ワンライお題「ぬいぐるみ」
@tomo27vt
朝目覚めて自室を出ようとした時から、階下に複数の気配があることに気付いていた。戻りそうな足を叱咤したのは、単純に住人の大半とロクな会話をしていない日が続くのはまずかろうという体裁を考えただけだ。前日にシドからかけられた言葉の影響も少なからずある。レオンが街の外の現状を知りたがっているから会った時にでも教えてやれ、と。
そうして階下に降りたクラウドの目に最初に映ったのは、リビングの長机で並んで座るレオンとエアリスの姿であった。
「おはよう、クラウド」
「おはよう」
「……おはよう」
クラウドの姿を見止めたエアリスがまず笑顔で、隣のレオンもぶっきらぼうに挨拶をする。小さく返しながらも、対面ではなく横に並んで座る二人の距離の近さが妙に目についた。
顔同士を触れ合いそうなほどの距離で、向かい合って座るふたり。
同じ孤児院の出で、幼少期を一緒に過ごしたことから兄妹のような感覚だと聞いた覚えはある。だからこそだろうが、そうとわかっても心が妙にざわめいた。
よく見れば、レオンは顔というよりもエアリスの膝の上に視線を向けているようだ。視線を下ろせば、そこにはピンク色のクマのぬいぐるみが鎮座している。
「……それは?」
「かわいいでしょ」
「あんたのか」
「うん。昔、シドから貰ったの。みんなの分もあるよ」
膝の上に置いたままぬいぐるみの片手を持って、フリフリと手を振らせる。幼い仕草だが、妙にしっくりと来る気がするのは不思議なものだ。
「レオン、お裁縫得意だから、治療、手伝ってもらってたんだ」
ぱっと見たところ、ふわふわと柔らかなそうな毛並みや大きめの手足、頭の上にちょこんと乗ったリボンなど、特に不自然なところは見られない。治療は終わったにしても、縫い目等の治療の跡も見受けられなかった。
「どこか可笑しかったのか」
「腕の所。ちょっと、ほつれちゃって」
「見た目にはわからないな」
「レオン、器用なんだよ」
「ほとんどエアリスがしていたけどな」
「そんなことないよ」
言いながらエアリスはぬいぐるみを持ったまま立ち上がり、戸棚に近づいていく。本が数冊立てかけてあるのみだったはずのそこには、同じようなサイズのクマのぬいぐるみが4体並んでいた。サイズは似ているが、エアリスが抱えるものと同じピンク色の毛並みのものが1体、茶色の毛並みのものが3体、そしてそれぞれで微妙に小物も違っている。
「こんなにあったのか」
「汚れちゃってね。綺麗にするの、ちょっと時間かかっちゃった」
「大変じゃなかったか」
ぬいぐるみはどれも見るからに柔らかそうで、エアリスの言う汚れも感じられない。素材的にも洗濯機では洗い難そうだが、ひとりでこなしたのだろうか。
エアリスは笑って何も言わず、代わりに茶色のクマを手に取った。
「この子、クラウドに会ってもらいたかったんだ」
茶色のクマの手を取って、ふりふりと手を振る。その茶色のクマは、背中に剣を抱えていた。
他のクマは、エアリスの抱えるクマが赤いリボンをつけており、もう1体のピンクのクマが鉢巻を巻いている。棚にある茶色のクマの片方は腹巻をしており、もう1体の方は黒いジャケットを着ていた。クマたちは、クラウドを含めた家の住人全員を模しているのだ。
「小物、あんたが作ったのか」
「頑張ったでしょ」
「器用だな」
少しばかり胸を張って得意げに笑うエアリスに、クラウドの口元が自然と緩む。
エアリスはそっと胸元のぬいぐるみ2体を棚に置いて、他の3体と一緒に並べる。背中に剣を抱えた茶色のクマは、赤いリボンのクマと腹巻を巻いたクマの間だ。
「ホントはね、レオンに手伝ってもらったの」
「……よく手伝ってもらうんだな」
「危なっかしく見えるんだって。レオン、上手でしょ」
そっと耳打ちされた事実は、言わなければわからないのに、誰かの助けを得たことを自分の成果にできないのは彼女らしい。恥ずかしさもあるのか少し頬が赤く染まっても見えた。
微笑ましいエピソードの筈だが、何となく心がまたざわめくのを感じる。
自分でも理由がわからず、内心首を捻るクラウドをよそに、エアリスはクラウドの手を引いて、朝食が並ぶ食卓へと誘うのであった。
心はずっとそばに。
(KH・クラエア)
2021/4/24