クラエアファンネットMateriaWeek:「魔法マテリア・へんしん」
@tomo27vt
“いつも”ならば軽く蹴飛ばせる程度の石ころが行く手を阻む巨大な岩石と化し、風に煽られた落ち葉に身体を吹き飛ばされそうになる。“ミニマム”の状態異常に見舞われた今のクラウドにとって、ありとあらゆるものが命すら脅かしかねないほど危険なものだった。
“ミニマム”は端的に言えば、身体と身に着けた装具すべてが縮んでしまう状態異常だ。毒などと比べるとダメージそのものは小さいが、掌サイズの人形レベルにまで縮むため、不便さは群を抜く。身体の大きさに合わせて身体能力も大幅に低下しているので、戦闘では足手まとい以外の何物でもなくなる点も痛い。早急に回復したいところだったが、そう上手くもいかなかった。
「クラウド。怪我、ない?」
「ああ。エアリスこそ大丈夫か」
「だいじょーぶ。蔦、クッションになったみたい」
笑うエアリスの後方には、土砂や岩塊が盛り上がって山を作っていた。これは先程まで、クラウドたちの足場となっていたものである。
岩山を登山中、クラウドはモンスターの群れと交戦になった。激しい戦いの末、最後の1匹となった大型獣に止めを刺そうとした瞬間、今際の際に激しい攻撃が放たれた。その凄まじい衝撃により地面が崩落してしまい、クラウドとエアリスは落下してしまったのだ。高度はそれほどでもなく、また地面そのものも下層が空洞となっており、その空洞部分に群生した植物の蔦がクッションとなったおかげで、大怪我をせずに済んだのは不幸中の幸いだった。ただ、大きな怪我はないと言っても、エアリスは足を軽く捻ってしまい、クラウドは落下直前に受けた攻撃により“ミニマム”状態だ。回復しようにも戦闘で魔法の力を使い果たしてしまっていた。
分断されたパーティの片割れのレッド13とヴィンセントも無事なことを確認したのち、彼らが主立ったアイテムの入った道具袋を持っていたため、ひとまずクラウドたちは二人の到着を待つこととなったのである。
「エアリス」
「なぁに?」
「下ろしてくれ」
首を傾げるエアリスの顔が常よりも近く見える。理由は、彼が今いる場所が、エアリスの掌の上だからだ。
落下の際、エアリスは空中へ投げ出されたクラウドをとっさにキャッチし、両手で包み込むようにして庇った。そのおかげで、“ミニマム”という衝撃を受けやすい状態にも拘らず、ほとんど無傷でいられたのだが、いつまでも他人の掌の上にいるのはどうも落ち着かない。
「移動、大変じゃない?」
「しばらく移動しないから大丈夫だ」
「そっか」
納得したらしく、そっと掌を地面のすぐ近くまで下ろされる。地面に足をつけた時の感覚は通常と変わらないが、視界に入る万象のスケールの大きさはやはり慣れない。そのままその場に座ると思わず、ため息が漏れた。同じようなタイミングで、上からもため息が降ってくる。見上げれば、隣に腰を下ろしていたエアリスと目が合い、ふふ、と微笑みが返ってきた。
「ひとまず安心、かな」
「あとは日が暮れるまでにレッド13たちが到着するのを祈るだけだな」
二人の目の前には水の溜まり場が広がっている。今のクラウドからすると湖のように見えるが、地形から察するにそうでもないだろう。滝や川なども見られないので、地下の湧き水と思われる。ただ、一帯は清涼な空気で満たされており、そのおかげか周囲から魔物の気配も感じられない。これもまた、不幸中の幸いの一つと言えた。
「ねえクラウド」
「どうした」
「何だか、ガリバーみたい、だね」
「……縛り上げられるぞ、あんた」
「でも、仲良くなる、でしょ」
水場と“ミニマム”のクラウドを見て、有名な小説の一場面に思い至ったらしい。わからなくもなかったが、その連想通りだと、エアリスの立ち位置は小人の国に漂流して縛り上げられる冒険家だ。自身の発見に目を輝かせるエアリスに指摘するも、呑気な答えが返ってくる。物語の流れは彼女の言葉通りとは言え、エアリスならばすぐに懐柔してしまいそうだとも思ってしまって二の句を告げなくなってしまった。
「でもわたし、その後どうなるか、知らないんだ」
「俺も……覚えていないな」
「不思議だね。有名なお話、なのに」
「そんなものだろう。印象的な一部分だけ記憶に残るのはよくある話だ」
二人とも覚えていないことが何となく可笑しく、互いにふふ、と笑いが零れた。緊張感に欠けると思うも、エアリスといると不思議とそうなることが多い。魔物の気配もないのでいいかと思い直してからふと、エアリスがそっと腕を擦っていることに気付く。よく見れば肩を竦めて身体を縮ませてもいた。
崖の隙間から見える空は赤みがかっている。今クラウドたちがいる地帯は、温暖な気候ではあるものの、日が暮れ始め、水場に近いとあれば冷えるのも当然だ。この場所から離れられないが、水辺から少し離れるだけでも変わるだろうと、クラウドは腰を上げる。
「クラウド?」
「冷えるだろう。少しでも離れれば多少は違うはずだ」
「ヘーキだよ。クラウドこそ、だいじょぶ?寒くない?」
「大丈夫だ」
エアリスはへらりと笑って流すも、先程捻挫を指摘した時も似たような反応だった。素直に感情を言葉にする割に、エアリスは不意に我慢する。痛みや不安こそ素直に伝えてほしいというのに。
胸の中でモヤモヤとした感情が渦を巻くのを感じ、振り払うようにクラウドは歩き出す。地面の崩落が再発する恐れもあるため、土砂と岩塊の山の近くは危険だ。エアリスの足の状態やレッド13たちを待つことも考えれば大きな移動もできないので、今のクラウドの足で20歩ほど進めた所で立ち止まる。丁度山に繋がるだろう脇道も見えるので、位置取りとしては悪くない。
ミニマム状態のクラウドの一歩は、普通の人間のエアリスにとっては半歩にも満たないが、今の彼女は怪我人だ。よたよたと覚束ない足取りながらもついてきたエアリスがふぅとため息をつく横顔に脂汗が滲んで見えた。戦闘が激しかったとはいえ、回復のための魔力すら残せなかったのは采配ミスを痛感する。再び並んで座りながら、戦闘の配分を今一度考え直そうと心に決めた。
「クラウド。ありがと」
「別に、たいしたことじゃない」
「ポケット、入る?あったかいと思うよ」
「……遠慮しておく」
「遠慮しなくていいのに~」
「効果が解けたら悲惨だ。下手をしなくても、あんたを圧し潰してしまう」
「それは……大変、だね」
ジャケットの胸ポケットを指さしながらの申し出は丁重に断っておく。
ミニマムに限らず、魔法で受けた状態異常は大体が時間経過で解ける。今回の場合、攻撃を放ったモンスターが既に倒されているので、モンスターの魔力による効果の長期化も考え難い。
見たところ、ポケットは広そうなので今のクラウドなら入るだろうが、元に戻れば確実に圧し潰してしまう。ただでさえ怪我を負っているのに危ない橋は渡るわけにはいかなかった。
「でも、ポケットに入って移動、楽しそうじゃない?」
「掌の上とそう変わらないんじゃないか」
「掌だと、持ってもらうの悪いなあって思っちゃうから。ポケットだと、安定もしそうだし」
「それは……そうか」
呑気な話題にまた緊張感を削がれながらも、つい乗ってしまう。他人の手を煩わせることを悪いと思うのはエアリスらしいなと感じながら、“掌”で脳裏に浮かぶのはつい先程の出来事だ。
「だが、掌も安定はするな」
「そう?」
「ああ。投げ出された時は体制を整えられなくて、吹き飛ばされる距離も何処までか計算できなかったんだ。あんたにキャッチされた時は正直ホッとした」
空中は元々体制を整え難いのに、衝撃を受けやすいミニマム状態ではまともに動けなかった。
どうにもできない焦りでいっぱいだったが、エアリスの声が聞こえてすぐ衝撃が和らいだ瞬間、戸惑いながらも心から安堵したのだ。両手で包まれたことで視界は真っ暗だったが、エアリスの声が近くから聞こえたこともあり、状況把握は程なく行えた。情けなさはあるが、それで感謝が薄れることはない。
反応がないので見上げてみれば、エアリスが瞠目したまま口を閉じてこちらを見るばかりだった。
「エアリス?」
「う、ううん。キャッチ、できてよかった」
「本当に助かった。ありがとう」
「……クラウド、すっごく素直」
「……おかしいか」
「違うよ。嬉しいの」
満面の笑顔で応える言葉に嘘はないだろう。ただ、頬は紅潮しているように見えたし、そもそも言い淀むことが珍しい。不安は隠すものの、喜び等の感情はいつも素直に表に出す彼女だ。
そして、彼女の赤い顔を見ていると、クラウド自身がどうも動悸を感じてしまう。同じように頬が紅潮する感覚を覚えてどう返すか迷っていると、レッド13がクラウドたちを呼ぶ声が辺りに響いて、考えは中断されたのであった。
束の間のガリヴァー(FF7無印クラエア)
2021/6/21