物置と誓いと【クロシア】

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2021-06-10 23:03:47

ジューンブライドを意識したけどそれっぽくなんなかったクロシア。付き合っていない。もっとちゃんと結婚させたい人生だった。

Posted by @Greas087


「何で俺がこんなジメジメして埃っぽいとこ来なきゃいけねえんだよっ」
「お掃除ジャンケンに負けちゃったからにゃあ、皆強かったにゃ!」
「こんな場所ずっと居座ってたら喉がやられるぜ……
 一年以上は放置している物置の中へ足を踏み入れながらぶつくさ文句を言うクロウの背中をシアンは追う。
 クロウの言う通り扉を開いた瞬間白い埃が物置の中で舞う。それにこの季節毎日の様に雨が降っている所為かカビ臭い。幸い今日は雲一つない快晴で、お掃除日和だ。
 空気の入れ替えの為入口を開けっ放しにしてみたものの、電気等はこの空間に存在がなく、もう少し奥に進んだ先の高い所にぽつんと小窓一つのみ。小窓から細い太陽の光が差し込んでいるが、大掃除としてはあまりに頼りなかった。
 暫くライブの予定がないプラズマジカとシンガンクリムゾンズは、社長の『どうせ暇なら事務所の大掃除してほしいですぞ!』と、気紛れな提案に渋々乗っかった。各部屋に人数を分担して掃除しようという事になり、ジャンケンで分けていった。最後まで負けっぱなしだったシアンとクロウは、一番不人気の物置に割り振られた。
 掃除を開始してからもクロウはクソクソと文句を言いながら大きなゴミ袋の中へと必要のないガラクタを放り込んでいく。
 そんなクロウとは打って変わり、シアンは一つ一つガラクタを確認してからゴミ袋に捨てていった。骨頂品やガラクタ集めが趣味のシアンは、もしかしたら高そうなお宝があるかもしれないと、慎重になる。
「このティーポット可愛いにゃん!」
「やいやいお前、いちいちゴミを褒めんな! 五月蝿えしいつまで経っても終わらねえよっ」
 クロウの言う通り、シアンは物置に入ってから目に飛び込んできたものを大切に手を取り鑑定し、楽しそうに物にコメントを残して、最後は名残惜しそうに袋に捨てていた。クロウにとっては大迷惑だったが、骨頂品店で育ったシアンにとっては気分が高揚しているので彼の事など気にも留めずに暫く続けた。
 シアンは、小窓から差し込む光の方へと移動し、がさがさ物を漁る。日差しがライトの代わりとなり、暗がりの作業が先程よりも行い易くなった。
 随分昔の音楽雑誌の束を見つけシアンは目を瞬かせた。きっと参考になる記事が載っているかもしれないと手をかけると、雑誌と雑誌の間に挟まった何か白い布の様なものを発見した。力づくで引っ張ってみると思っていたよりも長く大きい。
 現れたのはレースのカーテンだった。雑誌の間に長年眠っていたからか黄ばんではおらず、新品同様だ。これは部屋に持ち帰ろう。
 少しの間シアンはカーテンを眺めていると、何かを思い付いて頭にそれを被せた。そしてクロウの方へと目線を移す。
「ねえねえクロウちゃん」
「ああ? 今俺は忙」
 呼ばれたクロウはゴミを雑に袋へ捨てながら怪訝そうな顔で振り返ると、シアンの姿を見た途端思考が停止したように体が固まった。
 一筋の光が、白いベールを纏って座るシアンを照らしていた。空間を舞う埃達は光によりキラキラと彼女を引き立たせるエフェクトと変化していた。
 まるで——
「花嫁さんみたいでしょ!」
 花の様に笑うシアンに話を振られて我に返ったクロウはぶんぶんと思い切り頭を振りながら彼女に近付いた。
「お前遊ぶなってさっきから言ってんじゃねえかっ」
「遊んでにゃいもん」
 何故か怒鳴るクロウにシアンはぷくうと頬を膨らませて食い下がる。
 それが気に食わなかったのかクロウは眉間に皺を寄せた。
 しかしそれも束の間、クロウは吊り上がった表情をやめて、じっとシアンの方を無言で見つめ始めた。
「クロウちゃん?」
 突然のクロウの表情の変化にシアンは戸惑って名前を呼ぶが、近距離だといのに聞こえていないのか返事はない。
「汝、健やかなるときも」
「えっ」
「病めるときも、喜びのときも」
「えっえっ」
 はたまたクロウが急に語り始めてシアンは豆鉄砲を食らった気分になっていた。
「悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも」
この台詞は確実に、結婚式の日に夫婦になる二人の前で神父が問いかけてくる誓いの言葉だ。
 真剣な眼差しで見つめるクロウの瞳が日差しによって綺麗に光り、躊躇っているシアンも彼の視線には逃れられなかった。
「これを愛し、敬い、慰め遣え、共に助け合い、その命ある限り」
 ドキドキと胸を高鳴らせているのも知らず、クロウは淡々と誓いの言葉を続けた。一体何処で覚えてきたのだろうか、不思議に思って聞いていれば
「真心を尽くすことを誓いますか?」
 最後まで呪文のように唱えられ、最終的にクロウはシアンに答えを促してきた。
 これは答えないといけないのだろうか。シアンは目をおろおろと泳がす。それでもクロウは何も言わずに返事を待っていて、いよいよシアンは頭の中が爆発しそうな程パニックになった。
 ここで「誓いません」と答えれば、すんなり解放されそうだけど、誓いませんと答えた理由が思い付かないから返せない。
 結局シアンは
「チカイマス」
 片言で誓った。きっと顔も強張っている。
 クロウは彼女の返事を聞いて柔らかく微笑んだ。その微笑みは反則だ。元々顔が格好良いのでシアンでさえもドキドキしてしまう。
 彼の顔に見惚れていれば、段々とクロウの顔が近付いてくるのを少し遅れて気付いた。
「それでは誓いのキスを」
 いやいやいや、顔を近付けながら言わないでほしい。近付ける前に言ってほしい。
 この現状が付いていけずに何故か変なツッコミを心の中でした。そういう場合ではない。
 やめてと言いたかったが、もう鼻と鼻がくっ付きそうな程お互いの距離が近かった。
 でも、クロウちゃんとだったら——
 観念して目を瞑り、されるがままに構えた。
 しかし
「いだっ!」
 唇に柔らかいものが触れるのかと思いきや、額に何かが思い切りぶつかったような気がした。それと同時に鋭い痛みが走り、瞬時に声が出た。
 目を開いた同じタイミングで、だはははは! とクロウの笑い声が物置中に響き渡った。
「ほんとお前って場の空気に持ってかれ易いからからかい甲斐があるぜっ」
「えっあたし遊ばれちゃったにゃ!?」
「こんな場所でお前と愛なんて誓えらんねえよ、ばーか!」
「酷いにゃ! クロウちゃんの意地悪!」
 さっきまで格好良いとか、クロウとならキスしてもいいかなとか思った自分が馬鹿みたいだ。
 シアンはクロウの側から離れて、カーテンを剥ぐと、今までの羞恥を誤魔化すように何も口に出さず黙々とゴミを袋の中へと詰め込んだ。
 クロウちゃんなんか一生お婿さんに貰われなくなっちゃえ。シアンは憤怒しながら念じた。

 こんな場所で、はな。
 去り際にクロウが最後に呟いた言葉を、シアンは気付く事はなかった。


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