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私の恋したガラルの王様 その①

全体公開 ダンユウ作品 5777文字
2021-06-10 16:59:17

第3回ダンユウwebオンリーイベント掲載作品
チャンピオン・ダンデに恋したユウリちゃんが、ダンデさんの目に留まるためにジムチャレンジに参加するお話。
ゲーム軸の開始前からエンジンシティに行くまでの部分です。

 その人を初めて見たのはホップの家のテレビの中。割れんばかりの歓声に包まれて、彼はスタジアムのバトルフィールドの中に立っていた。
 対戦相手のことはあまり覚えていない。ただ、その人が手を振ると、リザードンの炎が舞い、風が相手を切り裂く。それがとってもカッコ良くて、私は画面に釘付けになった。
「凄いだろ?オレのアニキなんだ」
 誇らしげに笑うホップに、私はほえーと間抜けな相づちをうつ。
 輝く金の瞳。ハリのある藤紫の髪の毛。確かにホップとよく似ている。
 でも画面の向こうで笑うその人が、ホップのお兄さんだなんて思えなかった。だってこの人は、ガラルの王様なんでしょ?
「ホップって王子様だったの?」
 私の質問に、ホップは吹き出した。
「なんでそうなるんだよ。アニキは王様じゃなくて、チャンピオン。ガラルで一番強いんだぜ!」
「そっか……チャンピオンか」
 ホップに教えてもらっても、やっぱり私にはその人が王様に見えた。綺麗な顔立ち、立派な赤いマント、王冠模様のユニフォーム。
「でもな、オレはいつかアニキを超えるんだ。アニキに勝って、オレがガラルのチャンピオンになる!」
「王様に勝つと、ホップが次の王様になるの?」
「王様じゃなくて、チャンピオン!」
 唾を飛ばさんばかりにホップが叫ぶ。
「でも、そうさ。チャンピオンに勝てば、次のチャンピオンになるんだ。アニキに勝つ。それがオレの夢なんだ」
 そう言ってホップは、笑顔を浮かべた。それは、画面の向こうのあの人と同じ笑顔だった。
「ホップがチャンピオンになると、チャンピオンだったお兄さんはどうなるの?」
 ふと浮かんだ疑問をホップに投げかけてみる。そんな事、考えたことも無かったようで、ホップは額に眉を寄せてうーんと呻った。
……そしたら、普通のトレーナーになるんじゃないかな?」
「普通のトレーナー?」
「うん。そうだよ。だって、チャンピオンは一人だからな。アニキは普通のトレーナー、普通の人になるんだぜ」
「へー。そうなのか」
 王様は一般市民になってしまうのか。あの煌めきが無くなってしまうのか。それはなんだか勿体なくて、寂しい。そんな気がした。

 そんなやり取りをしたその日から、私は王様……じゃなかった、チャンピオンの姿を追いかけるようになった。
 今まで気づかなかっただけで、チャンピオンは色んな場所にいた。
 シュートスタジアムでバトルをするのはもちろん、雑誌の表紙や特集記事になっていたり、ニュースの中で他の国の偉い人と握手をしていたり、コマーシャルに出ていたり。神出鬼没のスーパーマンだ。

◇◆◇◆

 ある日、ホップが私に問いかけてきた。
「なあ、ユウリってアニキのことが好きなのか?」
 それは思いもよらなかった質問で、私の頬がかぁっと熱くなる。
「え?何で?」
「だって最近のユウリはアニキの話ばっかりじゃないか。多分、ユウリはオレよりアニキについて詳しいぞ」
「そ、そうかな……
 もちろん好きか嫌いかと二択で聞かれれば、間違いなく好きと答える。でもそれ以上のことは考えたことも無かった。ただ、気になってなんとなく目で追っていただけ。それだけなんだから。
 そう正直に伝えると、ホップはにしっと勝ち誇ったかのように笑った。
「それな、恋って言うんだぞ。ユウリはアニキに恋してるんだ」
……そっか。これ、恋なのか」
 まさか、ホップに色恋の感情を指摘される日が来るとは思っていなかった。でも、その事実はすんなりと私の胸に入ってきた。腑に落ちたってやつだ。


(私、恋してるんだ。)
 自分の心臓に手を当ててみる。なんだか、心がほんのりと暖かくなった気がした。


 でも、自覚してしまった恋心は、その後、きりきりと私を苛んだ。
 だって相手は元お隣さんとはいえ、画面の向こうの遠い人。そして、ガラルみんなのチャンピオンだった。
 私だけを見て欲しい。声をかけて欲しい。なんて、夢のまた夢で。テレビや雑誌で、新しいダンデさんの姿を見つけて満足する。それくらいしか私には出来なかったのだ。
「うーっ!ダンデさん、カッコいい!好き!だけど、なんで、そんな、女と!むーっ!」
 ダンデさんの隣で笑うモデルさんが妬ましい。ダンデさんの熱愛報道が出るたびに、私はベッドの上で転げまわって、嫉妬の炎を打ち消していた。

 そんな私に、転機が訪れた。

◇◆◇◆

「えっ?ダンデさんがハロンに来るの?」
「おう。もうすぐジムチャレンジが始まるだろう?アニキ、オレにポケモンくれるんだってさ。そいつを育てて、オレはポケモントレーナーになるんだ!」
 ポケモントレーナー……そうかあれだ、画面の向こうのフィールドでダンデさんと戦っていた人たち。
「そして、オレはアニキを倒してチャンピオンになる!」
 熱く語るホップの言葉を聞いて、私は雷に打たれたかのように硬直した。
 ずっと悩んでいた問題の解決策を思いついたのだ。それはとても単純な答え。どうして今まで気づかなかったのだろう。

『チャンピオンじゃなくなったら、普通のトレーナーになるんじゃないか?』

 この前のホップの言葉が浮かんでくる。
 そう、ダンデさんを負かして、チャンピオンじゃ無くしてしまえばいいんだ。そうすれば、ダンデさんはただの隣のお兄さん。私にもチャンスがやってくる……かもしれない。
 ダンデさんをチャンピオンの座から退けるのは、並大抵の事では無いことはわかる。だって、10年間誰にも負けてないんだよね。でも、このままチャンピオン・ダンデに憧れているだけよりはいい気がした。何もしないよりは、ダンデさんに近づける。

「ね、ホップ!私も今からポケモントレーナーになれるかな?」
 興奮気味に問いかけると、ホップは少し顔を顰めた。
「今から?急だぞ!」
「だって、今なりたい!って思ったんだもの」
「ユウリ、思いつきで行動しちゃ駄目なんだぞ。だいたい、ポケモントレーナーが何か知ってるのか?」
「ちゃんと知ってるよ。ダンデさんのバトル映像も見たし、ダンデさんのトレーナーズ講義もちゃんとポケチューブで全話見たんだから!」
 私が自慢げに主張すると、ホップは目を丸くした。
「え?見たの?上級者向けで専門用語ばっかりの、あの動画を?」
「見たよ!メモも取ったよ!でも、あれじゃ肝心のトレーナーのなり方なんて説明されて無かったの!」
「そりゃぁ、そうなんだぞ。でも、ちゃんと勉強はしていたんだな」
 偉いぞ、とホップは私を認めてくれた。ダンデさんの動画だから見ていただけなんだけど、ホップには内緒にしておこう。
「わかった。ユウリの分もポケモンをもらえるように、アニキに頼んでみるよ」
「えっ!ダンデさんからもらえるの?」
 嬉しさを通り越した衝撃に、私は息を飲んで胸を抑えた。心臓がばくばくして苦しい。まさか、憧れのダンデさんにポケモンを貰えるなんて。夢みたい。
「ごめん、ホップ。そのポケモン、家宝にしていい?」
「駄目なんだぞ。」
 ユウリ、落ち着け。ホップが私の肩を叩く。
 でも、これが落ち着いてなんかいられないよ。だって、ダンデさんと会えるんでしょ?
 やっーたー!


 そうとなったら、もう全力で頑張るしかない。
 渋るお母さんに甘えて、頼んで、駄々をこねて。何とかジムチャレンジの許可をもらった私は、指折り数えながらその日を待った。
 

◇◆◇◆

 そして、ついにその日は訪れた。

「リザードン!キョダイマックスだ!」

 ピッ!!
 ダンデさんの試合が映るテレビを消して、鞄を背負う。お母さんのお下がりの丈夫な鞄は荷物でいっぱいだ。
 準備は万全。気合も十分。イメトレ完璧。
 その時、下から声がした。ホップだ。
「おーい、ユウリー。行こうぜー!」
 まるで登校へ誘うかのような気楽な声。でも私の鼓動は、期待と興奮に高鳴っていく。
 今日、ついにダンデさんに会える。
 私は一歩一歩を踏みしめるように、部屋から出た。いつもと同じ一歩だけど、これは偉大な夢への第一歩なのだ!


 ホップの家から坂道を駆け下りて、ダンデさんを迎えにいく。
 初めて会う憧れの人。ガラルの王様。
 目立つその人は、ブラッシー駅の入口で町の人達に囲まれていた。

「アニキー!」
 ホップの声に、その人は顔を上げた。精悍な顔つき、涼やかな眼差し、どこまでも煌めく金の瞳。
 初めて見た本物のダンデさんは、息が止まるほどカッコよかった。
「ホップ!世界一のチャンピオンファンが、わざわざ迎えに来てくれたか!」
 ダンデさんがにっかり笑う。それは、テレビでよく見たあの笑顔。
「ホップ!オマエ、背が伸びたな!そうだな……ズバリ3cm!」
 えっ!そうなの?私は思わずホップを見た。そういえば、私より背が低かったはずの彼の視線が近い気がする。
「正解!さすがアニキだな!世界一の観察眼だぞ!」
「そして、その瞳の色……
 はしゃぐホップを優しく見つめていた金の瞳が、ふっと私の方に向けられた。その力強い輝きに射抜かれて、私の心臓は今にも止まりそう。
「わかった!キミがユウリくんだね!弟からアレコレ聞いてるぜ」
 ひぃ!ホップ、どんな事を話してるんだろう!
「オレはガラルで最強。そして、リザードン大好きなチャンピオン・ダンデ。ひとよんで無敵のダンデだ」
 ダンデさんの一つ一つの表情と一挙手一投足がカッコいい。ほーっと見惚れていた私は、ホップの動きに一歩出遅れてしまった。
「アニキ、ユウリ、家まで競争だぞ!」
「あ、ホップ、待って!」
 ダンデさん、方向音痴なんじゃないの?置いてかないでよ!
 しかし私の静止も虚しく、ホップは走り去ってしまった。
 ダンデさんが私に近づいてくる気配。緊張で身体が固くなる。
「ホップのやつ……相変わらず勝負好きだぜ。良い競争相手がいればアイツももっと強くなるのにな。」
 ダンデさんの声が降ってくる。どぎまぎしてダンデさんを直視出来なかった私は、その言葉を聞き流してダンデさんを促した。
……行きましょうか」

 ダンデさんをダンデさんの家に案内する。なんだかヘンテコな気分だ。
 ダンデさんの隣を歩く事なんて出来ない弱虫な私は、後ろに気を配りながら、彼の前を歩いていく。
 時折、確認のために振り返ると後ろを歩くダンデさんと目が合う。その度に、ダンデにっこりと私に笑いかけてくれる。
 あーもー、ホップ、助けて!心臓が持たないよ!

 なんとか心臓発作を起こさずに無事ホップの家まで辿り着いた。良かった。本当に、死ぬかと思った。
 ホップの家のバトルコートで、私はヒバニーを貰った。
 メッソンもいいかなって思ったんだけど、ダンデさんのリザードンはソーラービームを持っている。メッソンと戦わせなければいいんだけど、何が起こるかわからないのがポケモンバトル。
 だから私はヒバニーを選んだ。


 その翌日、ダンデさんの前で、ホップを相手にして初バトル。
 緊張したなんてもんじゃない。喉はカラカラ。膝はガクガク。指示を飛ばす指は震えていた。
 でもヒバニーは私の意思を汲んで、私の思うように戦ってくれた。攻撃を避ける緊張感。技が決まる爽快感。
 そして。
「やったー。やったね!ヒバニー、勝ったよ!」
 初勝利を収めた私は、感極まってヒバニーと抱き合った。ヒバニーも嬉しそうに私に頬を擦り寄せてくれる。
 これが、ポケモンバトル。思っていたのとは全然違った。ポケモンを通じて、私の五感が最大限に引き伸ばされるような快感。みんなが夢中になるのもわかる。私も癖になりそうだ。
「凄いなオマエ!アニキがポケモンを譲ったのもわかるぞ!」
 ホップの素直な称賛がなんだかくすぐったい。
「ナイスファイト、グッドファイトだったぜ!思わずリザードンを出して参加するところだった……
 お世辞だと思うけど、ダンデさんも私を褒めてくれた。嬉しくて、体が熱くなる。
「ユウリ。見所のある、キミにお願いだ!ホップのライバルにもなれ!ふたりで……強くなるんだ」
「はい!わかりました!」
「アニキ!オレも、もっともっと強くなるぞ!」
 ホップもやる気いっぱいで、遠くの山に向かって決意の遠吠えをしている。
 こうして私はポケモントレーナーになった。そして、打倒ダンデさんに向けて推薦状をもらい、ジムチャレンジに参加することになったのだ。


◇◆◇◆

「ねぇ、ヒバニー。ちょっといい?」

 初めて訪れたワイルドエリア。
 一緒に行くはずだったホップは「よし、ダイマックスしたポケモンと戦いまくって、伝説の1ページにするぞ!」って走って先に行ってしまった。
 生き物の気配。風の音。木木のざわめき。ワイルドエリアは思っていたよりも賑やかだ。
 月明かりが私達の影を作る。ヒバニーの綺麗な白い毛並みは、そんな月明かりを反射して暗がりでもとても綺麗だった。
「初めて会った日の事を覚えてる?あの日、あなたを連れてきてくれた人、ダンデさん。」
 ヒバニーは真っ直ぐに私を見上げ、神妙な面持ちで話を聞いてくれた。
「私、あの人にポケモンバトルで勝ちたいの。だからあなたと一緒に強くなりたい。あなたと一緒に、ダンデさんとリザードンに勝ちたいの。」
 まん丸のつぶらな瞳が何かを考えるようにくるりと回って、ヒバニーはふるりと震える。うーん。ちょっと怯えさせちゃったかな。
「大丈夫だよ。まだまだ時間はあるから。私も弱虫だもん。一緒に、強くなろう。お願い。」
 ダンデさんに勝ちたい、と願うのは私の勝手だけど、実際に戦うのはヒバニーだ。だから、私は精一杯の言葉を尽くしてヒバニーを説得した。
 私の熱意に納得したのか、根負けしたのか、ヒバニーは「バニィ」と鳴いて、私の頬をペロリと舐めた。
「ふふっ。ヒバニー、ありがとう。これから、頑張ろうね!」
 私はヒバニーをきゅうっと抱きしめた。その身体はふわふわだけど痩せっぽちで、まだ頼りない。だけどヒバニーは「バニィ!」と、力強い返事を返してくれた。


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