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杜預×周旨が公式

全体公開 3994文字
2021-06-11 23:43:41

杜預周旨

 瞬間、杜預は自分の目に映った光景を幻覚かと思った。ので、とりあえず強めにゴシゴシと両まなこを擦ってみたが、見えるものに変化はない。ということは、これは現実なのだろうという結論を下して、杜預は思うままに声をあげた。
「ど、どうしたんだ!?周旨!?熱でもあるのか?」
 大袈裟に驚きを表現する杜預の叫びを受け、周旨はおもむろに視線をこちらへと向ける。そして、ムッとしたような表情をして、心外だという気持ちを訴えかけた。杜預はその反応を率直に可愛いと思う。
「ひどいっすよ。大将。オレが本を読んでいたら、そんなにヘンですかねえ?」
「いやあ。珍しくて。つい……
 誰がどう見たって、インドアよりアウトドアが似合う男。周旨は一人静かに、部屋の隅っこで手にした書物に視線を落としている真っ最中だった。それを幻かと勘違いする程度には、杜預は彼が読書に耽っている姿など、とんと見たことがなかったのである。
……で、何を読んでいたんだ?」
 となれば、その内容に興味が湧くというもの。杜預がいくら勧めてみても、「本を読む暇があったら筋トレします」と答えるような彼が、こんなにも熱心に読んでいる書とは何なのか。
「ふふん。読みますか、大将も?」
 意味深にニヤリと上がった、彼の口角。杜預でなくとも、すぐに気付くだろう。周旨が何か、良からぬ企みを隠していることに。
……どれどれ」
 そうと分かっていながら、自ら罠にハマりに行くなどい愚の骨頂。であるのは、戦場での話で。杜預と周旨の間に、妙な駆け引きなど一切ご無用。という訳で、杜預はすんなりとその本を受け取るのであった。
 仮に、彼が悪巧みをしていたとして、それが杜預を傷つける類のものである可能性は、万が一にもないのである。そう思える絶対の自信があるから、周旨の含みある態度にも、なんの警戒心も抱かないのだった。
―――杜預は。って、なんだコレ?俺の名前が書いてあるが……
 渡された本の適当なページを、ぺらりと杜預はめくる。すると、そこには己の名前が記されているではないか。奇妙に思いながらも、杜預は続きの文字を追い、その内容を声に乗せる。
―――杜預は白い柔肌にそっと指を這わせ、その指先はいよいよ、誰にも触れられたことのない彼の秘所へと……って、ちょっと待ったぁ!!?」
 半ば狼狽気味にセルフツッコミを始める杜預を前に、周旨はゲラゲラと笑った。まるで、この反応を期待していたとでも言いたげに。
「な、な、な、なんだ!?この書物は!!?」
「何って、いわゆる官能小説的な?」
 官能小説とは、官能に訴える、つまり男女間もしくは同性間での交流と性交を主題とした小説の一ジャンル。バイ、晋ペディア。
 などと、そんなことは改めて確認せずとも、杜預だって知っている。実際に、読んだことだってある。……ある。二、三冊くらいなら。
「そうじゃなくて。なんで、その官能小説の登場人物の一人が俺なんだって話だ」
「そりゃあ、これは大将を主人公に据えた創作小説だからですよ」
「は?はあ??」
 実際の人物を用いた小説など、別に珍しくもないが。自分がその対象にされたとあれば、驚きもする。しかも、よりによって官能小説。自分には最も縁遠いと思われる、如何わしい本にだ。
……こんなもの、一体どこで手に入れたんだ」
 現存している人物が主人公の小説なんて、本人に見つかればお咎めを受ける可能性もある危険な存在だ。であれば、流通しているのは間違いなく裏ルートのはず。
「ん?ああ。コレ、羊祜殿から借りたんっすよ」
「羊祜殿から?ますます謎だ」
 何の脈絡もなく、周旨の口から飛び出したその名は、杜預に更なる疑問を抱かせた。
 羊祜は杜預が敬意を払う上司の一人であるが、このようないかがわしい書を所持しているような人ではない。多分。……いや、根拠はないが。
……フフ。その理由は、続きを読めば分かりますよ」
「はあ?どういう事だよ……
 正直、杜預はこれ以上、この本に目を通すのは遠慮したいところだった。誰が好き好んで、己が淫行に及ぶ小説など読むものか。
 とは言え、周旨は明らかに先を読んで欲しそうな顔をしている。ニヤニヤとこちらの動揺を意地悪く伺う彼の姿は、どちらかと言えばM寄りな杜預の感情を揺さぶるのだった。端的に表現すれば、弄ばれるのもそれはそれで心地が良いということである。
―――杜預はその内腿へ、濡れた唇を這わせた。貪るように柔肌に吸い付き、杜預は獣のように、所有を証明する痕を残す」
……実際の大将と違って、イケイケドンドン♡って感じでしょ?」
 込み上げてくる笑いを隠しきれないといった様子で、周旨は杜預を揶揄うのだった。奥手な自覚のある杜預は、彼の揶揄を特に否定はせず、わずかに頬を赤らめた。
 周旨の言う通り、この小説の主人公は杜預という名を有してはいるものの、本来の杜預とは少し、いや、随分と異なっているようだった。実際の自分は、獣のように性欲を露わにしたりはしない。何故なら、完全草食系だから。
―――荒々しい杜預の責めに翻弄され、甘い吐息を漏らした……
 そこでピタリと、杜預の朗読は途切れた。読むのを止めたわけではない。絶句し、声を発することができなくなったのだ。
「どうしたんっすか?大将。ほら、早く続きを読んで」
 恐らく、この先に続くワードが何であるか、周旨は既に知っているのだろう。だから、何故、杜預が言葉に詰まっているのかも分かっているはず。その上で、こちらを煽るその声は妙に艶っぽかった。
―――甘い吐息を漏らした………よ、羊祜は」
 震える声で、杜預はその先に記された名を読み上げた。まるで、おぞましいものでも目にしたような表情で。
……いや。いや、いや、いや!?な、な、な、なんだ!?この書物は!!?」
「そのセリフ、さっきも聞きましたよ。大将」
 案の定、周旨は杜預の動揺ぶりを見るや、手を叩いて爆笑していた。しかし、こちらはそれどころではない。何故なら、この官能小説のもう一人の登場人物が羊祜だったからである。もう一人、つまりは杜預のお相手ということになる。
「コレ、大将と羊祜殿のエロ小説なんっすよね〜」
「はあ??はあっ!!?」
 杜預は世界が滅ぶレベルの天変地異でも起きたかの如く、顎が外れんばかりに大口を開け仰天した。そのコメディのような反応ぶりは、大いに周旨を喜ばせた。
「大将が攻めで、羊祜殿が受け。あっ。攻めってのは男役って意味で
「そんな事はどうでもいい!!?」
 どこで、そんな知識を手に入れたのか。いや、十中八九、羊祜の入れ知恵だとは思うが。周旨は謎の知識を杜預にひけらかす。だが、どっちが受け攻めとかそんな話はどうでもいい。問題はそこじゃない。
「な、なんで俺が羊祜殿なんかと……
 驚愕のあまり、杜預は上司に対してなんとも失礼な発言をする。が、何度も言うように、杜預はそれどころではなかったのだった。
「そりゃあ、作者の趣味じゃないですかね。知らないっすけど」
 どこの誰が執筆したのか。作者名は当然のように偽名で、特定するのは難しそうだった。それに、作者が判明したところで、この本の存在が消えるわけではないのだから、それもまた、どうでもいい事。
「ってなワケで、自分が題材にされているこの本を、羊祜殿が押収したらしくて。それをオレが借りてきたって話」
……ちなみに、羊祜殿はコレを読んだのか」
「みたいっすよ」
……で、羊祜殿はなんと?」
「爆笑してました。腹抱えて」
 目尻に涙を浮かべながら笑い転げている羊祜の姿が、杜預はありありと想像できた。あの人にとっては、この程度の瑣事、笑い飛ばしてしまえることだろう。けれど、杜預にとっては大問題だ。
……か、解釈違いだ〜〜〜!!?」
「あー!?大将!本、投げないで下さいよ!?借り物なんっすから……
 大地を震わせるかのような、杜預の心からの叫び。その余りの剣幕には、さすがの周旨も揶揄いの態度を消した。それほどまでに、真剣な目をしていたのだ。杜預は。
「ぜっっっっつたいに!ダメ!ムリ!!俺は杜預×周旨一択なの!!それ以外は認めない!!!」
「そんなこと、オレに言われても……
 羊祜との官能小説なんて、とんでもない。たとえ、どこの誰かも知れぬ者の創作とて、到底、許せるものではなかった。何故なら、杜預は極度の固定厨だったのだから。
「やだやだやだ!周旨が相手じゃなきゃやだー!!!」
 子供のように地団駄を踏んで、杜預はイヤイヤをする。だって、本当の杜預の恋人は羊祜ではなく周旨なのに。嘘でも作り話でも、他の相手とだなんて、想像したくもなかった。
……もう、しょーがないなあ。大将は」
 深い溜息が聞こえたかと思えば、優しい手のひらがその頭を撫でた。慰めるようにヨシヨシと、周旨の手が杜預の頭を包み、甘やかす。
「し、しゅうしぃ〜〜〜」
 その逞しい胸板にひしと縋り付き、杜預は今し方受けた心の傷を癒すのだった。優しい本物の恋人に抱きしめられながら、やはり彼がいい。彼でなければダメだと、杜預は心から思う。
……で、」
……で?」
 どれくらい、彼の胸の匂いを嗅いでいただろうかひとしきり杜預を甘やかした後で、周旨はニコリと微笑みを向ける。その笑顔は、そう。また、何か良からぬ企みを隠している表情なのだった。
「オレはこの本みたいなプレイがしたいな〜って、思ってるんですけど」
「!!?」
……大将は、どう?」
 仮に、彼が悪巧みをしていたとして、それが杜預を傷つける類のものである可能性は、万が一にもないのである。だから、もちろん杜預の返答は決まっている。
……する♡」


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