ギュラ鍵主。男部長固定、自分の所の部長設定です。部長とのキャラエピ的な話。
2025.10 少し加筆修正
@mizukisakuya
鍵主♂です。自分の所の部長設定、男部長固定。割と鍵介が部長への好意に自覚的。
鍵主での部長のキャラエピ的な話でキャラエピ1くらいのイメージ。鍵介の方は多分4か5くらい。
自分の所の部長設定で書いてるので、そういうのが苦手な人は引き返した方がいいかも知れません。
うちの部長設定
https://privatter.net/p/7440140
入学式でメビウスのホコロビに気付いてしまい、よりによって楽士だった鍵介の目の前で夢から覚めて『卒業』し、とても目立つ状態でその場から逃げ出してしまった『先輩』。彼はメビウスを作ったもう片方の歌姫といつの間にか出逢い、デジヘッドどころか楽士にすら対抗出来るような力を帰宅部に与えてしまった。楽士として戦ったものの彼らに負け、鍵介は自分も帰宅部に加入する事を決めた。そうしたのはきっと部長を押し付、譲られて現部長となった彼……東雲奏の事が気になって、話してみて何となく彼を気に入ったからだろう。
奏は楽士だった鍵介を否定はせず、むしろ認めながらも帰宅部にいるような不思議な人だった。どうにも現実に帰りたいと強く思っている訳ではなさそうに見える。どちらかというと迷いながらも、逃げ続ける訳にいかないから帰らなくてはならない。と、義務感なのか諦めなのかわからないような事を言ったりもする。現実へ帰る事を目指しているはずの帰宅部の部長にしては、何とも消極的な感じの人だ。
「先輩、防御って言葉知ってます?」
「え、えーと、ほら、攻撃は最大の防御って言うじゃ……ごめんなさい忘れてました」
「大体、先輩の武器は銃なのに、何でいつも前に飛び出してくるんですか。僕たち前衛の意味ないじゃないですか。先輩が前衛にも出れるオールラウンダーなのはわかりますけど、攻撃されつつも前に出てくるのはどうかと」
「確かに部長は武器が拳銃の割に、何と言うか……ガンガン前に出ていくからな。その両手の銃は飾りか?」
「えー、ちゃんと銃撃もしてるだろ。それに一応、離れて戦ってる時も結構ある、はず。多分」
「はずとか多分とか一応がついてる時点でダメダメじゃないですか。僕が割り込んでカウンターするのもタイミングとかもあるし、限界あるんですからね!」
「うん、いつも助けてもらってるな。ありがとう鍵介」
「…っ、そ、そういう所ズルいんですよ。ちゃんと僕に怒られてください」
穏やかに微笑んでそう言うのはズルイ、と鍵介は心の中で呟く。戦闘での部長は、大体の事が一人で出来てしまうオールラウンダーなタイプのせいだろうか。二丁拳銃という中〜後衛向きの武器のはずなのに、前衛まで出てくる事が割と、というか、かなりよくある。
別に脳筋という訳ではないようだけれど、その見た目と使用武器に反して攻撃が最大の防御とでも思っているのか、または自分なんてどうでもいいと思っているのか。奏は自分が多少ダメージを受けてでも、前に出て攻撃し、さっさと戦闘を終わらせようとする傾向があった。
基本的に自分の防御も痛みもあまり考えてなさそうで、そういう所を注意しても理解しているのかいないのか。微笑んで逃げようとする辺り、自覚は多少あるような気はするが。
「まぁ、部長が攻撃こそ最大の防御と思ってるのかどうかわからねぇが。万が一にも部長がやられでもしたら、メンバー全員総崩れになるだろうってのは理解しといてくれ」
「……こんな俺でも、今は一応リーダー的な役割をしてるから、もしも俺が倒れたらみんなも動揺して総崩れになってしまうかもって事か」
「ああ。それにお前自身は気にしてないかも知れないが、部長がダメージ受けてたら流石にメンバー全員気にするだろ」
「そういうものなのか。どうせ回復するしいいかなと思ってたけど、ならもう少し気を付けてみるよ」
前部長だからなのか、それとも助けられて感謝しているなんて言っていたからか。今現在先輩だからかも知れないが、奏は割と笙悟の助言には従ったりしていた。
笙悟と琴乃はメビウスでも今現在先輩だし、現実でも恐らくは年上だと言動で何となく鍵介にもわかる。それはよく接している部長にとってはもっとわかるだろうから、頼ったり従ったりするのはまぁ理解は出来るんだけれど。
部長が別のメンバーに呼ばれて行ってしまったのを見送ってから、鍵介は溜息をついてしまう。もっと彼に頼ってもらいたい、なんて思っているのは欲張りなんだろうか。
「何かちょっと悔しいなぁ。僕の言う事も聞いてはくれてるけど」
「……多分な、部長には自分を大切にしろって言うより、周りが危険になるって方のが効くと思うぞ」
「まぁ、確かに先輩は自分に無頓着というか。自分をあまり大事にしていないとは思ってましたけど」
「あれは何と言うか、それを越えてる気もするが。言わなくてもお前は部長の事を気にかけるだろうが、前衛のメンバーも部長の動きに気を付けてやってくれ」
「そう言われると、僕がいつも部長の事見てるみたいなんですけど」
「いやそりゃあ、あれだけ先輩先輩とか言って、いつも部長の事気にしてればな…」
「部長の事気にしてるのは、帰宅部の皆そうだと思うんですけど!?」
実際、奏が部長を引き継いでからは、彼がアリアと共にメンバー全員と積極的に関わるようになった。しっかり話を聞き、それぞれの状況により見守ったり助言したり一緒に解決の為に動いてくれたりと、彼は既に帰宅部の精神的支柱となりつつある。元気にぐいぐい関わるアリアと、そのフォローをしつつ穏やかにそれでいて静かな強さでそっと傍にいてくれる部長。どちらも帰宅部の重要な存在だ。
元から人の心を癒したくてメビウスを作ったという、歌姫の片割れのアリアが皆の助けになろうとするのはわかるけれど。皆と同じように現実が辛くてメビウスに来てしまったはずの部長は、どうしてあんなに皆を一生懸命支えようとしてくれるのかわからない。自分が精神的に辛い時、誰かを支えようなんて思えるものだろうか。少なくとも、鍵介にとってはかなり難しい事にしか思えない。
どうしてなのか、彼の事になると色々気になってしまう。いっそ気になって考え込んでいるよりは本人に聞いてみようと、ある日鍵介は奏に問いかけてみた。
「先輩、聞いていいですか?」
「ん、俺に答えられる事なら何でも答えるけど。どうかした?」
「どうして先輩は、僕を……いや、僕だけじゃなく皆に対してもですけど、頑張って支えてくれるんですか?先輩だってメビウスにいる以上、辛い事があってここにいるはずなのに」
鍵介の問いに彼はきょとんとした後、首を傾げて考え込む。そうして少しの間考えた後、ぽつりと呟くように言った。
「……多分、俺が現実で助けてもらえなかったから、かな」
「助けて、もらえなかった?」
「まぁ、救助の人とかお医者さんとかは命を助けてくれたけど。そういうのじゃなくて誰かが手を差し伸べてくれた事って、子供の時の記憶以外にはないから」
そう言って、彼は鍵介の表情を見て困ったように微笑んで言葉を続ける。
「俺が出来る限りではあるけど少しでも支えられるなら、困ったり辛かったりする時でもみんなは孤独にはならないかなって。そんなの俺の自己満足だし、傲慢だとは思うけど」
「……いいんじゃないですか、もしもそれが自己満足だとか傲慢だとしても。少なくとも僕は、先輩がそうしてくれてるおかげで助かってますし。まぁ、僕はそれを自己満足とも傲慢とも思いませんけど」
奏の自嘲するような言葉に鍵介がそう返すと、彼は不思議そうな顔でまじまじと見つめてきた。そう言われるなんて思ってもみなかった、と顔に書いてありそうな程だ。
「いや、何でそんな顔してるんですか」
「俺、そういう風に言われたのって、初めてだから」
「現実の先輩の周囲には残念な人しかいないんですか?ならもしも現実に帰ったとしても、僕でも充分先輩の助けになれそうだ」
そんな風に言ってみると、今度はぽかんとした顔をされてしまう。呆れた訳ではなさそうだけれど、鳩が豆鉄砲食らったような、猫が宇宙にいるような顔をされてしまうと、ダメだったろうかと何となく落ち着かない気持ちになる。
「やっぱり僕じゃ、ダメですかね」
「え、あ、違う!ただ、その、言われた事のない言葉ばかりだから…ど、どう反応したらいいのか…それに、何か照れるというか」
慌てたように言いながら、確かにみるみる奏の顔が赤くなっていく。ただ助けになれそうだ、と言っただけでこんな反応されるとは思ってもみなかった鍵介の方まで何だか照れてくる。
「ちょ、何で先輩がそこで照れるんですか、予想外すぎるんですけど!?」
「わ、わからない…でも、何か胸の辺りがあったかくて、むずむずするかんじで。嬉しい…のかな、多分」
普段の奏は年齢の割に大人びて、かなり落ち着いているように見えるというのに。そっと胸を押さえて子供のようにどこか幼いような綺麗な微笑みを浮かべる彼を見て、そのギャップに鍵介は妙にどきどきしてしまう。
「そこは嬉しい、でいいでしょ」
「うん……嬉しい」
「何なら、僕をもっと頼ってくれてもいいんですよ?」
「それは…嬉しいんだけど、何と言うか申し訳ないような気がする」
「何でですか」
「……戦闘とかでは既に頼ってるんだけど。その、誰かを頼るのに慣れてないからどれくらい頼ればいいのか、加減がわからなくて」
「慣れてください」
「そ、そう来るのか」
多少強引かも知れないけれど、こうでも言わないとなかなか頼ってもらえる気がしない。ただでさえ後輩になっている今の状態の鍵介では、先輩な上に部長の奏にはどうしても頼る方が多くて、頼られるのはなかなか難しい気がする。もう少し前なら自分の方が先輩だったのに、タイミングが悪いというか残念というか。
どうしてこんなに彼が気にかかるのか、出来るなら頼りになる存在だと思ってもらいたいのか。何となくわかりそうではあっても、鍵介はあえてもう少しだけ答えを明確にはせず先延ばしにしておく。
「わかった、努力はしてみる」
「努力だけですか?」
「鍵介の追撃がすごい来る……俺、このままじゃリスクブレイクしちゃいそう」
「してもいいんですよぉ、先輩」
「何で怒ってるんだよ。わ、わかった、その、少しずつ頼れるように頑張ってみるから。って、ちょっと、何か近くない?」
鍵介はあえてにっこり笑顔で言ってるのに、怒ってるのはわかるらしい。鈍いのか鋭いのかわからない人だ。覗き込むようにぐいっと顔を近付けたから、長い睫毛や戸惑うように揺れる綺麗な銀灰色の瞳までいつもより近い。自分より彼の方がちょっと背が高いのでそこは少しだけ悔しいけれど、下からしっかり顔を見られる利点もある。
こうして見ると、やはり綺麗な人だな、と鍵介は心の中で思う。真面目な優等生だし性格も控えめで物静かなせいか、騒がれるような事はあまりなさそうだけれど。
「先輩って何と言うか、綺麗ですよね」
「は、はい?」
「中性的な綺麗さというか、凛とした顔してますし。まぁ控えめな性格みたいだからあまり目立たないでしょうし、そのまま目立たずにいてほしい所ですけど」
「え、何これ、俺褒められてるの?」
「褒めてますよ?」
「うう、慣れないんだけど……というか鍵介、何で今日はそんなにぐいぐいくるんだ」
「今アリアいませんし」
「そ、そこなのかー」
まぁ、二人で話したくて、アリアも他の帰宅部メンバーも傍にいない時を見計らって話しかけたんだから当然だ。彼はほぼいつもアリアと一緒にいるし、もしもアリアがいない時でも帰宅部のメンバーの誰かが傍にいるので、今日のように一人でいる時はあまりない。
奏に自覚があるのかないのかわからないけれど、いつでも傍にいて見守って、必要なら手を差し伸べてくれる部長には、皆が心を許し始めている。それだけ彼が積極的に、それでいて根気強くメンバーと関わっているという事だろう。だからこそ、鍵介も頼られたいと焦ってしまうのかも知れない。
「と言う訳で先輩、一緒にお茶でもしませんか」
「何かナンパみたいだな。ここでも現実でも男な俺でよければいいよ」
「こっちから言ってるんだから、いいに決まってるじゃないですか」
先輩なら男だろうが別にいいし一緒にいたい。なんてつい思ってしまって自分でも少し驚くが、流石にそれはそっと心の中にしまっておく。
「アリアにも言っといた方がいいかな」
「デジヘッドと戦う訳じゃないし、大丈夫じゃないですか?」
「まぁ、アリアだってたまには俺抜きで他メンバーと話したいかも知れないし、いいか。何か用事があったらWIREで呼ぶだろうし」
それはどうかなとは思いつつ、鍵介は黙っておいた。この短期間で、アリアは奏と兄妹のように仲良くなっている。それに彼女はよくも悪くも強気で真っ直ぐで元気すぎるので、部長というフォロー役がいないとたまに部員と衝突してしまう時がある。女子組なら多分大丈夫だろうけれど、男子組が相手の場合は部長のフォローが必要になりそうだ。
「ん、どうした?」
「いえ、それじゃあ行きましょう」
とはいえ、彼と二人だけというのはなかなかなさそうな機会だ。この後部長が誰かに呼び出されでもしない限りは、しばらく二人で出かけさせてもらう事にする。とりあえずは駅前周辺か、パピコ辺りの店がいいだろう、という計画性が全くない感じで奏と一緒に歩きだす。
「お茶って事はカフェとかかな」
「そうですね。別にカフェでもカフェじゃなくても、どこでもいいんですけど」
「目的地は特にない感じ?」
「先輩と一緒にお茶したいなーと思っただけなんで。目的をあえて言うなら先輩ですね」
「何だそれ、ちょっと照れるけど後輩になつかれてるみたいでそういうの嬉しいな。鍵介はいい子だなー」
「ちょ、子供扱いですか!」
「うん、何と言うか……俺より背が低くて安心感あるし、全体的に可愛い感じする?」
「そういう所に安心しないでください。というか可愛いとか、絶対そこひっくり返してやりますからね!」
馬鹿にしている訳ではないだろうし、そもそも部長は滅多に他人を悪く言わないから、ただ本当に素直にそう思っているだけだろう。むしろ、その方が辛いような気がするのは気のせいだろうか。鍵介は少しだけへこみながらも、現実への僅かな望みをかけて聞いてみる。
「もし嫌だったら言わなくてもいいんですけど。先輩の現実の身長って、やっぱりメビウスと同じなんですか?」
「えっ、身長……ど、ドウダッタカナー」
「明らかに動揺してるじゃないですか!」
「俺だってμがまさか身長体重水増しして、何か健康的な体にしてくれるなんて思ってなかったんだよ」
「健康的な、って……先輩、一体どんな生活してたんですか」
「俺はメビウスに来るまで、あまり食べ物が美味しいとは思ってなかったから。味がしないっていうか……何か、味を感じなかったし。仕方なく生きられる程度に、親戚に色々言われない程度に一応少し食べてたくらい。って言ったら状態がちょっと伝わるかな」
「帰ったら僕と一緒に色々食べに行きましょうね、先輩」
「美笛ちゃんみたいな事を言うね」
身長はともかく、水増しして健康的な体にという事は、もしかしたらもっと痩せてたり健康状態が悪かったりするのかと心配になってしまう。まぁ、メビウスに来た人間は皆アストラルシンドロームという状態になっているらしいから、今の現実の体は皆似たようなものかも知れないけれど。前向きに考えれば、つまり現実では身長差がそんなにないかも知れない、と鍵介は思っておく事にした。
「まぁ、心配しなくてもここでは美味しいと思えるようになったし。だからこそ鍵介とお茶会?しに行く訳だけども」
「お茶会だと、何か別の人を思い出すのでやめません?」
「スイートPか。そういえば、あのお茶会甘いものいっぱいで美味しそうだったなぁ」
「フラワープリンセスたちの食べっぷりを見ながらそう思えたの、素直にすごいですね」
「確かに勢いはすごかったけど、あれだけいっぱい美味しく食べる事が出来るのは、それはそれで幸せかも知れないなぁと思って」
「幸せ、ですか…まぁ色々気にしなければ幸せかも知れないですけど」
「幸せも心の傷も人それぞれだから、難しいよね……μの願うように、本当に全員が幸せになったらいいんだけどな」
「先輩って、結構μの事好きですよね」
「うん、本当に限界だった時に手を差し伸べて、心を救ってくれたから。それなのに、俺たちは……俺は」
それを壊して帰ろうとしているんだ。音にならない声で言って、悲しげに目を伏せる。けれど、鍵介が何か言う前に奏はすぐに首を横に振って微笑んでみせる。
「仮にも帰宅部の部長が、そんな事言ってたらいけないだろうけどね」
「別に言うのはいいんですけど、μが好きだからって、うっかりデジヘッドにされないでくださいよ。そんな事になるなら、僕が楽士だった時に洗脳されてほしかったですし」
「洗脳か…鍵介に洗脳されてデジヘッドにされたら、今みたいな関係にはなれなかっただろうから、何とか勝ててよかった」
「確かにデジヘッド化した先輩相手じゃ、こんな風には過ごせないでしょうからね」
「ローグ…倒す、μを守る…!とかなってただろうからね」
「デジヘッドの真似やめてくださいよ」
もしもそうなっていたら、帰宅部にとっては悪夢だったに違いない。μに心を救われた、なんて言う奏が万が一デジヘッド化していたら、侵食度もレベルも高い強敵クラスのデジヘッドになっていた可能性もある。
それに、まだまだ悩みは尽きないとはいえ、相談に乗ってくれる彼のような人をデジヘッド化せずにすんだのはよかった。そういう意味では、負けてよかったと思える。そんな事を考えながらついじっと見つめてしまい、どうした?と奏に不思議そうな顔をされてしまったので鍵介は慌てて話題を変える。
「そういえば、甘いものいっぱいで美味しそうだったって言ってましたけど。先輩ってもしかして甘いもの好きなんですか?」
「うん、結構好きだよ。何かこう、食べるとホッとする?心が少しだけ満たされる感じで」
「じゃあ、これから甘いもの食べにパピコにでも行きましょうか」
「……俺はあまり気にしないんだけど、男二人で甘いもの食べに行くとか、鍵介は平気?」
「その口ぶり、もしかして他の男子メンバーに拒否されたとかですか?」
「そうなんだよ……笙悟はああいうとこ苦手みたいだし、鼓太郎はどうにも照れがあるみたいだし、維弦は他人に関わろうとしないし女子多いと囲まれちゃうし。やっぱり普通は気にするものなのかなぁ」
帰宅部の男子メンバーを誘おうとして、女子メンバーと行けなんて断られる姿が目に浮かぶようで、鍵介は思わず苦笑する。
「まぁ、気にするでしょうね。僕も一人だったらやめときますし。先輩いるなら、店に入る口実にして周りの女子眺めに行くのもアリかなと思いますが」
「なるほど、甘いもの食べに行こうって言ったのはそういう事だったか。俺は正直、あんまり性別に拘りないというか……気にしないから、よくわからないんだよね」
「拘りないって、男だからとか女だからとかそういう?」
「性別がどうであれ、皆ただの人間だし。ちょっと体の形や声の高さとかが違うだけかなって」
「……先輩、思春期ってちゃんとありました?」
「流石にひどくない?」
「だって健全な男子として、それはありえないでしょ……もしかして性欲とかないんじゃないですか」
「真顔で聞く事かな……なくはないと、思うんだけど、多分。その、今まで生きてきてそういう感覚になった事がないから、正直よくわからないんだよ」
「全然って……現実で小学生低学年とかだったりします?」
「ちゃんと高校生です。ただ……何と言うか、現実でもここでも本当にないんだよ。誰かに惹かれるとか、その結果性欲を感じるとかそういうの……よくわからない感覚で」
今まで色々質問した中で、一番曖昧で困ったような返答をされた。その表情も、改めて考えてみたらよくわからないな、みたいな困惑した顔で鍵介の方まで困惑してしまう。
「恋愛とかした事……いえ、恋愛に興味とかあります?」
「ここまで素直に言っちゃったから言うけど、今まで生きてきて恋愛とかした事はないし、正直それも俺にはよくわからないんだ。そういうと驚かれたりするから割と異質みたいだし、一応話を合わせたりは出来るけど。感覚としてはわからないかな」
「ここまで聞いて、そんな気はしました」
「現実では心にも体にも余裕なかったからかな……確かに、思春期とかなかったのかも」
ぽつりとそう言った表情は普段と違ってどこか寂しげで虚ろなものだったけれど、それは一瞬で消えて困ったような微笑みになる。
「何か質問責めにされてるけど、俺の事とか聞いても楽しくないんじゃない?」
「いえ、先輩って聞かないと自分からは全然教えてくれない人ですからね。先輩の事がわかって楽しいですよ。まぁ、帰宅部のメンバー、というかメビウスにいる人たち皆ですが。大体は自分の事なんて話したがりませんけどね、僕も含めて」
「ここにいる以上、現実に不安や不満があるか、心や体に何らかの傷があるかだからね」
「……先輩にも、あるんですよね」
「うん……あるよ」
そう答えて、彼はただ微笑む。拒絶ではないものの、その笑みはいつもと比べるとどこか諦めたようなものな気がして。何となくそんな笑みを浮かべさせてしまったのが嫌で、鍵介は足を止めて奏の片腕を掴む。
「ん、鍵介、どうかした…」
「今は聞かないでおきます。僕自身迷って心がふらふらしてて、しっかり立ってられないような状態の今は勇気も出ないですし」
「……そうか」
「でも、もうちょっと僕がちゃんとして、現実に帰る理由とか見つけられたら聞きますから。今は先輩に精神的に頼ってばっかりの情けない僕ですけど、先輩が僕に頼れるようきっと逆転してみせますからね!」
きっぱりとそう言ってみると、奏は虚をつかれたように驚いたような表情をする。そうして優しく微笑んで見つめてきた。
「鍵介は、情けなくないよ。そんな風に言える人が情けない訳がない」
「そう、でしょうか」
「うん、少なくとも俺はそう思う。今だって俺よりずっと強いよ」
気休めだろうかと思って見上げた奏は、真面目な表情で……本当に心底そう思っているような表情で鍵介を見つめていた。そんな風に言ってもらえるのは嬉しいけれど、つまり彼は自分自身を強くないと思っているという事だろうか。
「……先輩は、自分を弱いと思ってるんですか?」
「鍵介は、俺が強く見える?それとも、弱く見える?」
またゆっくり歩き始めながら、質問に質問を重ねてくる奏に、そういうのはどうなんだと思いつつも、問いかけられて鍵介は考え込む。
「頑張って強くあろうとしていて、でも強い部分も弱い部分もある人に見えます」
「何か……曖昧だね」
「先輩が僕たちに見せようとしている姿はとても強くあろうとしていて、でも先輩が思ってる自分の姿は多分とても弱くて。逆に僕たちには見えているのに先輩には見えてない姿は、強さも弱さもあるって感じというか。上手く言えないんですけど」
奏は多分、自分自身が大嫌いで弱いと思いこんでいるような気がする。どうしてなのかは、まだ聞く勇気が出ないけど。ただ、何と言うか、彼のそういう部分がどこか自分と近い気がした。自分の何かが嫌で、そうしてつい自分を装っている、そんな所が。
そして自分が惹かれたのは多分、そんな奏が意識的にまたは無意識に、隠そうと装おうとしている部分なのかも知れないと鍵介は考える。彼の頼もしい部分や、強い部分だって、もちろん嫌な訳じゃない。全てを諦めているような部分は、少しモヤモヤする。けれど、彼が見せないようにしている弱さや儚さ、孤独がやはり一番気になった。
「……先輩は、強いし弱いと思います。僕や、他の人たちと同じように。強いだけの人なんていないでしょ。だから、先輩だって見せていいんですよ、弱さもダメな所も」
見つめながらそう言ってみると、奏は驚いたような顔で鍵介を見て、そうして微笑む。どこか泣いてしまいそうな表情にも見える、淡い微笑みで。
「でも、頼れる部長のがいいんじゃないかな」
「部長ってそんなすごいモンですか?失礼な事言いますけど、現部長の奏先輩もそうですが、前部長の笙悟先輩だってそんな強くて頼れる人には見えませんけど」
「て、手厳しいね…」
「あ、精神的な部分の話ですよ。戦闘面では頼れますし。現部長はガードが甘すぎますけどね」
「……はい。何か急にダメ出しが始まった」
「もちろん、僕だって偉そうに言えるような奴じゃないんですけど。とにかく、頼れる部長なんてものに頑張ってなる必要はないんじゃないかと思いますよ」
「そう、かな」
「少なくとも僕は、先輩の弱さもダメな所も含めて、色んな部分を見てみたいですけど」
奏が意識的に、無意識に隠そうとしている、彼の本当の部分を知りたい。いけない事なのかも知れないけれど、出来れば彼の心の奥深くにまで入り込んで、その深層まで見てみたい。いつも優しく微笑んでいる奏に隠された、本当の顔が見たい。
それがただの好奇心なのか、それとも彼の色んな事をもっと知りたいからなのかはわからない。ただ傷付けるだけなのかも知れない。それでも、綺麗な部分だけでなく、彼の心の深淵まで知りたい。そんな事を考えてしまう。
「俺の、その、そんなのを見ても、面白くはないと思うけど」
「面白いとか面白くないとかじゃなく、先輩の事をもっと見てみたいんですよ」
「いい笑顔で言われると何か怖いなぁ」
「ついでに弱みを握って、色々言う事聞かせたいなぁ、なんて思ってないので安心してくださいね、先輩」
「全く安心出来ないやつじゃない?それ」
鍵介の言葉に苦笑をしつつ、奏はふと周りを見回す。そう言えば話しているうちに、いつの間にかパピコに着いていた。
「今はデジヘッドとの戦闘も、他の生徒と話すのもダメですよ」
「戦闘はともかく、他の人と話すのも?」
「先輩の交友関係が広いのは、僕だって知ってますけどね。でも今は僕と二人でいるのに他と話されたら、一緒にいるのつまんないみたいで何だか腹立ちますからね」
「そ、そうか?そういうものなのか……わかった、鍵介と一緒に来たんだもんな。話すなら鍵介と話すよ」
「そういうものです。普通は誰だってそうでしょうから、気を付けてくださいね」
それが普通なのかどうかは、正直わからないけれど。まぁ彼には普通だと思ってもらった方がいいからそう言っておく。
「どこ行こうか」
「先輩にお任せしますよ。甘い物でも付き合うつもりで来たんで」
「そうか……ありがとう、鍵介」
いつもの穏やかな微笑みより明るく嬉しそうな笑顔で、奏はどこにしようか悩みつつ歩く。それに付き従いながら、本当に甘い物好きなんだなぁと、鍵介はつい彼の嬉しそうなその顔をじっと見てしまう。こんな顔を見られたなら、一緒に来たかいがあった。
あまりにもじっと見てしまったせいか、奏は鍵介からの視線に気付いたようで、それでも見ていると何となく恥ずかしそうな顔になる。
「な、何でそんなに見てるのかな?」
「いやー、先輩がすっごく嬉しそうなので、つい」
「うん、まぁ、この辺には誰かとあまり来ないし…アリアとたまに、デジヘッドに気を付けながら食べに来るくらいで」
「……もしかして、僕が一緒に来たのが嬉しいんですか?」
冗談のつもりでそう言ってみると、少し赤くなって、動揺したように視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。
「だって、アリア以外の誰かと、こういう所に来た事ないし。帰宅部で楽士の所へ行く時とかとはまた違うし」
そっちか、と少し残念に思ってしまった自分に驚きつつ、それでもどうせなら鍵介と一緒に来たかったと思ってくれた方がやはり嬉しいだろうと思う。とはいえ、他の誰かが一緒に行かないのなら、このまま自分が彼と一緒に行動する者になってしまえばいいのではないか、とも考えた。
「じゃあ、僕が今後も先輩に付き合いましょうか?食事でもお茶でも別にいいですけど」
「え、いいの?」
「いいですよ、どうせ基本的には暇ですし。それに、僕が先輩に付き合ってもらったりもしてる訳ですから」
そんな言葉でも、奏は今まで鍵介があまり見た事のないような、嬉しそうでありながらもどこか儚さも感じるような綺麗な微笑みを浮かべて礼を言う。
「ありがとう。俺……現実では独りだったし、ここでもそんな風に言ってくれる人って初めてだから、すごく嬉しい」
「そんな喜ぶ程の事ですか?」
「うん、俺にとっては」
なら、これからは独りになんてさせたくないなぁ、そう心の中で思う。まだ、勇気が足りなくて言葉には出来ないけれど。いつかは言えるだろうか、自分の問題が片付いたら。彼の深くまで踏み込んでも、しっかり支えられるくらいになったら。
そんな事を考えてしまって、鍵介は自分が彼の事を気になってるどころか、かなり好きなのではないかと気付いてしまった。
「鍵介?」
「いえ、何でもないです。まぁ、それならこれからも喜んで先輩に付き合いますよ」
こうなると、相手が恋愛経験皆無どころかよくわからないなんていう、そういう部分は小学生レベルかも知れないくらいの人で。しかも性別に拘りがないというのは幸いなんだろうか。まぁ、自分の好きという気持ちが、本当に恋愛感情なのかどうかという見極めがもう少し必要だろうけれど。告白した後でやっぱり違ったとかなったら、お互いに不幸にしかならない。
とはいえ、ほぼ自分の中ではそれがどういう気持ちなのかは確定している。何と言うか、ストンと腑に落ちてしまった。まぁ簡単に考えれば、好意があるから気になっていたし、つい目で追っていたという事だろう。
「鍵介、ここにしよう」
「え、あ、はい。でもこの店、甘い物だけではなさそうですね」
「うん。鍵介がもしも甘い物苦手だったら、軽食もあるみたいだからそっちを食べたらいいのかなと思って」
「特に苦手という程ではないですけど。確かにガッツリ甘い物だけ、とかだとちょっとキツかったかも知れないんで、助かります」
こんな風に、ごく自然に他人を気遣える所はすごいとも思うけれど。もしかして他のメンバーとも来てみたくて、入りやすそうな店を前もって探しておいたのかと気になって、席について注文してから奏に聞いてみる。
「……もしかして、調べておいてたんですか?」
「え、ああ、うん。帰宅部のみんなで来れたらいいなと思って。そこまでゆめかわとかではなく、女性客ばかりでもなさそうな所を。まぁ…結局みんなをどう誘ったらいいのか悩んでそのままなんだけど」
「何と言うか……意外ですね、さらっと皆を誘えそうに見えるのに」
「さらっと誘えません。何か誘ったりしなきゃならない時は、いつも頑張って何とかそう見せてはいるけど。難しいけど、頼れる部長でいなきゃって思ってるから」
「今日一日で先輩の見方が、かなり変わりました」
「鍵介にどんどんバレちゃってるな…」
「ええ、どんどん先輩の色んな部分を暴いちゃいますよー」
「や、やめてー。鍵介のえっち」
奏は意外とノリがいいけれど、そういう事言われると、意識してしまったせいで何か変な気分になりそうだから困る。気付かれないようそっと溜息をついて、コーヒーを飲んで気持ちを落ち着ける。まぁ、多分今は注文した物が来て、ケーキを幸せそうに食べているから気付かないだろうけれど。鍵介はそう思いながら、奏が美味しそうにケーキを食べている姿をそっと観察する。
普段は穏やかに微笑んでいたり、大人びたクールな表情だったりする帰宅部の部長が、年相応か少し幼い表情と雰囲気で、幸せそうにケーキを食べている。
「……本当に甘い物好きなんですね」
「ん、食べたい?」
「いえ、大丈夫です。続けてください」
「つ、続けて……??」
思わず言ってしまった鍵介の言葉に、不思議そうにしながらも奏はまた食べ始める。彼が少し迷った末に注文したのは、オーソドックスな苺のショートケーキと、フルーツとクリームとバニラアイスで飾られたプリンアラモードだった。
どうやら、ショートケーキの苺は後に取っておくタイプらしく、ケーキ部分が半分ほどになっても苺は大切そうに残されている。甘い物は結構お腹に入るんですねとか、二つは多いのでは、とかツッコミしたい気持ちにはなったものの、奏のとても幸せそうな表情に負けてしまってツッコめない。
それにしても、もっと小洒落た感じの物が好きそうな見た目をしている彼が選んだ物がそれというのは、少し意外だったけれど。
「何だかちょっと意外ですね」
「ん、何が?」
「結構オーソドックスだなーと。先輩の雰囲気的に、もっとオシャレな感じの物を食べそうなイメージでした」
「そう?これは小さい頃から好きな物だからかなぁ。もちろん、小洒落た物もいいと思うけどね。ただ、オーソドックスな物の方が、俺にとっては何か懐かしいから」
そう言いながら、奏はどこか遠くを見つめ、悲しいような懐かしむような表情で微笑んだ。それは一瞬で消えて、また楽しそうな表情に戻ったものの、鍵介の心にその一瞬の表情は焼き付いていた。
「鍵介は食べなくていいのか?」
「何か胸いっぱい……いえ、そんなに空腹じゃなかったので」
「こっちのフルーツかアイス、一口食べる?あ、両方のがいいかな」
「聞いてませんね?貰いますけど」
スプーンでフルーツとアイスをすくって、あーんとは言わないもののそれと同じ事を素でしてくる奏にまた負けて、一口貰ってしまった。周りの目とか気にしないんですかねこの人、と思わず鍵介は心の中でだけはツッコミを入れてしまったけれど。
普段は見れないような、とても幸せそうな顔で彼が笑っていたから。そんな奏の顔を見たらやはり何も言えなかった。
「今日はありがとう、鍵介」
「いいですよ、珍しいものも見れましたし」
「珍しいものって?」
「先輩の色んな姿とか表情とかですかね?」
「改めてそう言われると、何か恥ずかしい気もするね…」
「ああそうだ。もしもまた、先輩が行きたい所とかあれば付き合いますし、僕にも付き合ってもらいますよ」
「うん、ありがとう。もちろん、俺でよければいつでも」
この一度きりで終わらないように、先にそう言っておく。寂しいくせに平気なフリをする彼が、独りを選んでしまわないように。これからもこの人と一緒にいられるように。そう心の中で思いながら。