了遊(付き合ってない)。
遊作が気づく話。書きたいとこだけなので短いよ
@d9_bond
本屋に寄りたい、と言ったのは遊作だった。手持ちのペンのインクが切れかけていたのを思い出したのもあるし、初夏の陽射しに若干辟易していたのもある。
元より特に目的のない散策だった。遊作と了見は並んで自動ドアをくぐった。
文庫の新刊コーナーで足を止めた遊作は、平積みの一冊を手に取った。
「気になるのか」
訊ねてくる了見に頷く。
「昔読んで面白かったタイトルだ。映画になるみたいだな」
それは海外の作家の古い短編集で、収録作品のひとつが映画化されると巻かれた帯に書いてある。その宣伝で再版されたようだ。
遊作はあまり本を読まない。その本もたまたま課題で読んだだけだが、面白くて課題ということも忘れてしっかり読んでしまったので覚えていた。
「それなら私も読んだことがある。最後の話が一番好きで何回も繰り返し読んだな」
「俺もだ。寂しさの中に希望もあるみたいな不思議な話だった」
思い返しながら適当に本を開くと、丁度映画化する話のページだった。
「……この話も良く出来ているが、長編映画にするほどのボリュームはないだろうに」
「そうだな」
ぼやく了見に同意しながら、遊作は少し笑ってしまった。
彼のどこか困惑したような様子が珍しくて、なんだか可愛らしく思ってしまった。自分が好きな物を同じく好んでいるという偶然自体が嬉しかったのもある。
「それなら、公開されたら一緒に観に行かないか?」
出来が良ければ楽しめるだろうし、そうでなくともそれはそれで、一緒なら愚痴を言いあうくらいは出来るだろう。そう思って了見を見上げると、
「──いいだろう」
頷いて了見は、微笑した。
それはいつもと少し違う、どこまでも穏やかでどこか甘さを孕む淡い笑みで。
(ああ、まただ)
遊作は無意識に一層頬を緩めた。
一緒に過ごすとき了見は、時折ひどく甘やかな笑みを見せることがあった。
今のような何ということはない会話の折に、並んでベンチでココアを口にした時に、立寄った骨董市でチャイグラスを手にした所で──遊作が視線を感じて隣の了見を見上げると、その笑みを見せている事がある。
手放しで喜びを表すことの少ない彼のそんな姿は貴重だ。
何がそうも了見を喜ばせるのか、遊作は注意していたがどうもわからないままでいた。覚えている限り、タイミングも場面もバラバラだ。
今もそうだ。
(了見はこの作家が好きなのか?)
手にしていた本に目線を落とした遊作は、本を閉じて作家の名前をあらためた。それから訊ねようと了見を見て、ぱちりとかち合った視線に動きを止めた。
春の空を思わせる優しい色の双眸を細めて、了見は微笑していた。真っ直ぐに、遊作を映して。
「それも買うのか?」
「いや……」
じわりと頬が熱くなる。
(もしかして)
なんのてらいも陰りもない甘やかな笑みは、間違いようもなく自分に向けられている。それに気づいてしまえば後は簡単だった。パズルのピースがはまるように答えが出る。
目眩を覚えた。
(もしかしてお前は──俺が笑うと、笑うのか)
遊作は、手にしていた本を取り落とした。