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越知月光は見ているだけでよかった2

全体公開 5 2929文字
2021-09-04 19:03:17
Posted by @uk_plus_

 それは唐突な出来事だった。およそ一か月先に行われる文化祭の役割決めが始まる十数分前。

「越知はさ、いい加減にしねーとだめだろ」
「何がだ」
「何がって

机を挟んでぺらぺらと何か話していた友人が話題を切り替えたのか、文庫本を開いていた越知に突然詰め寄り強めに声をかける。そして事も無げに返事をして己を見もしない越知の手元から本をひったくり、より顔を近づけて小声で言った。

「早く好きだって言っちまえよ」
「!なんなんだお前は」

眼前に打ち付けられた言葉の意味を瞬時に脳内で咀嚼して、越知は真剣な顔をする友人から文庫本を取り返す。そして再び本を開いて視線をそれに移せば、対する友人はむっとしながら椅子に凭れ掛かった。

「それはお前の方だろ。見てるだけでいいって、今時どんな奴だっての」
「なんでもないだろう」
「なんでもあるから言ってんの。俺は友人を心配してんだって」
「面白がってるだけじゃないのか」
「それはねーよ!……あっても一ミリ」
「おい」
「冗談だってば」

真剣な声音からけろりと笑って言う友人を越知が軽く睨み付けると、今一度けらけらと笑われた。

「でもさ越知、よく考えてみろよ。俺ら今三年だから来年にはいなくなるわけじゃん」
「それはそうだろう。卒業するからな」
「だろ?としたらお前、そもそも見てるだけ~なんてこと、終わっちまうじゃんか」
……
「いいのかよ」

黙ったままでいる越知に、友人が眉を顰めながら聞いてくる。そんな相手を見ないままに、越知はなるたけ平静を装って声を出す。

……別段」
「ぜってー嘘だね!」
「勝手に決めるな」

間髪入れずに返された少々大きな声に今度は苛立ちを込めながら友人を睨んだ越知だったが、どうやらそれは対峙する彼には効かないようだった。居住まいを正した友人がもう一度真剣な声を越知に向けた。

「じゃあ言い方変えるわ。……その子が他の奴と付き合ってもいいのかよ」

そんな言葉が静かに本を読む越知の胸にちくりと刺さる。すると途端に活字を追っていた目が滑ってしまって、越知は今一度そのページの頭に視線をやった。

……
「まあ俺知らねーから、もう付き合ってる奴いんのかもしらんけど」
いない」
「えあ?」

ようやくページをひとつ捲り間を置いて返答すれば、友人は間抜けな声をあげてきょとんと越知を見た。

「恋人は、恐らくいない」
お前マジか」
「何がだ」
「いや……よく見てんなーって、感心した」
「引いているんだろう」
「そうとも言う」
「そう言え」

真剣な顔で言われて、しかしきっとこれは茶化されているのだろうと小さくため息を吐きながら越知が言えば、友人は口角を上げて笑った。そんな彼に少々不機嫌気味に返事をすれば、越知から視線を逸らして友人は続けた。

「っつってもさ、それが不変なわけないじゃん?しかもこの先、文化祭だなんだってイベント多いんだし」
「それが何か関係あるのか」
「お前ね三年で行事が最後なら、機会がたくさんあるだろうがって話だよ」
「何のだ」
「俺がお前に呆れる回数、制限つけてほしいわ」

軽くやり取りをしていた友人が盛大にため息を吐いて、先ほどよりも少々真剣な声音で越知に言った。

「彼女が誰かに告白される機会だって、増えるかもしれねーじゃん。越知はそれでいいの?」



 いいわけがなかった。しかしその可能性や事実を減らすことなど自分にできようはずもないと、黒板に書かれていく係名と個人名を眺めながら越知は考えていた。文化祭の概要を簡易的に話す委員や教師の言葉も、まるで耳に入ってこない。
 そして視界の端に映る自分よりも圧倒的に小柄なその“彼女”を意識してしまい、口元を覆いながら机に肘を付く。

何も起きないで全てが終わってしまうなら、そのほうがいっそ、いいだろう。

 脳内で独り言ちた時、越知の背中にトントンと何かが触れた。首だけで後ろを見れば、先ほど自分を煽っていた友人が持っているペンで背中をつついてきていた。

なんだ」
「なんだじゃねーって。越知、すぐ手ぇ上げろ」
「は?」
「いいからいいから、ほらっ」

小声でやり取りしながら、訝し気に越知が声を出した瞬間だった。
友人がまどろっこしそうにそのペン先を越知の脇腹に強めに刺した。

「っ、お前は!」
「越知、どうした?」
「いや、なんでも
「せんせー!越知それやりたいって!」
「は?」
「そうか。そうしたら頼むな越知」

思わず飛び上がりかけた越知の声に、教壇へ凭れていた教師が視線を向けて声をかける。
それに謝罪しようとした自分の言葉を遮ったのは、パワートリプルS気味に脇腹へペンを刺したどうしようもない越知の友人だった。
そして尚大きな声で越知自身が全く考えていなかったことを答え、するすると物事が進んでいってしまう。

「お前ふざけているのか」

友人と教師とのやり取りだけで事が済んでしまい、置いてきぼりにされた越知は居住まいを正してから後方の元凶へと抗議した。するとにやにやとしながらその友人は顎で黒板を指した。

「?なん

眉間に皺を寄せながらその指示通りに今一度黒板をしっかり見て、越知は目を見開き絶句した。

「ま、頑張れよ」

そこには自分の名前と彼女の名前が同じ役職に、隣り合って書かれていたのだ。
軽薄気味な声音で、しかししっかりとしたように友人が越知の肩をひとつ叩いた。



 全ての仕事の割り振りが済んで、役職ごとに適宜その内容を確認していた頃の余談だ。
 丸い目をした少々小柄な男子生徒が頬を膨らませながら、対面する男子生徒へ文句を垂れていた。

「ええ~?そんなことになってたの?俺も混ぜてよ~」
「お前いなかったじゃん、残念」

投げかけられた苦言を事も無げに切り返しながら、軽い口調の男子生徒はスマホを取り出しするりと指を動かしている。それを見てから、小柄な男子生徒はある一方へと視線をやった。そこには大きな越知と小さな一人の女子生徒が隣り合って座っている。

「え~っていうか越知、その子と話できるのかな?」
「さぁ?無理じゃね?」
「うわ薄情。自分でやっといて
「大丈夫大丈夫、なんとかなるって」
「見切り発車過ぎて越知が可哀相すぎるよ

視線は先の二人へやったままげんなりと小柄な彼が漏らすと、スマホをいじっていた彼はひとつにんまりと笑った。

「とりあえず、こうしてと
「何々?」
「メッセのグループ見ろって」
ああ」

不思議に思った小柄な彼が自分のスマホを開いてから全てを知ると、まあこれくらいしょうがないかと自身もするするとスマホをいじりだした。



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「越知、連絡先聞いとけ」
「絶対に聞けよ」
『なんなんだお前』
「いや、ここは言うこと聞いておいたほうがいいよ、越知」
『お前までか』
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 しばらくしてじとりと巨躯がこちらを向いたので、男子生徒二人はにこやかにそちらへ手を振っておいた。


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