@uk_plus_
お風呂から上がって自室へ戻ると、ベッドの上で充電器に繋がれていたスマホのランプが明滅していた。乾かしたばかりでまとまりのいい髪に触れながら、私はスマホを取って首を傾げる。
クラスの友達?
今日は特にメッセージを送り合ってない。
隣のクラスのかおちゃん?
この前出掛ける約束はしたけど今日は話もしてない。
「誰だろ」
夜の八時前。画面のロックを解除しその通知を見て、私はあ、と声を上げた。
「越知くんだ」
初めて画面上に表示された名前に少し驚きながら、私はその通知をタップする。そして画面に現れたまっさらなメッセージ欄にひとつの文言があった。簡単に読めてしまう一文に、日中の彼の姿を思い出して苦笑してしまう。
「律儀だな…私が勝手に切っただけなのに」
その一言を見て独り言ちてから、私はするすると返事を打ち込み送信する。そしてもう一度充電器に端末を付けてベッドに置いてから、いつも通り机に向かってノートや教科書を開いた。
ぺらりとページを捲るたび、傷跡に擦れて少々指先が痛む。日中に貼ってもらった絆創膏は入浴の際に外してしまったが、何かの折につけ目に入る傷は私に越知くんを思い出させていた。
私は彼のことを全然知らなかったのだなと、ペンをノートに走らせながら思う。一見した印象や友人から聞く話だけできっと彼を決めつけていた。それで余計に緊張していたのかもしれない。
ここしばらくの自分の態度なども思い出しては、ああ少し改めようかとそこまで考えて、私はペンを置いてひとつ伸びをした。
「…そうだ」
机の引き出しをひとつがらりと開いて、がさごそ取り出した袋を鞄に入れてから私はベッドのスマホに目をやる。メッセージを知らせる点灯はされていない。それを確認してから今一度机に向かった。
「あ、時間」
机の上の時計に目をやると、もう夜の十一時になろうとしていた。さくっと机上を片付け明日の持ち物を確認してから、私はぱちりと部屋の電気を消した。
そばのベッドへと潜り込み、そして充電器が刺さったままのスマホを点ける。やはりそこにはメッセージの通知は入っていなかった。
「…そっか。あれ?」
思いの外落ちた自身の声音に疑問を抱いて声を上げるも、よくわからなかった。どうして今私は越知くんから返事がないことを残念に感じているのだろう。
「ま、いっか」
もうそろそろ眠たくなってきた頭で疑問を誤魔化してから、私はまたその画面にメッセージを打ち込んだ。
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もう寝てるかな?
とっても助かったよ!
ほんとにありがとうね!
じゃあもう寝るね、おやすみー。
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後日の余談。
「あ、越知くんおはよう!」
「……おはよう」
大きな背中に昨日より元気に声をかければ、少々驚いたのか前髪から覗いた瞳が大きく開かれていた。
よくよく考えれば彼だって同級生なのだから変な気の使い方はしないと決めたのだ。今朝。だから私は朝から彼に声をかけた。
「昨日はなんか、ありがとうね」
「別段、何も」
「それでね、はい越知くん両手出して」
「なぜ…?」
「いいからいいから」
一寸戸惑った彼ににこにこ笑いかけて、おずおずと出された大きな両手に私は飴玉を三つ放った。掌の上でころりと転がるそれらに、越知くんは目を瞬かせる。
「…飴?」
「甘いのが得意じゃなかったらごめんね」
「いや、食べられるが」
「よかった!私がよく勉強の合間に食べてるやつだけど、昨日のお礼ね」
そう言って再度ありがとうと伝えれば、何故だか越知くんはぼんやりしているようだった。
「じゃあ、放課後またよろしくね」
そんな彼を不思議に思ったが、私は用を済ませて先に教室に入った。
昨日とはまた違った彼の様子を見れたことが、なんだか少し嬉しかった。