ワンライお題「あくびをする」
@tomo27vt
そっと顔が背けられたのは時間にしてほんの少しだったろう。会話が途切れた瞬間のことで、別段不自然な動きでもない。手元の珈琲に目をやっていれば恐らく気付かなかったはずだ。ただ、それをしたのがエアリスだったから、クラウドをいつもまっすぐ見つめてくれる彼女だったから、クラウドは気づいたのだ。
生まれた違和感は飲もうとしていた珈琲から、対面しているエアリスに目線を移させる。目で追えば、口元を両手で覆って遠慮がちに口を開けるエアリスが見えた。間の抜けた小さな声と言い、目元に滲む涙と言い、それは紛うことなき“あくび”である。
「すまない。随分話し込んだ。もう寝た方がいい」
窓から覗く月が気付けば天高く昇っている。レオンたちと街の復興に尽力するために毎日朝早く起きて活動しているエアリスが眠くなるのは当然のことだ。クラウドは席を立とうとするも、「待って」と制する声で一旦止まる。
「だいじょーぶだよ。もう少し、話そう?」
小さく首を傾げて笑顔で、念を押すように、ね?と続く。一見すると常と変わらない。だがよく見れば、常であればぱっちりと開かれた瞳は瞼が重く降りてきているし、表情そのものに一日の疲労が滲んでもいる。
容易く折れそうにないエアリスに、クラウドは中腰のままだった姿勢をひとまず席に下ろしてエアリスに向き合う。
「……無理をするな」
「無理じゃないよ。クラウドと話すの、楽しいもん」
言い含めようとするも、エアリスは不満げに頬を膨らませて反論する。
エアリスの言葉自体に嘘はないのだろう。元々腹の底で抱えながら素知らぬ顔で嘘を着くような人間ではない。長い年月離れ離れになった旧友である自分との再会を心から喜んでくれていることは知っている。何かと交流してくれることには喜びを覚えてもいるのだ。
だからと言って、エアリスに無理を強いたくなどない。彼女の疲労を気付かなかった自分に苛立ちを覚えながら、諭すように言葉を続けた。
「たいした話はしていないだろう」
「そんなこと、ないよ。
クラウド、いろんなこと見たでしょ。わたしの知らないこと、たくさんだもの」
「だったら、明日にしよう」
代替案に、エアリスが瞠目する。その場しのぎだと自分でも感じていただけに、エアリスの動揺が想定外で、クラウドは内心首を傾げた。
「あした」
「話くらい、明日でも出来るだろ」
「うん……そうだね、うん。わかった」
噛みしめるような言い草にやはり首を傾げながらも、頷いて了承の言葉を返すエアリスにひとまず安堵し、今度こそ立ち上がった。食器を重ねていると、エアリスも手を貸してくれ、流し場に運ぶのを手伝ってくれる。
「クラウド」
「何だ」
「明日もお話、しようね」
「……内容には期待しないでくれよ」
並び立つエアリスの笑顔が、眩しいほどに嬉しさを満面に出していて、何となくこそばゆい心地になる。その心地を悟られまいと、ついぶっきらぼうな返答をしてしまうも、エアリスは小さく笑うばかりだった。
また明日。
(KH:クラエア)
2021/4/17