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【サガフロ】宿命を背負う者たち

全体公開 サガフロ双子 1 6718文字
2021-08-07 22:49:01

「不完全な双子魔術士による二重奏~または完全なる魔術士への前奏曲~」と双子アンソロ「Hydrangea」に収録していたサガフロのブルーとルージュの二人の旅~対決に至るまでの原作沿い話です。ブルーが陰術と秘術と空術、ルージュが陽術と印術と時術を得ているルートです。

 空間の主を倒した途端、部屋を後にすると外にいた子供たちが悲痛な表情を浮かべ、次々と消えていった。騒がしかった場が一瞬で静寂に包まれる。普段なら心地よいはずのそれが、妙に耳に痛いのは、きっと気のせいだ。
――ここまでして資質を得なきゃいけないの」
 メイレンが眉を寄せ、静かな呟きと共に俺を睨む。他の者たちも複雑な表情をしていたのが見てとれた。
 だが、俺は資質を得ねばならない。最高の術士となるために。世界に一人しか資質を持てぬというのなら、殺して奪う他に何がある。モンスターを倒すのと何が違うんだ。同じだろう。そう、同じはずなんだ。……なのに、どうして先程の消えゆく子供の顔が頭から離れない。
「これでいい、これでいいんだ」
 自分に言い聞かせるように呟いた途端、ゲートが自分の意思と関係なく発動し始めた。きっと、最初から計算されていたのだろう。メイレンや他の誰かが何か言いかけていたが、術の発動に紛れて聞くことは叶わなかった。

* * *

「なぜ、私の時を動かした?」
――貴方を倒し、時術の資質を貰い受けます」
……ほう、なるほど。貴殿はかの魔法王国の魔術士か」
 開かずの扉の向こうにいたのは一人の妖魔。只ならぬその気配に、自然と身体に力が入る。
「ええ、そうです。完全なる術士となるために」
「ヒトの子よ。この世に完全なものなど何一つありはせぬ。永遠の命を持つと言われる我ら妖魔とて、消滅するときは一瞬にして散る。跡形もなく」
――それでも、それでも僕は手にしなければならないのです。術の資質を。それが僕の存在する理由だから」
「そうか、好きにしろ。――だが、簡単に渡すつもりはない」
 そして、時の君が見たことのない術の印を結ぶ。それより早く、僕は術封じの魔術を高速展開させた。

* * *

「使えるものは何でも使え。使えないものは切り捨てろ。お前たちは運命の子。兄弟を殺すのに情など必要ない」

 幼い頃よりそうやって育てられてきた。双子は不完全な生き物だから、と殊更厳しく。そして俺たち双子の片割れは普通の子どもとは隔離されていた。
 自慢ではないが、俺自身は大人たちから与えられた要求に応えられていた方だった。しかし、その要求に応えられなかった者には容赦なく罰が与えられていた。
 まるで見せしめのように目の前で繰り広げられる体罰。明日は我が身、とその場にいた皆が体を固くていたように思う。
 俺たち双子の片割れは共にいながら孤独だった。同じ運命を背負いながら、手を取り合うことを放棄させられたのだから。
 成長し、学院へ入学してからは個別の指導が始まったお陰でより疎遠となった。今ではもう顔も名前も思い出せない程の脆弱なものだ。
 そう、幼い頃から俺に与えられたのは双子の兄弟を殺して完全な最強の術士になる使命――そして術士としての知識だけだった。

* * *

「可哀想な子どもたち。でも此処にいるあなたたちは同じ運命を持っている。そう、あなたたちは独りじゃない」

 そんな風に言い聞かされて僕は他の双子の片割れたちと育てられた。だからだろうか、遠くの親類より近くの他人とはよく言ったものだと思う。顔も見たことない親兄弟よりも、共に暮らし、互いに切磋琢磨する仲間へ信頼を寄せるのに時間は掛からなかった。
 周りの大人たちは優しかった。何かあればすぐに僕らの元へやって来て世話をしてくれた。今にして思えばあれは血の繋がらない家族ごっこのようなものだと思う。けれど、そんなことをしていながら実の双子の兄弟を殺せと同じ口で事ある毎に言うのだ。――可哀想な子、運命の子、と。
 結局、幼い頃から僕に与えられたのは、双子の兄弟を殺して完全な最強の術士になる使命――そして術士としての知識だけだった。

* * *

 強制的に発動したゲートで何処かへと飛ばされるその最中、ずっとあの空間にいた子どもたちの顔ばかり浮かんでは消えていた。何故だ、何故こうも不快にさせられる。苛立ちが募るばかりで不快極まりなかった。だが、ゲートが移動先へとたどり着き地に足を付いた瞬間、頭にチラついていた子どもたちの顔が霧散した。
 ――ああ、そうか。あの空間の子どもたちの顔が離れないのは。
「俺と似ていたからか……
 大人たちの顔色を伺って怯えていたかつての俺そのものだったんだ。あの子どもたちは。
 何度双子であることを呪っただろう。憎んだだろう。恨んだだろう。しかし、最強の術士と成るために死ぬことは許されない。終わりのない地獄だった。だが、それも今日で終わる。
「最強の術士となるのは――俺だ」
 そして俺は前を見据え、砂埃で煙る大地へと降り立った。

* * *

「お願いがあるんだ」
 ようやく動き出した時間妖魔のリージョン。その最奥にいるであろう時の君の部屋へいく直前に僕はみんなに話しかけた。
「何さ、改まってお願いだなんて」
 耳元までの短い金髪を揺らしてアニーが言う。外の世界に不馴れな僕の手を引いてくれていたありがたい存在だ。何でも、年の離れた弟と妹がいるらしい。面倒見がいいのはそのためなんだろう。家族を大切にする彼女には、結局ここまで僕の運命の事を伝えられなかった。
「これから、時術の資質を取りにいくんだけど……僕一人でやらせてほしい」
「一人で勝てる相手なのかよ? 大丈夫か?」
 逆立てた髪の毛が目を引く青年、レッドが心配そうに聞いてくる。彼はブラッククロスという組織に家族を殺されたという経験をもつ人で、やっぱり彼にも僕の運命の事を言えなかった。
 嗚呼、なんという皮肉か。僕は家族を、兄弟を殺しにいくというのに、彼らには家族の為に戦っているのだから。
 そんなとりとめのない思いを抱きつつ僕は仲間の面々を一通り見渡すと、息を吸って話し始めた。
「時術の資質は、世界に一人だけしか得られない。得るには所有者を――殺すしかないんだ。これは空術も一緒だけど」
 僕の言葉に、顔には出さないけれども動揺しているのが空気で伝わってきていた。そんな中、眉一つ動かさない人物がいた。医者をやっている変わり者の妖魔、ヌサカーンだ。
「それで、勝算はあるのかね?」
「あります。新しく会得した魔術、サイキックプリズンで彼の術を使えなくするんです」
「ほう」
「妖魔の皆さんは術を扱う方に長けている。そうでしょう? それに、時の君は唯一時術を操れる者。時術を使って翻弄させてくると思います。僕が彼ならそうします」
「確かにな。だが、それだけで勝てるのかな」
 ヌサカーンが眼鏡を指で押し上げ、不敵な笑みを浮かべながら僕に問いかける。僕も負けじと微笑み返した。
「わかりません。でも、僕は最強の術士になって、故郷に帰らねばなりませんから。ここで死ぬわけにはいかないんです」
――成程。そういった意志があれば死ぬことはないな。人間は時に何物よりも強くなるものだ」
 ヌサカーンに僕の言葉を正しく汲み取ってもらえたようでホッとした。
 だけど、僕の事を弟のように見ているフシのあるレッドとアニーは不満げな顔をしていた。けれど、僕に強い意志があることを確認し、また僕自身が一度決めたことに対して決定を覆さない頑固なところがあると知っているからか、もうそれ以上説得するような事は言わなかった。
「本当にお前は頑固だよなー」
「レッドこそ」
「ほんとほんと。それに、怒らせたらおっかないし上に腕も確かだしね」
「ええと……ありがとう、でいいのかな?」
「素直に受け取っときなって!」
 仲間とそんなやり取りをしつつ、ずっとこんな楽しい日々を過ごせたらどんなに良かったかと思いを巡らせる。けれど、どんなに逃げたところで運命は変えられない。僕は兄弟を殺さなくては生きられない人間なのだ、と見せつけられたのだった。

* * *

 ゲートで飛ばされた先は、場所も分からぬ荒野だった。空は分厚い灰色の雲で覆われ、ぼんやりと明るい不思議な場所だった。そして、ある一点に自分と同じ魔術の気配を感じた。――この先に、いる。見えない糸に引かれるように、俺はそこへ向かって歩き始めた。
 長いようで短かった資質集めの旅は終わり、ルージュを殺して最強の術士となりマジックキングダムへと帰るのみ。――だというのに、何故か今度は資質集めの最中に起った出来事が次々と浮かんでは消えていた。
 ヨークランドの沼地で、悪酔いした面々が敵のモンスターではなくこちらを攻撃し始め地獄絵図と化したこと。
 IRPOですぐにカードをもらえるかと思いきや、何故か極寒の雪山に連れてこられたこと。その途中で頂上にいたのとは別の、氷付けになっていた朱雀に何故かなつかれたこと。途中の赤と黒の竜に勝てないことに妙にこだわってしまって、気が付いたら目的がそっちになりかけていたこと。
 心術を得ようとして断られたこと。
 ワカツでなかなか剣のカードを得られなかったこと。
 バカラであっさり金のカードを得ることができて拍子抜けしたこと。
 陽術を得ようとしたらルージュに先を越されていたこと。陰術の資質を会得しにオーンブルへ行ったら、何故かヒューズの同僚がいたこと。そしてちゃっかり一緒に行動し始めたこと。
 ドゥヴァンで最後の術の在処を聞き、麒麟の空間に飛ばされたこと。噎せ返る甘い菓子と茶の香りに酔いそうになりながらどうにか迷宮を抜けたこと。共に来ていた者たちがしきりに「子供の頃に来てみたかった」と何度もぼやいていた。
 ただ、淡々と資質を集めていただけだと思っていたがこうして思い返せることに驚いて立ち止まってしまった。
……完全なる術士になるのに、こんなものは、不要だ」
 そう、必要のないものだ。こんなもの。しかし言葉にした途端に、胸に小さな痛みが走る。何故だ。あの麒麟の空間を脱出してから何かがおかしかった。それを振り払うように頭を振り、止まっていた足を再び動かす。後もう少し。後もう少しで俺は最強の術士になれるのだ。今までそのためだけに生きてきたのだから。
「そう、完全なる術士になるのは、この俺だ」
 その瞬間、どこからともなく風が吹き、思わず目を瞑る。次に目を開けたときには、頭上には巨大な月が浮かび、足下は不安定な岩場に変化していた。そして、その前の前には自分と色違いの法衣を纏った人間が、いた。

* * *

 時の君を倒した瞬間、ゲートが発動して気が付けば見知らぬ荒野に飛ばされていた。思わず辺りを見渡すけど、めぼしい物など何も見当たらない。分かるのは、同じ魔術の気配がすることだけだった。
「ああ、みんなに最後、さよならくらい言いたかったのに……
 みんなどうしているだろうか。あの場から強制的にはじき飛ばされても、送り出してくれたあの妖魔のところへ戻されていると良いのだけれども。そんなことをつらつらと思いながら、一人歩いて行く。そういえば、こうして一人になるのは旅だってすぐの頃以来かもしれない。
「ふふ、なんだか懐かしいな。ルミナスに着いたのは良いけど、陽術か陰術、どっちを選ぼうかずっと迷ってしまったんだっけ……
 どうしようか悩んでいたその時、たまたまシップ発着場で見かけたレッドに声をかけられたのがきっかけだった。そこから、レッドの知り合いや、資質集めの途中で出会った人たちが次々に仲間になって、あっと今に大所帯になっていったのだ。
 そもそも、僕自身が大勢の人に囲まれて育ったせいか、初めて一人で外の世界に出されたときは不安で不安でしょうがなかった。無事に資質を集められるのか、とか。本当に僕が最強の術士になれるのだろうか、とか。ルミナスをウロウロしながらぐるぐる考えていたのだった。
 レッドと出会って、陽術の資質を得て、次に向かったドゥヴァンで、秘術の資質を得ることをバッサリ断られた。
 なし崩し的に、印術の資質集めをするしかなくて、その途中でレッドの因縁の相手、ブラッククロスという組織と戦うことにもなった。
 勝利のルーンのあるシュライクは、ちょうどレッドの生まれ故郷で。勝利のルーンを手に入れた後、なし崩し的にシュライク観光ツアーとなった。そこで僕はレッドの生い立ちを知ることとなり、僕の術の資質集めにあるその先の目的のことを話すわけにはいかないとこの時に決めたんだったっけ。途中、ルーンがある遺跡で出会ったルーファスという人が仲間になってくれた。
 心術を得るために訪れた京で、麻薬業者の工場を見つけて破壊した。心術の資質は残念ながら得られなかったけれど。
 活力のルーンをどうやって手に入れるんだろう、と悩んでいるときに「タンザーにシップが飲み込まれることがあるらしい」という情報を得て、おっかなびっくりシップに乗り込んだらタンザーに運良く飲み込まれてスライムの群れと戦って手に入れることが出来た。そしたら何故か小さいスライムが着いてきて驚いたけど。
 マンハッタンのキャンベルビルというところにも出かけた。やはりそこもブラッククロスが絡んでいて。一時ではあるけれど協力してくれたIRPOの人が僕と目が合うと不思議そうな顔をしていたのが印象的だった。
 保護のルーンを手に入れる前、シュウザー基地に潜入してそこを壊滅させた。このとき仲間になったライザとアニー、そしてシュライクで仲間になったルーファスの三人はグラディウスという組織の一員で、彼らもブラッククロスのことを調べていたようで、レッドにとってまたとない仲間だったに違いない。保護のルーンを手に入れる前「裏通りにいる医者が詳しいことを知っている」ということを教えてくれたので、そこで事情を話して妖魔のヌサカーンが仲間になってくれたのだった。
 その次にアニーが解放のルーンの在処まで案内してくれた。このときに彼女の生い立ちと、彼女が危険な組織に入ってまで戦う理由を知ってしまって、ますます僕は僕の目的を話せなくなってしまった。
 それぞれの資質集めが終わり、ドゥヴァンの神社にいる少女から最後の術、時術と空術の話を聞いた。既に麒麟の空間には僕の双子の兄が向かっていったと少女に淡々と告げられた時、どきりと心臓が跳ねた。これが僕と仲間たちの、最後の戦いになるのだと気づいてしまった。もう共にはいられない。そもそも今までずっと協力してもらえたことが奇跡だったのだ。だから、時の君との対決は、僕一人でやらなければ、と思ったんだ。
「ああ、本当に……僕は本当にたくさんの人に支えられここに来たんだ……
 今までの旅を思い返してみて、仲間になってくれた人がいたからこそここまでやってこれたのだと、改めて気付かされたのだった。僕の旅に初めから同行してくれたレッドには本当に頭が上がらない。別れの一言もないのは我ながら相当酷いやつだと思うけど、僕の目的のことを顧みればこれでいいと思った。人を助けるために戦う人が、自分のために身内を殺す人と一緒にいられるわけがなかったのだから。
「僕を助けてくれたみんなのためにも、僕は負けるわけにはいかない」
 その瞬間、どこからともなく風が吹き、思わず目の瞑る。次に目を開けたときには、頭上には巨大な月が浮かび、足下は不安定な岩場に変化していた。そして、その前の前には自分と色違いの法衣を纏った人間が、いた。

* * *

 月明かりに照らされて、二人の術士が対峙している。彼らは同じ顔をし、違う色の法衣を纏っていた。一見して、彼らが双子だということは分かるだろう。しかし二人は互いに殺気を放ち、まるで射殺すかのように互いに視線を外さない。
 彼らは、マジックキングダムの双子の魔術士。双子は例外なく強い魔力を持つという。しかし、それだけでは足りなかった。なぜなら、マジックキングダムが求めるのは完全なる魔術士。全ての資質を身につけた者を必要としているのである。
 生まれてからずっと、そのように教えられ忠誠を誓わされる彼らはそのことに何の疑問も持たない。疑うことなどなかった。その教えが全てなのだから。
 そう、彼らは知らない。完全なる魔術士をキングダムが求める真の意味を。
 見つめ合った二人がどちらからともなく動き出した。何も知らず、何も疑わずに血を分けた彼らは殺し合う。それが自らに課せられた宿命だと信じて。
【終】
二〇一六年十月八日 初出
ブルー&ルージュアンソロジー「Hydrangea」収録


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