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私の恋したガラルの王様 その③

全体公開 ダンユウ作品 9084文字
2021-06-10 17:05:32

第3回ダンユウwebオンリーイベント掲載作品 。チャンピオン・ダンデに恋したユウリちゃんが、ダンデさんの目に留まるためにジムチャレンジに参加するお話。 セミファイナルトーナメントからムゲンダイナ戦までの部分です。

 あっという間に時間は流れ、セミファイナルトーナメントが始まる。
 ジムチャレンジをクリアしたのは、私、ホップ、マリィを含めた4人。この中で、明日のファイナルトーナメントに参加できるのは1人だけ。

 新しく友達になったマリィ。一緒にポケモンをもらって、切磋琢磨してきたホップ。
 大切なライバルの二人を相手に、私は精一杯戦った。

 そして、私はホップを倒し、ファイナルトーナメント出場を決めた。
 あと数回のバトルに勝利すれば、ダンデさんと戦える。
 心が躍る。ワクワクが止まらない。
 でも、怖い気持ちもあるんだ。
 あと少し、手を伸ばしたらもう掴めそう。
 だけど、負けたら終わりだから。もう二度と手に入らない、一度きりの挑戦。絶対に負けられない。

 
「おーい、ユウリ!約束の時間だぞ!」
 ホップの声とノックの音で、私ははっと我に返った。
 考え事をしているうちに時間が過ぎてたみたい。
 シュートシティのホテル、ロンド・ロゼの一室で休んでいた私は急いで立ち上がる。
 西側の窓からは強い日差しが差し込んでいた。もう夕暮れが近い。
 ダンデさんに誘われて、ご飯に行く約束だったんだよね。準備は終わっていたけれど、待たせるわけにはいかない。
「ごめんごめん。今行くから!」
 声をかけてくれたホップに感謝をして、私は一階へのロビーへと降りていった。


 ロビーで、テレビ局の人にインタビューされながら時間を潰す。
 でも、ダンデさんは約束の時間を過ぎても来なかった。

「遅い!おかしい!」
 待ちくたびれたホップが地団駄を踏む。
「どんな約束も守るアニキだ。メシの約束を守るくらい余裕だよな!」
「そうだね。ちょっと遅すぎるね。ダンデさん、どうしちゃったんだろう」
 何かあったんだろう。シュートスタジアムに行ってみた方がいいのかな。そう思っていた時、ジムリーダーのネズさんがエール団の人達と一緒にやってきた。
「ノイジーな野郎ですね」
 気だるそうに毒づきながらも、ネズさんは私達の所まで来て、ダンデさんからの「遅くなる」という伝言を伝えてくれた。
 どうやらネズさんはモノレール乗り場でダンデさんと会ったらしい。
「メールで言ってくれれば良かったのにね。ネズさん、ありがとうございます」
「ネズさん、ついでだからローズタワーに案内してよ」
 ホップの言葉に、みんながざわめき出す。え?何?みんなでダンデさんを迎えに行くの?楽しそう!
 私とホップとネズさんとマリィとエール団。こんな大所帯で迎えに行ったら、ダンデさん、びっくりしちゃうね。
「‥‥‥そうですねぇ。ちょっとぐらいからかってやりましょうか」
 珍しくネズさんも意地の悪そうににやりと笑う。私たちはローズタワーへ向かうことになった。


 でも、私達はまっすぐにローズタワーへ行く事が出来なかった。
 何故かリーグスタッフを率いるオリーブさんが私達を妨害してきたのだ。
 モノレール乗り場の鍵を巡って、エール団とリーグスタッフの鬼ごっこ。ポケモンまで繰り出してくるリーグスタッフを蹴散らして。ネズさんやエール団と別れて向かったローズタワー内でもマクロコスモスの社員さんと戦って。最後は、ダイマックスしてきたオリーブさんのポケモンを倒して。私達はようやく、ローズタワーの最上階にいるダンデさんの元へ辿り着いた。


 ダンデさんとローズさんは何かを言い争っているみたいだった。あんな声を荒げるダンデさんなんか見たことない。
 驚きながらも駆け寄ると、二人は私達に気づいてこちらを向いた。慌てて取り繕うような笑顔を浮かべるけれど、二人が険しい顔で睨み合っているところ、見ちゃったもんね。
……アニキ、時間になっても来ないから、オレ、心配になって……
「ホップくんを不安にさせたこと、素直に謝ります。」
 不安気なホップに、ローズさんが謝罪する。ついでに邪魔をしてきたオリーブさんにも謝って欲しい。
 私たちが着いたときには、もう話し合い自体は終わっていたようだ。ダンデさんは私とホップを促して、エレベーターに向かおうとする。
「ローズ委員長、明日の試合をご覧ください!ガラルの歴史に残りますから」
 待ちくたびれたけれど、ようやくご飯だ。やれやれ。
 ダンデさんとホップから一呼吸遅れて歩きだした私の耳に、ふっとローズさんの呟きが届いた。
「ガラルの歴史に残る……。甘いねチャンピオン。ガラルの歴史を変えるんだよ。この私がね」
 その低い声はねっとりと気持ち悪く私の耳に残った。何の話かよくわからなかったけれど、振り返るのもなんだか怖くて私は足を速めてダンデさんを追いかけた。


 それからダンデさんは、私達をステーキボブ、シュートシティ店へと連れて行ってくれた。夕食には少し遅い時間だけど、店員さんは嫌な顔一つせずに私たちを個室へと通してくれる。
 ダンデさんが申し訳なさそうに笑った。
「悪かったな。大分待たせたようだ」
「大丈夫です。気にしないで下さい。リーグスタッフさんや、マクロコスモスの方といっぱいバトルしていたので退屈はしませんでしたよ。いい腕ならしになりました」
 私の言葉に、ダンデさんは声を上げて嬉しそうに笑った。
「ははっ、あはは。いい。凄くいいな。ユウリくんは。とても前向きで、貪欲だ」
「あ、ありがとうございます」
 会話しながらも、早く帰らなきゃいけないので食事の手は止めない。明日の集合時間は午前8時のはずだから、少しでも早く休まないと。
 その時、夢中になって肉を頬張っていたホップのスマホが鳴った。
「マリィからメールロト!」
「マリィ?セミファイナルに出ていたあの子か?」
「え?ホップ、いつの間に連絡先を交換していたの?」
「ん、アニキを待ってる間だぞ」
 ホップはもぐもぐと口を動かしながらメールをチェックしていく。そして、眉を寄せて私を見た。
「うーん。……どうしようかな。」
「どうしたの?」
「マリィとネズさんが近くのパブにいるらしい。で、セミファイナルの反省会を一緒にしないかって言うんだけど」
 なるほど。私は明日のトーナメントもあるから、反省会に行くわけにはいかない。ホップの言いたいことを察して、私はにっこり微笑んだ。
「いいよ。ホップ、行ってきなよ。私は一人でホテルに帰れるから」
「え?でも……やっぱり、ユウリを一人で帰すわけにはいかないぞ」
「えーーー。大丈夫だよ。帰れるよ」
 私とホップがあーだこーだと揉めていると、ダンデさんが口を挟んできた。
「じゃぁ、オレが送っていこうか?」
 私は驚いて、口の中に入れたご飯を喉に詰まらせかけた。え!ダンデさんに送ってもらうの?方向音痴なんじゃないの?というか、ダンデさんに夜道を送ってもらうなんて、私の心臓が持たないよ!
「サンキュー!アニキに頼めるなら安心だ!じゃぁ、ユウリ、気をつけて帰れよ」
 私が混乱して目を白黒させているうちに、ホップはパンを頬張りスープをかきこむと、荷物を持って颯爽と出ていってしまった。
 ええ?ダンデさんと二人っきり?嘘でしょ!!


 シュートシティの夜はとても明るくて、そして賑やかだ。ハロンタウンやワイルドエリアとは全く違う。
「あ、そっちじゃないです。ホテルはこっちですよ」
 ダンデさんは時々道を間違えながらも、私の歩幅に合わせてゆっくりと歩いてくれた。
 結局私が道案内をする形になったので、遠回りをして大通りを進む。緊張で胸が張り裂けそうなんだけれど、この時間が終わってしまうのも寂しくて、私はいつもよりもゆっくりと歩いた。
 食事中は饒舌だったダンデさんは、外に出ると静かになった。でも私がちらっとダンデさんを見上げるとにっこりと笑いかけてくれる。
 口を閉ざしたダンデさんの代わりに何か喋る事はないかと頭をフル回転するけれど、ずっとジムチャレンジに夢中だった私にはこれといった話題は無い。
 焦った私の口から、いつも考えていた事がほろりと漏れた。
「ダンデさんは、寂しくないんですか?」
「ん?」
 口元の微笑みはそのままに、ダンデさんの目が瞬いた。伝えるつもりはなかった言葉を私は慌ててフォローする。
「あの、えっと。ダンデさんはチャンピオンとしてガラルの問題事を解決しながら、チャレンジャーが来るのを待ってるんですよね。それって寂しくないのかな、って思ってたんです。ダンデさん、いつも一人ですし」
「そうだな……。確かに、気軽にバトル出来なくなって随分たつ。でも慣れてしまえば、なんてことないぜ。寂しさなんて、忘れてしまったぜ」
 ダンデさんは遠くを見ながらそう呟き、それっきり黙り込んでしまった。立ち入った事を聞いたかな、と思いながらも、ダンデさんの気持ちが少しわかって、私は満足だった。
 
 曲がった道の先に、窓のたくさんある立派な建物が見えてきた。ホテル、ロンド・ロゼだ。
 楽しい散歩はもう終わり。私は「ありがとうございました」とダンデさんにお礼を言って、ホテルへと走ろうとした。
「確かに、オレはずっと寂しかったのかもしれない」
「え?」
 背を向けかけた私に投げられた言葉に、私はダンデさんを振り仰いだ。
「心配してくれて、サンキューな。キミが想像してくれたように、オレは……チャンピオンは孤独かもしれない。だからこそ、オレは明日の決勝戦を何よりも心待ちにしているんだ。バトルをしている間は、チャンピオンの地位なんて関係ない。オレと相手は対等なんだ」
 憧れのダンデさんの金の瞳が私をまっすぐに捉える。でも私の心は浮つく事なく、穏やかにダンデさんの言葉を受け入れた。
「だが最近はずっとキバナと戦ってばかりで、つまらなかったんだ。明日はぜひ、キミと戦いたい」
 夜道でもはっきり輝く金色の優しい瞳が、私を映す。期待に満ちたまなざしに、私の心にやる気がみなぎっていった。
 ダンデさんはモンスターボールからリザードンを呼び出す。「おやすみ。良い夢を」そう言ってダンデさんはリザードンに飛び乗った。
「おやすみなさい、ダンデさん。私、絶対に勝ち上がりますから。明日、あなたの前に立ちますから」
「サンキュー!期待してるぜ!!」
 チャンピオンスマイルを一つ残して、ダンデさんとリザードンは夜空に舞った。リザードンの火の粉がはらりと落ちて、その姿はホテルの向こうへと消えていく。

 夢のようなダンデさんとの夜の散歩を終えて、私はホテルのエレベーターに乗り込んだ。
 心ときめく散歩の余韻に浸りながら、でもなぜか私の気持ちは重かった。
 いよいよ明日はトーナメントなのに、どうしてこんなに気が乗らないのだろう。
『ガラルの歴史を変えるんだよ。この私がね』
 バトルタワーを去る時の、ローズさんの重たい声がふと蘇った。あの言葉が引っかかっているのだろうか。自分のことなのに、よくわからない。
 説明出来ないもやもやを抱えたまま、私は布団に入った。頭がやけに冴えていて眠れないかとも思ったが、夜も遅く度重なるバトルに疲れていた私は、あっと言う間に夢の中へと落ちていった。


 そして、私の予感は現実になった。


◇◆◇◆

「ガラルの未来のため、ブラックナイトを始めちゃうよ!」
 本気のジムリーダーが参戦したチャンピオンカップトーナメント。激戦を制して準決勝のキバナさんとの闘いに勝った私は、スタジアムの芝の上でダンデさんと向き合った。
 その時、巨大なモニターにローズさんの顔が映し出されたのだ。会場内が不穏にざわめく。
「ブラックナイト……?」
 一同が頭を傾げる中、ダンデさんは何かに思い当たったみたいだった。
「1000年先の問題を解決するために、動いたのか!?」
 みんなの注目がダンデさんに集まる。そんな中、ダンデさんはリザードンを呼び出した。
「とにかくオレが……チャンピオンのオレがナックルへ行く!リーグ委員長の言葉をきちんと理解しなかったオレに責任ある。」
 何が起こっているのだろう。ダンデさんは何を知っているのだろう。詳細がわからないことが、とても怖かった。
「オレに任せてくれ!チャンピオンタイ厶タイムだぜ!」
 ダンデさんはリザードンに乗って飛び立ってしまった。


「ユウリーーー!」
 突然の出来事に、呆然としていると、客席にいたはずのホップが必死の形相で駆けつけてくれた。
「ホップ!どうしよう!ブラックナイトだって!ダンデさん、行っちゃった!」
「アニキに任せておけば、大丈夫だぞ。なんてったって、無敵の……
「大丈夫じゃないよ!」
 いつもの調子で笑っていたホップは、私の剣幕に固まった。
「なんでみんなそんなに呑気なの!なんで全部ダンデさんに押し付けるの!ダンデさんに任せて、駄目だったからこんなことになってるんでしょ!」
 私の怒声にホップは、弾かれたように顔を上げた。それでも迷うように視線が彷徨う。意気地なし、と睨みつけると、ホップは覚悟を決めたようで、ようやく私に視線を合わせてくれた。
「そうだよな……。オレ、アニキの力になりたい。でも、ユウリにも勝てなかったオレに何ができる?」
「できるよ!何でもできるよ!ダンデさんの後を追いかける以外にも、何ができるか知恵を絞ろう!」
 そう私達は子供だから、大人に任せればいいんだ。力を借りればいいんだ。
 私とホップの目があった。きっと一緒の事を考えている。そんな予感がした。
「ブラックナイトは大昔に起こった災厄!」
「エンジンシティの英雄像!そして、英雄は二人!」
「それを調べてたのは……
『ソニア!!』

 私とホップはアーマーガアタクシーに乗って、南へと飛んだ。

 電話した時、丁度ソニアさんはまどろみの森を調査していた。そこに、英雄のポケモンが眠っている可能性が高いらしい。
『伝説が本当なら、剣や盾のポケモンがブラックナイトをおさめてくれる……。渦を振り払う力となる!』
 ソニアさんの言葉を思い出し、ぎゅっと手に力を入れる。
(ダンデさん、待っていて。私達、必ず役に立ちますから)

 シュートシティからまどろみの森までは遠い。ガラルの北端から南端へ、私たちはアーマーガアタクシーを乗り継ぎながら急いだ。
 途中通りかかったナックルシティは禍々しい紫紺の雲に覆われていた。私たちはそれを避けるように飛んでいく。
 本当は一人で戦っていであろうダンデさんが心配でたまらない。でも、私達がそこに行っても足手まといになるかもしれない。逸る気持ちを抑えて、私達はまどろみの森を目指した。


 ソニアさんの見立てどおり、まどろみの森の中で私達は剣と盾を模したような2体の不思議なポケモンと出会った。私達は彼らと約束を交わし、朽ち果てた剣と盾を携えてナックルシティへ戻った。


 ナックルスタジアムへ駆けつけると、玄関の入り口にキバナさんがいた。丁度、人々の避難とダイマックスポケモンの討伐を終えたところだったらしい。
「オレは、行く!アニキを助けるんだ!」
 いつものように暴走して、ホップは先に行ってしまった。
 私はダイマックスしたポケモンを鎮めていたキバナさんと、ロビーで嘆いていたオリーブさんと話をつけてから地下プラントへと降りていった。

『このままでは地下プラントが崩れちゃう。まことに身勝手ですが、ローズ様を止めて下さい。』
 髪を振り乱して取り乱していたオリーブさんの言葉を思い出す。
……本当は、オリーブさんがローズさんを止めるべきだったんだよね」
 それを私に頼むなんて、虫のいい話だ。
 もしかしたら、ダンデさんにも止める機会はあったのかもしれない。でも、誰もローズ委員長を止めることが出来なかった。


 ちん、と緊迫感の無い可愛らしい音がして、私は地下プラントに降り立った。
 ホップが先に着いているはずなんだけど、どこだろう?
 地下プラントの中は大きな無数の電灯が点いていて、煌々と明るい。その眩しさに目をすぼめながら辺りを見回すと、プラントの中心に壊れた球体と二人の人影を見つけた。うち一人は傷つき、倒れ込んでいる。その、人物は。
「ホップ!」
 二人の視線が私の方を向いた。私はモンスターボールを投げながら夢中で走る。
「ルカリオ、ホップを確保して!プクリンはホップの手当てを!」
 ルカリオがホップを抱えあげ、ローズさんと距離を取る。私はホップを守るように前に立ちはだかり、ローズさんを睨みつけた。
「ごめん。アニキを……たすけられないんだぞ」
 苦しそうに呻くホップをプクリンが「ぷぃ」と、嗜める。打ち身や擦り傷が殆どで、酷い傷は無さそうだ。プクリンが器用に手当をしていく。きっとすぐに立ち上がれるだろう。
 すぐに攻撃をしてくるかと思ったが、ローズさんは立ったまま私を見つめていた。
「何をする気なのかな?ジムチャレンジャーさん?」
……ダンデさんを、助けに行きます」
「それは困るよ、キミ。チャンピオンには、ムゲンダイナを制御してもらわないとね」
 モンスターボールを手に遊ばせながら告げられたローズさんの言葉。それはあたかもダンデさんが自分のものであるかのような言い方だった。その態度に、私は怒りを込めてローズそんを睨みつけた。
「ちょっといいかな?キミからすれば、わたくしはひどいことをしているのだろうね。微塵も理解できないのだろう」
 ローズさんの言葉に無言で頷く。全くもってその通りだ。
「だがね、わたしくしには、ガラル地方が永遠に安心して発展するために、無限のエネルギーをもたらす信念と使命があるのだよ!」
 声を張り上げてこちらを睨んでくるローズさん。その目に揺らめくのは確かな狂気。
「それならこちらも手加減はしません。ダンデさんを助けるために、押し通ります!」
 一刻も早くダンデさんのもとに駆け付けるため、私は必死に作戦を練った。1VS1なんてのんびりしたことはやっていられない。時間との戦いだ。エースバーンがローズさんの鋼タイプのポケモンを燃やしている間に、ルカリオがローズさんへと飛び掛かる。
 私たちはものの数分でローズさんを倒し、立ち上がったホップと一緒にリフトに乗り込んだ。目指すはナックルジムの最上階。そこでダンデさんとブラックナイト、もといムゲンダイナが戦っている。

『わたくしを助けるために、彼は試合を捨ててやってきたんだ。それこそお姫様をドラゴンから守るナイトのようにね!』
 手足を縛られてなお誇らしげに力説するローズさんの言葉が脳裏に浮かんだ。ムカつく。何がお姫様だ。救世主を気取ってさ。趣味悪い。ガラルの平和を願うお姫様を守るのは英雄の役目でしょ。ドラゴンをたぶらかし、ガラルを破滅へと導く売国姫なんか絞首刑だ!
 あー。駄目駄目。怒りで我を失いそうになる。私は隣に立つホップに声をかけた。
「ホップ、頑張ろうね!」
「おう!オレも、ポケモンも、諦めないぞ」
 静かに闘志を燃やすホップの姿に、私も冷静になる。
 よし、負けない。頑張る。気合十分。やる気MAXだ。
 私たちは勢いよく、最上階の扉を開けた。


◇◆◇◆

 ダンデさんとムゲンダイナのバトルは、私たちが行った時には終盤戦の様相だった。
 動きの鈍くなったムゲンダイナに、ダンデさんがマスターボールを投げる。一度、ムゲンダイナは確かにボールに収まった。
 しかし、ムゲンダイナは抵抗してボールから脱出した。内部からマスターボールを灰にするほどの高エネルギーが発生し、それは私たちを直撃した。
 目を開けていられないほどの光線。リザードンがかばってくれて私とホップは無事だった。でも、「ぐあっ」というダンデさんの悲鳴が聞こえた。リザードンも苦しそうにうめいて、ボールに戻っていく。
「ダンデさん!」
「アニキ!」
 私とホップの悲痛な声が重なる。ダンデさんは後方の壁まで吹き飛ばされたみたいだった。頭から血を流して、意識を失っている。助けに行きたいけれど、目の前にいるムゲンダイナは雄たけびを上げながら私たちを威嚇している。一刻も早く、こいつを倒さなければ。
「ルカリオ!プクリン!ダンデさんを守って。頭を打ってるみたいだから、動かさないようにね」
「二人でかかればすぐなんだぞ!いけっ!バイウール!」
「エースバーン、行くよ!」

 ムゲンダイナはとても強かった。一人でこんなやつと戦っていたダンデさんは本当にすごい。
 ホップとなんとかムゲンダイナを弱らせた。けれども、ムゲンダイナはコアのエネルギーを放出し、さらに強くなって私たちに襲い掛かってくる。
 高エネルギーが渦を巻き、辺りの風景が歪む。歪みの向こうに見えるのは、過去の私たちの映像。これは……時空が歪んでいるの?ローズさんは、なんて生き物を目覚めさせたのか。
「ば……化け物なんだぞ!」
 ホップの声が震えた。ポケモンたちもおびえているのか、縮こまって技を出そうとしない。
「ホップ、しっかりして!諦めないって言ったでしょ!ほら、あの剣と盾!」
「忘れてた!剣と盾を見つけたんだった!ボロボロでも何か起きるかもな」
 ホップはムゲンダイナに向かって盾を構えた。私もそれに倣って剣を構える。
 ムゲンダイナに変化はない。でも私は全力で祈った。
「お願い、力をかして!ガラルを‥‥‥王様を、守りたいの!」
 その時、ボロボロに朽ち果てていたはずの剣が光り輝き、ポケモンの姿を形どった。隣ではホップの盾もポケモンの姿になっている。
「ウルゥーーード」
「ウルォ―――ド」
 まどろみの森で幾度となく聞いた声が響く。
「ザシアン……ザマゼンタ……
「そっか……。お前たちの鳴き声だったのか」
 ホップが微笑む。その向こうでは、バイウールが立ち上がり、飛び跳ねている。私のエースバーンもやる気を取り戻したみたいだ。うん。これなら戦える。
「私はガラルの剣」
 その言葉は自然に私の口から飛び出した。
「んじゃぁ、オレはガラルの盾なんだぞ」
 ホップも私の真似をして、不敵に笑いながらムゲンダイナに向かう。
「今度こそ、終わらせる!いざ、尋常に、勝負!!」

 最後の激闘が、幕を開けた。
 


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