@uk_plus_
「返事をしたが、見なかったのか?」
越知に手を引かれるまま、学校から少し離れた頃。少し怒ったような珍しい声音で越知が私に聞いた。ぼんやりした頭で私は手元のスマホを見て、ああと弱々しく声を出す。
『待っていろ。すぐに行く』
その簡素な文字を見ていたら、じわりと瞳が熱くなってきた。安堵しているからか、それ以外か。自分自身のことなのに今の私にはわからない。
私は顔を越知に見られないようスマホに顔を向けたまま、未だ手を引いてくれる彼に聞いた。
「越知、部活は?」
「そんなことはどうでもいい」
「よくないでしょ」
本当にどうでもよさそうに言うから思わず苦笑して切り返せば、ぴたりと歩を止めて越知が私を振り返ったようだ。
「…抜けてきた」
先ほどよりも静かで柔らかい声がした。
「なんで?」
思わず漏れた疑問の声がぽつりと宙に浮かんだ気がする。越知が返事をしなかったから。未だ掴まれたままの私の手に自然と力が入った。
「…ありがとう。助かった」
「ああ」
「けど…」
―どうしてそこまでしてくれるの?
その先が続かなくて顔を上げないまま言葉を詰まらせていると、越知が息を吸う音が聞こえた。昨晩電話越しに聞いたそれよりも、とても近くで聞こえた気がする。
「俺にとって、必要なことだった」
越知が大事にしていることよりも?
たった一言に胸中がざわついて思わず顔を上げれば、今まで見たことのない顔をした越知がそこにはいた。
「お前が他の男に、勝手にされていると思うと、我慢ならなかった」
眉間に皺を寄せるその表情はひどく辛そうで。それを見ていると堪えていたはずの涙がつっと私の頬を伝った。
「お前を好きにさせたくなかった。他の男に」
そう続けられた言葉に、再び私の瞳から涙が零れていく。この気持ちはなんだろう。私はこんな気持ちを知らない。毎日姿を見て話して友人として接していた越知に、私はこんな気持ちを知らない。
「事態を利用したようで、俺もさしてあいつと変わらないのだろうが」
どういうことと問う前に掴まれていた手が引かれて、私はあっという間に越知に抱きすくめられた。高く大きな体は間違いなく異性で、だけどあの男子生徒に感じたような嫌悪感など全くなかった。
「軽蔑してくれていい」
「そんなこと…」
抱きしめたまま言われて私がその腕の中で首を振れば、越知はゆっくりとその腕を緩めた。そして私をしっかりと見下ろして言葉を紡いだ。
「好きだ」
先ほどまで騒がしかった心の奥に落とされた一言は、一気に私の全てを黙らせて、更に涙を流させていく。
「あーあ、ずるいんだ」
「…そうだな」
空いた手で涙を拭いながら私が苦笑すれば、越知も珍しく小さく笑って返事をした。
「じゃあ今日も、電話する?」
「そのつもりだったが」
「うーわ、強気」
今までのようにやり取りをしながら、どちらからともなく再び歩を進め始めた。初めて強く触れたその手は繋げたまま。
また例の彼から連絡が来ても、明日からの私なら大丈夫な気がした。
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「でも越知。明日部活の皆に謝りなよ」
「…そうだな」