@uk_plus_
「つきまとわれている?」
「っていうのが、正しい表現なのかなぁ」
次の授業までの休み時間。友人の越知へため息交じりに言えば、彼は怪訝そうな顔で聞き返してきた。
「どういうことだ」
「いやー友達の練習試合をあっちの高校に見に行ったら、なんかそこの男子生徒たちに声かけられてさ」
全ての始まりは簡単なことだった。訪ねた他校で友達の友達らに囲まれて、そこにいた一人の男子生徒と連絡先を交換した。
それが良くなかったようだ。
「その日から何となくやり取りしてたんだけど、もうずっと連絡くる」
「ずっととは…」
「毎朝毎晩結構遅く、おはようからおやすみまで」
「……」
「たまに夜、電話来る。週三回くらい」
「たまに、は語弊があるだろう」
それは、と言いながら越知にしては珍しくわかりやすい表情でげんなりしていた。
「やっぱりそう思う?」
「俺は、そう思う。それでは―」
―付き合っているようだ。
みなまで言葉にしなかったが、越知が私に目配せでそう言ったようだった。
「ねー本当に。もう疲れてきちゃってさ」
「やめてくれと言えばいいだろう」
「いやーやんわりと?言ったことあるんだけどさぁ…学校まで来られちゃって」
そこまで言うと絶句した越知の切れ長の目がゆっくりと開かれて、また珍しくどん引きしているようだった。
余談だけれども、私は越知と席が近くなってよく話をするようになった。初めこそ無表情が常のような彼と打ち解けられる自信など私には全くなかったけれど、他人が言うほど彼が情緒を表に出さない人ではないと気付くのに時間はそう必要なかった。ただ越知は、静かなだけだ。
「ずっと、何かした?とか聞いてきて否定するまで帰ってくれなかったんだよね」
「警察を呼べ」
「大仰か」
苦笑いしながら言う私に対しひどく真剣に越知がそう返すものだから、なんだか可笑しくて彼の肩を叩くと首を振って私に向き直った。
「気を付けるに越したことはない。どうするつもりだ」
「どうしようかなーっていうのが今」
眉間に皺を寄せながらまたため息を吐けば、越知も考え込むように腕を組んだ。その姿をちらりと見て、私は今一度ため息を吐いた。
「無視はダメ、適当に相手してもダメ、全然いい案がないわけ」
「…ひとつだけ」
「え?」
「ひとつだけ、なくはない」
どうしようと頭を抱えた私の隣で、ぽつりと小さく越知が言った。友人からの妙案の提示に私が食いつくように何々と聞けば、躊躇いがちに越知が言葉を続ける。
「恋人が、いると言えばいい」
「……馬鹿にしてる?いないの知ってるじゃん」
「嘘も方便だ」
「無理だよ!友達伝いでバレるもの」
つらっと言ってのける越知に抗議してそっぽを向けば、突然自分自身のスマホを私に突き出して今度は事も無げに彼は言った。
「俺が、買って出よう」
余談だけれども、私は越知と席が近くなってよく話をするようになった。他人が言うほど情緒がない人間でない彼は、ただ静かなだけだと私は知っている。そして越知は何よりも友人思いで、こうして彼は私の疑似恋人をしてくれることになった。