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第11回真夜中のお題交換会 お題【涙】

全体公開 ダンユウ作品 3995文字
2021-05-26 16:12:56

CP:dnyu
ダンデさんがバトルタワーを作った理由が、「またユウリちゃんと戦いたいから」だったら素敵だな、と思いながら書きました。
ユウリちゃんはほぼ出てきません。ダンデさんのお話です。

 熱狂的な歓声の渦に包まれていた会場は、しんと静まり返った。
 エースバーンがダイマックスを解き、身軽に着地する。
 無敵だったオレのリザードンは、火の粉をまき散らしながらキョダイマックスを解き、その場に倒れ伏す。
 チャレンジャー・ユウリの勝利の瞬間だった。

 リザードンはモンスターボールに戻っていく。チャレンジャーは喜びを爆発させてエースバーンと抱き合っていた。会場のどよめきが拍手へと変わって、興奮した歓声がオレたちに降り注いだ。

 オレはリザードンをボールに戻した。キャップで顔を隠し、込み上げてくる様々な感情と涙を根性で抑え込む。
 泣いている場合じゃない。笑え。祝え。新しいチャンピオンの誕生だぞ。笑うのは得意だろう?大丈夫。オレはチャレンジャーに歩み寄り、彼女の手を取り天に掲げた。
 小さく細い、華奢な手。
 その手がガラルの歴史に残る偉業を達成したのだ。


◇◆◇◆

「な、オマエこれからどーすんの?」
 その翌日。新しいチャンピオンの誕生を祝う立食パーティで、オレはキバナに声をかけられた。
 新チャンピオンは大勢の大人に囲まれている。一方、チャンピオンでは無くなったオレの近くにいるのはキバナだけだった。オレはキバナに飲み物を手渡し、二人、壁に寄りかかる。
「そうだな。考えた事も無かったぜ。ま、これから時間はあるだろうからな。のんびりするさ」
「ふーん」
 オレの話を聞き流しながら、キバナは飲み物を煽る。その目が僅かに赤く腫れてることにオレは気づいた。
「キバナ……泣いたのか?」
「あ゛?」
 キバナの蒼い瞳が一瞬だけオレを睨めつけて、そして誤魔化すように床を見た。
「ったく、相変わらずの観察眼だぜ。上手く化粧できたと思ったんだがな。……気づいたのはオマエだけだぜ」
「化粧してそれってことは、大分泣いたんだな」
 いつもは笑顔で本音を見せないキバナの意外な一面に笑うと、キバナはまたオレを睨んだ。
「誰のせいだと思ってるんだよ」
「オレのせいなのか!?」
 何かキバナを怒らせるようなことをしただろうか。ムゲンダイナとの戦いの事後処理を任せたのがまずかったのだろうか。必死で心当たりを考えていると、キバナのため息が聞こえた。
「もういいんだ。過ぎたことだ。昨晩、飲み明かしてスッキリしたから、オレは次に進むぜ。」
「そうか。それは良かったな」
 何の話かはよくわからなかったが、キバナの心が納まったのならそれでいい。確かに、キバナの目は悩んでいるようには見えなかった。ただ少し赤いだけだ。
「オレは、な。で、オマエはどーすんの?」
 キバナは最初の問いかけを繰り返した。
「だから言っただろ?のんびりするって」
「ふーん。」
 またもや気のない返事に、さすがのオレも不快になる。しかし、今度のキバナは言葉を続けた。
「オマエさ、そーやって澄ました顔してるけどさ……
「ダンデさん!ご挨拶が遅くなってごめんなさい!」
 キバナの鋭い視線がオレに飛んだ時、新チャンピオンがオレに駆け寄ってきた。ひと通り、挨拶回りが終わったのだろう。慣れないパーティに気疲れしているのか、その笑顔は少し曇っているが、それでもオレを見上げる瞳は明るい。
 普段とは違う上品なフレアスカートがふわりと揺れる。その屈託の無い笑顔に、昨日のバトルの時の獰猛な面影はない。女性は服装で変わるんだなぁ。オレは素直に感心した。
「こんにちは、ユウリくん。見違えるほど綺麗だな。誰かと思ったぜ」
「ダンデさんこそ、すっごくカッコいいです」
 新チャンピオンと社交辞令を交わし合っている間に、いつの間にかキバナは姿を消していた。
 キバナは何を言いたかったのだろうか。肝心の話が出来ずに申し訳なく思ったが、目の前の新チャンピオンと話をするうちに、彼のことはすっかり忘れてしまった。


◇◆◇◆

 新チャンピオンとの引き継ぎもつつがなく終わり、オレは慣れ親しんだシュートスタジアムの執務室を出た。
 馴染みのスタッフに「感慨深いですか?」とからかわれたが、オレは笑顔で誤魔化して最後の挨拶をした。
 寂しさも、悔しさも、本当に何も感じなかったのだ。
 けれども、オレの足は自然とスタジアムへと向かった。


 誰もいないスタジアムはとても静かだった。ここに来るのは決勝戦のあの日以来。なんの用もなくスタジアムに来るのも、久方ぶりだった。
 スタジアムの中央まで歩いていき、ごろんと横になる。芝に耳を着けると誰かの足跡が微かに響いてくる。上を見上げると、高い天井の向こうに赤く染まり始めた空が見えた。
 オレはもうこの場所に立つことはない。立つ権利が無い。無くなって初めて、この場所に立てた栄誉を実感した。
「信じられるか?もう、ここでバトルをすることは無いんだぜ」
 モンスターボールを天に掲げて呟くと、中にいるポケモンは何かを訴えるようにカタカタと動いた。
 手入れされたフィールドに彼を放つ訳にはいかない。オレの相棒も、もうこの場所に立つことは出来ないのだ。この場所で戦う為にずっと仕えてくれたのに、オレはもう彼らに応えることが出来ない。
「ギルガルド、ドラパルト、オノノクス、バリコオル、ゴリランダー……そして、リザードン……すまない。こんな、不甲斐ない主人…………ぐっ……
 名前を呼ぶと声が震えた。視界が霞んで涙が溢れた。共に戦ってくれた彼らへの謝罪くらい最後まで言いたかったが、喉の奥につかえたように言葉が出てこない。無理に捻りだそうとすると、呼吸の中に嗚咽が混じった。
(ああ、パーティでキバナが言いたかったのはこのことだったのか。オレを心配していてくれたんだな)
 ようやくオレは理解した。別に感情を押し殺していたわけじゃなかったんだ。ただ、本当に実感できなかったんだ。今、この時までは。
 涙と共に、寂しさ、悲しさが押し寄せてくる。
 この手にもう戻ってこないのだ。あの興奮も、喜びも、悔しさも。

「そうか……。もう、ユウリくんともバトル出来ないんだな」
 ひと通り涙も流れきって、オレは天井を見上げながら呟いた。細い月が空に上がり、ずいぶん長い時間ここにいることを教えてくれる。


 ぼんやりとこの前の決勝戦を思い出す。ほんの10日程前の事なのに、もうずっとずっと前の出来事のようだった。
 ひりつくような読み合い。猛火と激流がぶつかり合い、爆音と共に視界が煙る。お互いの姿が見えなくなったのは一瞬で、今度は猛烈な風が土と共に靄を空へと巻き上げた。
 視界が晴れた時、彼女は獲物を捉えた女豹のような嫣然と笑い、エースバーンに指示を出し、そして。


「っくしっ!」
 くしゃみをして、オレは飛び起きた。いつの間にか眠っていたようだ。
 辺りは薄暗く、シュートスタジアムの小さな空にもう月は無い。
 ロトムに時間を確認すると、スタジアムの閉館時間は過ぎていた。おそらく、誰もオレがここで寝てるなんて思いもしなかったのだろう。
 オレは強張った体を伸ばしながら立ち上がった。くしゃり、くしゃりと芝を踏みながら出口を目指す。目の周りは渇いていたが、涙の痕でパリパリだった。
 目を閉じると歓声が聴こえてくる気がした。あの熱気と緊張感の下で、また戦いたいものだ。
「出来るなら、またユウリくんと……
 彼女のバトルは美しかった。技は練られていて、動きの無駄も少ない。後は、もう少しフェイントをかけられるようになると良いだろう。彼女のバトルは、素直すぎるのだ。そこを改善すれば、まだまだ強くなるだろう。
 彼女の事を考えたら、いてもたってもいられなくなってきた。バトルがしたい。今すぐに、彼女とバトルがしたい。情動に、体が疼いた。
 しかし、彼女はチャンピオンだ。一介のトレーナーになってしまったオレと、簡単にバトルできるはずも無い。
 どうすれば。どうしたら。
「いっそ、チャンピオンもジムリーダーも関係ないバトル施設でも作ってしまおう……か?」
 脳裏に、社長が逮捕され権利が宙に浮いている高層タワーの存在が浮かんだ。確か、ポケモンリーグの要職の席もまだ空いていたはずだ。それを上手く利用したら、彼女とバトルができるのではないだろうか。
 無理だと諦めていたが、可能性があることに気づくと次から次へと妙案が浮かんでくる。
「彼女にヨロイ島の道場を紹介するのも手だな……。もしかすると、引退したピオニーさんも引っ張り出せるかもしれない。」
 自分の考えに心が躍り、口角が上がっていく。誰も見ていないのはわかっているが、オレは帽子で口元を隠した。

 シュートスタジアムの裏口から外に出る。少し迷っている間に真夜中になってしまったが、オレは高揚するままにキバナに電話をかけた。
「キバナ、決めたぞ。オレはリーグ委員長になって、またユウリくんとバトルをするぜ。新しいバトル施設の案もあるんだ!」
 わくわくが止まらなかった。どうしてもっと早く思いつかなかったのだろう。
 ローズさんの言葉に従っていたチャンピオン時代とは違うんだ。今度こそ自分で決める。そして、ガラルのためにオレは生きる。
「うるせぇ!今、何時だと思ってるんだ!!」
 キバナが何か叫んだ気がしたが、些細なことは後回しにして、オレは自分の計画をキバナに説明するのだった。



「キバナ、聞いてくれてありがとう。キミにもトップジムリーダーとして期待しているからな!」
 オレはスマホを切ってポケットにしまった。東の空は明るくなっている。話しながら、ずいぶん長い距離を歩いてきたようだ。
「さぁ、忙しくなるぞ。頑張ろう。ところで……ここはどこなんだろうな」

 新しいガラルの歴史が始まろうとしていた。


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