくらいなら、意識が飛ぶまで、死ぬまで、殴られた方がましだ。お前のせいだと、八つ当たりされていた方が。
そう、思っていたのに。
結局、どれ程待っても、彼は、私を殴ってはくれなかった。


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