@uk_plus_
今日はなんだか越知くんがずっとぼんやりしている。
「準備から二週間経つと資材も増えてきたねー。……越知くん?」
「…あ、ああ、そうだな」
こんなやり取りがこれを含めてもう五回ほど続いていた。声をかけて様子を窺ってからしばらくは問題ないのだけれど、時間が経つとまた先ほどのような生返事が彼から返ってくる。
「手の付いたやつと新規のやつ、ちゃんと見とかないと危ないかもなあ」
「必要ならもう一度見よう」
「うん」
そう声をかけ合って、二人で端から端まで資材の入った箱たちに手をかけ始める。しかし私はどうしても彼の様子が気になってしまって、意を決して聞いてみた。
「ねぇ越知くん」
「なんだ」
「今日体調悪い?」
「…何故だ?」
「あーえーっと…」
何故と問われると何と言えばいいのかとても難しい。そのまま言葉にしてしまうと途端に失礼な物言いになりそうで。
「なんだろ、本調子じゃないように見えるかなーって」
「いつも通りだが」
「そ、そう?」
そしてなんとか聞いてみても彼に事も無げに返されてしまう。ならいいんだけどと苦笑いして、本人がそう言っているのだからとそれ以上私は言葉を続けなかった。すると二人とも無言になってしまって、それはいつも通りのことだというのになんだか背中がむずむずするような空気を私は感じた。
―何か話した方が…。
そこまで考えた時、資材を置く教室の扉がガラリと開いた。気まずいような空気を打ち砕く救いの音が聞こえた方に視線をやれば、そこにはクラスで作業をしていた友人がいた。
「どうしたの?必要なもの取りに来た?」
「うん~さっき持っていったやつなんだけどさ」
「あれ?さっきので、全部だったはずなんだけど…」
「え!」
リストと置かれた資材たちを何度か見て私がそう答えれば、友人は驚いた顔をしたあとに眉間に皺を寄せた。
「あー数間違えたかも…買いに行かなきゃ」
「じゃあ追加だね」
「でも今買い出しの人間全員出払っててさぁ…人員割くと作業止まるんだよなあ…」
すぐに必要でと肩を落とす友人がどうしようと困り顔をしてから、ぱっと閃いたように目を輝かせる。それに私は嫌な予感がしてぐっと肩を強張らせた。
「ねえ、代わりに行ってきてくれない!?」
「えっ」
「資材管理ならリストあるからわかるし、何よりさっき見てたし、ここなら今のところ施錠しといて構わないからさ!」
「え、ちょっとまっ―」
「ってわけで、リストのこれ!ここに数書くからお願い!」
ああちょっとと止める声も聞かずに、私が手に持っているリストの紙へ勝手にさらさらと数字を書き込み友人は満足気に笑った。
「じゃ、お願い!なんかあったら連絡してー!」
すぐに出るからという声だけを残して、友人はあっという間に資材置き場から出て行ってしまった。まるでこうすることを最初から決めていたような動きに、私は肩を落とす。
「本当に勝手だよ…」
呟きながら今一度そのリストを見てため息を吐いてから、越知くんに向けて私は声をかけた。
「というわけで行ってくるね」
ごめんねと声をかけて適当に置いていた鞄に手をかけていると、同じように越知くんも自分の鞄に手をかけた。
「越知くん?」
「俺も行こう」
「えっ、でも…」
「先ほどの材料は少し大きな物だっただろう」
帰りに持とうと言いながら、越知くんは構わないように教室から出る。そして私の方へ視線をやって鍵を取り出してから言った。
「行くぞ」
目的の物を買い付けて、学校までの道を越知くんと歩いた。少々大きなそれを越知くんが持ってくれて、私は鞄だけを持って隣を歩く。それが申し訳なくて、歩きながら何度目かの謝罪を私はした。
「ごめんね、越知くんにだけ持たせてて」
「お前に持たせたら俺が付いてきた意味がなくなるだろう」
「それはそうなんだけど」
「俺は、それでいい」
少し含みを持たせたような言い方に私が首を傾げていると、彼が珍しく言葉を続ける。
「さきほど俺の体調を気にしていたな」
「ああ、うん。なんか、ちょっといつもと違うなと思って」
「……そうか」
「うん」
「…ありがとう」
私の言葉にぽつりと返事をしたかと思えば、一寸躊躇ったようにお礼を言う彼の声が震えていたようだった。そんな様子が気になって今一度越知くんを見上げると、彼も私のことを見ていたらしくばちりと視線が合う。しかしそんな視線同士は彼がすぐに逸らして離れてしまった。
「少し、思い出していた」
「思い出す?」
「…ああ」
ほんのり、本当に少しだけ、越知くんが寂しそうに笑った気がして、私はやはりいつもとは違う彼の瞳のせいで「何を?」と聞くことができなかった。
「だから特に体が悪いということはない」
「そっか、ならいいんだ」
「…心配をしてくれてありがとう」
今日はなんだか越知くんがずっとぼんやりしている。私もそれにつられて、なんだか調子が狂ったようだった。