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いない朝(王国心・クラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 1713文字
2021-03-27 23:51:49

ワンライお題「寝坊する」

Posted by @tomo27vt


個々に割り当てられた部屋を出て、ひとつしかない階段を下れば、すぐリビングに出る。階下の気配に誰かがいることを感じながら降りれば、予想通り、人がいた。ただ、クラウドの予想していた人物ではなかったので、ほんの少しだけ意外に思う。

「おう、おはようさん」
……ああ」

しゃがれた声の挨拶に軽く声を返す。目もろくに合わせない素っ気ない応答は、しばしばユフィから小言を受けるのだが、シドは特に気に留めずに、大きな欠伸をしながら珈琲を啜っていた。
別段、シドが早朝に起きているのは珍しいことではない。エンジニアの彼は、街の復興をシステム面から促そうと日夜唸りながらパソコンの前で作業している。それが夜を徹して行われていることも少なくなかった。目の下の隈と言い、全身に気怠さを纏った姿と言い、昨夜も徹夜仕事だったのは見て取れる。

(いない)

リビングから続くキッチンを覗けば、そこには誰もいない。コップを拝借して蛇口を捻って水を入れながら、もう一度意外に思う。朝にはいつも、エアリスの姿があったのだから。

(花の様子でも見に行っているのか)

クラウドの起床時間はまちまちだが、いつもエアリスは先に起きていた。眠そうにしていることは稀で、にこやかに微笑みながらクラウドに着席を促し、自分の分と合わせて朝食を用意してくれるのだ。あまりにも早いので一度理由を聞いた際、花の世話があるからだと言っていたので、外にいるのかもしれない。
様子を見に行こうか一瞬考えてすぐやめる。花の名前も碌々知らない自分に何かできることがあるようには思えなかった。

(朝食……人に出せる腕前でもないのにか?そもそもまだ寝ているかもしれない)

昨夜も遅くに帰ってきたクラウドを、エアリスは笑顔で迎えてくれた。いつもと変わらないように見えたが、ひょっとするとどこか具合が悪かったのかもしれない。
最近はレオンたちと一緒に復興委員会を立ち上げたと聞いている。シドの忙しさもそれが起因しており、エアリスも何事か忙しそうにしていた。クラウドには役割を割り振られていないが、乗り気でない自分を察してくれているのだろう。何かした方がいいか尋ねた際も、やんわりと断られた。すぐに諦めるのではなく、もう少し進んで聞いた方が良かったのかもしれない。

「なァに突っ立ってんだ」

背後から声がかかってハッとする。振り返れば、食器を抱えたシドが佇んでいた。そこで自分にシンクに突っ立ったまま考え込んでいたことに気付く。思えば、水を飲んでもいない。何となく気恥ずかしくなり、コップを持ってシドの横を通り抜ける。抜けようとするも、呼び止められた。大人しく立ち止まれば、どこか呆れを含んだ目を向けられる。

「気になるってんなら様子を見に行きゃいいだろーが」
「は?」
「今日はまだ寝てらァ。最近、気張って早起きしてっからな」

何のことだ、と問うのは容易い。容易いが、どうも口が上手く動かなかった。口振りから、悶々と考え込んでいる原因を察せられているのだろうが、理由はわからない。
言いたいことを言い終わったシドは背を向けていて、何事か唸りながら食器を洗い始めている。どうしたものかと迷うクラウドの耳に、階段を下りてくる足音が届いた。

「あ、クラウド!」

降りてきたのはエアリスで、クラウドを見止めた途端、ぱっと顔が明るくなる。変わる前の表情は不機嫌でもなかったが、クラウドがいることで笑顔になったのは明白だった。どうも胸の辺りがむず痒い。佇んだままのクラウドに、エアリスは軽やかな足取りで駆け寄ってきた。

「おはよ。早いね」
「あんたは、ゆっくりだな」
「えへへ。寝坊、しちゃった」

照れ臭そうに笑うエアリスは別段顔色が悪いわけではなく、むしろほんのり赤く染まっている。体調不良ではなさそうだと、クラウドはそっと安堵した。
話し込み始める二人には、キッチンにいるシドの姿が見えていない。シドもまた、認識されていないのを察し、割って入るか少し待っているかと迷いながらもう一度大きな欠伸をした。


いない朝
(KH・クラエア)
2021/3/27
tomo27vt


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