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Side Story ver.00

全体公開 1554文字
2021-05-16 15:28:15

「幸福の証明」


私の人生は幸福だったのだろうか。

そのすべてを研究に捧げ、日々夢中で謎に向き合った。
過程で得られる実証は多くの充足感をもたらし、それを糧に新たな境地に至ることがこの上ない喜びだ。

妻とは大学で出会った。
当時学生だった彼女は勉学熱心で、利発で聡明な彼女から投げられる質問はとても気持ちがよく、時に発見をもたらしてくれた。
入学まもなく私のゼミに所属した彼女は毎日のように顔を出し、ときには研究をともにおこなった。
あれは彼女にとってのアプローチだったらしいのだが、研究以外まるで興味がなかった私がそれに気づくはずもなく。
卒業と同時に交際を迫られた際には目を白黒させたことを今でも鮮明に思い出す。

『交際とは、具体的にどのようなことを行うのだろうか』

真面目な顔で返す私に彼女は思いっきり吹き出し、顔が真っ赤ですよ。ところころと愉快そうに笑う。
まったく理解は及ばないにもかかわらず自身の鼓動が不自然に高鳴っていることに気付き、なるほど。これが恋というものなのか。
そう呟けば耐えきれないとばかりに彼女は大声で笑った。









それがいつからだろうか、妻とはすれ違ってしまった。
あの場所への研究があまりにも私を執着させてしまったのだ。
睡眠を忘れて没頭する様子に最初こそ心配して寄り添ってくれていた妻だが、長い放浪を繰り返しては部屋で癇癪をおこし本を壁に投げる私にとうとう愛想を尽かしてしまった。

『きっとあなたは何かに取り憑かれているわ』

怯える息子の手を握り、妻は私のもとから去った。
いかないでくれ、一緒にいてくれ。そんな言葉を伝える資格は私にはない。
無駄に広く感じる部屋に取り残されて胸を締め付けられるように苦しいのに、頭にこびりついて離れないのはあの場所だ。

行き場のなくなった者たちがたどり着くといわれる、終末の楽園。
カルト要素があまりにも強いにも関わらず深層意識で民衆に"あるもの"だと認識された場所。
時代錯誤にもほどがある。だが私もまたその存在を信じているのだ。
だからこそ、研究者として断じて認められない。
この目で確かめない限り。解を導き出さない限り私は私でいられない。




そんなある日、姪が私のもとに尋ねてきた。
どうやら姉が失踪してしまい懸命に捜索をしているらしい。
弟とは元々そりが合わず疎遠であったが、そういえば先日娘を預かってほしいと電話があったことを思い出す。
約束の日に来なかったのでその話はなくなり丸く収まったものだと考えていたが事は深刻そうだ。
なにやら姉が思い詰めていたこと、なにも持たずに飛び出していってしまったこと。
くまなく探しているにも関わらず目撃情報すらないこと。
その情報で、ひとつの可能性にたどり着く。

__もしかしたら。

独り言ちた私は文献を読みかえし、荷物もそこそこに走り出す。
たどり着けるかもしれない。あの場所に。
ついにこの眼で確かめられるのだ。
高揚していたわたしは姪を一人家に置いてきたことも、その少女が散乱した文献にかじりつき
くまなく目を走らせていたことにも気がつかなかった。













立花 栄幸 201〇年失踪
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イメージソング:命ばっかり
https://youtu.be/_9mI6hlQg9Y
動画使用BGM: https://youtu.be/dKC8_OS9bK8


間違いなくわたしは幸せだった。
離れていてもわたしたちは家族だ。
妻を、息子を、愛している。


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