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越知月光は見ているだけでよかった4

全体公開 8 1345文字
2021-09-05 01:28:55
Posted by @uk_plus_

 自身のしたことを改めて思い出しながら、越知は自分の机に肘を付き大きな両の手で顔を覆っている。そのそばには小柄な友人がうーんと唸り立ち尽くしていた。
 文化祭の準備を一通り終えて、部活動の生徒が教室から離れる時刻が迫っていた。


 「あれ?越知まだいんの?部活は?」

己の机に座して、まるでその巨躯が小さく見えんばかりの越知に不思議そうな声がかかった。いつぞやペンを強めに越知の脇腹に刺した友人だ。
 ちなみにその日、越知は部活の着替えの際に脇腹を見たが思いの外真っ赤になっていた。

 「あー行くと思うけど今はええと、情緒が喪失してる」

そばに立っていた小柄な越知の友人がやってきたもう一人の友人に言えば、言われた彼は訝し気に越知を見た。

「元々喪失してねぇか?」
「越知でも流石に小石くらいは情緒あるから」
全部聞こえているからな二人とも」
「じゃあ何があったんだよ

そんなやり取りを静かに聞いていた越知がゆっくり両手から顔を上げれば、対面する小柄な友人がため息を吐いた。そして困惑気味に声を上げた隣の友人に話始める。

「えーっと、さっきの準備時間に、ほら、あの子の手を握ったんだって」
「は?」
「彼女が手を切ったから越知が手当したんだって」
……で?」

盛大な間を開けて友人に促されてもなお口を開かない越知に代わり、再び小柄な方の友人が口を開いた。

「要約すると、今まで見てるだけで話すこともまともになかったのに今日いきなり彼女の手に触って近くで顔を見て……あーこれ説明面倒だなぁようはあれだよ、テンション振り切っちゃったらしいよ」
「俺には全くテンションが振り切れてるようには見えねーんだけど」
「越知なりにね?」
「越知なりに振り切って落ち込んでるってマジどういうこと?ギャグ?」

説明を受けてもなお困惑する友人が未だ黙ったままの越知を覗き込むと、見えない速度で大きな手から彼の額にデコピンが打ち込まれた。

「ってぇな!」
「黙っていればお前は」
「俺何にも悪くなくね!?つーか落ち込む必要なんかあんの?むしろよかったじゃん!触れた挙句ポイント上がるようなことできて」
「そういう、ことじゃない」
「じゃあなんだよ」
……

聞き返された越知はまた黙り込んで、その両手を見た。視界にはもちろん自分の掌しか映らない。

あーもーしかたねーなぁ」
「どしたの?」
「越知、部活終わったら玄関前集合な。お前も、一回家帰ってあのファミレス行っといて」
「え~?俺も~?」
「二人ともあとで連絡すっから。おら、越知も部活行けよ」

未だに重く座する越知の背中をひとつ叩いて、快活な友人は教室から飛び出していった。たしかに時計は部活動が始まりだす時刻を指していた。

「越知、ほら、行けってさ」
……わかってる」
「それとも早退する?」
ほざけ」
「でしょ~?」

がたりと椅子から立ち上がった越知を見て、小柄な友人はほわっと笑いかける。そして動き出したそんな越知にまた後でと声をかけて、小柄な彼は教室を出て行った。
 その背中を見送り切ってから、越知はまた自身の掌をちらりと見た。初めて彼女に触れた感触と、その愛らしい笑顔を思い出して。


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