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聖域に入り込む輩(Rクラエア)

全体公開 FF7(クラエア) 1716文字
2021-05-09 00:04:39

ワンライお題「聖域」

Posted by @tomo27vt






*R「エアリス、その男は誰だ」という台詞の男視点


エアリスという女性を、五番街スラムに住んでいる人間で知らないものはいないだろう。
不毛な土地と化しているミッドガルにおいて、生花を育て販売している珍しさも勿論あるが、彼女を知る人がまず注目するのは、彼女の人柄だ。
いつも笑顔を絶やさず、触れ合う人々の心に小さな灯りを点す、いたわりに満ちた心。
自分より一回りほど大きい外見の男にも物怖じしない、楚々とした外見にそぐわぬ肝の強さ。
少々無茶をしがちな危なっかしさもあるが、自身の力量を認識できる冷静さもある。
食堂の手伝いや孤児たちの世話などを頼まれている姿をしばしば見かけるが、それだけ頼りにされており、それに応えられている信頼から来るものだろう。
定期的に、“プレートの上”の人間が彼女を訪ねてくることを大体の住人が知っている。彼女が何某か“特別”な人間だろうことを察しながら、腫れ物に触るような態度を誰も取らないのは偏に彼女が築いた信頼と、それから成る愛情ゆえだ。
そんな彼女の笑顔を曇らせるようなことはさせたくないし、あってはならない。
自然な心情だろうと、五番街スラムの住人の一人である男は思う。

「エアリス、その男は誰だ」

ポツリと出た言葉は思いのほか大きく、それでいて驚き以上の感情を孕んでいて、口にした男自身も戸惑いを隠せない。
振り返りもせずに通り過ぎたエアリスを見るに、彼女の耳には届いていないらしい。だが、隣の男は届いたのだろうか、様子を伺うように男の方向に目線を送ってくる。その位置があまりに的確で、男は目を合わせないようとっさに背を向けた。

(その男は、誰なんだ、エアリス)

身の丈ほどある巨大な剣を背負う、金髪の男。
見かけたことはない。ただ、鋭い眼光や担いだ武器の使い込まれた雰囲気、一言聞いただけで声の主の方向を看破できる感覚の鋭敏さなど、只者でないことは明白だ。
だがその男の隣に立っていたエアリスは朗らかに微笑み、自分から男の手を引いてもいた。
随分と親しそうなように見えたが、花を売りに時折プレートの上の街に出ている時にでも出会ったのだろうか。
ザワザワと胸騒ぎが止まらない男の脳裏には、過去に起こった出来事が浮かぶ。

(また傷ついてしまわないか?)

何年前だったろうか。
突然スラム街に現れた男は今回のように、エアリスが連れてきていた。
黒髪で、人好きのする笑顔を振りまいていた男だった。しかし、人の心にするりと入り込む術を知っていたらしい。エアリスは男とよく行動を共にするようになっていた。住人も何人かは問題を解決してもらったというが、その際もエアリスが傍らにいたという。仲睦まじい様子を目撃されていた二人だったが、程なくして男は姿を見せなくなった。
無責任な憶測が流れたがエアリスに直接ぶつけるような不躾な輩はいない。ただ、様子程度は問われる。その度彼女は何でもないように気丈に振舞ってはいたが、ふとした時、どこか遠くを見てため息をついたり憂いを帯びた瞳でぼんやりとしたりとした姿は見かけられた。確かにあの時エアリスは傷ついていたのだ。
金髪の男に、どうしてもその男の影を見てしまう。黒髪の男と同じような大剣を背負っているから尚更だった。

(エアリス……

そっと振り返る。エアリスと金髪の男はまだ街中央部の広場にいた。
しかしエアリスは金髪の男の手を引き、歩き出す。その男に向ける笑顔は遠目で見ても、住人に向けるどの笑顔とも違っているのがわかって、男は思わず息を飲んだ。

白い頬を薄らと赤く染めて、緑色の瞳はそっと細められ、楽しそうに幸せそうに、今抱く気持ちを噛みしめるような笑顔。いたわりとは明らかに異なる、感情。
金髪の男は引かれるがまま、大人しくついていく。表情はよく見えない。
素性の知れぬ人間への不安はあるもののしかし、エアリスの笑顔を崩すことなどできるはずがなかった。いつも幸せを与えてくれる彼女の幸せを、崩すことなど。
男はただ、歩いていく二人を見守ることしかできなかった。


聖域に入り込む輩
(FF7R:クラエア)
2021/5/8


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