@uk_plus_
「うわ、本当に来た」
一人の部屋で思わず声に出して、私は越知の名前が表示されるスマホを握る。それは通話を知らせる画面で、私は一寸息を吸ってからその通話ボタンをスライドした。
教室でのやり取りのあと、私は越知と疑似恋人をすることになった。夜の決まりきった時間に通話をしてから恐らく例の相手から何らかのアクションがあるはずだと踏んで、それで相手の様子を見ようということになっていた。
「もしもし」
「今はどうだ?」
「あー…丁度連絡来てた」
通話に応対して越知の窺うような声を聞き返事をすれば、彼はそうかと簡素に返事をした。
時刻は午後八時。未だにうるさく鳴り続けていたメッセージの通知から、越知との電話で解放された私は気だるげにその身をベッドへと横たえる。
「ていうかさ、何も電話までしなくていいんじゃないの?」
「嘘はいけないんだろう?」
「いけないっていうか…すぐ、バレるし…」
「なら事実を作っておいたらいい」
「そういう問題?」
尤もらしいように言う友人に苦笑すれば、越知の息遣いと一緒に椅子の軋みのような音もした。普段教室でよく話をしてはいるが、彼の生活を感じさせる音たちに私は新鮮な気持ちになる。
「越知は何してたの?」
「別段、何も」
「そんなことないでしょ」
再び聞こえた軋みと共にそんな風に返すから、思わず私が笑うと電話口の先で越知が笑った気がした。
「思っていたよりも元気そうだな」
「まあね。慣れたのかも」
それはよくないだろうと返事が来た時、耳に当てていたスマホがひとつぶるりと震えた。ちょっと待ってと声をかけて耳からそれを離すと、例の彼から通話がかかってきていた。
「…電話来た」
またスマホを耳に当てて、少しだけ落ちたトーンで越知に言えばため息が聞こえてくる。そして越知は呆れたように言った。
「無視しろ」
「…うん」
こうも執拗に連絡をされ続ければ、いよいよ私でも不安な気持ちになってきていた。ああまた校門前で出待ちをされるのかと思って自然と出るため息が、思っていた以上に自分が疲れているのだと認識させる。
「もう少しで電話を終えよう」
「うん」
「その後で送ってやったらいい」
―彼氏から電話が来ていたと。
越知の声がそう私の耳に届いた時、嘘だというのに自分の心頭へ何かおかしな感覚をもたらした。これは紛れもなく嘘だというのに。
「…わ、かった」
妙にうるさい心音を呼吸で抑えながら、私は静かに越知へ返事をした。