愛する人と過ごす穏やかで優しい時間と贈り物と。
ツイステ二次創作、シル監ラブストーリー第16話。
※創作女監督生の名前が出ます
※捏造設定あり
@natsu_luv
うだるような太陽の光が緑色の大地に降り注ぐ。
ナイトレイブンカレッジにも一年で最も暑い季節がやって来た。
汗ばむ陽気の中、私は相変わらず目まぐるしい学園生活を送っていた。
忙しい日々が過ぎていき、暑い夏の土曜日が訪れた。
今日はシルバー先輩と初めて麓の街へ繰り出す日。
この日のために、長いようで短い一週間を無事に乗り越えた。
麓の街で過ごす時間はどんなものになるのだろう。
心を弾ませながら、私は待ち合わせ場所の正門へと向かった。
正門の前にいるシルバー先輩の姿を見つけた。
私は少し速足で歩いていった。
「おはようございます!」
「あぁ、おはよう。さっそくバス停まで行こう」
麓の街へ行くには険しい山道を下る必要がある。
マジカルホイールで坂を降りていく生徒もいるけれど、私達ふたりは免許を持っていない。
ナイトレイブンカレッジの近くに麓の街行きのバスが出ているので、私達は停留所まで向かった。
停留所に着いた時、ちょうどバスが留まっていた。
無事にバスに乗れた私達は、麓の街まで運ばれていった。
しばらくすると、賑やかな街並みが車窓から見えてきた。
やがて、バスが麓の街の停留所に到着した。
バスから降りて、私達はたくさんの店が並ぶ通りへと足を運んだ。
夏の暑い日でも、街の人々は朗らかな笑顔を浮かべている。
通りを歩いていると、ティーポットとカップが描かれた看板が視界に入った。
惹かれるがままに、私は看板の方へと近付いていった。
「生果実のフルーツティーか……。美味しそう」
「紅茶の店か。涼むのにちょうど良さそうだな」
「そうですね。あっ、サンドイッチも美味しそうです」
「入ってみるか」
メニューに載っている食べ物の写真に夢中になっていると、シルバー先輩に店に入るよう促された。
お店の扉を開けると、クラシカルメイド姿の若くて美しい女性が温かく出迎えてくれた。
この女性がこじんまりとしたティーハウスの店主だ。
店内はアンティーク調のインテリアになっていて、可愛らしいテディベアも飾られている。
私は古書のような表紙のメニューブックを開いて、何を注文しようかシルバー先輩と相談した。
色々と写真を眺めた末に、私達はこのお店の看板メニューである生果実のフルーツティーと厚焼き玉子のサンドイッチ、ミルクレープを頼んだ。
しばらくして、店主さんがグラスに並々と入ったフルーツティーを運んできた。
「お待たせしました。こちらが生果実のフルーツティーでございます」
「すごい、綺麗!」
「フルーツは白桃、苺、キウイ、オレンジを使っています。ぜひ、じっくりと堪能してくださいね」
「はい!」
宝石のように散りばめられたフルーツがアイスティーを華やかに彩っている。
ストローで紅茶を吸い上げると、口の中に果物の甘い香りと紅茶の芳醇な香りが混ざり合う。
立て続けに厚焼き玉子のサンドイッチが運ばれてきた。
ふんわりとした玉子焼きと具材がトーストしたパンでぎっしりと挟み込まれている。
きっと食べると美味しいに違いない。
「美味い……!」
「デュースくんが食べたら、感動して泣いちゃうかもしれませんね」
「デュースは玉子焼きが好きなのか」
「デュースくんは卵料理が大好きなんですよ。このサンドイッチ美味しいなぁ。今度、エースくんとデュースくんに玉子焼きのサンドイッチを出してみよう」
「お前たちは本当に仲が良いんだな」
シルバー先輩が眉尻を下げて微笑んだ。
私がクラスメイトの名前を出しても、顔色ひとつ変えることなく話を聞いてくれるシルバー先輩。
シルバー先輩と話しているだけで、穏やかで優しい時間が流れていく。
厚焼き玉子のサンドイッチが着々と無くなっていく。
看板メニューと言われているだけあって、見た目も良くて味も美味しい。
分厚い玉子焼きは柔らかな食感で、一緒に挟まれているベーコンとレタス、トマトといった具材とも相性抜群だ。
サンドイッチを食べ終わってしばらくすると、食後のデザートの到来だ。
「こちらがティーハウス名物、すごいミルクレープです」
「クリームがたくさんだ……」
「天辺までクリームが塗られてますね。本当にすごい……」
「当店の生クリームは特別で、濃いめのクリームを使っているんですよ」
「そうなのか……」
店主さんの話を聞いたシルバー先輩が感心しながらそうつぶやいた。
クレープの隙間にも天辺にも生クリームがたっぷりのミルクレープ。
このようなミルクレープは今まで食べたことがない。
私達はさっそくミルクレープを頂くことにした。
フォークを入れるだけで、生クリームが溢れ出てくる。
私はひと口大に切ったミルクレープを口に含んだ。
濃厚な生クリームとクレープ生地が口の中で蕩けて、食べるだけで幸せな気分になる。
「ミルクレープ美味しいです」
「ニコルが幸せそうで何よりだ」
「麓の街にはこんな素敵なティーハウスがあるんですね」
「俺も初めて知ったな」
麓の街へ出掛けるためには外出届が必要なので、訪れる機会はそれほど多くはない。
私が初めて麓の街へ行ったのは、シルバー先輩の誕生日プレゼントを買いに行った時だ。
その時はプレゼント探しに集中していたので、飲食店を訪れることはなかった。
限られた時間の中で素敵なティーハウスを見つけることができた私達は、実に運が良かったに違いない。
ミルクレープを食べ終わり、フルーツティーも飲み切った。
お会計を済ませて、店主さんにお礼を伝えて、私達はティーハウスを後にした。
「美味しかったなぁ。また訪れたいですね」
「そうだな。冬場に訪れるのも良さそうだ」
「このお店の温かい紅茶も、きっと美味しいと思います。楽しみですね」
「ところで、次はどこへ行こうか……」
「そうですね……。雑貨店の通りに行ってみましょうか」
雑貨店の通りには可愛らしい動物雑貨のお店がある。
シルバー先輩の誕生日プレゼントを買いに訪れたお店だ。
さっそく、私達は雑貨店の通りの方へ向かった。
前に訪れた時と変わらず、通りは多くの人々で賑わっている。
だんだんと可愛らしいうさぎの看板が視界に入ってきた。
今日もこのお店は千客万来だ。
お店の中に入ると、たくさんの羊がずらりと棚に並んでいた。
どうやら、羊の抱き枕が人気ナンバーワン商品であることに変わりはないようだ。
「俺が貰った抱き枕はこの店のものだったのか」
「はい、プレゼントを探している時にちょうど羊さんと目が合ったんですよ」
「あの枕は抱き心地が良いな。すっかりお気に入りになってしまった」
「よかったです」
シルバー先輩から直々に羊の抱き枕の感想を聞くことができた。
他の誕生日プレゼントも気に入ってくれたみたいで、私はほっと胸を撫で下ろした。
ぬいぐるみの棚の近くにガラス張りのショーケースがある。
覗いてみると、うさぎが彫られたプラチナの指輪が飾られていた。
指輪の真ん中にある宝石はローズクォーツ、愛の女神を司る宝石と言われている水晶だ。
「綺麗……。やっぱり学生が買える値段のものじゃないな……」
「指輪が気になるのか?」
「あっ、シルバー先輩! 綺麗だったから、つい見とれちゃいました」
「そうか。綺麗な指輪だな。俺たちが買える値段の代物ではないが……」
しばらく指輪を眺めた後、私達はまたそれぞれの目的の棚のある場所へと戻った。
気がつくと、日の入りの時間が迫っていた。
お会計を済ませた後、私達はバス停へと足を向けた。
バスに揺られながら、私達はナイトレイブンカレッジへと帰り着いた。
途中で眠ってしまったシルバー先輩を起こし、バスを降りて、正門へと歩いていった。
正門をくぐり抜けて、メインストリートを歩いていく。
オンボロ寮まで送るとシルバー先輩が言ってくれた。
お言葉に甘えて、私はシルバー先輩と肩を並べて歩いた。
オンボロ寮の目の前にたどり着いた。
ゴーストさんが私達を出迎えてくれた。
ハーツラビュル寮に預けていたグリムも帰ってきており、今はぐっすりとお昼寝をしているらしい。
玄関扉を開けようとした時、シルバー先輩に呼び止められた。
どうやら、私に渡したいものがあるらしい。
「ニコル、これを受け取ってくれないか?」
「これは……あの時の指輪!?」
「いや、あの指輪とは違う。そっくりな指輪を見つけたんだ」
「あっ、ありがとうございます……」
シルバー先輩が私の左手の薬指に指輪をはめてくれた。
プラチナではなくて合銀だけど、ローズクォーツではなくてピンク色のガラス玉だけど。
薬指に付けられた指輪が私には輝かしいものに見えた。
きらりと指輪が光る。
シルバー先輩のサプライズに感極まりそうになった。
「ニコル、お前が卒業したら茨の谷に連れて行きたい。必ず迎えに行くから、それまで待っていてくれ」
「シルバー先輩……」
まさか、シルバー先輩の口から卒業後の話が出てくるなんて思わなかった。
私は異世界から来た元々は魂だけの存在だったもの。
いつかは元の世界へ帰って、元の世界の人格であるニコル・イーリスとひとつになると思っていた。
シルバー先輩はこのことを知らない。
先輩だけじゃなくて、ナイトレイブンカレッジの生徒や先生方も誰も知らないことだ。
はじめは元の世界へ帰る方法を探しながら学園生活を送るはずだった。
だけど、今は元いた場所へ帰ることにためらいが生まれている。
その矢先でのシルバー先輩の告白に、私は戸惑いを隠せずにいた。
「ニコル、俺が迎えに行く時に本物の指輪を贈りたい。その時も受け取ってもらえると嬉しい」
「はい……。その時まで待っています……」
シルバー先輩が私の目からぽろりと流れた涙の滴をそっと拭った。
そして、そのまま私達は口付けを交わした。
まだまだ私達に愛の誓いは早過ぎるかもしれない。
だけど、シルバー先輩からの誓いの言葉が私の心に確かに響いた。
いつかは元の世界に帰る日が訪れるかもしれない。
それでも、今のこの時だけはシルバー先輩と添い遂げる夢を見ていたいと希った。