@shikanoko_aki
「は!?ウソでしょ!?ウケる〜」
ギャルのような口調、というかまごう事なきギャルなのだが。亮の神妙な相談事を笑い飛ばしたのは級友の南風だった。
「こらこら。笑っちゃダメでしょ。亮さんは真剣に悩んでらっしゃるんですよ?」
のほほんと南風を嗜めるのは、これまた級友の華。煌びやかで目立つ南風とは対照的に、物腰も雰囲気も柔らかな華であるが、不思議なことに、彼女らは幼馴染で腐れ縁だった。
「だって、亮ちん。まだ、初潮きてないってあり得る?アタシらもう、中三よ?」
「な、なんぷー!?こ、声が大きいっ…!?」
亮は泣きそうな顔をしながら、モデルのように小顔な彼女の口を、手のひらで必死に塞いだ。
ここは亮らが通う女学院の教室内であり、昼休みの今、他生徒たちも多くいる。こんな恥ずかしい話を、クラスメイトらに知られるのだけは避けたかった。
「これはデリケートな問題なのですから、茶化してはいけませんよ。姫」
ぺちんと、華が南風の頭を軽く叩いて叱る。ちなみに、姫とは彼女のあだ名である。事実、お姫様のように華奢で可愛いので、皆からそう呼ばれている。のではあるが、華のその呼び方だけは、何故だか含みがあるように聞こえてならなかった。
「や、やはりおかしいだろうか…?周りはもう、みんなきているのにわたしだけ……」
不安で堪らない亮は、華に泣きすがるような視線を向けながら、南風の口元を押さえつける手にグッと力を込めた。
「まあ、人それぞれですので。あまり思い詰めずに。少数派ですが、亮さんみたいにまだの方もいます。ただ……」
「……ただ?」
亮の目を見て話していた華が、不意にその視線をフッと落とす。その瞳に映る先を、亮が確かめようとしたその時。
「―――って、いい加減放しなさいよ!?アタシを窒息死させる気!?」
「あ。ごめん……」
息苦しくなった南風が耐えかねて、亮の目前で暴れ出す。振りかぶられた両腕は、亮の柔らかな胸部に当たり、そこにある贅肉をぶるんと大きく揺らした。
「……それだけ、発育がよろしいのに不思議だなあと思いまして」
「―――!?」
まじまじと亮の胸を眺めながら、華はまるで哲学的な疑問に頭を悩ませるように、大袈裟に首をかしげた。
一方、亮はといえば。それはそれは、顔を真っ赤にして、両腕では到底収まり切らない自前の胸をギュッと抱きかかえ隠す。そう。亮はどこに出しても恥ずかしくないレベルの、立派な巨乳娘だったのである。
「そうよ。そんな下品なパイオツしておきながら、まだ初潮前のガキだなんて。マジウケる」
「す、好きで大きくなったわけではないっ!?」
涙目になりながら、亮は南風へキツい口調で言い返す。しかし、彼女には亮の可愛らしい怒声など微塵も効果がないのであった。
この中学生にしては大きすぎる胸は、亮にとって大いにコンプレックスであった。幸いにもここは女子校であるが、外を歩けば、たちまち男の視線は自分の胸元へと集中する。初心な亮にしてみれば、それは泣きそうなくらい羞恥的な状況だった。
「贅沢なヤツね。そのたゆんたゆんなお肉、少しはアタシによこしなさいよ!?」
「ひゃあっ!?ちょ…やだっ……!?なんぷーちゃん、おっぱい揉まないで〜!!」
八つ当たりとばかりに、南風は亮のメロンのような両乳を鷲掴みにし、揉みしだいた。まあ、女子校ではよくある光景なのだが、南風と違って大人しい性格の亮はすでに涙目である。
「もう、姫ってば。亮さんを虐めたって、姫がまな板な事実は変わりませんからね〜」
「は?いい度胸ね。華。あんただって、大したことないじゃない!?」
「僕は着痩せするタイプなので」
「ウソよ!?ちょっと、見せなさい!?」
「二人共、喧嘩しないで〜!?」
グイグイとセーラー服の襟を引っ張って、強引に脱がせようとする南風と、飄々とまるで気にする素振りのない華。そして、二人の間に挟まれてオロオロするだけの亮。うちのクラスの日常だった。
「やはり、大人な昭兄に相談してみた方が良いのかな?」
「はあ?アンタ、兄貴にそんなことまで話してんの!?姉貴がいるでしょ」
「師姉はいつも家にいるわけじゃないから…」
亮は三人兄弟の末っ子だった。姉と兄が一人ずつ。亮だけが随分と歳が離れていて、兄は十、姉は十三も歳上だった。
姉は現在家を出ており、実家にいるのは亮と昭兄だけ。師姉は彼氏と同棲しているらしい。
「亮さんは筋金入りのブラコンですからね〜」
「キモッ」
「だ、だって!昭兄は優しくて、か…かっこいいし……」
ブラコンであることは否定しない亮なのである。なにを隠そう、優しくて妹想いな兄は亮の初恋の人だった。兄になら、どんな悩みだって話せた。
「確かに。アンタの兄貴、イケメンなのよね〜。今度、紹介しなさいよ」
「絶対に嫌だ!!」
亮にしては珍しく、キッパリと拒絶を示す。南風に兄を紹介したらマズいことくらい、ふわふわな亮の頭でも解る。
南風には五人も彼氏がいるらしい。本人は彼氏ではなく下僕と言っているが。イケメンにはとりあえず手を出しておく。そういう女なのだ。と、神妙に語って聞かせてくれたのは華だった。
「ケチ!ま、いいわ。男なんか腐るほどいるんだし」
「本当にあなたは悩みがなくていいですね〜」
「当然。ちっさいことで悩んでるのなんか、時間の無駄よ。亮ちんもそんなことで、ウジウジ悩むんじゃないわよ」
「うぅ……」
言い方はキツいが、南風なりに亮を慰めてくれているのだろう。二人共、性格はまるで違うが、どちらも亮の大事な級友だった。
「それに、初潮がまだだとイイコトだってあるじゃない」
「いい…こと……?」
ニコニコと本物のお姫様のような微笑みで、南風は亮の肩をポンと叩く。黙っていれば、南風は学園一、否、それ以上の美少女だった。
「……中出しし放題よ!」
「ひーめー?」
目にも止まらぬ速さで、華が南風の頭を引っぱたいた。めちゃくちゃ痛がっている様子から見るに、今度のは本気の一撃だったらしい。
それはそれとして、亮はキョトンと目を丸くしていた。まるで無垢な子供のように。
「……なかだしってなに?」
「「はい!?」」
二人が息をピッタリ合わせ、驚愕の声を上げたものだから、亮も自分が変なことを言ってしまったのだろうとなんとなく察した。けれど、二人の会話の内容は正直よく分からなかった。
「……ほんと、亮ちんってふわふわね」
何故か、南風も華も自分のことを「ふわふわ」と形容するのだ。その意味は理解していない亮だったが、別に不快さ感じないので気にしていなかった。
だって、ふわふわなものってだいたい可愛いから。