カリギュラODのWIREでの質問を、逆に帰宅部メンバーから直接質問返しされる部長の話。
男主人公受けで笙主♂、鍵主♂が好きな人間が書いてるので、その辺がどうしても目立ってますし、腐向けかも知れないです。
支部に上げるほどのものでもないのでこことべったー+だけです。
2025.10 少し加筆修正
@mizukisakuya
男部長で自宅主人公設定。自分とこの部長がどんな奴なのか、メンバーとどんな関わり方かをまず書いてみようと思ったら思いのほか長くなりました。うちの部長はこういう奴かなというのを、書いてる奴が確認する為だけに書きました。
WIREの質問はODですが、いるメンバーは無印メンバーのみ。メンバー全員キャラエピ7以上。ルートは謎だけど、どちらにしても最終的に帰る事を選択するタイプの主人公。
うちの部長の名前、設定などは詳しくは一応こっちに
↓
https://privatter.net/p/7440140
その日は帰宅部としての活動をする気も予定も特になく、ただ何となく帰宅部メンバーそれぞれ好きなように過ごしていた。特に用がないなら帰ってもいいのだけれど、暇な時なら割とそんな感じだった。
「そういえば、先輩から個人へのWIREって、色んな質問な事が多いですよね」
「うん、少しでもみんなの事を知る事が出来たらいいな、と思って色々聞いてみてる」
奏が微笑んでそう答えると、鍵介がにんまりと笑ってこちらを見つめてくる。
「じゃあ、僕も先輩の事が知りたいなぁ」
「えっ、いや、俺の事なんて聞いても、そんな楽しくないと思うんだけど」
「それを決めるのは先輩じゃないですよ、皆だって気になりますよね?」
「確かに、いっつも質問されてばっかだし、たまには部長の事知りたーい。小説のネタにも出来そうだし!」
鍵介の言葉にまず乗って来たのは鳴子だった。流石というか何と言うか、つい奏は苦笑してしまう。小説のネタになるような返答はきっと出来ないと思うのだけれど。
「まぁ、確かに色々聞いてくるしな。たまには質問される側になってみたらどうだ?」
「なら、部長が皆に質問してくる事を、逆にこっちから聞いてみるのはどう?」
「笙悟と琴乃さんまでのってくるの…?」
「賛成です!部長の好きな食べ物とか知りたいです!」
「そ、その、私も…部長が嫌じゃなければ、知りたいです」
「いっつもこっちが質問されてばっかだし、お返しだな!」
美笛に鈴奈、鼓太郎までそんな事を言い出した。しかも、言葉では何も言わないものの、普段は他人に興味なさそうにしている維弦まで珍しくどこか興味深げにこちらを見ている。
「……まぁ、別に聞かれるのが嫌な訳ではないし、してくれてもいいんだけど。俺に面白みのある返答とかは出来ないと思うよ?」
「面白みを期待してるんじゃなくて、先輩の事を僕たちも知りたいんですよ」
「そういうものなのか?わかった、いいよ」
いつも一体どんな事を聞いてたかなと思い出そうとしていると、帰宅部メンバーみんなしてしばらくお互いが聞かれた事がある質問を話し合い、鳴子と鍵介がそれをまとめる事でどうやら質問がしっかり集まったらしい。そういうのをサッと出来るのは流石生主と元楽士だろうか。そんな事を奏が考えながら感心して見ていると、何故かそのままみんなに囲まれた。
「え、何これこわい」
「質問するだけだから何も怖い事はないって」
『YOUは聞かれないと自分の事言わないからね、たまにはいいんじゃない?』
「まぁいいんだけど……こう、囲まれると何だか逃げたくなるね」
「デジヘッド扱いかよ」
「先輩、囲まれそうになった時の逃げっぷりすごいですもんね。デジヘッドの視界を予測して駆け抜けていくし」
「集団相手は流石にね……囲まれるのも連続で戦うのも辛いし。それでもたまにうっかり捕まっちゃうけど」
そうして囲まれた状態で、どうやらみんなと質問を共有したらしい鍵介が目の前に来て質問を始めた。
「じゃあ、まずは先輩の誕生日を教えてください」
「一月十二日。確か、笙悟と少し近かったような」
「俺はその十日くらい後だな。まぁここにいるとよくわからなくなるが」
「俺はまだ一回しか体験してないけど、高校生活がループしてるんだもんね…実際の年齢もよくわからなくなりそう」
「えっ、先輩ってメビウスに来たの結構最近なんですか」
「多分俺が来てから、半年から一年くらいだったと思う。『卒業』する前のここでの記憶が割と曖昧だからよく覚えてないがそれくらいだったはず。現実でも十七歳だったから高校生活自体には違和感ないけどね」
「嘘でしょ、僕より年下じゃないですか」
わかってたけど年下と呟く者と、同じと言う者、やっぱり年上と呟く者など部員の反応は様々だった。
「……俺は別に、自分のもみんなのも、年齢とかそういうの気にしないからいいんだけど、帰宅部のメンバー同士の軽い年齢バレとかは大丈夫なのかな?」
「べ、別に、俺は現実でもこの姿だし、困る事なんてねぇけど!?」
「鼓太郎……うん、それじゃあとりあえず、この話は終わりにして、次の質問に行っておこうか」
鼓太郎だけに言った訳ではなくみんなに言ったのだけれど、と思い奏は苦笑しつつ、部長として色々と知っている以上フォローしなくてはと、そっと話の軌道修正を試みる。年齢は何となく年上とか年下とかはお互い察しているだろうけれど、これ以上メンバーみんなして色々ボロが出たり、うっかりメンバー同士で地雷を踏み合ってしまったら困った事になりかねない。
「じゃあ、えーと、最近気になることとかある?」
「これ、みんなして聞いてくる形式なんだね…気になる事、うーん」
今度は質問者が鳴子になった。囲まれる前にひそひそ話し合っていたのは分担だったのだろうか。そんな事を思いつつ、奏は聞かれた事を考える。
「メビウスでも味覚や聴覚などの感覚があるのって不思議だよね…現実での体が眠っているようなものでも脳がそう感じてるからそうなるのか、それとも人間は実は魂…心でも色んな事を感じてるって事なのかな」
「気になる事、程度でそんな事考えてんのかよ」
「食べれば味がする、聴こえるし見える、ここでは動く事も出来るし、感覚があるから痛みもある。多分、メビウスで与えられた体に入ってる感じなんだろうけど、心がそう感じているのかなと思うと、何だか不思議だなと思って。ほら、こうして触れればお互いに触れた感触も体温もあるよね」
「まぁ、確かにあるが…」
試しに隣にいた笙悟の手を握ってみる。そうすれば触れた感覚もあるし、体温も感じる。肌の感触やじんわりと汗すら感じる。血管が通っている辺りなら脈拍も感じるし、呼吸もしている。メビウスという現実ではない不思議な世界でも、自分たちはNPCとかデータとかではなく、紛れもなく生きている。それが何だか不思議だった。
「……そろそろツッコんでもいいですかね。何で先輩たち、黙って手を握って見つめ合ってるんですか?」
「俺に言われてもどうしろと」
「え、いや、感覚あるよなぁと。それに、他人の体温って何か気持ちいいものなんだね」
「……どう反応したらいいのかわからん」
「えっと、ごめん?」
頭を抱えて困っている雰囲気の笙悟と、周りからのどこか生暖かな目はわかったので、とりあえず握っていた手を離す事にした。よくわからないけど、何か変だったのだろうか。
「先輩って時々ズレてますよね、天然というか何というか」
「俺はズレてないし天然でもない。ツッコミだって出来るし」
「残念ながらそれはないです。自分をちゃんとかえりみてから言ってくださいね、先輩」
『うん、ないわー』
「全否定された…鍵介もアリアもひどい。まぁいいか、次の質問どうぞ」
サクッと否定されて奏は少々ヘコみながらも、とりあえず次に行ってもらう事にする。こんな調子では夕方になってしまいそうだ。次はどうやら鼓太郎が聞いてくるらしい。
「何か困ってることとかあるか?あったら俺が何とかしてやるぞ」
「困った事、か……『卒業』してから、NPCの姿がよくわからなくなった事かな。NPCの両親の顔もわからないし、猫とか犬とかですら、すっかり見た目が何だかよくわからなくなっちゃったし」
「俺に何とか出来ねー事だった…」
『YOU、モフモフしたものがよくわからないモノになってしまった、悲しい……とかよく凹んでるもんね』
「メビウスの犬とか猫、怪我させたりしないような設定だったのか、撫でさせてくれるしそれで結構癒されてたんだよ……でも、もう何の生き物かよくわかんなくて」
『アタシにはどういう存在かはわかるから教える事は出来るんだけど、そういう事じゃないもんね。モフモフ撫でたいって事だろうし。妥協して帰宅部メンバーの頭とか撫でとく?』
「人間相手だと何か違うような気もするんだけど」
とはいえ、撫でてもいいんですよ!という期待と視線と圧を何故か後輩組全員から感じたので、奏は微笑んでとりあえず撫でておく。モフモフではないものの、何か撫でられて嬉しそうなのでよしとしておく。
「服装のこだわりってある?」
今度は琴乃が質問してきた。イケPの服装に対する女性陣の評価を思い出してしまい、変に思われてないといいなぁと何となく緊張しながらも奏は答える。
「うーん、あまりだらしない感じにならないよう気を付ける、程度かなぁ。正直、服装とかあまり自信はないんだけど」
「その花は?」
「地味になりすぎないように?何か綺麗だったからつけてみたら、自分から生えてきた花と同じだった」
「生えてきたって言われると軽くホラーだな、確かにカタルシスエフェクト使うと生えるんだが」
「ところでずっと気になってたんですけど、先輩って時々シャツのボタン胸元まで開けすぎじゃないですか?」
「ん、ずっと気になってたって……もしかして見苦しい?」
「いえ、先輩は見苦しさとは程遠いんで、そこは大丈夫なんですけどね」
言われると気になってきてしまうので、とりあえず他の人にも聞いてみる事にする。
「その……大丈夫?」
「私は気にした事がなかったです」
「わ、私も…そんな余裕なくて…」
「……そもそも、気にする必要あるのか?」
「俺も気になんないというか、別によくね?」
美笛、鈴奈、維弦、鼓太郎は不思議そうにそう言う。一方、気にしていたらしい残りのメンバーは鍵介に同意らしい。
「まぁ、無防備ではあるかもな、色々と。近くにいる時とかは俺も気になる時はある」
「私も普段話してる時は確かに少し気になるかな…こう、ちょっと無防備に色っぽい?」
「タイで止めてるからあまり気にしてなかったけど、確かに胸元チラチラするもんね。セクシー路線かな?」
「い、色…セクシーって…」
笙悟の言葉はともかく、琴乃と鳴子のその発言に思わず一瞬思考が停止する。そんな会話をしていたせいか、その場にいる全員の視線が胸元辺りに集中しているのを感じて、流石に落ち着かない気持ちになった。何でそんな流れになったのかわからないが、よくわからない事はそのままにしておいた方がいいのかも知れない、奏は何となく逃避する事にして話を進める。
「つ、次の方どうぞ」
「はいっ、先輩の好きな食べ物を教えてください!」
今度は美笛が元気よく聞いてきた。一時は心配な状態になっていたが、無事に食欲も戻ってきたようで彼女らしい質問に微笑みながら考え込む。
「うーん、甘い物かな、現実でも食べてたし。俺、ここに来るまではご飯……というか、大半の食べ物が美味しいって思えなかったけど、甘い物は割と美味しく感じたから。甘みだけしか感じないというか、甘み以外の味覚全般がおかしくなってたみたいだから」
「ご飯美味しく感じなかったんですか!?」
「あ、メビウス内で帰宅部のみんなとご飯とか食べるのは不思議と美味しいし、大丈夫。現実での話だよ」
「現実の方が更に大問題ですよー!」
何故か美笛が半泣きの顔をする。摂食障害で色々あったみたいだから仕方ないかも知れないと思いつつ、奏は苦笑してそれをなだめる。
「きっとメビウスで美味しいって思えたから、現実でも大丈夫になるよ」
「うぅ……現実に戻っても、私とか帰宅部の皆とかと一緒に、美味しいものいっぱい食べに行きましょうね」
「うん、ありがとう」
美笛の言葉に全員が頷いているのを見て、何となく温かな気持ちになりながら微笑んで礼を言う。そんな風に言ってもらえた事なんて、子供の頃くらいしかなくて、慣れない事に少し照れくさいような気持ちもあるけれど、懐かしいような気もするし、ありがたいとも思う。
懐かしいような気持ちになっている間に、今度はまた鍵介が質問してきた。
「メビウスについてどう思ってますか?」
「現実ではなくしたものが存在している、μが見せてくれた優しい夢。彼女が頑張ってくれているけれど不完全な楽園……閉じられた夢の箱庭。でも、夢はいつか醒めるものだろうから」
「先輩……」
もう現実にはないもの、優しい夢の中にしかないもの。そんな夢をずっと見ていられたらよかったかも知れないという気持ちは、どうしたって捨てきれないけれど。目を覚ましてしまったら、もう夢に揺蕩っている事は出来ない。
「メビウスでの生活と体に慣れてしまう前に早いとこ帰らないと……現実に戻った時に感覚が違いすぎておかしくなってしまいそうだし」
みんなには聞こえない程度の声でそう呟いて、奏はそっと溜息をつく。μのおかげで普通かそれ以上に動けるメビウスでの体に慣れてしまうと、現実の傷のある体に戻れなくなってしまう気がする。ただでさえ、現実に戻る事を考えるのは辛いと思ってしまうのに。
それでも、帰らなくては……ならないんだろうか、本当にあんな地獄へ、帰るのか。ふと迷いかけたその時に、小さな歌姫の心配そうな声に引き戻された。
『暗い顔してるけど、大丈夫?』
「あ、ああ……大丈夫。ちょっと色々考えてしまっただけだから。次の質問はアリアかな?」
『うん。μの事どう思ってる?』
これは、もしかしたらアリアが気になっていた事でもあるのかも知れない。メビウスを作ったμを、自分たちをどう思っているのか。彼女たちはただ純粋な気持ちでメビウスを作ったのだろう、けれど閉じ込められてしまっているのも確かだから。
どこか緊張したような表情で質問してくるアリアを安心させるように微笑んで、ずっと思っていた事を伝える。
「とてもいい子だし、頑張り屋さんで優しい子だと思う。俺に初めて手を差し伸べてくれた存在、心と命を救ってくれた恩人でもあるかな。ちょっとやり方を間違えてるだけなんだろうね、きっと」
『じゃあ、ついでに。アタシの事はどう?』
「いつも元気で真っ直ぐでいい子。可愛い妹みたいな姉みたいな、俺の小さい相棒、かな。これからもよろしく、アリア」
『もっちろん!これからもYOUと一緒にいてやんよー!』
「……μも、何とか助けたいね」
『うん、きっと……ううん、絶対に!』
決意を新たにした表情のアリアの頭をそっと撫でる。本当に助けられるのかどうかはわからない。それでも、あの純粋無垢に人間を助けようとして手を伸ばしてくれたμを、何とか助ける事が出来たらいいとは思う。人間の負の感情に苦しそうにしながらも微笑む、あの優しい偶像の少女の姿が忘れられないから。
アリアと話している間に、また軽く相談していたらしく、あとの質問はどうやら鍵介と鳴子に任せる事にしたらしい。最初からそうすればよかったんじゃないかな、という心の声を言葉にしないようにしながら、奏は鍵介からの質問を聞く。
「休みの日って何してますか?」
「うーん、音楽聴いたり、本を読んだり、ピアノの練習したり、あとは帰宅部になってからはアリアと一緒にお菓子を作って食べてみたりかな。誰かに誘われない限りは、あまり外に出ないから」
「えっ、先輩って、ピアノひけるんですか」
「うん。あれ、言った事なかったっけ?」
「初耳ですよ」
「母がピアニストだったし、今の保護者にあたる叔母もそうだし、何か俺の母と叔母は美人ピアニスト姉妹とかで結構有名だったらしいよ。だからまぁ、俺も一応は。とはいえ、腕前は母さんに比べるとまだまだだけど」
「……という事は、先輩は楽譜読めるんですね?」
「よ、読めますね、うん」
鍵介にじとりと見つめられ詰め寄られて、思わず敬語になってしまいつつも頷く。小さい頃から当たり前のように楽譜にも馴染んでいるけれど、もしかしてこの話題は地雷だったろうか、と奏が内心でヒヤヒヤしていると、いきなりガシッと鍵介に両手を掴まれた。
「ぅわ、ど、どうしたの?」
「僕に教えてください!!」
「え、ぇ、楽譜?うん、俺でよければいいよ?でも維弦も楽譜読めると思うけど、俺でいいの?」
「先輩がいいです」
「お、おぅ……そんなキッパリと。わかった、協力するよ」
とりあえず熱心な頼み事だったようだとホッとして微笑む。いくら何度も他人の事情に関わって心に踏み込んでいようと、わざわざ怒鳴られたり泣かれたりしたい訳ではない。
「部長、そもそも僕が誰かに何かを教える事が出来ると思うのか?」
「……うーん、今はまだ難しそうだね」
「はっきり無理と言ってもいいんだが」
「いつかは出来るかも知れない事を、無理とは言わないよ、俺は」
「やはり変な奴だな」
「変わり者揃いの帰宅部の部長だからね、一際変な奴なんだよきっと」
「なるほど」
維弦とそんな話をしていたら、横にいた笙悟が奏の頭に手を乗せてきて、そのまま髪をぐしゃぐしゃにされた。
「ちょ、何すんの笙悟、抗議するなら口で言ってくれ」
「お前にそう言われると、自動的に前部長の俺も一際変な奴になるんだよ」
「大丈夫、初対面で落ち着かせるためとはいえ、いきなり頭突きしてくる笙悟も充分変だと思うよ」
「そうかそうか、またやられたいか」
「遠慮します、ごめんなさい笙悟先輩。というかアレ俺もすごい痛かったけど、笙悟も痛かったんじゃないの」
「マジで痛い」
「ですよねー」
平手打ちとか殴るとか、痛みで正気にするにしても他に方法はあっただろうに、自分もかなり痛いだろう頭突きなんて選ぶのが、優しい笙悟らしいといえばらしいのかも知れない。出逢った時を思い出して、ついでにかなり痛かった事も思い出して苦笑してしまう。
「次はー、紅茶とコーヒーどっちが好き?」
「どちらも好きだし、気分次第かな」
「ミルクや砂糖は?」
「コーヒーはカフェオレ、紅茶はミルク合う種類ならミルク入れるな。どっちも砂糖は入れない、大体甘い物を用意してるからね」
「先輩が甘い物が好きだと言う事だけは、たびたび伝わってきますね」
「仕方ないだろ、前は本当にそれくらいしか美味しく食べられる物がなかったし、それが習慣になっちゃってるんだよ」
『実はスイートPのお茶会でも、チラチラお菓子の方見てたもんね』
「アリア、サラッとばらすのやめましょう。ちゃんと我慢してましたし」
「あの場面でよくそんな余裕がありましたね…色んな意味で」
まぁあの時は一触即発のような状況になってしまったので、それどころではなくなってしまったけれど。どうせならひとつくらい食べたかったな…という気持ちはあった。あの状況だと仕方ないけど、と奏は心の中で呟いて軽く首を振り気持ちを切り替える。
「好きな季節を教えてください」
「春と秋かな……夏とか暑くてフラフラになるし倒れそうになるから苦手なんだけど、冬は寒さが骨身にしみる感じだから一番苦手で」
『YOUはご飯ちゃんと食べてないから、季節に限らずそうなるんじゃないかなぁ』
「なぁ、段々と部長の現実での生活が心配になってきたのは気のせいか?」
「気のせいじゃないですね…主に食生活とかが気になります。ちゃんと食べてるのかなと」
「ええ……季節の話から俺の生活の話になってるんだけど何で」
「何でだと思います?先輩」
「……えーと、寒いの苦手だから?」
「不正解です、ダメダメですよ」
「何故かダメ出しされた」
甘い物食べすぎとかを心配されているのだろうか、そんなに食べていなかったと思うけど、と奏は首を傾げつつも、とりあえず次の質問に行ってもらう。
「普段どんな音楽聴いてます?」
「色々かな…ジャンルにこだわりはなく気になったものとか、聴きたくなったものとかオススメを何となく気分で聴くよ。本当は楽士たちの曲も結構好きではあるんだけど、ここだと聴き続けたらうっかりデジヘッドになっちゃうと困るから、今はアリアに止められてるんだ」
「それはまぁ、そうでしょうね」
「カギPの曲とかも聴いてたよ」
「そう言われると、何かこう、どう反応していいのかわかんなくてむずむずしますね」
「あと俺、多分、ソーンの曲を聴いてメビウスに来たんだよね」
奏がそう言うと、隣で笙悟が咳き込んで、信じられないモノを見るような顔で見てくる。笙悟は何故か、あの人の曲を聴くと体調を壊すようなので仕方ないかも知れないが、聴いたのは偶然だったしある意味どうにもならない事だったので、そんな顔をされても困る。
「ソーンのファンだったとかですか?」
「いや、メビウスに来る時、街で初めて聴いたんだけど。彷徨うように街を歩いている時、どこからか流れてきて、何か……すごく印象に残ったんだ。多分、その時に何かが刺さったんだろうね、俺の心のどこかに。それで気が付いたらμが目の前にいた」
何かを喪い、誰かを呪う、恐ろしい程の何かが込められた曲に、あの時どうしてなのか心を貫かれたような気がして、気付けばμが目の前にいた。その歌を聴くと、喪って痛くて苦しくて悲しくて心が砕けそうになった時の、世界を憎んだ自分の気持ちが、思い出してはいけないものが溢れ出しそうな気がする。その時から心に突き刺さったままの感覚を思い出しかけて、奏はそれを打ち消すようにそっと首を振る。
「次の質問は鳴子からかな?」
「はいはーい。好きな異性のタイプは?」
「えーと、ええ……俺そんな質問した事あったっけ?まぁいいか、じゃあ本当に正直に答えるけど。実は俺、恋とか愛とかそういう感情とか今の所全くわからないし、もっと言うなら男とか女とか、異性とか同性とか、そういう性別にこだわるのもよくわからないから、タイプとか言われても、ちょっと思い浮かばなくて困る感じ?」
素直にそう言ってみると、維弦を除く全員が驚いたような声をあげる。そして恐る恐る代表者のように鍵介が問いかけてきた。
「……先輩ってもしかして、二次性徴なかったんですか?」
「真顔でそんな事聞くのはどうなの。一応あったとは思うけど、多分」
「まさか、その落ち着きっぷりで、現実では小学生男子とか?」
「現実でも男子高校生です。というか、何でそんなに鍵介がショック受けてるんだよ」
「ええー、高校生の男子がそんなに無欲で恋愛とか性別とか異性とかに興味ないなんて嘘でしょ……先輩、悟りでも開いてるんですか」
「お坊さんでもないです。ただ、まぁ、現実で色々あって、確かに小学生低学年くらいで心の時間が止まってる部分はあるかも。そもそも現実では周囲に嫌われてたから、誰かに好感持ちようもないし」
言ってしまってから、みんなの表情に気付いて奏は苦笑する。心配と同情と、好奇心がありつつもそれ以上は聞けない、そんな表情だ。現実でも時々そんな表情を向けられる事もあったから慣れてはいる。別に聞かれたとしても、何も困らないのだけれど。流石に帰宅部のメンバーにそういう反応をされるのは、ちょっとだけへこむ、気がした。
「ま、まぁ、そういうやつもいるさ。ほら、こいつとかもそのタイプだろうし」
「確かに、僕にはそういうものはよくわからないが、特に問題はないな」
維弦を示しながら笙悟がそういう。それもどうなんだろうか、確かにそうだけど、と心の中で思いつつも奏は溜息をついて何とか立ち直る。
「じゃあ質問少し変えて、恋愛対象の性別とタイプならどう?」
「あんまり変わってなくない?うーん、正直恋愛経験が全くないからわからない。好きになった人が好き、とかじゃないかな。タイプは……俺に誰かの身代わりや自分の理想を重ねるんじゃなく、俺自身を見てくれる人かな」
「先輩自身を、ですか」
「……うん、俺の全部、奥底まで」
「……これ言っていいかわかんないですけど、何かその台詞えろくありません?」
「台無しだよ鍵介」
「すいませーん、つい」
思わず呆れてしまったものの、鍵介はもしかしたら先程の何とも言えない空気を破ってくれたんだろうか。いや、ただ単にムッツリ部分が出ただけかも知れないが。何にしろあの空気が続かなくて助かったとは思う。色々と台無しな感じではあるけれど。
「幽霊や宇宙人っていると思う?」
「いてくれたらいいなと思う、幽霊や宇宙人に限らず存在するかわからないものって、面白いよね。もしも本当にいたら、会ってみたいな」
それに、幽霊がもしも本当にいるなら、両親に会えるかも知れない。二人はきっと成仏しているだろうから、お盆の時とかじゃないと無理かも知れないけれど。心の中でだけそう呟きながら、言葉では別の事を言う。
「μやアリアとこんな風に会話が出来て、メビウスがあって、魂を閉じ込められてたりするんだ。案外そういうものや、幻想世界にしかいないと思われている存在だって、本当に存在しているんじゃないかな」
『アタシたちは幻想生物扱いかい!』
「妖精みたいで可愛いよね」
『可愛いのはいいけど、好きでこうなった訳じゃないから複雑だよぅ…』
本当はフェアリーサイズではなく、μと同じくちゃんと大きかったらしいから、まぁそれは複雑にもなるだろう。奏は苦笑して優しくアリアの頭を撫でながら、元気が出るよう後でお菓子買ったら喜んでくれるかな、などと考える。
「エビとカニ、どっち派?」
「どっちも美味しい。かなり昔に食べた記憶しかないけど、カニとか防御力高いから食べるの大変だよね」
「防御力ってお前、戦うんじゃねぇんだから」
「食べる為に無言で戦うようなものかなと。防御力下げたくなるよね、こう、ガッとハンマーとかで殴ったらいいのかな」
「よくねぇし、一体何を破壊するつもりだよ部長」
「え、カニの甲羅?」
「変な所でアグレッシブにならないでくださいよ先輩、身まで破壊する気ですか?」
「ダメかー」
あんなに硬そうだからそうしたらいいのかと思ったけれど、ダメらしい。そもそもカニを食べたような記憶は両親がいた頃くらいしかないので、どんな風に食べていたのかあまり思い出せない。
「お前頭よさそうなのに、何で物理攻撃で解決しようとするんだよ…」
「実はカニの食べ方思い出せないんだよね……美味しかったなーって記憶はなんとなくあるんだけど、何せかなり昔で、どう食べるんだったか」
「……まぁ、あれだ。しばらくは難しそうだが金のある時にでも、一緒にカニ食いに行くか」
「うん?そうだね、今なら昔みたいに美味しく食べられるかも知れないし」
何故か笙悟にぽんぽんと頭を優しく撫でられ、奏が不思議に思って見上げてもそれ以上は何も言わない。物理的に解決しようとしたからだろうか、そんな事を考え込んでる間に次の質問をされた。
「自分を四文字熟語で表すと何ですか?」
「愛別離苦……自業自得、自己嫌悪……あ、いや、うーん、何だろう。一期一会にしとこうかな。自分を表してるかわからないけど、みんなとはきっと、メビウスでなければ出逢えなかった訳だし」
「しとこうかって。なんかその前に呟いてませんでした?」
「ちょっと、その、悪い方向の四字熟語しか浮かばなくて」
「先輩って意外とマイナス思考だったりするんですか?」
「基本的にはマイナス思考だよ俺、意外とって思われてる方が意外なくらいだ」
「一期一会とかって何か時々聞くけど、どういう意味なんだ?」
「鼓太郎先輩…」
「な、何だよ、多分習ってない…と思うし、仕方ねーだろ」
呆れたような顔をする鍵介と、慌てたようにそういう鼓太郎をまあまあとなだめてから、奏は少し考えてなるべく簡潔に言う。
「意味としては、一生に一度の出逢い、一生に一度限りである事。元は茶道の、茶会は生涯一度の会と思って誠心誠意大切にもてなそうという心構えからだけど、それが転じてこの出逢いを大切にしようというような言葉になったようだね」
「なるほど、そういうのだったのか。なら普通にそう言えばいいのにな」
「まぁ、それはそうかも知れないけど、今された質問では四字熟語を聞いてるから仕方ないね」
本当は、愛別離苦とか自己嫌悪の方が自分を表すのには合っているだろう。両親を亡くした時からずっとその哀しみと苦しさを引きずっているし、生き残ってしまった自己嫌悪をずっと抱え込んでいるから。それでも、帰宅部のメンバーも含めここでなくてはきっと出逢えなかっただろうと思うと、一期一会でも合っているはずだ。
みんなにとってはどうなのかはわからなかったしそう言ってもらえるのか自信もないけれど、奏にとっては一生に一度と言える大切な出逢いだと思えるから。それにきっと、みんなを支える部長としても、その言葉の方がいいはずだ。
「そのアイコンにした理由は?」
「カタルシスエフェクトで俺の胸に生えてきたから…こう、割と形も特徴的だしわかりやすいかなって思って。綺麗だよね、トーチジンジャー」
「そんな名前の花だったのかアレ。目の前で突然お前の胸から生えてきて、初めて見た時はびっくりしたけどな、黒い杭みたいなモンまで生えるし」
「俺も何か生えてきてびっくりしたけど。松明、トーチに似た赤い花だね。ジンジャーだから、何か食べられる部分もあるらしい」
「……美味しいんですかね、気になります」
「そんな目で胸元を見られても、今カタルシスエフェクト発動してないし、発動してても俺の花は流石に食べられないと思うよ美笛ちゃん」
そういえば、あまり考えた事はなかったけど、あの花は千切ったり出来るんだろうか、というかそもそも生えてきた花やら杭やらに触れるんだろうか。武器を使えるんだし、触れる気もするけれど。
「……あの花とか杭とか、触れるのかな。自分で触れるとしたら、他人のはどうなんだろう」
「また変な事考え込んでるなお前は」
「気になるから、今度男子メンバー協力してくれる?」
「何で男子メンバーなんですか?」
「アレ、胸から生えるし、流石に俺が性別あまり気にしてなくても女子相手は問題あるだろ。でも同性相手なら触れても大丈夫かなって……あ、もしも俺に触られるの嫌なら、俺の花や杭に触るのでもいいよ、触れるか試してほしい」
「……何かこう、変な方向の話に聞こえるの僕が悪いんですかね」
「俺の花や杭だって言ってるのに、変な方向行くなよ、鍵介のえっちー」
「意味としては理解してるっぽいのに、感覚としては全く理解してなさそうな上に煽りが幼いの何なんですか、ギャップ萌えですか先輩」
「ギャップ萌え……とは?」
何でそんな話に?と思わず首を傾げて、つい鍵介を見つめていると、サクッと容赦なく話を進めるように鳴子から次の質問をされた。
「はいはい、ギャップに萌えててもいいけど時間かかるから次の質問いくよー。座右の銘は?」
「うーん、我が身をつねって人の痛さを知れ、かな。特にメビウスに来てからは、その痛みも辛さも人それぞれ、人の数だけあるとわかったし」
「先輩、一応鼓太郎先輩の為にも説明お願いします」
「お、俺だってそのくらいは…何となくわかるぞ、多分」
「うん、まぁ……自分の痛みで他人の痛みを理解する、つまりは他人の痛みを自分に置き換えて考え、相手の痛みや苦しみを思いやる事が大切、というような言葉だよ」
「先輩らしいといえばらしいかも知れないんですけど…」
「あ、えっと、もちろん全部わかるとは思ってないよ、ただ少しでも相手を理解出来たらいいなと思ってるというか」
「いえ、そういう事じゃなくて、こう……他人の事ばっかりで心配になりますね」
「うーん、そうでもないと思うけどな。誰かを理解したいというのも、結局は自分の為だと思うからね」
もっと清らかで優しい存在だったならよかったのだろうけれど、自分はそんな風にはなれないと知っている。もし聖人のような人間だったなら、メビウスに来る事なんてきっとないだろう。相手を理解したいのは、少しでも誰かの心に残りたい、その人の記憶に残りたいから。そうしてもしも許されるなら、誰かに自分を少しでもいいから理解してもらいたい。きっと自分のそれは、そういう傲慢なものでしかなくて、結局自分の行動は自分の為でしかない。
μやアリアのように、純粋に人間を思いやり、手を差し伸べるような存在にはなれない。欲深く罪深い人間という生き物である限り、きっと。だからこそ、せめてみんなの痛みに寄り添う事が出来たらいいと思って、そんな座右の銘を選んだのだけれど。そう思い、奏は自嘲気味に微笑んで軽く首を振り、次の質問を待つ。
「この字結局なんだったんだ?」
鼓太郎がWIREを開いて竜髭菜という字を見せてくる。それが次の質問らしい。そういえば、買い物をしていた時に何となくみんなに聞いてみた事はあったような気もするような。そう思いながらちゃんと答える。
「アスパラガス。確か、ちょうど買い物行った時に、そういえば割と難しい漢字書くよねと思って何となく送ってみた」
「鼓太郎にも送ってたのか…俺にも来たけど、そういうのはわかりそうな奴に送れ」
「鼓太郎や笙悟だけじゃなく確かみんなに送ってみたような気がするけど…?竜の髭とか何か格好いいのに、実際にはアスパラガスってギャップが面白いよね」
「先輩が突然質問送ってくるのって、そういうのキッカケなんですか、もしかして」
「そうだね、割と…こう、ふと思いついたり思い出したり気になったりしたときに?メビウス来るまではそんなの送れる人とか存在しなかったから、嬉しくてつい……あ、でも、もしもみんなが迷惑だったり嫌だったりしたら、言ってくれたらやめるようにするよ。迷惑かけたい訳じゃないからね」
「僕に対しては別に送ってくれていいですよ、どうせカギPじゃなくなってからは、他にあまり送られてきませんし」
「俺も構わん、というか帰宅部メンバーは大体いいんじゃねぇか」
「そ、そうか、よかった……もし嫌だったりしたら遠慮なく言ってくれていいからね」
帰宅部のメンバーが笙悟の言葉に頷いてくれたのを見て少しホッとして微笑む。奏にとっては友達、と言えるような人がいるのが久し振りすぎて、上手くやれてるのかいつも自信がなかった。今も送る時間とかには気を付けているつもりだけれど、みんなが優しいだけかも知れないからもっと気を付けようと心の中で呟く。
「好きな寿司ネタは何ですか?」
「お寿司って食べた記憶が実は殆どないんだけど、うーん。昔食べた時、甘エビは美味しかったような気がする?」
「質問を重ねるごとに、部長の食生活がどんどん心配になってくるのよね」
「ちゃんと答えてるつもりなのに、何故か心配されてる…何で?」
「自分の胸に手を当ててちゃんと考えてみましょうね、先輩」
「……うーん?」
「これは考えてもわかってねぇな」
「メビウスでも現実でも、食事一緒に行くしかないですねこれは」
「私は喜んで一緒に行きますよ!」
「……何か俺抜きで話進んでない?」
『YOUは自覚足りなくない?』
確かにメビウスに来てからの方が、マトモにご飯を食べているかも知れないけれど。しかし、もしも現実に戻ってからも本当にみんなと食事が出来るなら、それは数少ない嬉しい事ではある。現実に嬉しい事なんて殆どないから。
「自分の武器についてどう思う?」
「撃ちまくれるし、ガッと殴れるしいいよ。連射出来るだけじゃなく、光線みたいなのまで出るから面白いよね」
「その発言だけだとなかなかアレだな」
「基本的にはみんなのフォローにまわるんだけど、強いスキルとか思いっきりぶちかますと、何かこう、結構スッキリする」
「……ストレスたまってるんですかね。それにしても、銃組は弾とかどうなってるんですか?銃弾を装填してる所は見た事ないですけど」
鍵介にそう聞かれて、つい笙悟と顔を見合わせてから戦闘中の事を思い出す。カタルシスエフェクトの銃だからか弾を装填する必要もなく、弾が別に用意されている訳でもなく、ただいつも撃てる状態になっている。心から湧き出てきたものだから、精神エネルギー的なものが弾として自動的に装填されているのかも知れないが、言われてみると確かに不思議ではある。
「本物の銃じゃないからか、連射した後でも少しの間で自動的にリロードされてるみたい。俺の場合は使うスキルによって弾数も撃てる回数も違う感じするし、使うスキルごとに装填されてるのかも。笙悟のはどう?」
「似たようなもんだな。スキルごとにリロードされてる感じというか。部長の銃は装填も早いし連射も出来る感じだが」
「俺は手数で攻撃力をカバーしてる所あるからね……色々出来るけど器用貧乏というか、何かに特化してないから出来る事は多いけど中途半端な感じがする」
「一人で敵と戦える奴が何か言ってるぞ」
「一人でコンボ決められる人が何か言ってますね。というか、まず一人でも何とか対処出来る人そんなにいませんからね?」
「えぇ…一人だと流石に時間かかるし大変なんだけどなぁ…」
確かにやろうと思えば一人でも戦えるし、分断された時や一人の時にはそうするけれど、別に一人で戦いたい訳でもない。何より危険も増すから、一人の時は基本的になるべく戦闘を避けているのだけれど。みんなからすると、一人で戦える方がいいんだろうか、よくわからないと心の中で首を傾げてしまう。
「よく行くお店ってあります?」
「……うーん?」
『特に決まった所行かないんよ。本屋とか甘い物ある所に行く事は多いけど、基本的に静かな子だからねぇ、あまり出歩かないというか、部屋にいる事が多いし』
「アリアは先輩の姉か何かですかね」
『あ、でも静かな喫茶店とかは時々行くかな。誰かと一緒の時は駅前のカフェとかなんだけど、アタシくらいしかいない時はちょっと離れた所にあるレトロな雰囲気の喫茶店とか行くよ、手作りケーキが美味しいお店』
「ほぼアリアが答えてくれたからいいかな」
「先輩がちゃんと答えてくださいよ」
「……行ってる店の自覚がなかったよ」
行く店は本当に適当なので、よく行く店とかわからなかったが、どうやらアリアが覚えててくれたようで助かった。言われてみると、確かに静かでケーキが美味しくて何度も行っている店はあった。
「メビウスに足りない物は?」
「特にはないかな。メビウスに与えてもらったものや、ここにしかもうないもの、ここで出逢った人の方が多いから。……現実の方が、何もない」
「それでも、先輩は帰るんですか」
「……きっと、最後まで悩むし迷うんじゃないかな。でもみんなを、現実に帰さなきゃ。だから、うん、帰る……帰らなきゃ」
固く拳を握り締めて、目を閉じて奏は自分にそう言い聞かせる。帰らなくてはならない、そうしなければ、きっと一生逃げ続けてしまう。何もない、ただ痛く苦しく辛く哀しいだけの地獄へ帰りたくないと思ってしまう。だから、今はただみんなを現実に帰す事だけを考えるようにする。そうでなければ、その迷いは自分をメビウスに縫い止めてしまうだろう。
気付けば俯いた頭や肩をぽんと撫でられ、固く握った手にいつの間にかそっと手が重ねられているのを感じた。目を開けてちゃんと確認すれば、触れていた手は帰宅部のメンバーみんなの手。
『……顔色悪いけど、大丈夫?』
「うん、大丈夫です。ありがとう」
目の前へ飛んできたアリアに何とか微笑んでみせて、そっと息を吐いて力のこもっていた体から少し力を抜く。触れていた手が離れても、みんなからの心配そうな視線を感じる。それをありがたいとも申し訳ないとも思いながら、今度こそちゃんと笑顔にしてみせた。
「大丈夫だから、それじゃ次の質問に行こうか」
「どう見てもあまり大丈夫そうには見えませんけど、仕方ないので先輩に誤魔化されてあげますよ。えーと、先輩のお気に入りの場所を教えてください」
「うーん、屋上とか、中庭とか、静かな喫茶店とか。人が少なくて静かな場所でぼんやりしたり本を読んだりして過ごすのとか好きかな」
「……それは僕にも教えてほしい」
「確かに、維弦にはこの部室の他に、どこか静かな場所も必要かも知れないね。いいよ、今度人が少ない穴場を教える」
「助かる」
美形なせいでというのも変かも知れないけれど、注目されてしまってなかなか心休まる場所がないだろう維弦に、せめて静かな場所を案内出来るといい。それでも注目はされてしまうかも知れないのが、目立ってしまう人の大変な所だろうけど、と奏はつい苦笑する。維弦本人は別に目立ちたくて目立っている訳ではないのがまた、辛い所だろう。
「じゃあ、次行くよー?無人島に一つだけ持ってくなら?」
「……ナイフとか武器になりそうな物がいいか、それとも丈夫な服や靴…?いや、サバイバル装備一式入ったカバンとか?尽きない水があればいいけどそれは無理だろうし…」
「ただの質問なのに、割とガチで悩んでますね」
「俺は部長連れてくわ、こいつがいたら何とかなりそうな気がするぜ」
「別にいいけど、現実での俺は身体能力的に足手まといになると思う、片足がちょっと不自由だから。連れてくのはあまりオススメはしないよ、まぁ足引っ張って邪魔だったら置き去りにしても構わないけど」
「そういう事をあっさりと言うんじゃねぇよお前は」
「痛いです笙悟先輩…」
それなりに容赦なく、力を込めて頬をつねられた。現実の奏にとって、メビウスでの動きどころか現実での一般的な人の動きですら難しいから、足手まといになりたくはなくて一応言ったのだが、怒られてしまった。置き去りにしていいという部分がダメだったのだろうか、と悩みつつもとりあえず後で考える事にする。
「仲間の中で一番話しやすい人は誰ですか?」
「笙悟と鍵介かな……笙悟は最初に俺を助けてくれたし、鍵介は俺とよく話してくれるし」
「助けたって程の事はしてねぇんだけどな。まぁ、部長に話しやすいと思ってもらえるのは嬉しいが」
「先輩にそう言ってもらえるって確かに嬉しいですね、先輩って帰宅部だけじゃなくかなり交友関係広そうですし」
「そうかな?」
「あちこちで色んな人と話してるじゃないですか……もしかして、自覚ないんですか?」
確かに話しているけれど、困っている事や悩みを聞いたりしているだけで、交友関係とまで言っていいのかどうかわからない。帰宅部のメンバーに対してすら、自分なんかがみんなを友達だと思っていていいのだろうか、目的の為の仲間くらいにしか思われてなかったりするんじゃないかといつも悩んでいるのに。そう思い、奏は考え込みながら首を傾げる。
「うーん?困ってる事とか、話とか聞いてるだけなんだけどなぁ」
「……自覚なさそうですね。無意識無自覚にヤンデレやストーカーメーカーになりそうだから気を付けてくださいね、先輩」
「夜道や人の少ない道とかも気を付けとけよ。お前は見た目が弱……こう、あまり強そうには見えないから、うっかり襲われそうだし」
「えっ、何それこわい」
何でそんな話になったのかよくわからないが、ヤンデレだのストーカーだの襲われそうだの、なかなか不穏な事を言われてしまった。そんな事はきっとないだろうとは思いつつも、とりあえず夜道と人のいないような道は一応気を付けておく事にする。
「自分を動物に例えたら?」
「割とどこでも寝れるから、猫…かな?」
「こっそり静かについてきたり、いつの間にか当然のような顔で傍にいますからね」
「ツリ目だしな、屋上とか高い所とかも好きみたいだし」
「猫耳と尻尾とか似合いそうだよね、今度つけてみる?」
「何で突然そういう方向に行ったの鳴子」
「猫耳?」
「猫尻尾?」
「鈴付き首輪…?」
「猫耳メイド…?」
「待って、どんどん変な方向に……猫耳とか尻尾とかつけませんよ、つけないからね」
というか、今首輪とかメイドとか言ったの誰だったろうかと思いながらも、あえて確認するのが怖いので奏は聞かなかった事にした。誰の声だったかとかも考えない。
「何も聞かないで慰めてください先輩」
「よしよし、俺が鍵介の傍にいるから。何か俺に出来る事があるならするし、もし話したくなったら、いつでも言ってくれ。あまり一人で無理するなよ?」
『……お母さんかな?』
「確かにこう、何と言うか……そっと心を包み込まれてるような感じはしますね」
「うーん、お母さんでも別にいいんだけど、俺一応ただの高校生なんだよ」
『YOUは雰囲気が、こう、穏やかにふんわり包み込むようで、ついでに幸薄そうだからこう、幸薄くて病弱そうな母的な?』
「俺に謎のイメージがついた」
顔は母親似だから仕方ないかも知れないが、幸薄くて病弱はむしろ現実の自分の方がよりそのイメージに近いような、などと考えていると、奏の前に何故か残りの後輩組が来た。
「部長、私もお願いします!」
「え?うん、わかった。美味しいチョココロネ、俺と一緒に食べに行こうか、美笛ちゃん。美味しい物食べて、ちょっとだけ泣けたら泣いて、そしたらスッキリするかも」
「わ、私も……お願いしていいですか」
「俺とカラオケでも行こうか、鈴奈ちゃん。いっぱい好きな歌を歌って、歌で吐き出したら、少しは気持ちが楽になるかも知れないから」
後輩組を慰めていたら、何故か残りのメンバーまでそわそわしてこちらを見ている。どうしたんだろうと思って、奏がついその様子を首を傾げて見ていると、ふわりとアリアが目の前に来た。
『それならアタシもお願いしようかなー』
「うん、いつも元気に真っ直ぐに、俺たちを助けてくれてありがとう、アリア。一緒にμを助けられるように頑張ろう。いつか現実で君の歌も聴きたいな」
『うん、絶対に!あ、どうせなら他の皆も部長に元気づけてもらっちゃう?』
「何か趣旨が変わってるような…?まぁいいんだけど」
そういうのだったっけ、というか質問だろうかコレ。そう思い奏はつい怪訝そうな表情をしつつも口には出さないでおく。
「じゃあ私も!」
「俺でよければ、また小説のネタ探しでもカフェでもいつだって付き合うよ。だから、一人で抱え込むなよ、鳴子。小説の続き、楽しみにしてるからな」
「私も慰めてもらっちゃおうかな?」
「何か心配事があるなら、いつでも聞くよ、琴乃さん。俺に何が出来るかはわからないけど、少しでも助けになれるように頑張るから、無理しないで」
「これが無欲の勝利ってやつですかね……そんな、そんななのに何で無欲でいられるんだ」
「えっ、何が?」
「いえ、どうせなら笙悟先輩と維弦先輩と鼓太郎先輩も元気づけてあげたらどうですか」
「ん?俺は別にそうしてもいいけど…」
と言ってみても、照れがあるのか恥ずかしいのか迷っているようだった。嫌そうではないように見えるし、何かそわそわしているからあとひと押し必要という事か。残りのメンバーの様子を見てそう思い首を傾げてから、仕方ないので奏の方から呼びかける。
「えーと、つまり全員慰めというか元気づけたらいいって事だよな、よしどんと来い。じゃあ鼓太郎」
「俺から!?お、おぅ、何だよ」
「いつも頑張ってるのはわかってる、でも頑張りすぎて突っ走りすぎないようにな。君ならきっと、いいレスキューになれるよ。鼓太郎の心は俺より強くて真っ直ぐで優しいから」
「……おう。な、何だよ、そんな背伸びしてまで撫でんなよ」
よいしょと頑張って手を伸ばして鼓太郎の頭を撫でると、そんな事を言いつつも照れたように笑う。そんな表情をするとやっぱりまだ子供っぽいし、何となく弟分のように勝手に思っているからか心が温かくなった。
「次は……維弦」
「何だ?」
「あがいてもがいていつか巣から飛び立てるまで、見守るし付き合うから。でも、もしもどうにもならず維弦が困ってたり、俺の手が必要ならいつだってこの手を差し出すよ」
「……ああ、頼む」
「うん、頼まれた」
先はきっと長いだろうし、巣立てるまでどれ程かかるのかすらわからないけれど。それでも、中途半端な気持ちで関わった訳ではないから。維弦に対してだけではないけれど、関わった以上は、過干渉しすぎないようにしつつみんなが立ち直れるよう、自分に出来ることがあるなら何でもするし、協力したいと思う。
「あとは、笙悟か」
「あ、あぁ」
「元気づけるってだけなのに、そんな身構えなくても」
「お前は優しいけどそんなに甘やかしはしないからなぁ、何を言われるやらと思うとな」
「無駄に厳しくするつもりもないよ、まぁ、笙悟がもしも正気を失いそうになったら、今度は俺がお返ししてやるけど」
最初に出逢った時にやられたように、今度はこちらから頭突きでも何でもしよう。もちろん、正気を失いそうなくらいに心が揺らぐような事なんてない方がいいとは思うが。そんな事を考えつつ、奏は一度咳払いをしてから、改めて言葉を紡ぐ。
「……その傷を癒す事は出来ないだろうし、俺に出来るのは寄り添うくらいかも知れない。それでも、一緒に歩いていく事も、君を引っ張っていく事も、怖気づいた背中を押してやる事も出来るから。見守ってるよ、これからも」
言いながら微笑んで、笙悟の頭も撫でてみる。嫌がられたり抵抗されたりはしないが、どうやら照れくさくはあるらしく、照れながら苦笑していた。奏の方も、改めて全員に言った事を考えるとなかなか、いやかなり恥ずかしい。
「いやこれダメだ……何か今更恥ずかしくなってきた。俺変な事言ってないかな」
「今更すぎません?僕の時から奏先輩、既に口説きモードだったじゃないですか」
「うえぇ!?口説きモードとかじゃないですし!そもそも口説いてないし、慰めてって言うから頑張って元気づけようと思ってただけで!」
「お前のそんな素っ頓狂な声、初めて聞いたかも知れん」
「素っ頓狂にもなります。もしも口説いてたら全員を口説いてた事になっちゃうし、そんな不真面目で不誠実な事したくないよ。何より俺がもし口説いたりしたら、相手が迷惑だろ」
「やっぱり微妙にズレてますよね先輩…」
何がだろうと不思議に思って鍵介を見ると、苦笑して次の質問に行かれてしまった。
「好きなゲーム教えてください」
「ゲームか。実はあんまりやった事なくて……色々あってゲーム機とか縁がなかったし。メビウスに来てからは少しやってみてるけど。あ、あとゲーセンとかで音楽ゲームとか、銃撃つゲームとかやったりするよ」
「もしかして先輩の銃撃ってそれですか?」
「それかも?まぁ、そんな訳で、ゲームとか全然わからないから、皆のオススメのゲームとか教えてくれたら嬉しい。とりあえずプレイしてみるから」
「苦手な物とかあります?」
「ゲームに限らないんだけど、びっくりさせてくるやつとか、あとは……災害シーンとかがあるやつかな。どちらもフィクションと割り切っててもちょっとトラウマ的に苦手、かな」
「びっくりって、ホラーとかですか」
「大きい音とかで驚かせてくるだろ、ただでさえ暗かったり狭い場所だったり、舞台が廃屋とかで崩れそうな感じするのが嫌なのに」
「あ、幽霊とかクリーチャーとかじゃなく、苦手なのそこなんですね」
長年の習慣で、我慢は出来るし表面的には大丈夫に見せる事は出来る。しかし、苦手なものはどうにも苦手なので、あまり見たいものでもない。
「それだと、暗い場所とか狭い所とか今までにもありましたけど大丈夫でした?」
「実は黙ってたけどちょっとキツかった。戦闘とかに支障は……自分を抑えてたし、多分なかったとは思うけど」
「言ってくださいよそういう時は」
「でも、言っても仕方ないから。怖くて震えてたってどうにもならないし、ただ耐えるしかないから。それに、部長である以上、苦手だからここ無理ですって訳にもいかないだろ」
「うーん、そうかも知れないですけど。それでも、やっぱり言ってほしいですよ僕は。皆でフォローする事だって出来ますし」
「……そういうもの?」
「そういうものです。先輩だって、誰かがもしもそんな状態だったらフォローしてくれるでしょ?」
「それはもちろん俺がフォローするし、もし無理そうなら戦闘メンバーから外して休んでてもらうけど」
「どうして他の人ならそう思うのに、自分だと耐える方向に行くんですか……全くもう、仕方ない先輩ですね。ちゃんと今度からは言ってくださいね!」
「う、うん、わかりました」
鍵介の言葉に他のメンバーまで頷いていて、ありがたいようなくすぐったいような、何だか心配されすぎなような気もしながらそう答える。ずっと、独りで耐えるしかなかったし、そうする事に慣れているから、そんな風に言ってもらえるなんて思ってもみなかった。
「好きな教科は?」
「好きなのは国語系と音楽かな」
「意外だねー、部長は全教科好きなのかと思ってたよ」
「やらなきゃなーと思ってやるのと、好きなのはやっぱり違うからね」
「部長は勉強出来そうだよな」
「え、あー……それはその、今まで生きてきて、というか特に現実では、勉強するかピアノ弾くか本読むか音楽聴くかくらいしか、やる事なかったからだと思う」
「それは、その、強制されてたとかなんですか?遊んだりとかは…」
「そういう訳じゃなかったんだけど、殆ど誰かと関わったりしなかったから、自動的にそうなったというか……遊ぶのも、幼い頃やここに来てからなら一応」
「あ、ゲームとかもそんな感じで?」
「うん、ゲームだけでもいっぱいあってすごいなーと思った。実はカラオケとかやってみたのもメビウスに来てからなんだ。勉強も娯楽も、知らない事を知るって面白いよね」
「勉強の方は同意しかねるけどなぁ」
一般的には変だと思うだろうし、実際現実ではそんなの変だと、つまらない奴だと言われ続けてきたけれど、みんなはそう言っても普通に話してくれるのが少し不思議でもある。みんなが優しいからなのか、それとも踏み込まないようにしているからかわからないけれど。
「戦闘で大事な事って何です?」
「みんなが動きやすいようにする事かな、一応部長だし」
「僕ずっと思ってるんですけど、先輩はもうちょっとちゃんとガードするべきでは」
「……たまにしてるよ?」
「予測で大ダメージか、動けなくなりそうな時しかしないじゃないですか。大体はダメージ受けても多少なら気にせず敵に向かっていくし、顔と武器に似合わずバーサーカーなとこありますよね」
「顔と武器に似合わずって、少なくとも顔は戦闘に関係なくない?というか、別にバーサーカーじゃないんだけどな。多少のダメージなら、さっさと倒しちゃう方が早いだけだし。あ、でもみんなはガードちゃんとしていいからね」
「いや、お前もしろよ」
ツッコまれてしまった。多少痛いくらいの方が自分が生きている感覚がするし、別に構わないんだけどな、と心の中で思いながらも流石にドン引きされそうなので言わないでおく。
「尊敬してる偉人って誰?」
「偉人ってそれぞれすごいから、何というか、それぞれ尊敬してしまうから俺なんかが選んでいいのかというか、選びようがないというか。偉人みたいなすごい人ではないけど、身近で尊敬していた人なら両親なんだけど」
「そっか、お前も親を尊敬してるんだな」
「うん、俺の場合は特にピアニストだった母さんだけど、両親とも尊敬してる」
鼓太郎のように純粋にではないかも知れないけれど……自分は母の面影や能力を重ねられ比べられるのが辛くもあるから。そう心の中で思い、奏は苦笑を浮かべる。それでも、心から尊敬しているのも確かだった。
「男女の友情ってあると思ってますか?」
「俺はあると思うよ、だって帰宅部のみんなって友達だろ……もしかして俺、帰宅部のみんなに友達と思われてなかったりするんだろうか。というか、女子だけじゃなく男子メンバーにも、帰還の為のただの仲間とか、それどころかただの知り合いとか」
「何でそこでいきなり落ち込むんだお前は……いや、それはありえんだろ」
「えっ、俺、知り合いですらないとかですか…?」
「マイナス方向に捉えるんじゃねぇよ、逆だ逆」
『あるよ、友情あるよー!大丈夫だから、そんな青くなって震えなくて大丈夫だから!』
「頑張って耐えて耐えてダメージ蓄積して、突然一気に落ちるタイプなんですね先輩…」
うっかり少しの間落ち込んでしまった。あまりみんなの前ではそうならないように気を付けていたのに情けない。みんなに心配かけないようにしなくては、と何とか浮上してから奏は改めて気合いを入れて、自分の心をしっかりと保たせるようにする。
「ごめんなさい、もう大丈夫だから、次に行ってください」
「さっきから思ってたけど、お前は動揺すると敬語になるんだな」
「違いますし、大丈夫です」
「はーい、じゃあ次の質問ね。理想の恋人像ってある?」
「俺、それも送った事あったっけ?というか、まだ恋愛もよくわからないのに、恋人像とか難易度高くない?」
「まぁ、ほら、何となくでいいですよ」
「うーん。いや、今はやっぱりわからないな。あまりいい加減な事は言えないし。もしもこの先誰かを本当に愛する事が出来たら、改めて考えてみるよ」
「先輩真面目すぎません?」
「真面目なのはいい事だと思う、本当に。無責任でろくでもない男なんかより真面目な方が絶対にいいから」
「琴乃さんの説得力…」
恋愛系の質問はやっぱりわからないし、誰かに送ったかどうかも正直覚えていない。自分にはわからないからこそみんなに聞いた可能性はあるけれど、そんな気になった事があっただろうか。基本的に毎回何となく送っているから、奏にはイマイチ思い出せなかった。
「宿題はちゃんとやってます?」
「やってるよ。何もやらなくてもずっと高校生活繰り返してるとしても、勉強する意味はあるだろうから」
「流石、優等生だな」
「だから祝辞とかに選ばれて、僕みたいな奴に目をつけられちゃうんですよ」
「悪い事してるみたいな言われようなの何で」
自動的に繰り返す高校生活らしいから、確かにやらなくてもいいだろうけれど、一応宿題として出されている以上は、やっておかないと何となく落ち着かないだけでもある。やらないのも自由だと思うから、やってないメンバーも好きなようにしたらいいとは思うけれど、そんな言われようなのは何故なのかとつい苦笑してしまう。
「というか質問多くない?こんなにしてたっけ俺」
「皆から集めたからねー。でもあともうちょっとだよ」
「頑張ってください先輩」
「俺はまぁいいんだけど、みんなのが大変じゃない?別に俺なんかに興味なかったりするんじゃ」
「いやいや、こんな風にでもしないと、なかなか聞けないし。部長って皆の事ばっかりで自分の事は聞かないとポロッと言っちゃった時以外は全然言わないから」
「興味あるから聞いてるんです。そんな訳で、最後まで僕たちに付き合ってください」
そろそろみんな質問に飽きたんじゃないかと思って一応そう言ってみたけれど、鳴子と鍵介にそう言われては仕方ない。奏は笑って頷いて、次の質問をしてもらう事にする。
「自分をRPGの職業に例えると?」
「えっ、何だろう……ゲーム初心者だから、RPGって言われても何となくしかわかんないけど。器用貧乏な感じの職業?またはカタルシスエフェクト的に、二丁拳銃のガンナーとかあればいけそうなのかな」
「器用貧乏じゃなく、オールラウンダーって言いましょうよ。先輩の普段の雰囲気はヒーラーとか賢者系なんですけど、戦闘ではガンガン前に出ていくタイプだしなぁ」
「……そういえば、この質問をみんなに聞いた時、誰も回復職がいなかったから、まぁ俺がそこ担当するしかない気もするけど」
「えっ、誰もいなかったんですか…」
「いなかったんですよ……MMO、だったっけ。もしもああいうオンラインのゲームだったらすごい偏り方だったかも」
「先輩は回復職でお願いしますね」
「うん……殴れる回復職を目指すね」
「今とあんまり変わんねぇな」
確かに今も攻撃しながらみんなの状態に気を配って回復や補助もしているから、やる事はあまり変わらないような気もする。そういうゲームなどをやる事があるのかはわからないけれど、もしもあればそうしよう。
「宝物にしてる物ってある?」
「父さんと母さんの写真と持ち物。あまり残ってないんだけどね」
崩れた家と一緒に、殆どがなくなってしまった。瓦礫の下から掘り出された、綺麗に残っていたものだけが僅かに奏の手元に残っている。遺されたそれだけをよすがに、ここまで生きてきたから、それは宝物ではあると思うけれど、同時にその時を思い出してしまうものでもあるから、なかなか見る事は出来ない。少しでも残ってくれて本当によかったと思っているのに、やっぱり亡くした人も無くした物も多すぎて、どうしても寂しいとは思ってしまう。
またみんなに心配されてしまいそうだからそんな事は言えないが、何となく伝わってしまっている部分もあるような気はする。みんなは何も言ってこないから、どう思われているのかはわからない。それが怖くもあり、助かってもいる。
「犬派ですか、猫派ですか」
「どっちも可愛い。それぞれ違う可愛さがあるよね」
「モフモフを求めてるんですもんね」
「犬でも猫でもいいからモフりたい」
「ここだとどうしてもNPCでしょうけど、現実ならモフれるんじゃないですか?」
「なるほど……確かにそれはそうか」
「流石にそれを理由に現実へ帰るとかではないですよね?」
「そ、そんな訳ないじゃないですか、理由の一つにはなるかも知れないけど」
「動揺するとやっぱり敬語になるんですね」
「仕方ない、だろ……今の口調にしたのは割と最近だし。両親以外には敬語でいなきゃならなかったし、抜けきってないんだ」
周りからあまり浮かないように、なるべくみんなが使うような言葉を使うようにはしているものの、動揺したり心が揺らぐとうっかり出てしまったりもする。それでも何となく馴染みきれないような気もするので、やはり人間関係は難しいしストレスもたまる。
現実に戻れたら犬や猫を眺めてのんびりしたい、帰る目的がみんなを帰す事以外にはないから、とりあえずそれを自分自身の目標にするのもいいかも知れないと奏はこっそり思う。
「gossiperやってる?」
「一応やってるよ、誰とも繋がらずにひっそりと」
「えっ、何それ、教えてよー!」
「そうですよ、僕にも教えてください!」
「ええ……景色とか食べ物とか読んだ本の事たまにぽろっと呟く程度しかしてないけど、それでもいい?」
「いいですよ、そういう人もいますよね。でも何で誰とも繋がってなかったんですか?」
「ただの日々の記録というか……誰とも繋がってなくても、それでもそうしていれば俺がいつかいなくなったとしても、世界のどこかにはひっそりと痕跡が残るかなと思って」
「繋がりましょう、これが僕のアカウントですから。繋がりましょうね、いいですね」
「はい、これが私のアカウントだよー!」
「え、え、うん?ありがとう、鍵介も鳴子も面倒見いいね?」
gossiperを開くよう言われて、とりあえず鍵介と鳴子にアカウントを教えると、すぐに繋がっていた。流石というか、行動が早いなーとつい奏がそれをぼんやり見ていると、フォロー返すように言われてしまったので慌てて返す。
「えーと、これでいいのかな。二人とも行動早いね」
「思い立ったら即行動、スピードが命だからね」
「今やっとかないと先輩忘れそうですし。逃しませんよ」
「二人して部長発見とか、先輩発見とか、そんな何かの珍獣見つけたみたいに」
二人の勢いと、一気に流れが早くなった自分のアカウントを見て苦笑する。WIREがあるからこちらはあまり気にしてなかったけれど、こんな風に賑やかな流れもいいのかも知れない。
「お疲れ様ー、次で最後だよ」
「と言う訳で、笙悟先輩どうぞ」
「ん、最後は笙悟なの?」
「えーと、月が綺麗ですね……って、これ結局なんなんだ、というか何で俺が質問する事になったんだ」
「笙悟先輩がジャンケンで勝っちゃいましたからね、仕方ないですね」
「……勝ったのにやらされてるの?笙悟への罰ゲームかな。しかし、笙悟にあの返答は酷だろうし、そもそもわかってなさそうだから余計にダメだろうし、うーん」
よくいう返しは死んでもいいわというアレだけれど、これは笙悟に返すのは何と言うか、ダメだろう。色々知ってしまっている今、冗談でも言いたくはない。奏は少し考え込んで、より照れくさい言葉を言う。
「そうだね……笙悟と見る月だからだよ。なんてね」
こんな言葉を言う意味があるのかないのか、自分でもよくわからないが。WIREと違って、流石に目の前にいる人に言うのは照れくさいけれど、恥ずかしがる方が余計に恥ずかしくなるからさっさと言って、照れを隠すようにそのまま流れるように話し始める。
「これの類語には誰が言い出したのか、海が綺麗ですねとか、虹が綺麗ですねとか、星が綺麗ですね、とか色々あるらしいけど」
「何か別の意味があったって事か」
「月が、というのも含め、知らなくても本とかじゃなくネットで検索したらすぐ出てくると思うよ。そういうのはメビウスでも検索出来るだろうから。そんな訳で、帰宅部のみんなへちょっとした宿題にしてみようか」
驚いたり文句言ったりする帰宅部メンバーに微笑んで、素早く言葉を付け足す。
「ああ、宿題なんて言っても、もちろん強制じゃないし、調べてみるのも気にしないのも自由だ、俺に伝える必要もない。ただ、言葉がちゃんと伝わらないのもちょっとだけ寂しいだろ?」
奏はそう言いながら、一人でさっさと帰り支度をする。正直、自分の事を話しすぎたし最後のは流石に恥ずかしさの許容量を越えた。というか、質問される側になってハッキリ理解したけれど、軽々しく色々質問していた自分を殴りたい。この『宿題』も後日自分を殴りたくなるかも知れないが、とにかく今は逃げたい、一刻も早く。
「さて、質問は終わりだよね。それじゃ俺は流石に色々話しすぎたし、ちょっと、結構恥ずかしいからお先に。アリア、何か食べて帰ろっか」
『お、いいねー。それじゃあ皆、部長からの宿題、頑張ってね!』
いつもの通りにアリアを胸のポケットに入れて、皆がぽかんとしている間に部室を出る。奏が何とか部長としての表情と行動を保てたのはそこまでで、真っ赤になりつつそのまま脱兎の如くその場から逃げ出した。
『ところで、もしも宿題皆がちゃんと調べて、改めて伝えてきたらどうするん?』
「後日考えます……今日はもう無理!」
『照れ屋だったんだねぇ部長』
後日、帰宅部のメンバーがその宿題をやったのか、やらなかったのか。部長に何か伝えたのか伝えなかったのか、それは彼らしか知らない事だった。