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十年後からタイムスリップしたトロン兄弟

全体公開 遊戯王ZEXAL(Pixiv未UP) 7 3 9032文字
2021-07-15 21:39:48

ある日、ハートの塔の実験室から、途方もないエネルギーの逆流が発生した。雨雲を吹き飛ばして一瞬にしてハートランドを晴れにするほどのエネルギーの噴射が消えたとき、閃光の中に立っていたのは、十年後の未来から来たと名乗る、Ⅲ、Ⅳ、Ⅴだった。
まるで砂漠を旅してきたような出立ちの三人は、確かに重ねてきた十年分の月日が感じられ、Ⅲは背が伸び、Ⅳはぐっと声が低くなり、Ⅴは髪を短く切り落としていた。そして、三人が三人とも、遊馬を、凌牙を、カイトを、ひどく懐かしく、眩しそうに見つめるのだった。
遊馬は25歳になったⅢと、凌牙は27歳となったⅣと、カイトは30歳を超えたⅤと、それぞれ、二人きりで話すことになるのだが──。

「ねえ、遊馬。僕とデュエルして欲しい」
かさついて荒れた手で遊馬の手を握ったⅢは、今にも泣き出しそうな顔でそう言った。なんの変哲もない平和な街並みを歩きながら、Ⅲはひどく苦しそうにしていた。そして始まったデュエルで、一転してⅢはひどく荒々しく遊馬に攻撃を仕掛けるのだった。
「僕の役目は、キミを足止めすること」


「お前は、オレの知ってる凌牙じゃない」
顔を歪めながら苦しそうに嗤ったⅣは、今にも泣き出しそうな顔をしながら、顔に手を当て、高らかと嗤い、嗤い、嗤い続けた。慟哭するように。
「ここはオレたちの過去じゃない」

Ⅳたちがいた未来は、ラストデュエルで
『遊馬がアストラルに負けた世界』だった。

「あの日、あの交差点で、オレは負けた。目覚めたときにはアイツはいなかった。消えちまったんだ、『神代凌牙』がいた証拠も痕跡も、何もかも!」

アストラルが起動したヌメロンコードで、人間世界は元通りになった。
バリアン世界は消滅し、凌牙も璃緒も還らなかった。月で果てたカイトも帰らなかった。

ヌメロンコードで再編された世界には、『神代凌牙』も『神代璃緒』もいなかった。神代家の双子は、両親と共に事故で享年9歳で亡くなっていた。
学校にも『シャーク』なんて最初からいなかった。誰も凌牙と璃緒を覚えていなかった。

「オレの唯一の友はもういない」

十字傷を引っ掻きながら、Ⅳは泣き嗤った。

「オレたちの記憶とこの傷だけが、オレの友がいた証だッ」

アストラル世界と人間界の間には『壁』が築かれた。そうしてアストラル世界は平穏を取り戻した。永遠にバリアン世界と分かり合えないまま。

「オレの知ってる神代凌牙はもういない。アイツがなぜ敵になったのかも、もう分からない。それを聞ける最後のチャンスは、あのデュエルで全部消え失せちまった」

それなのに。
Ⅳは震える肩で、血反吐を吐くように言葉を吐き出した。

「それなのに、お前はここにいる。オレたちが辿り着けなかった平和な未来で、お前もお前の妹も、生きて、笑ってる。それをッ!」

Ⅳは、眉を落として、目を歪めて
あまりに懐かしそうに、泣き嗤った。

「オレは今から、壊さなきゃならねえ」




「三年前、我らのハートランドは壊滅の危機を迎えた。融合次元の侵略者によって、街は廃墟と化し、数千、数万の犠牲者が出た」

Ⅴはカイトをデュエルで圧倒しながら、淡々と、苦しげに告げた。

「我らの悲願は、運命を変えること。そのために、融合次元の兵士を倒せる別次元のデュエリストを、我らの地獄に連れ去ることだ!」





「ダメなんだよ、遊馬。時空を超える装置を使っても、同じ世界に同じ人間は存在できない。ドッペルゲンガー片方が片方を弾き出してしまうんだ」

Ⅲはヒスイ色の瞳から涙を流しながら、遊馬をデュエルで追い詰める。

「やめてくれ、すりー!!」
「未来を変えるには、『僕らの未来』に存在しないデュエリストが要る。そして未来に存在しないこの時代の最強のデュエリストは」

年齢を重ねたⅢは、荒んだ目で遊馬を射抜いた。

「消滅した七皇の長ナッシュと、月で死んだ天城カイトだ」




「だからオレたちはここに来た。平和に生きてるお前らを、オレたちの地獄に引きずり込むために!」

「遊馬、嬉しかった。ほんとうに嬉しかったんだ。キミが笑ってデュエルしているのを見たのは、僕らにとってはもう十年も前なんだ」

「我らと我らの背負う命にあがなうために、今のキミたちには犠牲になってもらわねばならない。我らはこの罪を、この身の全てであがなうと決めたのだ!」



街に光の柱が二つ立つ。時空を超えたデュエルの開幕だった。
「シャーク、カイトッ!」
「いかせない。いかせないよ、遊馬。この身に代えても……!」
貼られるドーム状の結界。
紋章を発動したⅢは、かつてアストラルを縛り付けた紋章の鎖で、遊馬を縛り上げる。
「ぐあっ! すりーッ!」
「ごめん、遊馬。だけど、僕らも譲れない。僕らはッ!」

そのとき、結界の頂点に
ヒビが入った。

「!? なにっ!?」

砕け散ったピンク色の結界

鎖から解放されて、けほっと膝をつく遊馬の前に
力を砕き、空からシュタッと降り立ったのは

「よかれと思ってただいま参上! ……ってな!」
「ベクターっ!!」

驚愕したⅢを尻目に、遊馬に背中を押しつけるようにして、ベクターはⅢとの間に割り込んだ。
遊馬はボロボロになりながら、ベクターにぱあっと明るい表情を見せる。
「来てくれたんだな、ベクター!」
「随分よからぬ事態じゃねえか。なぁんかキナくせえと思ったんだ。そんでぇ?ちびっこパパの三男坊が、なぁんでこんなことになってやがる?」
「ベクター!? なぜキミが遊馬を助ける!?」
「アアン? なんだァ? 信じられねえって顔だな? いったい何を……ははーん、なるほどなァ。さてはテメエ、『このセカイ』の三男坊じゃねえな」

ベクターは手の中にバリアンの力を明滅させながら、デュエルディスクを展開する。
遊馬は目を丸くした。
「ベクター、お前、どうして?」
「アレだけ派手に時空を歪ませてくれたからなァ、想像は簡単だ。おおかた、テメエの知るコイツの傍にはオレは居ねえんだろ。ったり前だ、何でこーなっちまったか、我ながら笑っちまうぐれえ不思議でしょうがねえ」

デュエルディスクは展開を終え、ベクターは片目をすがめた。

「そんなバカみてえな真似は、今のオレだけで十分だ」






「カイト! 何が起こっている!」
「ミザエル! 来るな!」
ボロボロのカイトの戦いに割り込んだのは、力づくで紋章結界を踏み越えてきたミザエルだった。
強引に結界を突破してくるミザエルの腕が、細くかまいたちで裂けていく。
「ぐっ!!」
「ミザエル? なぜカイトと……そうか、キミたちの未来もまた、我らとは異なるのか」



「いったい、何が起こってますの!?」
「ナッシュ!」
璃緒とドルベは、遠く空高く舞い上がった膨大なエネルギーを見上げて
近付けないまま、凌牙の無事を祈った。



……はは」
崩れ落ちて座り込んだ、歳を重ねたⅣは、自嘲するように、手で目を覆った。
「十年も励んどいて、負けかよ。ああ、チクショウ、強えな、……凌牙」

Ⅳの手の下から、顔を蔦のように覆う紋章が伸びていく。

「Ⅳ、お前!」
「どの道オレたちは永くねえ。紋章の力をセーブもせずに使い続けりゃ、どの道こうなった」

暴走した紋章が伸びて蔦のように
顔面を覆っていく。

凌牙はそのとき初めて気付いてハッとした。

「お前、制御装置 ブレスレット!」
「もうとっくに壊れたよ」

はは、とⅣは目を覆ったまま嗤った。
Ⅳの顔の紋章は、今や首や手首にまで覆っていた。

「この計画は最初から破綻してる。オレたちはテメエらを連れていかなきゃならなかった。けど、ここで倒されるようなデュエリストじゃ、どの道あの地獄を生き残れねえ。無理なんだ、最初から。運命は変えられねえ」

ドクンッ、と大きく心臓が高鳴って
Ⅳは「ぐあっ」と胸を押さえた。
ごぽっとⅣが吐き出したのは、真っ赤な血だった。

「わかってた。……わかってたんだ」
「Ⅳッ!!」
……はは、やっぱりこうなっちまうんだな」

ドサッとⅣの体は地面に投げ出された。

凌牙は、虚ろな目で地に伏せるⅣを抱き起こした。
Ⅳは、指先を彷徨わせた。

「はは、もうよく見えねえや」
「Ⅳ、おまえ……

凌牙は息を呑んだ。
腕の中のⅣからは死臭がした。

「虫がイイのは分かってる。だが」

彷徨った指先が、凌牙の肩をガシリと捕らえた。

「救ってくれっ……この街を、あのころの、オレたちを」

痛いほどに掴んだ指先が、必死に訴えていた。未来を変えてくれと。

「七年後だ、七年後、この街に侵略者がやって来る。お前らはまだ間に合う。頼む、凌牙、お前なら、きっと────」

掴まれた肩から、指先が、ずるりと滑り落ちていく。

「はは、あのときと同じになっちまったなァ、凌牙……なぁ、凌牙、一足先に、地獄で────」
そこで、Ⅳは言葉を止めた。
ふっと破顔して、驚くほど穏やかな顔を見せた。
「いや、やめだ。オレはアイツを追う。一番のファンが、お待ちかねだ……

虚ろな目をゆっくり閉じていく。

「なぁ、凌牙。こんな形になっちまったけど、最期にお前とやれてよかったよ」

消えかけた手で、Ⅳは懐から、一枚のカードを取り出して、取り落とした。
Ⅳの体が、透けて、明滅する。

……お前にとっても、そうだったか、凌牙」
「Ⅳッ!! ………俺は……!」
「その続きは……お前の知るオレに、聴かせてやってくれ」

Ⅳの体は次の瞬間
細かい光の球になって、弾けて、消えた。

凌牙ひとりをそこへ、置き去りにして。







その頃。
ミザエルとカイトが組んで立ち向かったⅤとのデュエルは、終幕を迎えていた。
場には二体のギャラクシーアイズが、並び立っていた。
……キミは、私の想像の上をゆくのだな」
デュエルディスクを付けた腕が、だらりと下される。
カシャン、と最後に鳴ったデュエルディスクは、よく見ればヒビが入り、今にも砕け散ろうとしていた。
「こんな未来も、あったのだろうか。我らにも。憎しみあうのではなく、すべてを超えて手を取り合う道が」

ピシピシピシ、とⅤのデュエルディスクにヒビが広がっていく。

Ⅴは、切り落とされた短い髪を風に遊ばせたまま、空を見上げた。
別の場所で、光の柱は消え、誰かの存在が赤い光の粒子になって空へ登っていく光景が見えた。
Target Lost と画面表示が現れて、消える。
弟の最期を悟って、Ⅴはすべてが終わったような疲れた顔で地に膝を付いた。

……いや、詮なきことだ」

ピシリ。
最後に大きく音を立てて、Ⅴのデュエルディスクは粉々に砕け散った。

Ⅴもまた、地面に体を投げ出した。

……クリス」
「よせ、カイト」
肩を庇うように立っていたカイトは、よろけながらⅤの傍に寄ろうとした。
ミザエルがそれを制止して、腕でカイトとⅤの間に距離を取らせる。

仰向けに地に倒れたまま、Ⅴは空を眺めた。
空はすがすがしいほど青かった。

……いつぶりだろう、こんなふうに空を見たのは」

Ⅴが伸ばした腕の先には
まだ薄く蒼く登ったばかりの、東の空の月があった。
「キミのいない空だ。……カイト」

Ⅴの体は明滅していた。
みるみるうちに紋章は、額を中心に顔中を、全身を覆っていった。

Ⅴは小さく咳き込んで、口の端から血を落とすと、懐から一枚のカードとメモリーチップを取り出した。
ふっと穏やかにカイトを流し見たⅤは、ゆっくりとそれを掲げて、カイトに向けて差し出した。

「後を頼む」

別れの言葉はシンプルだった。

カイトがハッと伸ばした指先は、差し出されたカードを掠って、掴めなかった。
「クリス」
カイトがそれを掴む前に、Ⅴの手は落ちて
メモリーチップは、トサッと地面に落ちた。

Ⅴの体が、赤い粒子になって空へ登っていく。
消えていく。それを見上げながら、ミザエルが小さく言葉を落とした。
「さらばだ、誇り高きデュエリストよ」





ああ、だめだったんだ。
小さく口の中だけで呟いたⅢは、ゆるやかに倒れていく。
こぽっ。小さな咳から、赤い血があふれた。
「すりーっ!!」
慌てて遊馬は駆け寄った。IIIのライフはゼロになっていた。
「ごめんね、遊馬。僕は未来のキミを守れなかったんだ。泣かせてばかりで、あんな大口叩いといてキミの剣にも盾にもなれなかった。友達失格だ」

空には消えていく二柱の光の粒子。Dゲイザーに表示されるTarget Lost。
IIIは荒れた手で、遊馬の手をそっと掴んだ。

「泣かないで……

遊馬の目尻を拭って、IIIは拙く微笑んだ。
「もうキミは失っちゃダメだ。キミだけでもどうか、やり直して……今からなら、きっと……
「違うッ!違ぇよ、すりーっ!」

遊馬は涙を赤い瞳にあふれさせて、叫んだ。

「オレたち友達だろ!!お前が消えちまったら、オレ、笑えねえよっ」

IIIは目を飴玉みたいに丸くして、泣きそうに笑った。
「変わらないね、遊馬……ありがとう、僕の最初で最後の、ともだち……
「すりーっ!!」
固く握った遊馬の手をすり抜けて
IIIの体は粒子になって消えた。




ⅤもⅢも後を追うように消えていった。
三人が完全に消えた瞬間、起こった閃光。
未来のⅢが、Ⅳが、Ⅴが、遺したカードから。
『今』の三人が、現れた。
三人とも、ハートランドで最初に閃光が発生した直後から記憶がないという。後には、Ⅲたちを封印していたのだろう、三枚の空白のカードだけが残された。

未来のⅤの残した記録媒体には、融合次元の侵略者のこと、そして七年後に起こる悲劇について記されていた。
異世界からの侵略者、それが入り込んでくる次元の隙間、異世界の『裂け目』の正確な位置も。

「塞いでしまおう。それで、侵略戦争は起こらない」

トロンは疲れたようにそう言った。
何度も精査を重ねた結果の結論だった。

「あの子たちの願いに報いなければ。命がけで遺してくれたデータだ。あの子たちが時空を渡航してきた技術は、侵略者たちから奪い取ったものだそうだ。放っておけば同じように侵略者がやってくる。今のうちに時間をかけて亀裂を完全に塞いでしまえば、七年後までには侵入口を潰せるはずだ」
トロンの声は、擦り切れたように掠れていた。

「そうすれば、未来からの渡航も、別世界からの侵略も、二度と起こらない」
「それって、未来のすりーたちには、もう会えないってことだよな」

誰もが黙って聞いていた。受け入れていた。
けれど、黙って聞いていた遊馬がひとりだけ
顔を上げて、まっすぐに赤い瞳で前を見た。

「ダメだ」

遊馬の赤い瞳が、まっすぐに煌めいた。

「うまく言えねえけど、それってアイツらが望んだ未来なのかな?」

遊馬がぐっと拳を握って前に出た。

「オレは助けたい。今だけじゃなく、あのⅢやⅣやⅤが戦って守った未来も、ぜんぶ助けたい。そうじゃなきゃ、ダメなんだ!」

黙り込んで聞いていた凌牙が、口を開いた。

「塞いだところで、どうなる。融合次元とやらの侵略戦争は終わるのか? オレたちの世界に来ないだけで続くんじゃねえのか」

流れた沈黙は肯定だった。
凌牙は続けた。

「第一、『今』が良くても、永遠に塞ぎ続けられる保障はあんのか? 『今』はいいかもしれねえ。けどよ、いつか別のルートから侵入されるだけじゃねえのか?」

カイトが後を継いだ。

「敵は、複数の次元、いくつもの時空を渡り歩いて侵略戦争を起こしているという。この街は一度こうして未来からの侵入を許している。遠い未来で、同じことが起きる可能性は高い」


遊馬が決意を乗せた真っ直ぐな目で
ゆるぎない声音で言った。
「どうすればいいのか、分からねえけど、今も過去も未来も、ぜんぶ助けたい。助けたいんだ!」
しばしの無言。
やがて深いため息が、後ろから聞こえてきた。遊馬が振り返ると、肩をすくめたベクターがいた。
「あーあ。遊馬くんはホント欲張りですねぇ」

今、過去、未来も。
ぜんぶ欲しいだなんて、バリアンよりよっぽど強欲で手に負えねえ。

そうごちたベクターが肩を鳴らす。

「まあ? ゆーまくんがバカみてえにゆずらねえのは今さらですしぃ? 説得するだけムダですしぃ? テメーが未来の三バカ息子を助けるまで止まらねえっつーなら、」

口角がニィッと吊り上がった。

「いっそ、ぜんぶぶち壊しちまう方が早え」


皆の結論は出た。

異世界からの侵略者。
彼らに通じる次元の裂け目。

塞ぐのではなく、広げよう
つまり


アリトはニカっと笑って、拳を手のひらに叩きつけた。
「こっちから乗り込んで、ボコボコにしてやろうってんだな!」
「元凶を絶てば、未来は変わる。アイツらがいた未来も、大きく変わるはずだ」
「未来のすりーたちの想いを無駄にしねえ。変えよう。託されたオレたちの『今』も、アイツらの『過去』も『未来』もぜんぶ!」
「危険な戦いになる。未来の我らが束になっても敵わなかった相手だ」
「だーいじょーぶだって! なんたって、」

アリトが、ギラグが、ドルベが、ミザエルが、璃緒が、凌牙が、ベクターが。
皆、口許に笑みをはらい、ズラリと並んで、堂々と立ち上がった。

「「この街には、オレたちがいる!」」




◇ ◇ ◇





次元戦争の元凶は叩かれた。
未来は変わり、セカイは再編されていく。

あるべきものは、あるべき姿へ
リ・コントラクト・ユニバース

今、過去、未来も
すべて


ヌメロンの鍵は拓かれた
起動したヌメロンコードが、広がっていく


セカイが再編される今ならば
変えることができる。
あるべきものを、あるべき姿へ










「この街の未来には、彼らが必要だ」

ヌメロンを手にした存在は
美しく澄んだ蒼い手を、空へ掲げた。












暗い空間で、IIIは、Ⅳは、Ⅴは、目覚めた。
周囲は光ひとつ無い空間なのに、互いの姿はハッキリ見えた。
「ここは?」
「兄さま!?」
IIIは跳ね起きて、兄二人に駆け寄った。
互いの体温を確かめ合うように、肩を寄せ合う。
「地獄、か?」
Ⅳが弟の肩を抱いて呟いた。
「それにしちゃあ何もねえが……

Ⅳは大きく目を見開いて瞬いた。
違う。暗闇の中で、互いの体が光っているのだ。

「こりゃあ……
「あまり動かない方がいい。魂の損傷が激しい」
暗闇の中から突如として聞こえた声に、三人とも勢いよく振り返った。

そこには、黒の空間に浮かぶ、蒼い姿があった。三人は驚愕して叫んだ。

「アストラル!?」
「そんな、バカな、アストラル世界と人間界は完全に断絶したはず!なぜ!?」
「厳密には、キミたちとは『はじめまして』になる」

アストラルの手の中で、幾何学的な光が明滅した。
Ⅴはハッとした。
「ヌメロンコード!」

「そう、消えんとしていたキミたちの粒子 からだを、私がヌメロンコードでかき集めた。危ういところだった。事が『こちら側』で起きていたからできたことだ」

IIIは大きな目を瞬かせて、やがてゆっくり目を細めて苦笑した。

「君は……僕たちの知るアストラルじゃないね。君は、あの遊馬の、アストラルだ」

「キミたちのことは私が送ろう。向こうの世界が再編される今しかない」
「再編、だと?」
「残念だが、説明する時間が惜しい。キミたちへの質問はただひとつだ」

アストラルは手にしたヌメロンコードを高く掲げた。

「未来からの来訪者、現代 いまに未練と縁を残した者たちよ」

暗闇に眩しい光の橋がかかる。



「帰りたいと強く想い、生きたいと願ってくれ」





◇ ◇ ◇




赤い光の粒子が集まって、人の形を成していく。
目覚めたとき、自らの手を見たⅢもⅣもⅤも驚いた。バリアンの力は取り払われ、体は軽かった。

なによりも

「りょう、が……?」


目覚めたⅣの前に
頭をさすりながら起き上がる、神代凌牙がいた。
「なんだ、ここ。俺、どうなって……? ……え?」

ぼろっ
と見開いた目から、大粒の涙があふれ落ちた。
十年後のⅣは、泣き崩れた。

「凌牙、なのか、ほんとうに」
「おまえ、えっ……Ⅳ、なの、か?」

十年の歳月に困惑するように
あのとき、あのままの姿で戸惑う
神代凌牙が、そこにいた。









目覚めたVは、目の前で一人のカード化された青年が、カードから復元されるのを目の当たりにする。
キラキラと光をまといながら現れたのは、カイトだった。
「かい、と? 天城カイト? ほんとうに?」
驚愕し、走り寄って両肩を掴んだVに、カイトは見知らぬ人を見るように困惑した。
カイトが取り落とした身分証には、ハートランド学園高等部3年生、とあった。
「天城?なぜ、あなたが母の旧姓を?」

周囲で歓声が上がる。
カード化された少年少女たちが、次々に元の姿を取り戻していく。
カードから出てきた少年少女たちは、皆、カード化されたときの年齢で時を止めていた。
Vの目の前で、カイトによく似た青年は、頭痛をこらえるように眉間を抑える。
「俺は確か……、突然現れたヤツらに、学校で、襲われて……?いや、」

瞬いたカイトのまつ毛から、アストラル世界の蒼い光が散る。

「俺、は……あなたを、知って……?」

困惑を顔に貼り付けた、まだあどけない面差し
18歳のまま時を止めたカイトを見て
Vは悟った。アストラルの采配だと。

バリアン世界にもアストラル世界にも関係なく生きてきたように「修正」された、天城を姓名に持たぬカイトがそこにいた。

「そうか、はは」

Vは、泣き崩れるように、目元を覆った。

「いいんだ。生きて……生きてさえ、いてくれれば」


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